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花乙女の旅路
第三章第12話 デッドリースコルピの脅威(前編)
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2020/08/23 誤字を修正しました
2020/09/23 文章を修正しました。内容に変更はございません
2021/01/14 誤字を修正しました
================
「ああ、これは一目瞭然ですね」
水辺まで近寄ってみる。色も濁っていないし死んだ魚の匂いがする以外は普通だ。見た感じは普通のきれいなオアシスだ。
こういう砂漠のオアシスは全て地下水なので、地下水脈が汚染されたか、毒が泉に直接混入したか、どちらかのはずなのだが……。
「ううん、これは厳しいですね。毒の混入した原因が分からないとまた同じことが起こりそうですし。何か心当たりはありませんか?」
しかし私たちについてきていた一部の集落の住人――ラシードさんというらしい――は首を傾げている。どうやら誰も心当たりがないようだ。
その時だった。バシャバシャという水音に振り返った私の目に、腹を出して浮かんでいる魚が何か大きなものに捕らえられ、そのまま対岸へと向かって移動していく様子が飛び込んできた。
「あれは?」
「まさか! デッドリースコルピ!?」
マルコさんがわなわなと慄いている。
「それって、なんですか?」
「デッドリースコルピというのは砂漠地帯に生息する非常に危険なサソリの魔物です。体の表面が硬い甲殻に覆われていて、尻尾だけでなく唾液や排泄物にも強力な毒を持つ恐ろしい魔物です」
「サソリがなんで水の中に?」
「奴は泳ぐんですよ。そして、ああやって水場を自分の毒で汚染させ、その水場を独占するんです」
なんて迷惑な魔物だ。
そんな話をしていると、泉の対岸に巨大なサソリが上がってきた。そして水辺でハサミに持った魚を食べると再び泉の中に入っていった。
「見ての通りです。このオアシスはもう終わりです。奴は魚を食べつくしたら今度は人間を食料とするでしょう。ハンターに依頼しようにも、デッドリースコルピはその危険性ゆえ受けてくれるものもあまりいません。ましてやこのような場所です。ハンターが来る前に集落がやられてしまうでしょう。残念ですが我々も砂漠を渡るルートを新しく開拓しなくてはなりませんね」
どうやら想像以上に危険な魔物のようだ。
「まずはハーディーたちに報告に行きましょう」
「そうですね」
私たちは調査を切り上げると集落の中へと戻ったのだった。
****
「デッドリースコルピですか。ああ、我々はもう終わりだ」
私たちの報告を聞いたハーディーさんはそう言って天を仰いだ。
「ハーディー、今のうちに荷物をまとめて逃げればまだ何とかなるだろう?」
マルコさんが説得をしている。
「だがなマルコ。俺たちはこの三日月泉でしか生きていけないのだ。一体どうやって他所に移って暮らせと言うんだ」
「だが! このままここに残ったって死ぬだけじゃないか」
「……」
皆一様に険しい顔をしている。
「ねぇ、おねえちゃんたち、つよいんでしょ? わるいまもの、やっつけてよ!」
小さな男の子がクリスさんの手を握って涙目で頼んでいる。
「こら、ダーギル。旅のお方に迷惑だろう」
小さな男の子に頼られたクリスさんがこちらを何か期待するような目で見ている。
ああ、私が助けるって思ってるのね。そうか。そうだよね。
「クリスさん、デッドリースコルピの殻、ちゃんと斬れるんでしょうね? 私、冥龍王の時のような力技は嫌ですよ?」
クリスさんの顔がパッとほころぶ。
「お任せください!」
「シズクさん、ルーちゃん、良いですか?」
「もちろんですっ!」
「任せるでござる」
よかった。二人とも二つ返事で了承してくれた。
「というわけで、私たちで討伐に挑戦してみようと思います」
「本気ですか!?」
マルコさんが驚きの声をあげる。
「大丈夫ですよ。こう見えても私たち、吸血鬼に支配された町を浄化する程度には強いですから」
「ありがとう、おねえちゃん」
ダーギルくんがキラキラとした笑顔を向けてくる。彼のお姉ちゃん――ウルファちゃんだったかな?――は心配そうな目でこちらを見つめている。
「大丈夫ですよ。安心してください」
私はニッコリと微笑みかけると、少し安心してくれたのかぎこちない笑顔を向けてくれた。
