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花乙女の旅路
第三章第26話 森を行く
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ツィンシャの町に入った私たちはルゥーヂゥさんにお礼を言って別れを告げた。
「さて、今日はもう昼下がりですし明日一日をお休みにして明後日出発にしましょう。ああ、あとクリスさんとシズクさんにあの獣用の武器、それにルーちゃんの矢の補充、それから食料も買わないと」
「せ、拙者の武器も良いのでござるか?」
「シズクさんはもう仲間ですからね。仲間の武器を買わないなんてそんなブラックなことしませんよ。行きがかり上とはいえ、一応聖女様なんてものをやってるわけですし」
「フィーネ殿……」
シズクさんが何だか驚いたような恥ずかしがっているような、ちょっと微妙な表情をしている。
「それでも、というのなら私からシズクさんへのプレゼント、ということにしておいてください。じゃ、まずは武器屋ですね」
そうして私たちはルゥーヂゥさんおススメの武器屋へとやってきた。
「ごめんくださーい」
私たちはドアを開けて店内へと入る。チリンチリンとドアに取り付けられたベルが軽快な音を立てる。
「……いらっしゃい」
奥にはいかにも私は厳ついです、頑固おやじです、といった風体のガタイのいいスキンヘッドの中年男性が座っている。
「ええと、こちらの二人の武器と、この子の矢が欲しいんですけど」
ギロリと鋭い眼光で三人を見る、いや、睨み付けたと言った方が良いかもしれない。
「そっちの二人の持っているのを超えるようなのはウチにはねぇ。矢ならそこにいくつかあるが、その弓ならウチじゃなくて狩猟用品店に行った方がいい。うちで扱っているのだと小さすぎて引きが足りねぇ」
「え? あ、あの、ええと」
「店主殿。さすがの慧眼でござるな。しかし拙者のこの刀では倒せぬ特殊な相手を斬るための武器、つまり浄化魔法の付与に適した武器が欲しいのでござるよ」
「なるほど。だが幽霊の相手をしようってんならそっちの聖職者のお嬢ちゃんに任せればいいんじゃないのか?」
「いや、理由はわからぬが、浄化魔法を付与した武器でないと倒せないのでござるよ」
「そんなやつがいるのか。まあ、そうだな。それならミスリル製の武器が一番だがこんな田舎じゃそもそも取り扱いはねぇ。付与は自分でできるのか?」
「私ができますよ」
「わかった。で、あんたは巫国の侍だな。ならこの苗刀はどうだ? 帝都の高品質な玉鋼を使って打たれた品だ。こんな田舎にはなかなかこの質のものは出回らねぇぞ」
「おお、これは……いや、だが太刀を二本は要らないでござるな。もう少し小さな、そう、この位の大きさの刀が良いでござるよ」
「それなら……」
どうやら店主さんは悪い人ではないようだ。ちゃんと親身になって話をしてくれる。こうして店主さんと相談しながら二人の武器を購入した。二人合わせて金貨 20 枚だった。
その後教えてもらった狩猟用品店に行って矢を補充すると、私たちは宿へと戻ったのだった。
****
そして二日後、私たちはツィンシャの町を出て西の密林へと足を踏み入れた。町で聞き込みをしたところ、西の密林へと足を踏み入れる人は少ないそうだ。
エルフの里があるということは知られておらず、広大な毒沼が広がっている上に迷いの森まである恐ろしい魔境、というのが町の人たちの認識だった。
「姉さま、大丈夫ですっ! 森に住んでいる精霊たちにお願いすればエルフの里には着けますから。あたしに任せてくださいっ!」
ルーちゃんが元気に胸を張ってそう言う。
「そうですね。私はリーチェ以外の精霊は見えませんから、頼りにしていますよ」
