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白銀のハイエルフ
第二章第30話 暴食の女王様、再び
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2020/09/03 誤字を修正しました
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温泉を堪能した私たちは宿へと戻り、併設の酒場へとやってきた。きっとここがブルースター共和国ならあの温泉は明日から観光地になっているだろうが、ここではそんなことはなさそうだ。
「久しぶりのまともな食事ねぇ。楽しみだわぁ」
「お母さん、あたしもです!」
「そうですね。私もほとんど食べられませんでしたからね。きちんと食べて動けるようにしておきたいです」
三人とも船酔いでやられた上に食事は粗食ばかりだったからね。
「じゃあ、今日はしっかり食べましょう。上限は金貨 2 枚までで食べて良いですよ」
私は主にリエラさんを見ながら言う。
「ん~、 20 枚」
「なんで 10 倍になっているんですか! やっぱり金貨 1 枚にします」
「あらぁ、連れないこと言わないでぇ? 金貨 19 枚」
「譲歩が小さすぎです。とにかく、金貨 2 枚まででファイナルアンサーです」
「もう、いけずぅ~」
リエラさんは美人だけど暴食の女王様だ。あまり付け上がらせると貯金をサクッと溶かしてしまう。締めるところは締めないといけない。
「フィーネ様、シルバーフィールドのおススメはタラ料理だそうです。ロブスターも美味しいそうです」
「うーん、じゃあ、私はこのロブスターとフィッシュボールの盛り合わせにします」
「私も同じものにします」
「あたしは、ロブスターと、サーモンの香草焼きと、子羊の燻製。あ、あとやっぱりフィッシュボールも!」
「じゃあ、わたしはメニューの一番上から下まで一皿ずつお願いしますぅ」
リエラさんのオーダーを聞いてウェイトレスさんがギョッとした表情を浮かべ、まわりのテーブルの客がざわつき始めた。
「ほ、本当にそれを全て召し上がるんですか?」
「本当よぉ」
「あの、彼女の胃袋はいくらでも入るみたいなので大丈夫です。残さないしお金も払いますから」
「か、かしこまりました……」
ウェイトレスさんが怪訝そうな顔をしたまま下がる。そして、しばらくすると大量の皿がリエラさんの前に運ばれてくる。
私とクリスさんのところには半分に割られたロブスターの香草焼きと白身魚をすり潰して団子状にして焼いたものが運ばれてきた。付け合わせはフライドポテトだ。
うん、ロブスターは美味しい。レモンを絞れればぐっと美味しくなりそうだが、このままでも結構いける。だが、このフィッシュボールとかいうのは、なんというか、味がしない。いや、少し塩味はついているけど、それだけだ。うん、生姜醤油をかけたくなる味だ。
クリスさんの方をちらりと見てみると、やっぱりフィッシュボールを食べて微妙そうな顔をしている。うんうん、やっぱり物足りないよね?
ルーちゃんは平常運転だ。美味しそうにパクパクと口に放り込んでいる。
そして、リエラさんは、うん、相変わらずの暴食の女王様だ。見ているだけで胸焼けしそうなほどの量の料理が次々と消えていく。マジヤバい。
「おいおい、姉ちゃん。そんな細身でそんなに食えんのかぁ?」
スキンヘッドでやたらとガタイのいいムキムキマッチョな酔っ払いが絡んできた。
「あら? 食べられないとでも? なんならこの倍は食べられるから、あなた全部おごってくださる?」
あ、ヤバい。リエラさんが怖いほうのリエラさんになっている。
「おうおう。いいぜ。そのかわり、食いきれなかったら体で払ってもらうぜ?」
「いいわよぉ?」
「ようし。おい、姉ちゃん。ここの姉ちゃんが頼んだ奴全部一皿ずつ追加だ!」
「ひっ、か、かしこまりましたー」
ウェイトレスさんが怯えちゃってる。あーあ。知らない。平気で食べるでしょ。それ。
「はん、エルフの女を抱けるなんて運がいいぜ」
どっちに転んでもこの酔っ払いにとって不幸な結果にしかならない気がするのは私だけだろうか?
