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巫女の治める国
第四章第24話 見習い剣士フィーネちゃん
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「フィーネ様、剣術でしたらこの私が!」
「クリスさんは早くテッサイさんに勝てるように頑張ってくださいね。それじゃあ、ランニング、いってらっしゃい」
こうしてごねるクリスさんを送り出した私はルーちゃんと一緒に午前中に皆さんが訓練していた中庭へとやってくる。
「ふぉふぉふぉ。お二人は剣を握ったことはあるかの?」
「いえ。まったく。護身用のナイフくらいなら」
「あたしも。弓がメインで刃物は解体用のナイフくらいです」
そんな話をしながら私は練習用の木刀を選ぶ。いくつか重さがあるようだがどうやって選べばいいんだろうか?
私が困っているとテッサイさんが助け船を出してくれた。
「困ったら重いと感じないもの、振ってみて振り回されないものを選ぶとよいぞよ。これなどどうじゃ?」
「ありがとうございます」
私は木刀を受け取って振ってみる。うん、両手で持てば振り回せそうな気がする。
「ふむ。もう少し軽いほうが良さそうじゃの。ほれ」
「え? そうなんですね。ありがとうございます」
私はもう一本の木刀を受け取る。確かにこれなら片手でも振り回せそうだ。
ルーちゃんも丁度いい木刀を選んでもらって体験レッスンがスタートする。
「さて、まずは握って、正眼に構えてみなさい」
「こうですか?」
私はいつものクリスさんをなんとなく思い浮かべながら構えてみる。
「うむ。構えは様になっておるが剣の握り方が間違っておるのう。右手は鍔に近い部分を、左手は柄の先に近い部分を――」
「こうですか?」
私は握り直す。
「ああ、そこまで先っぽでなくともよいぞ。真剣を持った時に左の小指が柄の巻き止めを握らぬようにするのじゃ。そうせぬと、切った時の衝撃で刀を落としたり怪我をしたりするでの」
「そうなんですね。こんな感じですか?」
「うむ、もう少しの……」
と、こんな感じで私は握り方だけで三十分くらいの時間が経ってしまった。そうこうしている間にルーちゃんは素振りをはじめている。ぐぬぬ。
「う、うむ。そんなもんかの。そろそろ素振りでもしてみるとしようかの」
「はい!」
やった! やっと剣を振る許可がもらえた。
「正眼に構え、上に振り上げ、そしてまっすぐ下に振り下ろす。これを一、二の合図でやるのじゃ」
「はい」
「一!」
私は木刀を振り上げる。
「二!」
そしてそのまま勢いよく下に振りぬく。
バシン
「あ」
私は勢い余って地面を叩いてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「う、うむ。初心者はたまにやる事じゃからの。怪我はないかの?」
「はい。大丈夫です」
うん、手には痛みもないし木刀も無事なようだ。
「ゆっくりやってみるかの。止める高さはこのくらいじゃ。さ、構えるのじゃ」
「はい」
「一!」
私はゆっくりと木刀を振り上げる。
「二!」
ゆっくりと木刀を振り下ろす。振り下ろすのだが……。
「あれ? これでいいんでしたっけ? この高さまで?」
「う、うむ。高さは合っておるがきちんと木刀を握っておらんと素振りにならぬのう。太刀筋がふにゃふにゃじゃったぞ」
「……」
なんだかルーちゃんにもじっと見られている。は、恥ずかしい。
あれ? もしかして私って剣の才能ない?
