勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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巫女の治める国

第四章第40話 決着

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万事休す、そう思ったちょうどその時だった。

「がっ、はっ、なっ、こっ、これはっ」

スイキョウの体に無数の黒い槍が突き刺さっている。

「あら、わたしの婚約者を殺そうだなんて、そんなのダメよ?」

私が振り返った先には、美しい女性がプラチナブロンドの長い髪をたなびかせて立っていた。

「こんばんは、フィーネ。今日は月がとってもキレイね?」
「アーデ……いつからそこにいたんですか?」
「ふふ、今来たところよ」

アーデはそう言って嬉しそうに微笑んだ。

「な、この、吸血鬼風情が……ぐはぁっ!」
「黙りなさい!」

スイキョウが口を開いた瞬間、さらに多くの黒い槍が突き刺さった。

「わたしの大切な婚約者とのデートの時間を邪魔するなんて無粋な男ね」
「え? おと……こ?」

私はアーデの力もそうだが私はそちらが気になってしまった。

「え? ああ、そうね。まあ、あの体は女だから驚くのも無理はないわね」
「ええと?」

一体どういう事?

「わ、妾をおとこなどとぉぉぉぉ」
「でもその前に、アレの始末をしなくちゃね」

体中から血を流し怒りの形相で睨みつけてくるスイキョウに顔を向け、そして小さく手を振った。

すると影から更に無数の槍が飛び出してスイキョウを串刺しにしてく。

「がっ、あ、かはっ」

血を吐き出して苦しむスイキョウ。

アーデは鋭い視線をスイキョウに向ける。そして右腕をまっすぐスイキョウの方へ伸ばすと人差し指で指さして胸を張り、そしてもう片方の肘を張って腰に手を当てると高らかに宣言した。

「わたしの大切な婚約者を傷つける奴はたとえ誰だろうと許さないわ」

そう、これはまさにビシッという擬音語がぴったりのポーズだ。

「それと、吸血鬼じゃなくて吸血貴族、よ!」

アーデが指さしていた方の腕を「よ」のタイミングでスッと左から斜め右下に振るうと影がスイキョウを縛りつけ、スイキョウを動けないように拘束した。

「さ、フィーネ。アレを思い切り浄化してくれるかしら? フルパワーで思いっきり頼むわ」
「ええと? 浄化魔法でいいんですね? わかりました」

そう言うとアーデは誤爆を避けるためか、私の後ろへと大きく下がっていった。

私は何だかよくわからないがフルパワーで浄化魔法を使う。

──── スイキョウの体を丸ごと包むサイズで、全力で、浄化!

強烈な浄化の光がスイキョウの体を包み込む。スイキョウを拘束しているアーデの影は瞬く間に霧散する。

そして洞窟内の隅々まで私の浄化の光が明るく照らし出す。

「くっ、これは……」

スイキョウは私の浄化魔法に強烈に抵抗してくる。

──── いいから、浄化、されろっ!

私がぐぐっ押し込むイメージで浄化の光で抵抗しているモノを押しつぶそうとする。そうしてしばらく押し合いをしていると、抵抗していた何かを突破したのか、浄化が一気に進むようになった。

そして数分後、私は全て浄化しきったのを確認して浄化を終了した。

「はあ、はあ、はあ」

私は膝から力が抜けて崩れ落ちそうになるがそれをアーデが後ろから優しく抱きとめてくれる。

「ふふ、お疲れ様。素敵だったわ、フィーネ。さすがよ」
「あ、ありがとうございます」

アーデに後ろからいい子いい子とやさしく髪を撫でられ、私はなんとなくリラックスしてしまう。

ふう。何だかこのまま眠って……

「ふふ、可愛いわ、フィーネ。このまま攫ってしまいたいくらいよ」

アーデの言葉にハッとして目を覚ます。

「ええと、それは勘弁してください」
「仕方ないわね。それじゃあ、結婚してくれるかしら?」
「どうしてそうなるんですか。その話はお断りしたはずですよ」
「ちぇ、残念。それじゃあ、あの抜け殻、わたしが貰ってもいいかしら?」

そう言ってアーデは地面に横たわるスイキョウを指さす。スイキョウの竜人化は解けており、元の人間の姿に戻っているが、血まみれの状態だ。

「え? ええ、まあ。いいんじゃないでしょうか?」

私はアーデの言っている意味がよく分からずになんとなく了承する。

「ありがとう。フィーネ大好きよ」

そう言ってアーデは私をお姫様だっこすると私の額に口付けをした。そしてそのまま私の体をそっと優しく地面に降ろした。

「え? な、な、な」

私は地面に尻もちを着いたままアーデを見上げる。アーデは私に微笑むと、そのままするりとスイキョウのところへ移動し、そのスイキョウの体を掴んで持ち上げた。

そしてアーデはその首筋に流れるようにがぶりと噛みついた。

ゴク、ゴク、ゴク……

アーデが美味しそうにスイキョウの血を啜っている。それを見て私は生唾を飲む。

「あら? やっぱりフィーネも欲しいのかしら?」
「いえ、大丈夫です」

その様子に気付いたアーデが私に声をかけてくるが慌てて否定する。するとアーデは微笑みながら「あなたはそうよね」と言って再びスイキョウの血を啜り始める。

「ああ、美味しかった。これだけ魔力の高い相手の血は最高ね。フィーネが浄化してくれたおかげで不純物も一切なくて、ホント最高だったわ」

そう言ってアーデは力なく手足をだらりと下げたスイキョウの顔を自身の美しい顔の正面へと持ってくる。

スイキョウの目は開いているが、その瞳には何も映し出されていない。

いや、あれはもう死んでいるんじゃないのか?

どうやらアーデはスイキョウに【魅了】を使ったようだ。赤い目が怪しく輝き、魔力が送り込まれているのが見て取れる。

十分にその魔力がスイキョウの体内送り込まれたところでアーデはスイキョウの体を地面に横たえる。

そして自分の指先を自分の牙で噛んで小さな傷を作る。その指先はじわりと血が滲んでいる。

その指を横たえたスイキョウの口元に持っていくと、スイキョウは口を僅かに開き、そしてその滴り落ちる血を飲み込んだ。

次の瞬間、スイキョウの体が黒い光に包まれ、そして傷が見る見るうちに癒えていく。

「な! アーデ! スイキョウを治すなんて!」
「あら、違うわよ。わたしの眷属にしただけ。絶対服従だからもうフィーネに悪さをすることはないわよ?」
「……っ」

私は返す言葉が見当たらずに躊躇ちゅうちょしてしまう。確かに好きにしていいとは言ったけれど!

あ、いや、そもそも助けてもらったのだから文句を言う筋合いはないのかもしれないけれど……。

「ところでフィーネ?」
「……はい、なんでしょう?」
「さっきからその子たちを放置しているけれど、いらないならこの黒狐憑きちゃんもわたしがもらっていいかしら?」
「え?」







「あー! ルーちゃん! クリスさん! シズクさん!」

私は慌てて三人に駆け寄る。よく見るとマシロちゃんが心配そうにルーちゃんに寄り添っている。

大慌てで三人に全力で治癒魔法をかけた私はそのまま MP 切れとなり、そのままひっくり返って動けなくなったのだった。
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