上 下
140 / 625
巫女の治める国

第四章第7話 雪中行軍

しおりを挟む
「私たちが寝ている間に随分と積もりましたね」
「雪ですか? それとも石ですか?」
「フィーネ様、もちろん雪の事です。フィーネ様が練習熱心なことはよく存じていますから」

私は冗談めかして聞いたつもりだったのに真顔で答えられてしまった。ぐぬぬ。

私たちは味噌汁におにぎりという和風な朝ごはんを食べながら話をしている。ちなみにこのお味噌汁とおにぎりは麓の村で買ったもので、当然私の収納に入れて運んできた。

さて、昨日の昼から降り続いた雪は明け方ごろには止んでいたのだが、雪はかなり積もってしまった。

私の腰くらいの高さまほど新雪が積もっているのだが、果たしてこの状態で前に進むことができるのだろうか?

「これ、先に進めますかね? ルーちゃんがいるので道には迷わないとは思いますけど」
「そうですね。私も騎士見習いをしていた時にラッセル行軍の訓練を受けたことはありますので進むことはできます。ただ、これだけの積雪ですと進むスピードはかなり遅くなってしまうと思います」
「うーん、難しいところですが、このままここにいて雪がさらに降ったらもっと困りますしね。ちょっとずつでも進むことにしましょう」
「はい」

こうして私たちは先へと進むことにした。だが、想像していたよりもその道のりはかなり厳しいものだった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

歩き始めて一時間ほどでクリスさんが息を荒くしている。クリスさんがずっと先頭で新雪をかき分けては私たちのために道を作り続けてくれているのだ。

というのも、私とルーちゃんでは小柄すぎて腰まですっぽりと雪に埋もれてしまい、上手く雪をかき分けられないのだ。その点、クリスさんは私たちよりもかなり背が高いのでそうはならない。そのため、必然的にクリスさん頼みになってしまったのだ。

「クリスさん、お疲れ様です。ちょっと休憩にしましょう」

こうしてクリスさんの息が上がってきたらすぐに休憩し、私が【回復魔法】で体力を回復させてあげているのだ。

「フィーネ様、ありがとうございます」

私の魔法に対してお礼を言ってくれるがお礼を言いたいのはこちらのほうだ。こういうった骨の折れることも嫌な顔一つせずにやってくれるクリスさんには本当に頭が上がらない。

「クリスさん、こちらこそ、ですよ。本当は私たちも先頭を交代できればいいんですけど……」

私のその言葉にクリスさんはかぶりを振る。

「フィーネ様とルミアでは体格的に厳しいですから。それに、私はフィーネ様のお役に立てるのが嬉しいのです」
「クリスさん……」

いつもそうだが、クリスさんは私に本当に優しくしてくれる。でも、聖女候補、という立場がなくなってもきっと、とは思うがどうなるのかという不安がないわけでもない。

「ちょっと、姉さま! あたしだって役に立ちたいんですよ?」
「はい。ルーちゃんもいつも助かっています。森で迷わないのはルーちゃんのおかげだし、はじめての町で美味しいご飯が食べられるのも、楽しく旅ができるのもみんなルーちゃんのおかげです」

私の回答が気に入ったのかルーちゃんが「姉さまー」と抱きついてくる。

うちのパーティーの元気印がいてくれるおかげで気分が明るくなる。

私はルーちゃんの背中をポンポンと叩いて感謝の意を伝えてルーちゃんを引き離すと一人で小さく呟いた。

「ほんとに、私は恵まれていますね……」
「え? 姉さま、何か言いました?」
「いえ。何も」
「むぅ、何か良いこと言われたような気がしたのにー」

むむ、鋭い。

「さあ、そろそろ出発しましょう。休憩はもう十分です」

クリスさんのその一言を合図に私たちはまた新雪の積もった街道を歩き出したのだった。

****

陽が傾き始めた頃、私たちは小さな村へと辿りついた。この村の名前はマツハタ宿じゅくと言うらしい。もともとの予定では昨日のお昼過ぎにはこの村を通過している予定だったのだから、雪がどれほど私たちの歩みを邪魔をしているかは想像に難くないだろう。

さすがに村内ということもあり雪かきはしっかりとされておりとても歩きやすい。クリスさんがかき分けてくれた後ろを歩いている私ですらその感想なのだから、クリスさんはやはり相当大変だったはずだ。

そう思った私は宿屋を探そうと、近くを歩いていた村人と思しきおじさんに声をかける。

「こんにちは」

声をかけた瞬間、ビクッとされた。なんだか、声をかけるなオーラを出していたような気もしていたが、何かまずかったのだろうか?

そういえば、周りからジロジロと見られているような気もする。

「な、なんだ? あんたら」
「ええと、旅の者なのですが、宿屋はどちらですか?」
「あれだ」

そう言って村の奥を指さすとそのまま足早に立ち去ってしまった。

「うーん、私何か失礼なことをしちゃったんでしょうか……」
「そうではなく、黒目黒髪でない者が珍しいのではないでしょうか? 先ほどから痛いほど視線を感じますし」
「あー、なるほど。ここで宿を取る人は少なそうですしね」

そう、特に何もなければ麓の村を朝出発すると夕方までには峠を越えて次の宿場町へと辿りつけるはずなのだ。

ただでさえ宿泊客の少ないこの村で、カラフルな頭をした三人組の外国人女性がやってきたとなればそれは一大事なのかもしれない。

私たちはとりあえず教えてもらった方向へと歩いていくと、どうやらそれらしき建物を発見した。旅籠はたごミナグチ屋と看板が出ている。

「ごめんくださーい」

入り口の引き戸を開けて私たちは旅籠の中へと入る。

「いらっしゃい。おや、外人さんじゃないか。こんな雪の中大変だったでしょう。どうぞお上がり」

着物を着たおばさんが出てくると笑顔で私たちを迎え入れてくれる。旅籠の中には味噌の香ばしい香りが漂っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...