「ま、まあ、気を取り直してもう一度やってみるのじゃ」
「はい……」
「ほれほれ、ルミアちゃんも素振りじゃ」
「はーい」
「一、二」
テッサイさんの掛け声に合わせて私は何ともしっくりこない素振りを繰り返す。
「よし、そろそろ打ち込んでみるかの。素振りばかりじゃつまらんじゃろ」
そう言ってテッサイさんは木と藁で作られた人形のようなものを持ってきた。
「ほれ、この打ち込み台に今の素振りの通り打ち込んでみなさい。まずはルミアちゃんからじゃの」
「はいっ!」
ルーちゃんが木刀を振り上げて面を打ち込む。
バシッ
いい音がして打ち込み台が揺れる。
「うむ。なかなかじゃの。そのままあと十回打ち込んでみるのじゃ」
「はい!」
ルーちゃんがバシンバシンと小気味の良い音を立てて剣を打ち込んでいく。
「うむ。それまでじゃ。ルミアちゃんの打ち込みはとても良かったぞい。このまま続けて練習すれば弓だけでなく剣も使えるようになるかもしれんのう」
「本当ですかっ? わーい」
むむむ。どうやらルーちゃんは才能あり判定のようだ。
「さて、じゃあ次はフィーネちゃんじゃの。ゆっくりじゃぞ? ゆっくりでよいからの?」
「は、はい……」
そんなことを言われると緊張するじゃないか。
すーはーすーはー
私は深呼吸をして気持ちを落ち着けると剣を振り被る。
「めーん!」
私は掛け声と共に振り下ろす!
「あっ」
しかし無情にも木刀は私の手からすっぽ抜けて飛んで行ってしまった。
「ただいま戻りましたっ!」
そして絶妙なタイミングでクリスさんがランニングから一番乗りで戻ってきた。
「「「あ」」」
「え?」
私の手を離れた木刀は見事な放物線を描いて宙を舞う。そして吸い込まれるようにクリスさんの脳天に直撃した。
「ぎゃんっ!?」
当たりどころが悪かったのかクリスさんが頭を抑えてそのまま蹲る。
「わわわ、ク、クリスさんー!」
私は慌てて駆け寄りクリスさんに治癒魔法をかける。
その後、起き上がったクリスさんはテッサイさんに弛んでいると怒られてしまった。
どう考えても私が悪いのに。
──── クリスさん、ごめんなさい
私は理不尽に叱られるクリスさんを眺めながら私は心の中で謝るのだった。
===================
フィーネちゃん、なんと剣の才能ゼロでした。
ちなみにフィーネちゃんが修行しても職業の関係上【剣術】や【刀術】といったスキルは生えてきません。ですが、別に全てが無駄になるわけではなく鍛えた分の動きはできるようになりますし、きっちりと鍛えたうえで適切な職業に転職すればちゃんと生えてきます。
「クリスさんは早くテッサイさんに勝てるように頑張ってくださいね。それじゃあ、ランニング、いってらっしゃい」
こうしてごねるクリスさんを送り出した私はルーちゃんと一緒に午前中に皆さんが訓練していた中庭へとやってくる。
「ふぉふぉふぉ。お二人は剣を握ったことはあるかの?」
「いえ。まったく。護身用のナイフくらいなら」
「あたしも。弓がメインで刃物は解体用のナイフくらいです」
そんな話をしながら私は練習用の木刀を選ぶ。いくつか重さがあるようだがどうやって選べばいいんだろうか?
私が困っているとテッサイさんが助け船を出してくれた。
「困ったら重いと感じないもの、振ってみて振り回されないものを選ぶとよいぞよ。これなどどうじゃ?」
「ありがとうございます」
私は木刀を受け取って振ってみる。うん、両手で持てば振り回せそうな気がする。
「ふむ。もう少し軽いほうが良さそうじゃの。ほれ」
「え? そうなんですね。ありがとうございます」
私はもう一本の木刀を受け取る。確かにこれなら片手でも振り回せそうだ。
ルーちゃんも丁度いい木刀を選んでもらって体験レッスンがスタートする。
「さて、まずは握って、正眼に構えてみなさい」
「こうですか?」
私はいつものクリスさんをなんとなく思い浮かべながら構えてみる。
「うむ。構えは様になっておるが剣の握り方が間違っておるのう。右手は鍔に近い部分を、左手は柄の先に近い部分を――」
「こうですか?」
私は握り直す。
「ああ、そこまで先っぽでなくともよいぞ。真剣を持った時に左の小指が柄の巻き止めを握らぬようにするのじゃ。そうせぬと、切った時の衝撃で刀を落としたり怪我をしたりするでの」