「えへっ。じゃあ、行きましょう。精霊のみんな、あたし達を導いてっ!」
ルーちゃんがそう呼びかけると、私たちの行く手を塞いでいた藪や木が私たちを避けて道ができた。これは白銀の里に行った時の森と同じだ。
さすが森の民と言われるだけあって森の中での行動は本当にすごい。
「うーん、でもこの森はやっぱり元気がなさそうですね」
ルーちゃんが少し悲しそうな表情でそう言ってくる。リーチェも悲し気な表情を浮かべている。
そんな物憂げな表情も可愛いのがいかにもリーチェらしいね。
「毒沼の影響ですか?」
私は脱線しそうになった思考を元に戻してルーちゃんに聞いてみる。
「はい。エルフの里への道の途中にも毒沼があって大変みたいです」
「インゴールヴィーナさんが私たちにここに行くように言ってきたのもこれが原因なんでしょうね」
「姉さまの恵みの花乙女様としての初仕事ですもんね。あ、初仕事は三日月泉だった。あーあ、きっと残念がるでしょうね、この森の里の人たち」
「え? それはどうしてですか?」
「だって、あの伝説の恵みの花乙女様の最初の奇跡が見られるなんてそんなに嬉しいことはないじゃないですか」
「そういうものですか?」
「そういうものですっ。それぐらい恵みの花乙女っていう存在はエルフにとって憧れの存在なんです。あ、でも姉さま、あたしは姉さまと一緒に姉さまの作ったご飯を食べるのが一番の楽しみですからね!」
「うん?」
どうしてその話からご飯の話に繋がった?
「ルーちゃんもその時は一緒に料理してもらいますからね」
「わーいっ! 姉さまのご飯楽しみっ」
この一切自分で料理する気がない辺りがルーちゃんらしい。
「フィーネ様は料理もされるのですか? 私は切って焼く位しか出来ませんがその時は私もお手伝いしますよ」
「え? え? え? あ、はい」
なんだか、当面先のつもりだったのに割と早めに料理をすることになりそうな予感が……。
私、この世界のキッチンと調味料でちゃんと作れるかな?
「敵でござるよ!」
そんなほのぼのとした雰囲気はシズクさんの一言によって一気に緊迫したものとなった。
「さて、今日はもう昼下がりですし明日一日をお休みにして明後日出発にしましょう。ああ、あとクリスさんとシズクさんにあの獣用の武器、それにルーちゃんの矢の補充、それから食料も買わないと」
「せ、拙者の武器も良いのでござるか?」
「シズクさんはもう仲間ですからね。仲間の武器を買わないなんてそんなブラックなことしませんよ。行きがかり上とはいえ、一応聖女様なんてものをやってるわけですし」
「フィーネ殿……」
シズクさんが何だか驚いたような恥ずかしがっているような、ちょっと微妙な表情をしている。
「それでも、というのなら私からシズクさんへのプレゼント、ということにしておいてください。じゃ、まずは武器屋ですね」
そうして私たちはルゥーヂゥさんおススメの武器屋へとやってきた。
「ごめんくださーい」
私たちはドアを開けて店内へと入る。チリンチリンとドアに取り付けられたベルが軽快な音を立てる。
「……いらっしゃい」
奥にはいかにも私は厳ついです、頑固おやじです、といった風体のガタイのいいスキンヘッドの中年男性が座っている。
「ええと、こちらの二人の武器と、この子の矢が欲しいんですけど」
ギロリと鋭い眼光で三人を見る、いや、睨み付けたと言った方が良いかもしれない。
「そっちの二人の持っているのを超えるようなのはウチにはねぇ。矢ならそこにいくつかあるが、その弓ならウチじゃなくて狩猟用品店に行った方がいい。うちで扱っているのだと小さすぎて引きが足りねぇ」
「え? あ、あの、ええと」
「店主殿。さすがの慧眼でござるな。しかし拙者のこの刀では倒せぬ特殊な相手を斬るための武器、つまり浄化魔法の付与に適した武器が欲しいのでござるよ」
