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巫女の治める国
第四章第9話 オタエヶ淵
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「ええっ!? 昨日の晩に幽霊が来たんですか?」
「しかももう既に送ってくださったのですか?」
「はぇ~」
順にルーちゃん、クリスさん、そして女将さんだ。ルーちゃんは見たかった、とでも言いたげな表情をしている。。一方のクリスさんは助かった、といったような表情をしているのでやはりホッとしてるようだ。
女将さんのは、たぶん純粋な驚き、かな? 何となくそんな気がする。
「ところで、ヤシチさんとヒナツルさんという人に心当たりはありませんか?」
女将さんは目を丸くして驚いている。
「い、一体どうしてそれを?」
「昨日の晩に来た幽霊が自分でそう名乗っていましたよ」
「そ、そうかい……」
女将さんはしばらく考えたような素振りをする。そしておもむろに口を開いた。
「二人はこの宿出身でね。ヤシチはとても腕の立つ男だったよ。ヒナツルはそのヤシチの幼馴染でね、二人は恋仲だったようだね。でもある時ヤシチはミヤコで名を上げると一人で村を飛び出していってね、それからもう二度と戻っては来なかったんだよ。ヒナツルはずっとヤシチの帰りを待っていたんだけどね、ヤシチがいなくなってから二度目の冬にヒナツルはいなくなっちまったんだよ。ヤシチがこっそり連れ出したのかとも思っていたけれど、まさか化けて出るなんてねぇ」
どうやら昨日ヒナツルさんに聞いた話で間違いなさそうだ。
そう答えた女将さんは悲しそうにしているが、少し目が泳いでいるように見える。村の醜聞を部外者である私たちに話すというのは抵抗があるのかもしれない。
「そうでしたか。ところで、巫女装束というのは簡単に手に入るものですか?」
「うん? 巫女装束? あ、もしかしてお嬢ちゃん、着てみたいのかい?」
話題を切り替えたからか、女将さんの声のトーンが一つ上がった。
「いえ、そう言うわけではありませんがこの村でも簡単に手に入るものなのかを知りたくて」
「そうだねぇ、まず無理だと思うよ。巫女装束を着られるのは神社の巫女さんだけだからねぇ」
「ヒナツルさんが持っていた可能性はありますか?」
「ないと思うよ。一度も着ているところは見たことないからね。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「いえ、ちょっと気になったので。それじゃあ、ヤシチさんは今どこにいるかわかりますか?」
「そりゃこっちが聞きたいくらいだよ。お嬢ちゃんの力で見つけられないのかい?」
「それができればとっくに友達を見つけていますよ」
「ああ、それはそうだねぇ」
そう言うと女将さんは豪快に笑った。
「でも、ヒナツルを供養してくれてありがとうね。それと、ミヤコに行ってもしマツハタ宿のヤシチと出会ったら一発殴っておいておくれよ」
「はは、その役目は私が引き受けよう」
横で聞いていたクリスさんが殴る役を買って出たが、クリスさんに殴られたら一般の人はまずいことになるのではないだろうか?
そんな会話をしていると若い男性が私たちのところへやってくるなりぶっきらぼうに言い放った。
「おい、外人の聖職者ってのはどいつだ?」
その言葉にクリスさんが一気に警戒レベルをあげたのが見て取れる。今にも殺さんばかりの目でその男性を睨み付けている。
「こら、ジンタ! 失礼なこと言うんじゃないよ! 折角冥福を祈ってくれるっていうんだ」
「だ、だってよう」
「何言ってんだ。謝りな!」
そういって女将さんはジンタと呼ばれた男の頭を引っ張って下げさせると思い切りげんこつを落とした。
「あいてて、すいませんでした。で、聖職者は誰?」
「おい。何かを尋ねるなら名を名乗るのが先ではないか?」
クリスさんが怒気を孕ませて目の前にいるジンタさんを威嚇する。もう一度女将さんのげんこつが落ちるとようやく自己紹介をした。
「お、俺はジンタだ。あいてっ」
「敬語!」
女将さんのげんこつがまた落ちる。
「です。聖職者のやつ、じゃなかった、聖職者の人を案内します」
ちらちらと女将さんの方を見ている。この女将さん、結構な実力者のようだ。
「私です。フィーネ・アルジェンタータといいます」
「あ、ああ。じゃあ、あんたはこっちに。あ、他のやつ、じゃななかった皆さんはここに残ってくれ」
「待て。フィーネ様をお一人で行かせることはできない。しきたりでどうしても、というのであれば今回の話は無かったことにしてもらう。ヒナツル殿の亡霊はフィーネ様が昨晩既に神の御許に送ってくださっている」
それを聞いたジンタさんが目を見開いた。
「なんだって! オタエが化けて出てるんじゃなかったのか!? なんでヒナツル姉さんが?」
「昨日会った幽霊のご本人がそう言っていましたよ。ヤシチという恋人の方に会えないことを嘆いていました」
「そんな……」
うーん? 何がどうなっているの?