「そうなんですね。こんな感じですか?」
「うむ、もう少しの……」
と、こんな感じで私は握り方だけで三十分くらいの時間が経ってしまった。そうこうしている間にルーちゃんは素振りをはじめている。ぐぬぬ。
「う、うむ。そんなもんかの。そろそろ素振りでもしてみるとしようかの」
「はい!」
やった! やっと剣を振る許可がもらえた。
「正眼に構え、上に振り上げ、そしてまっすぐ下に振り下ろす。これを一、二の合図でやるのじゃ」
「はい」
「一!」
私は木刀を振り上げる。
「二!」
そしてそのまま勢いよく下に振りぬく。
バシン
「あ」
私は勢い余って地面を叩いてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「う、うむ。初心者はたまにやる事じゃからの。怪我はないかの?」
「はい。大丈夫です」
うん、手には痛みもないし木刀も無事なようだ。
「ゆっくりやってみるかの。止める高さはこのくらいじゃ。さ、構えるのじゃ」
「はい」
「一!」
私はゆっくりと木刀を振り上げる。
「二!」
ゆっくりと木刀を振り下ろす。振り下ろすのだが……。
「あれ? これでいいんでしたっけ? この高さまで?」
「う、うむ。高さは合っておるがきちんと木刀を握っておらんと素振りにならぬのう。太刀筋がふにゃふにゃじゃったぞ」
「……」
なんだかルーちゃんにもじっと見られている。は、恥ずかしい。
あれ? もしかして私って剣の才能ない?
「ま、まあ、気を取り直してもう一度やってみるのじゃ」
「はい……」
「ほれほれ、ルミアちゃんも素振りじゃ」
「はーい」
「一、二」
テッサイさんの掛け声に合わせて私は何ともしっくりこない素振りを繰り返す。
「よし、そろそろ打ち込んでみるかの。素振りばかりじゃつまらんじゃろ」
そう言ってテッサイさんは木と藁で作られた人形のようなものを持ってきた。
「ほれ、この打ち込み台に今の素振りの通り打ち込んでみなさい。まずはルミアちゃんからじゃの」
「はいっ!」
ルーちゃんが木刀を振り上げて面を打ち込む。
バシッ
いい音がして打ち込み台が揺れる。
「うむ。なかなかじゃの。そのままあと十回打ち込んでみるのじゃ」
「はい!」
ルーちゃんがバシンバシンと小気味の良い音を立てて剣を打ち込んでいく。
「うむ。それまでじゃ。ルミアちゃんの打ち込みはとても良かったぞい。このまま続けて練習すれば弓だけでなく剣も使えるようになるかもしれんのう」
「本当ですかっ? わーい」
むむむ。どうやらルーちゃんは才能あり判定のようだ。
「さて、じゃあ次はフィーネちゃんじゃの。ゆっくりじゃぞ? ゆっくりでよいからの?」
「は、はい……」
そんなことを言われると緊張するじゃないか。
すーはーすーはー
私は深呼吸をして気持ちを落ち着けると剣を振り被る。
「めーん!」
私は掛け声と共に振り下ろす!
「あっ」
しかし無情にも木刀は私の手からすっぽ抜けて飛んで行ってしまった。
「ただいま戻りましたっ!」
そして絶妙なタイミングでクリスさんがランニングから一番乗りで戻ってきた。
「「「あ」」」
「え?」
私の手を離れた木刀は見事な放物線を描いて宙を舞う。そして吸い込まれるようにクリスさんの脳天に直撃した。
「ぎゃんっ!?」
当たりどころが悪かったのかクリスさんが頭を抑えてそのまま蹲る。
「わわわ、ク、クリスさんー!」
私は慌てて駆け寄りクリスさんに治癒魔法をかける。
その後、起き上がったクリスさんはテッサイさんに弛んでいると怒られてしまった。
どう考えても私が悪いのに。
──── クリスさん、ごめんなさい
私は理不尽に叱られるクリスさんを眺めながら私は心の中で謝るのだった。
===================
フィーネちゃん、なんと剣の才能ゼロでした。
ちなみにフィーネちゃんが修行しても職業の関係上【剣術】や【刀術】といったスキルは生えてきません。ですが、別に全てが無駄になるわけではなく鍛えた分の動きはできるようになりますし、きっちりと鍛えたうえで適切な職業に転職すればちゃんと生えてきます。
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