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巫女の治める国
第四章第21話 シズクを探して(4)
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「この国の治安はかなり良いみたいですし、手分けして探しましょう」
私がこう提案すると、意外にもクリスさんが反対しなかったため私たちは手分けしてシズク殿の手がかりを探すこととなった。
「では、私は剣術道場を中心に聞き込みを行ってまいります」
「じゃあ、あたしは食べ物屋さん♪」
ルーちゃん、それはただの食べ歩きなんじゃないかな?
「……では、私はそれ以外の道行く人とかを中心に聞き込みをしますね」
まあ、きっと美味しい食事処やお菓子を見つけてきてくれることだろうからそれで良しとしよう。
「それでは、夕方にこの宿に集合しましょう」
「はーい」
「かしこまりました」
真剣な表情で歩いていくクリスさんとウキウキしながら歩いていくルーちゃんを見送った私は商店街へと歩き出した。実は親方へのお土産として薬関係の書物や材料などを買おうと思っていたところなので、調査ついでに買い物もしてしまおうという魂胆なのだ。
今更親方に薬関係の書物なんて必要ない、と思うかもしれないが、この国の薬はどうもホワイトムーン王国で勉強したものとは違う進化をしているように見えるのだ。
というのも、見たこともないような薬がこの国の薬屋さんで売っていたのを見かけたのだ。私は前の世界の薬に詳しいわけではないが、きっと西洋医学の薬に対する漢方薬的な進化をしているのではないだろうか?
だとすると、あの薬に対して並々ならぬ情熱を持つ親方だったらきっと喜んでくれるに違いない。いくつかの原料も持ち帰れば尚の事喜ばれるはずだ。
親孝行はできるうちにしておこう。そう考えた私はまずは書店へとやってきた。
「いらっしゃい。異国のお嬢さん」
「すみません。薬に関する書物を探しているんですが」
「おや、薬師さんですかい?」
「そうですね。この国の薬にちょっと興味があるんです」
「なるほど、それならこの本がいいかな」
そういって店員の男性が私に一冊の本を手渡してくれる。
『巫国薬学大全』
表紙にはそう書かれている。
「この本ならうちの国でよく使われている薬についてほとんど書かれているよ。まあ、最近はめっきり薬を使う人も減ってきたけどね」
「薬を使う人が減った? どうしてですか?」
「スイキョウ様のおかげだよ。スイキョウ様のお力によって病に罹る人なんてほとんどいないし、それにもし重い病に罹っても治して頂けるからね。今時、薬なんて超がつくほどのド田舎の村くらいでしか使われていないんじゃないかな」
「はあ。スイキョウ様というのは本当にすごい人なんですね」
「そうだぞ。異国のお嬢さんも是非拝んでいくといい。それにスイキョウ様はな――」
それからしばらく店員さんのスイキョウ様礼賛の数々を聞いたのち、シズクさんのことを聞いてみた。しかし店員さんには心当たりがないそうなので私は本を購入してお店を出た。
その後、何軒かの薬や薬の材料を売っているお店にも行ってみたが、特にこれといった情報を得ることは出来なかった。
もしかしたらシズクさんはこの町にはいないんじゃないだろうか。
そんな不安が頭を過り少し後ろ向きな気分になりかけたところで、私は視線の先に目立つ緑色の髪の少女を見つけた。
「ルーちゃん」
私が声をかけるとルーちゃんは私のほうを振り返る。頬に食べ物が詰め込まれているのか、リスのような顔になっている。
「何を食べているんですか?」
もぐもぐ、ごくん。
ルーちゃんが口の中のものを飲み込んでから口を開く。
「姉さま! このお菓子、とっても美味しいんです。味噌松菓子っていうそうです。マシロも大好きなんですよっ! はい、姉さまもどうぞ」
