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花乙女の旅路

第三章第35話 ルミアの副職業

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2020/08/24 誤字を修正しました
2021/12/12 誤字を修正しました
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私たちはシグリーズィアさんに指定された毒沼の浄化に向かう。私ももう慣れたもので、毒沼の浄化自体は疲れるもののもはや作業と言ってもいいだろう。

どちらかというと住み着いた毒持ちの魔物退治のほうが厄介だったりする。

今回はそんな魔物退治でルーちゃんとマシロちゃんのタッグのデビュー戦だ。

風の精霊たるマシロちゃんを得たルーちゃんは、矢以外の遠隔攻撃手段を獲得した。

マシロちゃんを召喚することで、射程 10 ~ 20 m くらいの風の刃で遠くにいる敵を攻撃する魔法だか精霊術だかを使えるようになったのだ。

その威力は中々で、里で練習していた時は的にしていた岩に傷をつけられる程だった。

この威力があればジャイアントポイズントードなど余裕で倒せるはずだ。ルーちゃんの弓矢よりは射程で劣るが、威力は上だろう。

それに、矢のお金がかからないのは貯金を食いつぶしている身としては助かる。あとはそのカットできたコストをマシロちゃんの餌代が食いつぶさないことを願うばかりだ。

「フィーネ様、着きました。このすぐ先です」

案内してくれたエイイットルさんがそう教えてくれる。

ちなみに、彼のほかにシグリーズィアさんを含め十数名ほどのエルフが私たちに同行している。なんでも、花乙女の奇跡とやらをこの目で見てみたいのだそうだ。

だが、真昼間っから大勢で見物なんて、仕事はしなくていいのだろうか?

毒沼に生息しているのはジャイアントポイズントードだ。

「マシロ! お願いっ!」

ルーちゃんがマシロを召喚する。風の精霊のくせに地面をぴょこぴょこと歩く白ウサギという謎な生き物(?)だ。

マシロちゃんから風の刃が飛んでいき、動きのあまり速くないカエルを豆腐のようにスパスパと切り裂いていく。

「これは! 凄まじい威力だな。まるで宮廷魔術師たちの魔法を見ているようだ」

クリスさんが驚きの声を上げている。私たちは結界を張って閉じこもっているだけですることがない。

ルーちゃん、というかマシロちゃんが結界の中から風の刃を飛ばしてジャイアントポイズントード達を殲滅していく。

あまりにも一方的過ぎて戦いにすらなっていなかった。

「やはり攻撃魔法を使える仲間がいると、格段に楽になるでござるな」
誤射フレンドリーファイアを気にしなくて良いってすばらしい」
「フィーネ様はよく誤射フレンドリーファイアされていましたからね」

本当にそれだ。それに、なぜルーちゃんの誤射フレンドリーファイアは必ず私に向かって飛んでくるのか。このことにルーちゃん以外の誰かの悪意を感じるのは私だけだろうか?

例えばあのハゲた……いや、さすがにそこまではないか。

そうこうしている間に殲滅が完了した。

「ルーちゃん、マシロちゃん、お疲れ様」
「姉さまっ! ありがとうございますっ! 結構疲れるんですね、これ」
「MP を使っていますからね。私もリーチェにお願いすると MP がなくなりますから」
「だからいつもあんなにへとへとになってたんですね」

そんな話をしているとマシロちゃんが姿を消した。どうやらルーちゃんはマシロちゃんを送還したらしい。

さて、ここからは私の仕事だ。

私は花乙女の杖を振ってリーチェを呼び出す。

「リーチェ、また浄化をお願いします」

そうしていつも通りに花吹雪を舞わせ、そして種を水面にそっと投げ入れる。リーチェに聖属性の魔力を放つと花びらは光を放ち毒沼は浄化され、そしてそこには一輪の花が咲いていたのだった。

見物客からは歓声が上がった。

「フィーネ様、リーチェ様、恵みの花乙女の奇跡、しかと拝見いたしましたわ。お見事でございました」

シグリーズィアさんから労いの言葉に私は肩で息をしながら頷いた。

****

浄化の仕事を終えたら二日間の休息を挟んで次の毒沼の浄化に行くというスケジュールを組んでいる。

今日はお休みの二日目。私たちはシグリーズィアさんの家に併設された小さな神殿風の建物にお邪魔している。なんとエルフの里でも職業を得ることができるとのことで、私たちはルーちゃんの副職業のお願いにやってきたのだ。

「では、ルミア様が副職業を得たいのですね?」
「はいっ! あたし、漁師になりたいんですっ!」

シグリーズィアさんに元気よく答えるルーちゃん。

「あら、エルフで漁師というのは珍しいですわね」
「あたしが漁師になってお魚をたくさん獲ってきたら姉さまが料理してくれる約束なんですっ!」
「まあ! それは素敵ですわね。お二人は本当に仲がよろしくて羨ましいですわ。まるで本当の姉妹みたい……」

あー、そういえば確かにこの間そんな話したね。

うーん、まあいいか。魔法薬師の後は特に考えてなかったし。

「それでは、神に祈りを捧げてください」

ルーちゃんが跪いて祈る。

普通だ。ブーンからのジャンピング土下座がない。

なんなのだろう。この物足りなさは。

いや、別にブーンからのジャンピング土下座をしたいわけじゃない。だが、こう、何というか、その、言葉で言い表すのは難しいのだが、そう、それが無いと寂しいというか、そんな感じだ。あの意味不明な様式美がなんとなく懐かしいのだ。

そういえば、教皇様はお元気なのだろうか?

私がそんなどうでもいいことを考えているうちに、ルーちゃんは無事に副職業を授かったようだ。

「姉さまっ! あたしがお魚いっぱい捕まえてきますからねっ!」
「え? ええ。楽しみにしていますね」

ルーちゃんが満面の笑みを浮かべている。まあ、確かにそんな未来も悪くないかもしれないね。

「そういえば、クリスさんとシズクさんは何の副職業を持っているんですか?」
「私は御者です。騎士団では馬車を扱うことも多くありますので」

なるほど。業務に応じて、ということか。

「拙者は商人でござるよ。一人旅をするには何かと便利でござる。ただスキルレベルはからきしでござるがな」

職業大全によると、御者は馬車を操る【操車】と【車酔い耐性】というスキルが身につくようだ。商人の場合は【商品鑑定】と【商談】というスキルが身につくらしい。

「へー、でもあたしも姉さまみたいに副職業のスキルレベルもちゃんと上げたいなぁ」
「ルーちゃんはお願いですから誤射フレンドリーファイアしなくなるまで【弓術】を上げてください……」

ルーちゃんがえーと不満げな表情で私を見てくる。

いや、ルーちゃんは単純にご飯の事しか考えていないのは分かっているけどさ。でも毎度毎度矢が飛んでくる私の身にもなってほしい。

どうやら私がルーちゃんの誤射フレンドリーファイアに悩まされる日々はまだまだ続きそうである。
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