勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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巫女の治める国

第四章第16話 桜の舞うミヤコ

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「はぇー、キレイな町ですねっ!」

朱色に塗られたとんでもなく巨大な門をくぐりミヤコへと入った私たちを出迎えてくれたのは満開の桜並木だった。

門から一直線に横幅数十メートルはあろうかという道が北に向かって伸びており、その左右には十メートルほどの歩道が設けられている。その車道と歩道の境目に桜が一列ずつ植えられており、その見事に咲き誇る花びらは雲一つなく晴れ上がった青空に白と淡いピンクのコントラストを加え、そして時折ひらりひらりと淡い白を散らしている。

「丁度桜の開花時期に来れたのはラッキーでした」
「この桜という木の花はフィーネ様のリーチェの花びらにそっくりですね」
「はい。前々から桜っぽいな、とは思っていましたが実物を見ると本当にそっくりですね」

そのリーチェはというといつものように私の頭の上に乗っている。きっとリーチェも桜の花を愛でているんじゃないだろうか。

「おや、異国のお嬢さんたち、せっかく桜の時期に来たんだ。花見団子でも食べていったらどうだい?」

そう言って茶屋のおばさんから声を掛けられる。私はルーちゃんをちらりと見るが、頷いているのでここは大丈夫ということだろう。

「それじゃあ、折角ですので頂いていきます」
「はい、毎度! 三色団子とお茶がセットになったお花見団子セットがおススメだよ」
「じゃあ、それを人数分お願いします」

私たちはそうして軒先に設けられた長椅子に腰掛ける。するとすぐにセットが運ばれてきた。ピンク色がずいぶんと赤い。やはりあの鮮やかなピンク色の着色料はこの世界にはないのかもしれない。

「……あまり味がしませんね。なんだか、不思議な食感です」

クリスさんがぼそりと呟く。ルーちゃんもなんだかイマイチといった顔をしている。

ま、まあ、確かにあんことかが無いとちょっと物足りないかもしれないね。私はこのすっきりした甘さも好きだけれど。

私は熱いお茶を啜りながら桜の花を見上げる。

「お嬢ちゃんたちはどこから来たんだい?」
「ホワイトムーン王国から来ました」
「はー、よく知らないけど遠いところなんだろう? お嬢ちゃんの国の人はみんな髪の色が違うのかい? それに肌も白いし耳もみんな形が違うんだねぇ」
「そうですね。色々な髪や瞳の人がいますよ」
「そうなんだねぇ。不思議なもんだ。そんな遠いところからわざわざうちの国に観光かい?」
「いえ、友人を探しに来ました。大事なものを返さなくちゃいけないんです」
「それは大変だったねぇ。ミヤコに住んでいる人なのかい?」
「いえ。それが詳しい住所は知らないんです。ミエシロ家の長女なんですが」
「ミエシロ家? うーん、知らないねぇ。どんな娘なんだい?」
「とても背の高い女性で、刀を履いています。あとは、『フウザンのミエシロ家』って名乗っていました」
「そういう人は見たことないけど、フウザンならこのミヤコの東側の地区のことだね。あの辺りは確かに剣術道場もたくさんあるし、そこの出身なのかもしれないよ」
「ありがとうございます。行ってみます!」

うん、どうやら手がかりになりそうな情報を得られたかもしれない。

「そういえば、今日のお宿はもう決まっているのか?」
「いえ、まだです」
「フウザンの方なら、ネギナベ川のあたりにいいお宿がたくさんあるから行ってみたらどうだい?」
「ありがとうございます」
「親切痛み入る。時に気を付けたほうがよい場所などはあるか?」

クリスさんが話に割り込んできた。どうやらクリスさんもこのおばさんは信用に足ると判断したようだ。

「ん? ああ、女の子三人だからってことかい? スイキョウ様のお膝元であるこのミヤコで危ない目に遭うことはほとんどないと思うけどねぇ。ああ、そうだね、酔っ払いにはあまり近づかないこと、それと夜の花街に行かないことくらいを気を付けていれば大丈夫だと思うよ!」

やはりここでも女王様は本当に慕われているようだ。

「やはりこの国は本当に安全なんですね」
「そうだよ。ああ、でもね。全部スイキョウ様のおかげなんだよ。何でも、スイキョウ様が立たれる前は酷かったそうだよ。あたしもその時は子供だったからはっきりは覚えていないんだけどね。このミヤコも疫病に襲われて酷いことになっていたし、田舎の方だと娘を売ったとか生贄に捧げたとか、山賊が出たとか、それはそれは酷かったそうだよ。でもね。スイキョウ様が立たれてからは一変したそうでね。なんでもスイキョウ様は龍神様の加護を頂いて、それからはもうずっと疫病も飢饉も起きなくなってね。それで――」

それからしばらくの間女将さんからはスイキョウ様を礼賛する言葉が続いた。

「今でも生贄を捧げている場所はあるんですか?」
「さあねぇ? 少なくともスイキョウ様の目の届く範囲でやっているようなところはないんじゃないかねぇ。あたしは聞いたこともないよ」

なるほど。やはりアーデの言っていた「私と相容れない」というのは、やはり生贄の事を指していたわけではないのだろうか?

「フィーネ様、やはり一度女王様に謁見し、相談するのが良さそうですね」

思考の渦に落ち込みかけた私にクリスさんがそんな提案をしてくる。

「そうですね。おばさん。女王様のお城はこの道をまっすぐ行ったところですか?」
「そうだよ。でも、外国のお嬢ちゃんたちが行っても会ってもらえるかねぇ」
「そうですか。でもダメもとでお願いに行ってみます」
「そうだねぇ。会ってもらえるといいねぇ」

そうして私たちは茶屋を出ると桜のトンネルをくぐり女王様のお城へと向かったのだった。
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