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巫女の治める国
第四章第19話 シズクを探して(2)
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あれからイッテン流の剣術道場を中心に道場破りをして回り、私は八枚の札を集めた。どの道場の師範も弱すぎてまるで相手にならなかったため苦労することは一切なかった。
正直もっと強い剣士たちが山ほどいるのかと思っていたので拍子抜けしてしまった。
シズク殿の母国の剣士と言うことでやや身構えていた部分はあるが、シズク殿が飛びぬけて強いだけなのかもしれない。
本来であれば弱いものを虐めているようで気が進まない行為ではあるが、この道場破りをしながら札を集めるという行為そのものが意外と面白かったため、そのような者たちの相手をするのもさほど苦痛は感じなかったのは私にとっては不幸中の幸いであった。
さて、そうして私はサンジョウミクラにあるイッテン流の道場へとやってきた。
「頼もう! イッテン流の師範にお会いしたい」
私は門の前に立っている警備の者に八枚の札を見せる。
「む。道場破りでござるな。よし。案内するでござる」
「ああ、よろしく頼む」
私はそのまま奥の道場へと通された。そしてしばらく待っていると刀を携えた若い大男がやってきた。
「よく来たな。俺がイッテン流師範代にしてミツルギ家嫡男ヨシテルだ。師範はお相手ができないゆえ、俺が挑戦を受けよう」
「ああ、よろしく頼む。我が名はクリスティーナ、ホワイトムーン王国聖騎士にして聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾なり。いざ、勝負!」
「うむ。参られよ!」
ヨシテル殿が剣を抜き正眼に構え、私もセスルームニルを抜き正眼に構える。すると一瞬にして道場内がピリピリとした空気に包まれる。
この男は明らかに今まで戦ってきた男たちとは違い強者の気配を漂わせている。
私は相手の出方を探る様にじりじりと左回りに足を運ぶ。
「はっ!」
ヨシテル殿が気合を入れると一気に間合いを詰めてきた。そして上から下へ鋭い一撃を繰り出す。
私はセスルームニルで太刀筋をずらして受け流すとそのままカウンターで連撃を叩き込む。
一合、二合、三合。
ヨシテル殿は私の攻撃をその刀で受け止めて防ぐ。私は鍔迫り合いの状態にしてからヨシテル殿をその刀ごと押し込み、そして飛び退って距離を取る。
「なるほど。さすがにこれまでの道場の師範殿たちとは違うな」
「ふ。当たり前だ」
そうは言っているが、ヨシテル殿の内心は少し慌てていることだろう。剣を合わせてみてわかったが、パワーではどうやらほぼ互角のようだがスピードでは私のほうが上回っている。【剣術】のスキルレベルもおそらく私のほうが上だろう。普通に戦えば負ける相手ではなさそうだ。
「だが、実力は私のほうが上だな。国の剣術と聞いて期待していたのだがな。残念ながら期待はずれだったようだ」
「何だと!」
私は早く勝負をつけるために挑発する。するとまんまとその挑発に乗ったヨシテル殿が怒りの形相を浮かべて一気に私との間合いを詰め、そして単純な上段からの振り下ろしをしてくる。私はそれを軽くいなすと素早くヨシテル殿の首筋にセスルームニルの切っ先を突きつけた。
「くっ」
「勝負あり、だな?」
ヨシテル殿は私の顔をまるで親の仇でも見るかのような目で睨みつけてくる。
「勝負あり、でよいな?」
「勝負ありじゃ!」
道場内に老人の声が響く。声のした方を見ると左足のない年老いた男性が別の若い男性に支えられながら道場へと入ってきた。
「お、お師匠様!」
ヨシテル殿がそう叫んだので私は剣を鞘に納めた。
「異国の剣士殿、見事じゃ。このヨシテルはここミヤコでもかなりの腕前の剣士だというに、こうも容易く打ち破るとはのう。儂はこの道場の師範を務めておるカンエイ・ミツルギじゃ」
「私はクリスティーナだ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様と共に旅をしている」
私がそう名乗るとカンエイ殿は目を細めて真剣な眼差しをこちらに向けてくる。
