勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
77 / 625
白銀のハイエルフ

第二章第29話 海辺の野天風呂

しおりを挟む
2020/05/20 ご指摘頂いた誤字を修正しました。ありがとうございました
================

町を出て 20 分くらい歩いた私たちは、湯気が立ち上っている場所が沢山あるエリアに到着した。なるほど、行けばわかると言われたが、確かにその通りだ。

どこにしようかな?

キョロキョロと見渡してみると、なんと海辺でも湯気が上がっているのを発見した。

これは素晴らしい。

「さあ、あそこに行きましょう!」
「「「おー」」」

なんでみんなこんなにテンション低いかな? よしよし、私が温泉の素晴らしさを伝えてあげようではないか。

5分くらい歩いて藪を抜けるとそこは岩だらけの海岸だった。岩の隙間からは湯気が立ち上り、かすかに硫黄の香りがしている。

「硫黄泉に海水が混ざっている感じですね。これはまさに女性のための湯と言っても過言ではありません。保温効果があり、なおかつ美肌に婦人病にと効果があります」
「フィーネ様、一体どこでそのような知識を?」
「ふふふ。私は温泉にはうるさい吸血鬼なのです。ここには牛乳がないのが残念ですがそればかりは仕方ありません。あとは 40 ℃くらいの丁度いい温度の場所を見つけたら入るだけです!」
「はぁ」

クリスさんが何か呆れたような表情をしているのは何故だろうか?

「あの、姉さま、本当にここに入るんですか? なんか変な匂いがするんですけど」
「ルーちゃん、それは硫黄の匂いです。その成分に美肌効果があるんです! ルーちゃんはまだ若いですが、お肌のケアは今からですよ?」
「ええと。はい……」

なんだかみんなまるで乗り気じゃないようだ。

よし、やはりここは私が率先して入って手本を見せるべきだろう。

私はあちこち歩き回って良い場所を探していると、目の前が開けていて海が見えるうえに温度も丁度良い場所を発見した。

「ここならばっちりです。ここにしましょう!」
「あの、フィーネ様。本当にここで裸になるのですか?」

ああ、なるほど。それを気にしていたのか。

「大丈夫です。私がちゃんと結界を張りますから。男性と敵意を持つものが入ってこられない様に、そして外からは私たちの姿が見えない様に、【聖属性魔法】結界!」

ここは思い切ってフルパワーで張ってみた。

「どうですか? これなら恥ずかしくないですよね?」

あれ? 3 人とも固まってるけどどうしたのかな?

「聖女様ぁ? これは一体?」
「え? 【聖属性魔法】で普通に結界を張っただけですよ?」
「こ、これで普通だなんて……」

ううん? 何かおかしなことをした?

「クリスさん。リエラさんはどうしてあんなに驚いているんですか?」
「フィーネ様がとてつもない結界をお一人で張ったからです。流石です」
「ううん? そんなに凄いんですか?」
「何かを通さないようにする、というのが普通の結界でして、男性と敵意を持つもののみを対象に拒絶し、なおかつ外からの視線のみを遮る、というのは普通はできることではありません。何十人、いえ何百人もの高位司祭達が力を合わせてようやくできるかどうか、という類のものなのではないでしょうか?」
「あ……ソウナンデスネ」
「流石はフィーネ様です。やはり大聖女様の再来ですね」

ああ、しまった。やらかしたのか。

「ま、まあ、今はそんなどうでもいいことは気にせずに温泉を楽しみましょう」

私はさっさと服を脱いで次元収納にしまうと髪をアップに束ね、温泉に入る。

もちろん入浴前の掛け湯は忘れない。

あー、気持ちいい。生き返る~。

「皆さんもどうしたんですか? 気持ちいですよ?」

まだ戸惑っているようだ。やっぱり露天風呂の習慣がないとこういうのは難しいんだろうか?

「わ、わかりました。姉さまが入っているならあたしも!」

ルーちゃんがいそいそと服を脱ぎ始めた。岩の上に服を畳んでのせると私の隣に入ってくる。

「ああああぁぁぁ、きもちいいぃぃぃ」

ルーちゃんがなんか変な声をあげている。そうだろうそうだろう。

「姉さま、すごい気持ちいです。何なんですか、これ!」
「ルーちゃん、これが温泉です」
「これが……温泉……っ!」

ルーちゃんの顔がとろけている。

見たまえ、これが温泉なのだよ。しかも、源泉かけ流し! これほど完璧な温泉もそうは味わえないだろう。

「それじゃあ、聖女様。わたしも失礼しますねぇ」

ルーちゃんの様子を見てリエラさんが入ってくる。

「あ、あああぁぁ、まぁまぁまぁ」
「どうですか?」
「気持ちいいですねぇ~」

ふっ、リエラさんも堕ちた。さあ、最後はクリスさんだ。

「クリスさん、どうですか?」
「い、いえ。わ、わ、わ、わた、わた、私は周りを警戒――」
「あらぁ? 聖騎士様。もしかして温泉が怖いんですかぁ?」

尻込みするクリスさんをみてリエラさんが声をかけるが、何か雰囲気がおかしい。

リエラさんはさっと温泉からあがると美しい肢体を惜しげもなく晒してクリスさんに近づいた。そしてクリスさんの服を慣れた手つきでするすると脱がせ始めた。

「ほらぁ。聖女様もご一緒されたいとおっしゃっていますよぉ? ほらほらぁ」
「え、あ、いや、そのっ!」

あっと言う間に服を脱がされるクリスさん。やっぱりクリスさんはこの中で一番発育がいい。胸もある上に女性らしいくびれもしっかりある。顔も美人だし、ドレスを着せたらご令嬢っぽい感じになりそう。

「あらぁ? やっぱり良い体してるのね」

なんだかちょっといやらしい手つきでリエラさんがクリスさんの体をまさぐっている。

「意外と大きいのねぇ? かわいいわぁ」
「ちょ、ちょっと、待って」

クリスさんが顔を真っ赤にして抵抗している。

「そう? じゃあ、入りましょう?」

リエラさんに促されてクリスさんも渋々温泉に浸かる。

「あ、気持ちいい」

ふふふ、クリスさんも遂に温泉の魔力に堕ちた。やはり温泉は最強だ。

もう勇者も聖女も魔王もみんな温泉に浸かってハッピーエンドで良いんじゃないかな?

「ほうら、気持ちいでしょう?」

リエラさんがまだいやらしい手つきでクリスさんに絡んでいる。何だか目つきが怖いよ?

あ、リエラさんがクリスさんの耳元で何か囁いている。えーと、なになに?

「ねぇ、あなた、ちょっと豚になって鞭で打たれてみない?」

クリスさんの顔が真っ赤になった。

「ダメです! うちのクリスさんに変なこと覚えさせないでください!」
「え? あらぁ? 聞こえていたのねぇ。聖女様がダメって言うなら仕方ないわねぇ。でも、聖騎士様、あなたきっと、才能あるわよぉ?」
「お母さん、これ以上被害者増やさないで!」
「ちぇ~っ」

どうやら私たちは解き放ってはいけないモンスターを解き放ってしまったらしい。

うーん、どうしましょ?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...