なんだかもう面倒になってきたな。幽霊になっていたヒナツルさんは送ったんだし、別にわざわざ行かなくても良い気もする。
「あの、行かなくていいなら私たちはもうクサネに向けて出発しますよ?」
「ちょっと! ジンタ!」
「あ、はい。ええと、お願いします。ええと、他のや……人も来ていいです」
こうして突如手のひらを返したジンタさんの案内で、私たちはオタエヶ淵を見下ろす崖の上にやってきた。宿からは 10 分くらいの場所で、ジンタさんがラッセルしてくれた。
道中で詳しく話を聞いたのだが、ヒナツルさんが身を投げたのは五年前で、ジンタさんは隣に住んでいた五つ年上の彼女に幼い頃からずっと遊んでもらったそうだ。彼女が行方不明になった当時、彼女は 17 才、ジンタさんは 12 才だったそうだ。
ちなみに、巫女装束についてはジンタさんも心当たりがないそうで、私の話を聞いても首を横に振るばかりだった。
「あそこが、身投げ岩だ……です」
そこには真っ黒な大岩があり、崖から 1 m ほどせり出すような格好で鎮座している。そこから崖下の淵まではだいたい 50 m くらいはありそうだ。
なるほど、確かに身投げするにはうってつけかもしれない。
でもさ。どうしてその岩から妙な魔力を感じるんだろうね?
「しかももう既に送ってくださったのですか?」
「はぇ~」
順にルーちゃん、クリスさん、そして女将さんだ。ルーちゃんは見たかった、とでも言いたげな表情をしている。。一方のクリスさんは助かった、といったような表情をしているのでやはりホッとしてるようだ。
女将さんのは、たぶん純粋な驚き、かな? 何となくそんな気がする。
「ところで、ヤシチさんとヒナツルさんという人に心当たりはありませんか?」
女将さんは目を丸くして驚いている。
「い、一体どうしてそれを?」
「昨日の晩に来た幽霊が自分でそう名乗っていましたよ」
「そ、そうかい……」
女将さんはしばらく考えたような素振りをする。そしておもむろに口を開いた。
「二人はこの宿出身でね。ヤシチはとても腕の立つ男だったよ。ヒナツルはそのヤシチの幼馴染でね、二人は恋仲だったようだね。でもある時ヤシチはミヤコで名を上げると一人で村を飛び出していってね、それからもう二度と戻っては来なかったんだよ。ヒナツルはずっとヤシチの帰りを待っていたんだけどね、ヤシチがいなくなってから二度目の冬にヒナツルはいなくなっちまったんだよ。ヤシチがこっそり連れ出したのかとも思っていたけれど、まさか化けて出るなんてねぇ」
どうやら昨日ヒナツルさんに聞いた話で間違いなさそうだ。
そう答えた女将さんは悲しそうにしているが、少し目が泳いでいるように見える。村の醜聞を部外者である私たちに話すというのは抵抗があるのかもしれない。
「そうでしたか。ところで、巫女装束というのは簡単に手に入るものですか?」
「うん? 巫女装束? あ、もしかしてお嬢ちゃん、着てみたいのかい?」
話題を切り替えたからか、女将さんの声のトーンが一つ上がった。
「いえ、そう言うわけではありませんがこの村でも簡単に手に入るものなのかを知りたくて」
「そうだねぇ、まず無理だと思うよ。巫女装束を着られるのは神社の巫女さんだけだからねぇ」
「ヒナツルさんが持っていた可能性はありますか?」
「ないと思うよ。一度も着ているところは見たことないからね。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「いえ、ちょっと気になったので。それじゃあ、ヤシチさんは今どこにいるかわかりますか?」
「そりゃこっちが聞きたいくらいだよ。お嬢ちゃんの力で見つけられないのかい?」
「それができればとっくに友達を見つけていますよ」
「ああ、それはそうだねぇ」
そう言うと女将さんは豪快に笑った。
「でも、ヒナツルを供養してくれてありがとうね。それと、ミヤコに行ってもしマツハタ宿のヤシチと出会ったら一発殴っておいておくれよ」
「はは、その役目は私が引き受けよう」
横で聞いていたクリスさんが殴る役を買って出たが、クリスさんに殴られたら一般の人はまずいことになるのではないだろうか?