****
私たちは再び泉のほとりにやってきた。今度は集落とは反対側だ。デッドリースコルピは相変わらず死んだ魚を食べている。
「それでは、作戦を説明します。フィーネ様は後方で解毒と治癒の準備をお願いいたします。ルミアは矢で注意を引く。あとは私とシズク殿で尻尾とはさみを切り落とす」
「「「了解」」」
なんともざっくりとした作戦が決まった。だが私はこの世界での戦闘は未だによくわかっていないので任せることにしている。
ゲームとかなら結界もあって毒も効かない私がタンクするのが定石になるんだろうけど、現実問題として、人の背丈ほどもある巨大なサソリの前には正直出たくない。あんなに大きなサソリなんて怖いし、そもそも気持ち悪いのでとても間近で見たいとは思わない。
それに、私が前に出るといってもクリスさんが首を縦には振らないだろう。
私たちが様子を伺っていると、またしてもデッドリースコルピが泉から上がってきた。
そのハサミには魚を挟んでおり、今まさにその魚を食べようとしている。
そこにルーちゃんが矢を射掛けた。
パシッ
その矢は見事にその魚に命中し、デッドリースコルピの下から弾き飛ばした。
ギチギチギチギ
奇妙な音を出してルーちゃんの方を向き直る。ああ、明らかに怒っている。
と、次の瞬間だった。50 メートルはあろうかという距離を凄まじい速さで詰め、尻尾の毒針をルーちゃんに思い切り叩きつけてくる。
「え?」「結界!」
私はすんでのところで結界を張り、ルーちゃんを毒針から守る。
なんて速さだ。このサソリ速すぎなのでは?
ギチギチギチギ
あああ、ますます怒ってる。
デッドリースコルピはルーちゃんを尻尾の毒針で、そしてハサミでと滅多矢鱈に攻撃を加えてくる。
「ひいぃぃぃ」
ルーちゃんが情けない声をあげているのを横目にクリスさんとシズクさんが切り込んでくる。先に斬りかかったのはシズクさんだ。
ガキィーン
デッドリースコルピはシズクさんの刀を硬いハサミで受け止め、そしてシズクさんごと弾き飛ばした。
弾き飛ばされたシズクさんはひらりと空中で一回転して華麗に着地した。
その間隙をついてクリスさんが綺麗な一撃を尻尾に打ち込む!
2020/09/23 文章を修正しました。内容に変更はございません
2021/01/14 誤字を修正しました
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「ああ、これは一目瞭然ですね」
水辺まで近寄ってみる。色も濁っていないし死んだ魚の匂いがする以外は普通だ。見た感じは普通のきれいなオアシスだ。
こういう砂漠のオアシスは全て地下水なので、地下水脈が汚染されたか、毒が泉に直接混入したか、どちらかのはずなのだが……。
「ううん、これは厳しいですね。毒の混入した原因が分からないとまた同じことが起こりそうですし。何か心当たりはありませんか?」
しかし私たちについてきていた一部の集落の住人――ラシードさんというらしい――は首を傾げている。どうやら誰も心当たりがないようだ。
その時だった。バシャバシャという水音に振り返った私の目に、腹を出して浮かんでいる魚が何か大きなものに捕らえられ、そのまま対岸へと向かって移動していく様子が飛び込んできた。
「あれは?」
「まさか! デッドリースコルピ!?」
マルコさんがわなわなと慄いている。
「それって、なんですか?」
「デッドリースコルピというのは砂漠地帯に生息する非常に危険なサソリの魔物です。体の表面が硬い甲殻に覆われていて、尻尾だけでなく唾液や排泄物にも強力な毒を持つ恐ろしい魔物です」
「サソリがなんで水の中に?」
「奴は泳ぐんですよ。そして、ああやって水場を自分の毒で汚染させ、その水場を独占するんです」
なんて迷惑な魔物だ。
そんな話をしていると、泉の対岸に巨大なサソリが上がってきた。そして水辺でハサミに持った魚を食べると再び泉の中に入っていった。
「見ての通りです。このオアシスはもう終わりです。奴は魚を食べつくしたら今度は人間を食料とするでしょう。ハンターに依頼しようにも、デッドリースコルピはその危険性ゆえ受けてくれるものもあまりいません。ましてやこのような場所です。ハンターが来る前に集落がやられてしまうでしょう。残念ですが我々も砂漠を渡るルートを新しく開拓しなくてはなりませんね」
どうやら想像以上に危険な魔物のようだ。
「まずはハーディーたちに報告に行きましょう」
