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花乙女の旅路
第三章第4話 連続誘拐事件
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2020/09/11 誤字を修正しました
================
「連続誘拐事件、ですか?」
私たちは今、宿に戻ってきて食事をごちそうになりながら宿のオヤジさんの話を聞いている。
「そうなんです。ここから南に 2 日ほどの場所にあるトゥカットという町で若い女性ばかりが行方不明になる事件が相次いでいるんです。うちの娘が嫁いでいったんですが、娘とももうひと月も連絡が取れなくなっているんです。隣町のことはこっちの衛兵じゃ手出しできないですし、ハンター達に頼んでもお金だけ取られて何も情報を貰えないしで、困っていたところなんです」
「なるほど、それは心配ですね……」
「よし、ならば拙者に任せるでござるよ。娘さんの安否を確認してくればよいでござるな?」
「本当ですか! ありがとうございます。娘の名はサフィーヤと言います。ユルギュから来た宿屋の嫁のサフィーヤといえば通じると思います」
うーん、これはなんか手伝ったほうがよさそうな気がするな。女性の連続誘拐事件ってことは単独犯じゃないだろうし、いくらシズクさんでも一人は危ない気がする。
「シズクさん、私たちも一緒にお手伝いしますよ」
「なんと! よろしいのでござるか?」
「はい、もちろんです。その代わり、また巫国のお話を聞かせてくださいね」
「おお、もちろんでござるよ。クリス殿もルミア殿も良いでござるか?」
「私の行く場所はフィーネ様の行かれる場所です」
「あたしもあたしもっ!」
「ふふ、フィーネ殿は慕われているでござるな。よし、ではしばしの間ではござるがよろしく頼むでござる」
こうして私たちはシズクさんと一緒にトゥカットの町に嫁いだサフィーヤさんの安否確認に向かうことになったのだった。
****
トゥカットの町に着いた時には既に日が落ちた後であった。だが、夜でも外は賑わっており、人通りも多い。
「とても連続誘拐事件が起きているようには思えませんね」
私は誰にともなく呟いた。
「そうでござるな」
「でもでもっ、なんだか歩いている人の様子がおかしいというか、どこが、とは言えないんですけど、なんか変な気がしません?」
「そうだな。確かにどことなく動きが緩慢というか、そんな気はするな」
ルーちゃんは何かの異変を感じ取っているようだ。クリスさんも違和感があるようだが私にはよくわからない。
「うーん、どういうことなんでしょうね」
私たちはとりあえず宿屋を目指す。道行く人にサフィーヤさんの宿の場所を聞くとあっさりと教えてくれたのでそこへと向かう。
「ごめんください。今日泊まりたいんですが空いていますか?」
「いらっしゃい。4 人部屋でよければ一部屋空いているけどどうする?」
宿の若い男性受付の人がそう答える。どうやら他の部屋は空いていないらしい。
私がちらりとシズクさんを見ると頷いたのでそのまま宿泊することにする。
「では、それでお願いします」
「はいよ。じゃあ、これが鍵。部屋は二階の一番奥の突き当り右手だからな。食事はそこの食堂で食べてってくれよなっ」
「ありがとうございます。それじゃあ、荷物を置いたら食事に来ますね」
私たちは一度部屋に行って荷物を置く。といっても、私たち三人の荷物はほとんど私の収納に入っているので最低限しか手持ちはないのだが、部屋を見ておきたいというのもあるのでシズクさんに付き合って一緒に部屋に行く。
「しかし、その【収納魔法】といったでござるか? それはすごい魔法でござるな」
「でも、商人さんの中には使える人もいるらしいですよ?」
「聖女でありながら【収納魔法】を使えるのはフィーネ様くらいだと思いますよ?」
「ちょっとぉ、その話はいいから早くごはんに行きましょうよー!」
ルーちゃんは大分お腹が減っているらしい。早く食べに行った方が良さそうだ。私たちはそのまま食堂へと向かった。
着席し、いくつかの料理を注文してしばらく待っていると、先ほどの若い男性が注文した料理を運んできたので本題を切り出してみる。
「この宿にサフィーヤさんという方が嫁いできたと思うんですけど、お元気ですか?」
「ああ、サフィーヤは私の妻ですよ」
嫁がれた本人だったらしい。
「あの、サフィーヤさんにお会いすることはできますか?」
「今は無理ですね」
「じゃあ、いつなら会えるんでしょうか?」
「うーん、私では何とも言えませんね」
「どういうことでしょうか?」
「だって、妻は今町長様のところにご奉公に出ておりますから。いつ帰ってくるかなどわかりませんよ」
「ええと?」
どういうこと? この人何言ってるの?