どうやらマシロちゃんにも食べさせていたようだ。足元を見るとマシロちゃんも口いっぱいに頬張ってウサギ型の精霊なのにリスのような顔になっている。
どうでもいい話だが、なんだか親子っぽいなと思った。
さて、私はルーちゃんから棒状の焼き菓子を受け取るとかじってみる。なんというか、カステラっぽいような感じだが味噌の香りがする。すこしパサっとしているが、素朴な味で味噌の香りもそこまで強くない。甘すぎず、表面に散らされたケシの実がいいアクセントになっており、噛めば噛むほど味が出てくる。
「うん、これは美味しいですね。こんなお菓子があるなんて知りませんでした」
「ですよねっ! 美味しいですよねっ!」
そう言いながもルーちゃんは手に持った味噌松菓子を次々と口に放り込んでいく。
「それで、調子はどうですか? 何か見つかりましたか?」
「んー、全然です。とりあえず美味しそうなお店は大体回ったつもりなんですけど、誰もシズクさんのことは知りませんでした」
「そうですか。私は書店や薬屋さんに行きましたけどダメでしたね」
私がそう答えたところでルーちゃんのお腹が鳴った。これだけ食べているのにお腹がすいたようだ。
「えへへ、お昼ご飯が食べたくなっちゃいました」
ルーちゃんがはにかみながらそう言うので私もお昼を食べることにした。ルーちゃんと一緒ならきっといい店に連れていってもらえるはずだ。
「それじゃあルーちゃん、お昼にしましょう。どこかに良さそうなお店はありましたか?」
「任せてくださいっ! ものすごく美味しそうな匂いの『うどん』というパスタが食べられるお店を見つけましたっ!」
「じゃあ、そこに行ってみましょう」
うどんはパスタじゃないけどね。
あれ? でもうどんとパスタって何が違うんだっけ?
ま、いっか。どっちも小麦の麺だし親戚ってことにしておこう。
私はルーちゃんに連れられてうどん屋さんに入店するのだった。
===================
フィーネちゃんは知識がないのでパスタと言いながらスパゲッティを想像しているものと思われます。
うどんとパスタはどちらも小麦粉から作られますが、うどんは薄力粉か中力粉を使い、パスタは基本的に強力粉を使う上に、長い麺だけではなくマカロニやラザニア、ラヴィオリ、ニョッキなど色々な種類があります。ちなみに、イタリアでは乾燥パスタを作るときはデュラムセモリナ粉と水で作ることが法律で義務付けられているそうです(by Wikipedia 先生)。
私がこう提案すると、意外にもクリスさんが反対しなかったため私たちは手分けしてシズク殿の手がかりを探すこととなった。
「では、私は剣術道場を中心に聞き込みを行ってまいります」
「じゃあ、あたしは食べ物屋さん♪」
ルーちゃん、それはただの食べ歩きなんじゃないかな?
「……では、私はそれ以外の道行く人とかを中心に聞き込みをしますね」
まあ、きっと美味しい食事処やお菓子を見つけてきてくれることだろうからそれで良しとしよう。
「それでは、夕方にこの宿に集合しましょう」
「はーい」
「かしこまりました」
真剣な表情で歩いていくクリスさんとウキウキしながら歩いていくルーちゃんを見送った私は商店街へと歩き出した。実は親方へのお土産として薬関係の書物や材料などを買おうと思っていたところなので、調査ついでに買い物もしてしまおうという魂胆なのだ。
今更親方に薬関係の書物なんて必要ない、と思うかもしれないが、この国の薬はどうもホワイトムーン王国で勉強したものとは違う進化をしているように見えるのだ。
というのも、見たこともないような薬がこの国の薬屋さんで売っていたのを見かけたのだ。私は前の世界の薬に詳しいわけではないが、きっと西洋医学の薬に対する漢方薬的な進化をしているのではないだろうか?
