勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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巫女の治める国

第四章第17話 鴨とネギとナベ

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2021/12/12 誤字を修正しました
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「失礼する。我が名はクリスティーナ。ホワイトムーむぐっ」

お城、というか御所のような場所に着いた私はいきなり名乗りをあげようとしたクリスさんの口を慌てて塞いだ。

「ちょっと、クリスさん! 私たちは正式なホワイトムーン王国の使節団として来たわけではなくあくまでシズクさんという仲間を探しに来たんですよ? 勝手に名前を使っちゃダメです。折角サキモリ天満宮の宮司さんに紹介状を書いてもらったんですから」
「う……」

私はホワイトムーン王国を代表して話をしに来ているわけではないのだ。国を背負うような面倒ごとに巻き込まれたくない。

私は、怪訝そうな表情で私たちを見ている門番の人に近づくと声をかける。

「こんにちは。私たちはホワイトムーン王国からやってきました。聖職者としての修業の旅をしておりますフィーネ・アルジェンタータと申します。是非高名なスイキョウ陛下にお目通り願いたく参上しました。こちらは、サキモリ天満宮の宮司様より頂いた紹介状となります」

そう口上を述べると私は封筒を手渡す。

「それはそれは、遠いところをようこそいらっしゃいました。確認させていただきます。……印影は本物のようですね。どうぞこちらへ」

私たちはそのまま応接室のような場所へと通された。そしてしばらく待っていると少し偉そうな恰幅の良い男性が入ってきた。衣装の名前はよく分からないが、平安時代とかを題材にした時代劇に出てくる人っぽい感じの服を着ている。服の色はかなり深い赤黒色だ。

「ホワイトムーン王国の聖女、フィーネ・アルジェンタータ様とそのお付きの方々ですね。私はゴールデンサン巫国太政官外交部正五位タチバナノサネミツ、貴国の言い方ですとサネミツ・タチバナと申します。本来であればスイキョウ様への謁見につきましては抽選となるのですが、遠いホワイトムーン王国の神殿からのお方ということですので、外交部にてご案内させていただきます」
「フィーネ・アルジェンタータと申します。タチバナ様。本日は急な訪問にも関わらずお時間をいただきありがとうございます」
「いえ。これが仕事でございますから。さて、結論から申し上げますと申し訳ございませんがスイキョウ様に本日お会いいただくことはできません。今はわが国にとって大切な神事を行う季節でございます。ですので、この時期はいかなるお方であってもスイキョウ様にお会いすることはできないのです。神事は四月いっぱい続きますので最短で調整しましても五月上旬となってしまうのですが、それでもよろしいでしょうか?」
「そうなのですか……」

そういえばスイキョウ様は女王様にして巫女だ、とサキモリで聞いた気がする。

「分かりました。それでは五月上旬でも構いませんのでよろしくお願いします」
「かしこまりました。それでは予定を調整いたしますので四月の下旬にもう一度この私をお尋ねください」
「はい。よろしくお願いします」

こうしておよそ一か月先の女王様への謁見の申し込みをし、私たちは御所を後にしたのだった。

****

そして私たちは茶屋のおばさんに勧められたとおりネギナベ川にやってきた。やってきたのだが、なんだかネギナベ川にはこれでもかというくらい多くの鴨が泳いでいる。

これ、もしかして鴨がたくさん泳いでいるから後はねぎと鍋があれば美味しく食べられるっていうことだったりする?

「姉さまっ! じゅるり」

あ、やっぱり。ルーちゃんが既に獲物を見つけた目になっている。

「あれは……飼っているんじゃないですかね? きっと。ルーちゃん、勝手に食べちゃダメですよ」
「ええっ! じゃあ、食べられるところに泊まりましょう!」
「そ、そうですね……じゃあ今日のお宿はルーちゃんに選んでもらいましょう」
「いいんですかっ! 任せてくださいっ!」

ルーちゃんが鼻でくんくんと匂いを嗅ぎながら旅館の立ち並ぶ川沿いの道を歩いていく。いつもながらの光景だがやっぱり妙に犬っぽい。

そしてしばらく歩くとルーちゃんが指をさして立ち止まる。

「姉さま、ここにしましょう!」

なにやら少し古い建物だが、美味しそうなスープの匂いがここまで漏れ出ている。

中を覗くとレストランではなくちゃんと旅館のような造りになっているので旅館で間違いないのだろう。玄関には暖簾が垂れ下がり、そこには見事な竹林の模様が描かれている。

「すいませーん。今日三人で泊まれますかー?」

ルーちゃんが暖簾を潜って中に入ると大きな声で呼びかける。少しすると誰かがぱたぱたと走ってくる音がする。

「はいはいはい。お待たせしました。三名様ですね。空いておりますよ。どうぞこちらへ」

若女将さんらしき着物を着た女性が息を弾ませながらやってきてはそう答えた。

「あのっ! 鴨、食べられるんですよねっ?」
「え? あ、はい。うちはお食事は別ですのでお一人様銀貨 1 枚で朝晩のお食事をお付けすることができます。それとお部屋はお一人様銀貨 1 枚となります」
「お願いしますっ!」

ルーちゃんが食い気味で被せてくる。

「は、はい。かしこまりました。それではこちらへ」

そうして私たちはリバービュー、いやリバー&鴨ビューの和室へと通された。ものすごく沢山いるが、河川敷がかなり広いおかげか臭かったりということが無いのは助かる。

そんな取り留めのないことを考えながらネギナベ川を眺めていると、岸のほうから矢が放たれ数羽の鴨が仕留められた。狩人らしき人たちが仕留めた獲物のところに歩いていくと、それに気づいた鴨たちが一斉に飛び立つ。

「うーん、やっぱりあれ食料なんですねぇ」
「獲れたてで美味しそうですよっ!」

うーん、なんというか、風情というか。いや、気にしたら負けか。

そしてもちろんというかなんというか、私たちの晩御飯は鴨と葱の鍋だった。鴨の脂身で焼いた葱に醤油と昆布だしベースの割り下で煮込んだ鴨肉が絶妙なハーモニーを醸し出していて絶品だった。そして〆の鴨南蛮そばも最高だったのだが、私はなんとも言えない気分になった。

いや、うん。別に野生動物を狩って食べることに抵抗があるわけではないんだけど、ほら、旅館の部屋から見える野鳥って食べる対象というより愛でる対象というか、なんというか。そんなことないかな?

え? ない? そうですか。たしかにルーちゃんもクリスさんも美味しそうに食べてたしな。野鳥の保護なんて概念すらないみたいだし、気にしたほうが負けなのかもしれない。

私たちはお風呂に入って早々に休むことにした。明日からはシズクさんの手がかりを探さないといけない。

それじゃあ、おやすみなさい。
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