「なるほど。だが幽霊の相手をしようってんならそっちの聖職者のお嬢ちゃんに任せればいいんじゃないのか?」
「いや、理由はわからぬが、浄化魔法を付与した武器でないと倒せないのでござるよ」
「そんなやつがいるのか。まあ、そうだな。それならミスリル製の武器が一番だがこんな田舎じゃそもそも取り扱いはねぇ。付与は自分でできるのか?」
「私ができますよ」
「わかった。で、あんたは巫国の侍だな。ならこの苗刀はどうだ? 帝都の高品質な玉鋼を使って打たれた品だ。こんな田舎にはなかなかこの質のものは出回らねぇぞ」
「おお、これは……いや、だが太刀を二本は要らないでござるな。もう少し小さな、そう、この位の大きさの刀が良いでござるよ」
「それなら……」
どうやら店主さんは悪い人ではないようだ。ちゃんと親身になって話をしてくれる。こうして店主さんと相談しながら二人の武器を購入した。二人合わせて金貨 20 枚だった。
その後教えてもらった狩猟用品店に行って矢を補充すると、私たちは宿へと戻ったのだった。
****
そして二日後、私たちはツィンシャの町を出て西の密林へと足を踏み入れた。町で聞き込みをしたところ、西の密林へと足を踏み入れる人は少ないそうだ。
エルフの里があるということは知られておらず、広大な毒沼が広がっている上に迷いの森まである恐ろしい魔境、というのが町の人たちの認識だった。
「姉さま、大丈夫ですっ! 森に住んでいる精霊たちにお願いすればエルフの里には着けますから。あたしに任せてくださいっ!」
ルーちゃんが元気に胸を張ってそう言う。
「そうですね。私はリーチェ以外の精霊は見えませんから、頼りにしていますよ」
「えへっ。じゃあ、行きましょう。精霊のみんな、あたし達を導いてっ!」
ルーちゃんがそう呼びかけると、私たちの行く手を塞いでいた藪や木が私たちを避けて道ができた。これは白銀の里に行った時の森と同じだ。
さすが森の民と言われるだけあって森の中での行動は本当にすごい。
「うーん、でもこの森はやっぱり元気がなさそうですね」
ルーちゃんが少し悲しそうな表情でそう言ってくる。リーチェも悲し気な表情を浮かべている。
そんな物憂げな表情も可愛いのがいかにもリーチェらしいね。
「毒沼の影響ですか?」
私は脱線しそうになった思考を元に戻してルーちゃんに聞いてみる。
「はい。エルフの里への道の途中にも毒沼があって大変みたいです」
「インゴールヴィーナさんが私たちにここに行くように言ってきたのもこれが原因なんでしょうね」
「姉さまの恵みの花乙女様としての初仕事ですもんね。あ、初仕事は三日月泉だった。あーあ、きっと残念がるでしょうね、この森の里の人たち」
「え? それはどうしてですか?」
「だって、あの伝説の恵みの花乙女様の最初の奇跡が見られるなんてそんなに嬉しいことはないじゃないですか」
「そういうものですか?」
「そういうものですっ。それぐらい恵みの花乙女っていう存在はエルフにとって憧れの存在なんです。あ、でも姉さま、あたしは姉さまと一緒に姉さまの作ったご飯を食べるのが一番の楽しみですからね!」
「うん?」
どうしてその話からご飯の話に繋がった?
「ルーちゃんもその時は一緒に料理してもらいますからね」
「わーいっ! 姉さまのご飯楽しみっ」
この一切自分で料理する気がない辺りがルーちゃんらしい。
「フィーネ様は料理もされるのですか? 私は切って焼く位しか出来ませんがその時は私もお手伝いしますよ」
「え? え? え? あ、はい」
なんだか、当面先のつもりだったのに割と早めに料理をすることになりそうな予感が……。
私、この世界のキッチンと調味料でちゃんと作れるかな?
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