「ふむ。その聖女様とやらの付き人が何故道場破りなどをしておるのじゃ?」
「人探しをしているのだ。シンエイ流の道場を教えて欲しい」
するとカンエイ殿は少し驚いたような表情を浮かべた。
「よくその名を知っておるのう。シンエイ流の剣士と何か因縁でもあるのかな?」
「いや。友人なのだが、返さなければならないものがあってな」
「ふむ。なるほどのう。ま、残念ながら師範代が敗れたのじゃし、儂は見ての通り戦えぬから教えるしかないのう。シンエイ流道場の場所はクジョウミヤシロじゃ。これでよいかの?」
「ああ。すまない。助かる。ちなみに、フウザンのミエシロ家という家についてはご存じないだろうか?」
するとカンエイ殿は何かを考え込むような表情をした。そしてしばらくしてからゆっくりと口を開いた。
「フウザンはここを含むミヤコの東側の地区のことじゃ。じゃがミエシロ家というのは聞いたことがないのう」
「そうか。情報提供、感謝する。では早速クジョウミヤシロへと行ってみる事にしよう」
「うむ。友人が見つかると良いのう」
「ああ、ありがとう」
私はこうしてイッテン流の道場を後にした。私が道場を出ると背後からカンエイ殿がヨシテル殿を叱りつけていると思われる声が小さく聞こえてきたのだった。
****
「おじさんっ! これは何ですかっ!?」
姉さまとクリスさんと別れたあたしはぶらぶらと町を歩いていた。すると何やら美味しそうな匂いのするお店を見つけ、気が付いたらあたしはそのお店の中にいたのだった。そのお店では、よく分からないけどつやつやとした黒い玉のようなお菓子が売られている。
「おお、異国の可愛いお嬢さん、いらっしゃい。これは黒羽玉というお菓子だよ。食べていくかい?」
「はいっ!」
席に座ったあたしの前にこの国独特の緑色のお茶とつやつやした不思議な黒い玉がすぐに運ばれてきた。
あたしは楊枝で一口サイズに小さく切って口に運ぶ。するとつるりとした食感と、そして爽やかな甘さと何かの豆のような香りが口の中に広がる。それからすぐに黒糖の味と香りが追いかけてくる。
「おじさん、美味しいですっ!」
「おお、そうかいそうかい。いつでも食べにおいで」
「はーい」
あたしは熱々のお茶をすするともう一口、もう一口とこの不思議なお菓子を口に運んだ。
んー、幸せっ!
正直もっと強い剣士たちが山ほどいるのかと思っていたので拍子抜けしてしまった。
シズク殿の母国の剣士と言うことでやや身構えていた部分はあるが、シズク殿が飛びぬけて強いだけなのかもしれない。
本来であれば弱いものを虐めているようで気が進まない行為ではあるが、この道場破りをしながら札を集めるという行為そのものが意外と面白かったため、そのような者たちの相手をするのもさほど苦痛は感じなかったのは私にとっては不幸中の幸いであった。
さて、そうして私はサンジョウミクラにあるイッテン流の道場へとやってきた。
「頼もう! イッテン流の師範にお会いしたい」
私は門の前に立っている警備の者に八枚の札を見せる。
「む。道場破りでござるな。よし。案内するでござる」
「ああ、よろしく頼む」
私はそのまま奥の道場へと通された。そしてしばらく待っていると刀を携えた若い大男がやってきた。
「よく来たな。俺がイッテン流師範代にしてミツルギ家嫡男ヨシテルだ。師範はお相手ができないゆえ、俺が挑戦を受けよう」
「ああ、よろしく頼む。我が名はクリスティーナ、ホワイトムーン王国聖騎士にして聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾なり。いざ、勝負!」
「うむ。参られよ!」
ヨシテル殿が剣を抜き正眼に構え、私もセスルームニルを抜き正眼に構える。すると一瞬にして道場内がピリピリとした空気に包まれる。
この男は明らかに今まで戦ってきた男たちとは違い強者の気配を漂わせている。
私は相手の出方を探る様にじりじりと左回りに足を運ぶ。
「はっ!」
ヨシテル殿が気合を入れると一気に間合いを詰めてきた。そして上から下へ鋭い一撃を繰り出す。
私はセスルームニルで太刀筋をずらして受け流すとそのままカウンターで連撃を叩き込む。
一合、二合、三合。