****
「なっ、ば、馬鹿な……」
一時間後、酔っ払いさんは唖然とした表情でそう呟いた。
うん、知ってた。
「じゃあ、リエラさんの追加オーダー分は払ってくださいね。というわけで、ウェイトレスさん、よろしくお願いします。あと、デザートにこのコケモモジャムパイを 4 つ下さい」
「かしこまりました」
ウェイトレスさんのまだ食べるのか、と言わんばかりの視線がリエラさんに突き刺さっていたが、気にしないことにしよう。
「こ、こんなこと、認められ――」
「お前の負けだ。ベン。俺たちも出してやるから素直に払え」
酔っ払いさんと同じようなスキンヘッドをしてやたらとガタイのいい男たちの集団が酔っ払いさんに声をかける。
「だ、だが。こんなこと!」
「お前は勝負に負けた。そんなことも認められないなんて、ベン! お前の筋肉は泣いているぞ!」
はい? 今の話と筋肉に何の関係が?
それにそこの酔っ払いさん、なんでショック受けているのさ!
「そ、そうだった。アニキ。俺が間違っていた!」
何やら勝手に感動して脱ぎ始めた。
あー、なんか筋肉ピクピクしてポーズとってるんですけど……
「わかればいいんだ、ベン。そう、人は何時だって過ちを犯す。だが、過ちを認めた時が成長のスタートなんだ。さあ、筋肉に誓うんだ。心を入れ替えて過ちを正していくと!」
「アニキ、俺、誓うぜ! これからももっと鍛えてこんな程度のことでは動じない鋼の筋肉を手に入れるって!」
「そうだ、その意気だ、ベン!」
何やら全く訳のわからないヒューマンドラマが展開されているが、私にとってはジャムパイのほうが大事だ。男くさく抱き合う彼らを尻目に運ばれてきたコケモモジャムパイを口に入れる。うん、甘酸っぱい味が絶妙で美味だ。
そうこうしているうちに集団全員が脱いで筋肉をピクピクやり始めた。もうあれ、営業妨害じゃないのかね?
って、クリスさん、何でポーズの真似をしようとしているの? ああいうの趣味だったの? ただでさえ脳筋なんだから、これ以上無駄な筋肉は増やさないでほしい。
「あらぁ? あの人たち、素質ありそうねぇ」
あ、暴食の女王様に目をつけられた。知ーらないっと。
「さて、私はそろそろ部屋に戻りますね。ああ、あとクリスさんも、あんまりああいうのの真似はしない方が良いと思いますよ?」
私は会計を済ませると部屋へと戻った。
風の噂で聞いたところによると、あの後筋肉な皆さんはリエラさんに奉仕の喜びとやらをしっかりと教え込まれてそれはそれは立派な紳士になったそうだ。
え? 私は知らないよ? 風の噂だからね? いいね?
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温泉を堪能した私たちは宿へと戻り、併設の酒場へとやってきた。きっとここがブルースター共和国ならあの温泉は明日から観光地になっているだろうが、ここではそんなことはなさそうだ。
「久しぶりのまともな食事ねぇ。楽しみだわぁ」
「お母さん、あたしもです!」
「そうですね。私もほとんど食べられませんでしたからね。きちんと食べて動けるようにしておきたいです」
三人とも船酔いでやられた上に食事は粗食ばかりだったからね。
「じゃあ、今日はしっかり食べましょう。上限は金貨 2 枚までで食べて良いですよ」
私は主にリエラさんを見ながら言う。
「ん~、 20 枚」
「なんで 10 倍になっているんですか! やっぱり金貨 1 枚にします」
「あらぁ、連れないこと言わないでぇ? 金貨 19 枚」
「譲歩が小さすぎです。とにかく、金貨 2 枚まででファイナルアンサーです」
「もう、いけずぅ~」
リエラさんは美人だけど暴食の女王様だ。あまり付け上がらせると貯金をサクッと溶かしてしまう。締めるところは締めないといけない。
「フィーネ様、シルバーフィールドのおススメはタラ料理だそうです。ロブスターも美味しいそうです」
「うーん、じゃあ、私はこのロブスターとフィッシュボールの盛り合わせにします」
「私も同じものにします」
「あたしは、ロブスターと、サーモンの香草焼きと、子羊の燻製。あ、あとやっぱりフィッシュボールも!」
「じゃあ、わたしはメニューの一番上から下まで一皿ずつお願いしますぅ」
リエラさんのオーダーを聞いてウェイトレスさんがギョッとした表情を浮かべ、まわりのテーブルの客がざわつき始めた。
「ほ、本当にそれを全て召し上がるんですか?」
「本当よぉ」
「あの、彼女の胃袋はいくらでも入るみたいなので大丈夫です。残さないしお金も払いますから」
「か、かしこまりました……」
ウェイトレスさんが怪訝そうな顔をしたまま下がる。そして、しばらくすると大量の皿がリエラさんの前に運ばれてくる。
私とクリスさんのところには半分に割られたロブスターの香草焼きと白身魚をすり潰して団子状にして焼いたものが運ばれてきた。付け合わせはフライドポテトだ。
うん、ロブスターは美味しい。レモンを絞れればぐっと美味しくなりそうだが、このままでも結構いける。だが、このフィッシュボールとかいうのは、なんというか、味がしない。いや、少し塩味はついているけど、それだけだ。うん、生姜醤油をかけたくなる味だ。
クリスさんの方をちらりと見てみると、やっぱりフィッシュボールを食べて微妙そうな顔をしている。うんうん、やっぱり物足りないよね?