そんな会話をしていると若い男性が私たちのところへやってくるなりぶっきらぼうに言い放った。
「おい、外人の聖職者ってのはどいつだ?」
その言葉にクリスさんが一気に警戒レベルをあげたのが見て取れる。今にも殺さんばかりの目でその男性を睨み付けている。
「こら、ジンタ! 失礼なこと言うんじゃないよ! 折角冥福を祈ってくれるっていうんだ」
「だ、だってよう」
「何言ってんだ。謝りな!」
そういって女将さんはジンタと呼ばれた男の頭を引っ張って下げさせると思い切りげんこつを落とした。
「あいてて、すいませんでした。で、聖職者は誰?」
「おい。何かを尋ねるなら名を名乗るのが先ではないか?」
クリスさんが怒気を孕ませて目の前にいるジンタさんを威嚇する。もう一度女将さんのげんこつが落ちるとようやく自己紹介をした。
「お、俺はジンタだ。あいてっ」
「敬語!」
女将さんのげんこつがまた落ちる。
「です。聖職者のやつ、じゃなかった、聖職者の人を案内します」
ちらちらと女将さんの方を見ている。この女将さん、結構な実力者のようだ。
「私です。フィーネ・アルジェンタータといいます」
「あ、ああ。じゃあ、あんたはこっちに。あ、他のやつ、じゃななかった皆さんはここに残ってくれ」
「待て。フィーネ様をお一人で行かせることはできない。しきたりでどうしても、というのであれば今回の話は無かったことにしてもらう。ヒナツル殿の亡霊はフィーネ様が昨晩既に神の御許に送ってくださっている」
それを聞いたジンタさんが目を見開いた。
「なんだって! オタエが化けて出てるんじゃなかったのか!? なんでヒナツル姉さんが?」
「昨日会った幽霊のご本人がそう言っていましたよ。ヤシチという恋人の方に会えないことを嘆いていました」
「そんな……」
うーん? 何がどうなっているの?
なんだかもう面倒になってきたな。幽霊になっていたヒナツルさんは送ったんだし、別にわざわざ行かなくても良い気もする。
「あの、行かなくていいなら私たちはもうクサネに向けて出発しますよ?」
「ちょっと! ジンタ!」
「あ、はい。ええと、お願いします。ええと、他のや……人も来ていいです」
こうして突如手のひらを返したジンタさんの案内で、私たちはオタエヶ淵を見下ろす崖の上にやってきた。宿からは 10 分くらいの場所で、ジンタさんがラッセルしてくれた。
道中で詳しく話を聞いたのだが、ヒナツルさんが身を投げたのは五年前で、ジンタさんは隣に住んでいた五つ年上の彼女に幼い頃からずっと遊んでもらったそうだ。彼女が行方不明になった当時、彼女は 17 才、ジンタさんは 12 才だったそうだ。
ちなみに、巫女装束についてはジンタさんも心当たりがないそうで、私の話を聞いても首を横に振るばかりだった。
「あそこが、身投げ岩だ……です」
そこには真っ黒な大岩があり、崖から 1 m ほどせり出すような格好で鎮座している。そこから崖下の淵まではだいたい 50 m くらいはありそうだ。
なるほど、確かに身投げするにはうってつけかもしれない。
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