「そうですね」
私たちは調査を切り上げると集落の中へと戻ったのだった。
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「デッドリースコルピですか。ああ、我々はもう終わりだ」
私たちの報告を聞いたハーディーさんはそう言って天を仰いだ。
「ハーディー、今のうちに荷物をまとめて逃げればまだ何とかなるだろう?」
マルコさんが説得をしている。
「だがなマルコ。俺たちはこの三日月泉でしか生きていけないのだ。一体どうやって他所に移って暮らせと言うんだ」
「だが! このままここに残ったって死ぬだけじゃないか」
「……」
皆一様に険しい顔をしている。
「ねぇ、おねえちゃんたち、つよいんでしょ? わるいまもの、やっつけてよ!」
小さな男の子がクリスさんの手を握って涙目で頼んでいる。
「こら、ダーギル。旅のお方に迷惑だろう」
小さな男の子に頼られたクリスさんがこちらを何か期待するような目で見ている。
ああ、私が助けるって思ってるのね。そうか。そうだよね。
「クリスさん、デッドリースコルピの殻、ちゃんと斬れるんでしょうね? 私、冥龍王の時のような力技は嫌ですよ?」
クリスさんの顔がパッとほころぶ。
「お任せください!」
「シズクさん、ルーちゃん、良いですか?」
「もちろんですっ!」
「任せるでござる」
よかった。二人とも二つ返事で了承してくれた。
「というわけで、私たちで討伐に挑戦してみようと思います」
「本気ですか!?」
マルコさんが驚きの声をあげる。
「大丈夫ですよ。こう見えても私たち、吸血鬼に支配された町を浄化する程度には強いですから」
「ありがとう、おねえちゃん」
ダーギルくんがキラキラとした笑顔を向けてくる。彼のお姉ちゃん――ウルファちゃんだったかな?――は心配そうな目でこちらを見つめている。
「大丈夫ですよ。安心してください」
私はニッコリと微笑みかけると、少し安心してくれたのかぎこちない笑顔を向けてくれた。
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私たちは再び泉のほとりにやってきた。今度は集落とは反対側だ。デッドリースコルピは相変わらず死んだ魚を食べている。
「それでは、作戦を説明します。フィーネ様は後方で解毒と治癒の準備をお願いいたします。ルミアは矢で注意を引く。あとは私とシズク殿で尻尾とはさみを切り落とす」
「「「了解」」」
なんともざっくりとした作戦が決まった。だが私はこの世界での戦闘は未だによくわかっていないので任せることにしている。
ゲームとかなら結界もあって毒も効かない私がタンクするのが定石になるんだろうけど、現実問題として、人の背丈ほどもある巨大なサソリの前には正直出たくない。あんなに大きなサソリなんて怖いし、そもそも気持ち悪いのでとても間近で見たいとは思わない。
それに、私が前に出るといってもクリスさんが首を縦には振らないだろう。
私たちが様子を伺っていると、またしてもデッドリースコルピが泉から上がってきた。
そのハサミには魚を挟んでおり、今まさにその魚を食べようとしている。
そこにルーちゃんが矢を射掛けた。
パシッ
その矢は見事にその魚に命中し、デッドリースコルピの下から弾き飛ばした。
ギチギチギチギ
奇妙な音を出してルーちゃんの方を向き直る。ああ、明らかに怒っている。
と、次の瞬間だった。50 メートルはあろうかという距離を凄まじい速さで詰め、尻尾の毒針をルーちゃんに思い切り叩きつけてくる。
「え?」「結界!」
私はすんでのところで結界を張り、ルーちゃんを毒針から守る。
なんて速さだ。このサソリ速すぎなのでは?
ギチギチギチギ
あああ、ますます怒ってる。
デッドリースコルピはルーちゃんを尻尾の毒針で、そしてハサミでと滅多矢鱈に攻撃を加えてくる。
「ひいぃぃぃ」
ルーちゃんが情けない声をあげているのを横目にクリスさんとシズクさんが切り込んでくる。先に斬りかかったのはシズクさんだ。
ガキィーン
デッドリースコルピはシズクさんの刀を硬いハサミで受け止め、そしてシズクさんごと弾き飛ばした。
弾き飛ばされたシズクさんはひらりと空中で一回転して華麗に着地した。
その間隙をついてクリスさんが綺麗な一撃を尻尾に打ち込む!
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