「ですから、町長様のところでご奉公をしているのです。いつ帰ってくるかなんて町長様がお決めになることですから。私なんぞにわかるはずがありません」
うーん、言っている意味がわからない。
「あの、サフィーヤさんのご両親も心配しているようなんですけど……」
「では彼らにも伝えておいて下さい。ちゃんと町長様のところにご奉公に行きました、と」
「はあ。あの、あなたは奥さんに会えていないんですか?」
「当たり前じゃないですか。町長様のところでご奉公に出ているのですから当然です」
なんか、変な人のところに嫁いじゃった?
「ええと、寂しくないんでしょうか?」
「寂しい? 何がですか?」
「奥さんに会えないんですよね?」
「はは、何をおっしゃいますか。町長様のところに妻がご奉公に出るなんて、名誉以外の何物でもありませんよ」
「ええぇ」
ダメだ。話が通じない。
「もうよろしいでしょうか? それでは仕事もありますので失礼します」
そういって探し人の旦那さんは去って行った。
「うーん、どう思います?」
「あの男、最低ですね。斬って捨ててやりたいぐらいです」
「拙者の目にもあの男はまともには見えなかったでござるな」
ルーちゃんはもぐもぐと食べている。こちらを見て、ふぇ、とよくわからない声を上げたので身振りで食べて、と合図をしたら再びもぐもぐと食べ始めた。幸せそうに食べているのでルーちゃんは抜きで話を進めることにしよう。
「町長のところでの奉公というのは何なんでしょうね?」
「そうですね。おかしな行為でなければ良いですが……」
私の疑問にクリスさんが相槌を打つ。すると、答えを知るはずの人物が意外なところから現れた。
突如食堂の扉が開け放たれると、眼鏡をかけた身なりの良い男性がこちらに歩いてきた。
「あなた方が旅の女性たちですね? 私は町長のフェルヒと申します。どうぞお見知りおきを」
まさかの本人登場であった。
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「連続誘拐事件、ですか?」
私たちは今、宿に戻ってきて食事をごちそうになりながら宿のオヤジさんの話を聞いている。
「そうなんです。ここから南に 2 日ほどの場所にあるトゥカットという町で若い女性ばかりが行方不明になる事件が相次いでいるんです。うちの娘が嫁いでいったんですが、娘とももうひと月も連絡が取れなくなっているんです。隣町のことはこっちの衛兵じゃ手出しできないですし、ハンター達に頼んでもお金だけ取られて何も情報を貰えないしで、困っていたところなんです」
「なるほど、それは心配ですね……」
「よし、ならば拙者に任せるでござるよ。娘さんの安否を確認してくればよいでござるな?」
「本当ですか! ありがとうございます。娘の名はサフィーヤと言います。ユルギュから来た宿屋の嫁のサフィーヤといえば通じると思います」
うーん、これはなんか手伝ったほうがよさそうな気がするな。女性の連続誘拐事件ってことは単独犯じゃないだろうし、いくらシズクさんでも一人は危ない気がする。
「シズクさん、私たちも一緒にお手伝いしますよ」
「なんと! よろしいのでござるか?」
「はい、もちろんです。その代わり、また巫国のお話を聞かせてくださいね」
「おお、もちろんでござるよ。クリス殿もルミア殿も良いでござるか?」
「私の行く場所はフィーネ様の行かれる場所です」
「あたしもあたしもっ!」
「ふふ、フィーネ殿は慕われているでござるな。よし、ではしばしの間ではござるがよろしく頼むでござる」
こうして私たちはシズクさんと一緒にトゥカットの町に嫁いだサフィーヤさんの安否確認に向かうことになったのだった。
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トゥカットの町に着いた時には既に日が落ちた後であった。だが、夜でも外は賑わっており、人通りも多い。
「とても連続誘拐事件が起きているようには思えませんね」
私は誰にともなく呟いた。
「そうでござるな」
「でもでもっ、なんだか歩いている人の様子がおかしいというか、どこが、とは言えないんですけど、なんか変な気がしません?」
「そうだな。確かにどことなく動きが緩慢というか、そんな気はするな」