ルーちゃんは平常運転だ。美味しそうにパクパクと口に放り込んでいる。
そして、リエラさんは、うん、相変わらずの暴食の女王様だ。見ているだけで胸焼けしそうなほどの量の料理が次々と消えていく。マジヤバい。
「おいおい、姉ちゃん。そんな細身でそんなに食えんのかぁ?」
スキンヘッドでやたらとガタイのいいムキムキマッチョな酔っ払いが絡んできた。
「あら? 食べられないとでも? なんならこの倍は食べられるから、あなた全部おごってくださる?」
あ、ヤバい。リエラさんが怖いほうのリエラさんになっている。
「おうおう。いいぜ。そのかわり、食いきれなかったら体で払ってもらうぜ?」
「いいわよぉ?」
「ようし。おい、姉ちゃん。ここの姉ちゃんが頼んだ奴全部一皿ずつ追加だ!」
「ひっ、か、かしこまりましたー」
ウェイトレスさんが怯えちゃってる。あーあ。知らない。平気で食べるでしょ。それ。
「はん、エルフの女を抱けるなんて運がいいぜ」
どっちに転んでもこの酔っ払いにとって不幸な結果にしかならない気がするのは私だけだろうか?
****
「なっ、ば、馬鹿な……」
一時間後、酔っ払いさんは唖然とした表情でそう呟いた。
うん、知ってた。
「じゃあ、リエラさんの追加オーダー分は払ってくださいね。というわけで、ウェイトレスさん、よろしくお願いします。あと、デザートにこのコケモモジャムパイを 4 つ下さい」
「かしこまりました」
ウェイトレスさんのまだ食べるのか、と言わんばかりの視線がリエラさんに突き刺さっていたが、気にしないことにしよう。
「こ、こんなこと、認められ――」
「お前の負けだ。ベン。俺たちも出してやるから素直に払え」
酔っ払いさんと同じようなスキンヘッドをしてやたらとガタイのいい男たちの集団が酔っ払いさんに声をかける。
「だ、だが。こんなこと!」
「お前は勝負に負けた。そんなことも認められないなんて、ベン! お前の筋肉は泣いているぞ!」
はい? 今の話と筋肉に何の関係が?
それにそこの酔っ払いさん、なんでショック受けているのさ!
「そ、そうだった。アニキ。俺が間違っていた!」
何やら勝手に感動して脱ぎ始めた。
あー、なんか筋肉ピクピクしてポーズとってるんですけど……
「わかればいいんだ、ベン。そう、人は何時だって過ちを犯す。だが、過ちを認めた時が成長のスタートなんだ。さあ、筋肉に誓うんだ。心を入れ替えて過ちを正していくと!」
「アニキ、俺、誓うぜ! これからももっと鍛えてこんな程度のことでは動じない鋼の筋肉を手に入れるって!」
「そうだ、その意気だ、ベン!」
何やら全く訳のわからないヒューマンドラマが展開されているが、私にとってはジャムパイのほうが大事だ。男くさく抱き合う彼らを尻目に運ばれてきたコケモモジャムパイを口に入れる。うん、甘酸っぱい味が絶妙で美味だ。
そうこうしているうちに集団全員が脱いで筋肉をピクピクやり始めた。もうあれ、営業妨害じゃないのかね?
って、クリスさん、何でポーズの真似をしようとしているの? ああいうの趣味だったの? ただでさえ脳筋なんだから、これ以上無駄な筋肉は増やさないでほしい。
「あらぁ? あの人たち、素質ありそうねぇ」
あ、暴食の女王様に目をつけられた。知ーらないっと。
「さて、私はそろそろ部屋に戻りますね。ああ、あとクリスさんも、あんまりああいうのの真似はしない方が良いと思いますよ?」
私は会計を済ませると部屋へと戻った。
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