ヨシテル殿は私の攻撃をその刀で受け止めて防ぐ。私は鍔迫り合いの状態にしてからヨシテル殿をその刀ごと押し込み、そして飛び退って距離を取る。
「なるほど。さすがにこれまでの道場の師範殿たちとは違うな」
「ふ。当たり前だ」
そうは言っているが、ヨシテル殿の内心は少し慌てていることだろう。剣を合わせてみてわかったが、パワーではどうやらほぼ互角のようだがスピードでは私のほうが上回っている。【剣術】のスキルレベルもおそらく私のほうが上だろう。普通に戦えば負ける相手ではなさそうだ。
「だが、実力は私のほうが上だな。国の剣術と聞いて期待していたのだがな。残念ながら期待はずれだったようだ」
「何だと!」
私は早く勝負をつけるために挑発する。するとまんまとその挑発に乗ったヨシテル殿が怒りの形相を浮かべて一気に私との間合いを詰め、そして単純な上段からの振り下ろしをしてくる。私はそれを軽くいなすと素早くヨシテル殿の首筋にセスルームニルの切っ先を突きつけた。
「くっ」
「勝負あり、だな?」
ヨシテル殿は私の顔をまるで親の仇でも見るかのような目で睨みつけてくる。
「勝負あり、でよいな?」
「勝負ありじゃ!」
道場内に老人の声が響く。声のした方を見ると左足のない年老いた男性が別の若い男性に支えられながら道場へと入ってきた。
「お、お師匠様!」
ヨシテル殿がそう叫んだので私は剣を鞘に納めた。
「異国の剣士殿、見事じゃ。このヨシテルはここミヤコでもかなりの腕前の剣士だというに、こうも容易く打ち破るとはのう。儂はこの道場の師範を務めておるカンエイ・ミツルギじゃ」
「私はクリスティーナだ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様と共に旅をしている」
私がそう名乗るとカンエイ殿は目を細めて真剣な眼差しをこちらに向けてくる。
「ふむ。その聖女様とやらの付き人が何故道場破りなどをしておるのじゃ?」
「人探しをしているのだ。シンエイ流の道場を教えて欲しい」
するとカンエイ殿は少し驚いたような表情を浮かべた。
「よくその名を知っておるのう。シンエイ流の剣士と何か因縁でもあるのかな?」
「いや。友人なのだが、返さなければならないものがあってな」
「ふむ。なるほどのう。ま、残念ながら師範代が敗れたのじゃし、儂は見ての通り戦えぬから教えるしかないのう。シンエイ流道場の場所はクジョウミヤシロじゃ。これでよいかの?」
「ああ。すまない。助かる。ちなみに、フウザンのミエシロ家という家についてはご存じないだろうか?」
するとカンエイ殿は何かを考え込むような表情をした。そしてしばらくしてからゆっくりと口を開いた。
「フウザンはここを含むミヤコの東側の地区のことじゃ。じゃがミエシロ家というのは聞いたことがないのう」
「そうか。情報提供、感謝する。では早速クジョウミヤシロへと行ってみる事にしよう」
「うむ。友人が見つかると良いのう」
「ああ、ありがとう」
私はこうしてイッテン流の道場を後にした。私が道場を出ると背後からカンエイ殿がヨシテル殿を叱りつけていると思われる声が小さく聞こえてきたのだった。
****
「おじさんっ! これは何ですかっ!?」
姉さまとクリスさんと別れたあたしはぶらぶらと町を歩いていた。すると何やら美味しそうな匂いのするお店を見つけ、気が付いたらあたしはそのお店の中にいたのだった。そのお店では、よく分からないけどつやつやとした黒い玉のようなお菓子が売られている。
「おお、異国の可愛いお嬢さん、いらっしゃい。これは黒羽玉というお菓子だよ。食べていくかい?」
「はいっ!」
席に座ったあたしの前にこの国独特の緑色のお茶とつやつやした不思議な黒い玉がすぐに運ばれてきた。
あたしは楊枝で一口サイズに小さく切って口に運ぶ。するとつるりとした食感と、そして爽やかな甘さと何かの豆のような香りが口の中に広がる。それからすぐに黒糖の味と香りが追いかけてくる。
「おじさん、美味しいですっ!」
「おお、そうかいそうかい。いつでも食べにおいで」
「はーい」
あたしは熱々のお茶をすするともう一口、もう一口とこの不思議なお菓子を口に運んだ。
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