ルーちゃんは何かの異変を感じ取っているようだ。クリスさんも違和感があるようだが私にはよくわからない。
「うーん、どういうことなんでしょうね」
私たちはとりあえず宿屋を目指す。道行く人にサフィーヤさんの宿の場所を聞くとあっさりと教えてくれたのでそこへと向かう。
「ごめんください。今日泊まりたいんですが空いていますか?」
「いらっしゃい。4 人部屋でよければ一部屋空いているけどどうする?」
宿の若い男性受付の人がそう答える。どうやら他の部屋は空いていないらしい。
私がちらりとシズクさんを見ると頷いたのでそのまま宿泊することにする。
「では、それでお願いします」
「はいよ。じゃあ、これが鍵。部屋は二階の一番奥の突き当り右手だからな。食事はそこの食堂で食べてってくれよなっ」
「ありがとうございます。それじゃあ、荷物を置いたら食事に来ますね」
私たちは一度部屋に行って荷物を置く。といっても、私たち三人の荷物はほとんど私の収納に入っているので最低限しか手持ちはないのだが、部屋を見ておきたいというのもあるのでシズクさんに付き合って一緒に部屋に行く。
「しかし、その【収納魔法】といったでござるか? それはすごい魔法でござるな」
「でも、商人さんの中には使える人もいるらしいですよ?」
「聖女でありながら【収納魔法】を使えるのはフィーネ様くらいだと思いますよ?」
「ちょっとぉ、その話はいいから早くごはんに行きましょうよー!」
ルーちゃんは大分お腹が減っているらしい。早く食べに行った方が良さそうだ。私たちはそのまま食堂へと向かった。
着席し、いくつかの料理を注文してしばらく待っていると、先ほどの若い男性が注文した料理を運んできたので本題を切り出してみる。
「この宿にサフィーヤさんという方が嫁いできたと思うんですけど、お元気ですか?」
「ああ、サフィーヤは私の妻ですよ」
嫁がれた本人だったらしい。
「あの、サフィーヤさんにお会いすることはできますか?」
「今は無理ですね」
「じゃあ、いつなら会えるんでしょうか?」
「うーん、私では何とも言えませんね」
「どういうことでしょうか?」
「だって、妻は今町長様のところにご奉公に出ておりますから。いつ帰ってくるかなどわかりませんよ」
「ええと?」
どういうこと? この人何言ってるの?
「ですから、町長様のところでご奉公をしているのです。いつ帰ってくるかなんて町長様がお決めになることですから。私なんぞにわかるはずがありません」
うーん、言っている意味がわからない。
「あの、サフィーヤさんのご両親も心配しているようなんですけど……」
「では彼らにも伝えておいて下さい。ちゃんと町長様のところにご奉公に行きました、と」
「はあ。あの、あなたは奥さんに会えていないんですか?」
「当たり前じゃないですか。町長様のところでご奉公に出ているのですから当然です」
なんか、変な人のところに嫁いじゃった?
「ええと、寂しくないんでしょうか?」
「寂しい? 何がですか?」
「奥さんに会えないんですよね?」
「はは、何をおっしゃいますか。町長様のところに妻がご奉公に出るなんて、名誉以外の何物でもありませんよ」
「ええぇ」
ダメだ。話が通じない。
「もうよろしいでしょうか? それでは仕事もありますので失礼します」
そういって探し人の旦那さんは去って行った。
「うーん、どう思います?」
「あの男、最低ですね。斬って捨ててやりたいぐらいです」
「拙者の目にもあの男はまともには見えなかったでござるな」
ルーちゃんはもぐもぐと食べている。こちらを見て、ふぇ、とよくわからない声を上げたので身振りで食べて、と合図をしたら再びもぐもぐと食べ始めた。幸せそうに食べているのでルーちゃんは抜きで話を進めることにしよう。
「町長のところでの奉公というのは何なんでしょうね?」
「そうですね。おかしな行為でなければ良いですが……」
私の疑問にクリスさんが相槌を打つ。すると、答えを知るはずの人物が意外なところから現れた。
突如食堂の扉が開け放たれると、眼鏡をかけた身なりの良い男性がこちらに歩いてきた。
「あなた方が旅の女性たちですね? 私は町長のフェルヒと申します。どうぞお見知りおきを」
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