だとすると、あの薬に対して並々ならぬ情熱を持つ親方だったらきっと喜んでくれるに違いない。いくつかの原料も持ち帰れば尚の事喜ばれるはずだ。
親孝行はできるうちにしておこう。そう考えた私はまずは書店へとやってきた。
「いらっしゃい。異国のお嬢さん」
「すみません。薬に関する書物を探しているんですが」
「おや、薬師さんですかい?」
「そうですね。この国の薬にちょっと興味があるんです」
「なるほど、それならこの本がいいかな」
そういって店員の男性が私に一冊の本を手渡してくれる。
『巫国薬学大全』
表紙にはそう書かれている。
「この本ならうちの国でよく使われている薬についてほとんど書かれているよ。まあ、最近はめっきり薬を使う人も減ってきたけどね」
「薬を使う人が減った? どうしてですか?」
「スイキョウ様のおかげだよ。スイキョウ様のお力によって病に罹る人なんてほとんどいないし、それにもし重い病に罹っても治して頂けるからね。今時、薬なんて超がつくほどのド田舎の村くらいでしか使われていないんじゃないかな」
「はあ。スイキョウ様というのは本当にすごい人なんですね」
「そうだぞ。異国のお嬢さんも是非拝んでいくといい。それにスイキョウ様はな――」
それからしばらく店員さんのスイキョウ様礼賛の数々を聞いたのち、シズクさんのことを聞いてみた。しかし店員さんには心当たりがないそうなので私は本を購入してお店を出た。
その後、何軒かの薬や薬の材料を売っているお店にも行ってみたが、特にこれといった情報を得ることは出来なかった。
もしかしたらシズクさんはこの町にはいないんじゃないだろうか。
そんな不安が頭を過り少し後ろ向きな気分になりかけたところで、私は視線の先に目立つ緑色の髪の少女を見つけた。
「ルーちゃん」
私が声をかけるとルーちゃんは私のほうを振り返る。頬に食べ物が詰め込まれているのか、リスのような顔になっている。
「何を食べているんですか?」
もぐもぐ、ごくん。
ルーちゃんが口の中のものを飲み込んでから口を開く。
「姉さま! このお菓子、とっても美味しいんです。味噌松菓子っていうそうです。マシロも大好きなんですよっ! はい、姉さまもどうぞ」
どうやらマシロちゃんにも食べさせていたようだ。足元を見るとマシロちゃんも口いっぱいに頬張ってウサギ型の精霊なのにリスのような顔になっている。
どうでもいい話だが、なんだか親子っぽいなと思った。
さて、私はルーちゃんから棒状の焼き菓子を受け取るとかじってみる。なんというか、カステラっぽいような感じだが味噌の香りがする。すこしパサっとしているが、素朴な味で味噌の香りもそこまで強くない。甘すぎず、表面に散らされたケシの実がいいアクセントになっており、噛めば噛むほど味が出てくる。
「うん、これは美味しいですね。こんなお菓子があるなんて知りませんでした」
「ですよねっ! 美味しいですよねっ!」
そう言いながもルーちゃんは手に持った味噌松菓子を次々と口に放り込んでいく。
「それで、調子はどうですか? 何か見つかりましたか?」
「んー、全然です。とりあえず美味しそうなお店は大体回ったつもりなんですけど、誰もシズクさんのことは知りませんでした」
「そうですか。私は書店や薬屋さんに行きましたけどダメでしたね」
私がそう答えたところでルーちゃんのお腹が鳴った。これだけ食べているのにお腹がすいたようだ。
「えへへ、お昼ご飯が食べたくなっちゃいました」
ルーちゃんがはにかみながらそう言うので私もお昼を食べることにした。ルーちゃんと一緒ならきっといい店に連れていってもらえるはずだ。
「それじゃあルーちゃん、お昼にしましょう。どこかに良さそうなお店はありましたか?」
「任せてくださいっ! ものすごく美味しそうな匂いの『うどん』というパスタが食べられるお店を見つけましたっ!」
「じゃあ、そこに行ってみましょう」
うどんはパスタじゃないけどね。
あれ? でもうどんとパスタって何が違うんだっけ?
ま、いっか。どっちも小麦の麺だし親戚ってことにしておこう。
私はルーちゃんに連れられてうどん屋さんに入店するのだった。
===================
フィーネちゃんは知識がないのでパスタと言いながらスパゲッティを想像しているものと思われます。
うどんとパスタはどちらも小麦粉から作られますが、うどんは薄力粉か中力粉を使い、パスタは基本的に強力粉を使う上に、長い麺だけではなくマカロニやラザニア、ラヴィオリ、ニョッキなど色々な種類があります。ちなみに、イタリアでは乾燥パスタを作るときはデュラムセモリナ粉と水で作ることが法律で義務付けられているそうです(by Wikipedia 先生)。
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