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白銀のハイエルフ
第二章第27話 航海
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2020/06/07 ご指摘頂いた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/08/21 誤字を修正しました
2020/09/11 誤字を修正しました
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「聖女様、どうぞ良き航海を」
「ありがとうございます」
エルムデン町長のダンケさんや衛兵の皆さん、助けた少女たち、そして見送りに来てくれた多くの町民の皆さんに見送られ、私たちを乗せた船は極北の地へと出航した。
残念ながらエルムデンではルーちゃんの妹さんの情報は得られなかった。リエラさんも捕まってすぐに離れ離れにさせられてしまったそうで、どこに行ったのかは知らなかった。
また、エルムデンに移送されたという情報はあったが、エルムデンのアミスタッド商会からそれらしい情報は見つからず、妹さんの捜索は暗礁に乗り上げてしまった。
二人を連れて行くあてのない旅をするわけにもいかないだろう、ということで私たちはまず二人を連れて白銀のハイエルフの里へと向かうことにした。
まあ、あの女王様を連れて旅をしたら私の財布が一瞬で溶けること間違いなし、というのも理由の一つではあるのだけれど。
さて、私たちは貿易船であるメル・ヴィエルジュ号に旅客として乗せてもらっている。メル・ヴィエルジュは全長は 50 メートルくらいはありそうな大きな木造の帆船で、三本の大きなマストを備えている。
そんな巨大帆船の一室を 4 人で借りているわけだが、私たちは部屋にはおらず全員甲板に出ている。私は馬車での旅と同様に浄化魔法を付与しては小石を海に投げ捨てている。
だが、残りの三人は揃って柵に捕まっており、時折マーライオンしては魚に餌を与えている。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「「「ダメです」」」
船酔いとは恐ろしいものだ。あれだけ元気な三人がこんな風になるとは。
まあ、結構揺れているけどさ、白波も立っていないのにこれじゃあ先が思いやられる。
「クリスさん、幽霊以外にも苦手なものがあったんですね」
頭脳労働もだけどね、などとは流石に言えない。
「申し訳ありません。まさかこれほどとは」
「川下りの時は大丈夫だったじゃないですか」
「あの時はほとんど揺れませんでしたから」
「そうですよ、何で姉さまは大丈夫なんですか? ずるいです」
いや、ずるい、といわれても返答に困るのだが。
気持ち悪くならないものはならないのだ。
「確か、遠くの景色を見たり、楽しくおしゃべりをしていると少し良くなる、と聞いたことがありますよ」
「うう、そんなこと言ったってぇ」
あ、やばそう。
「「「うぇぇぇ」」」
気持ち悪いのはわかるけど、さっきから何で三人とも完全に同じタイミングでマーライオンしているのか。
仲良しか!
三人でマーライオンを終えるとリエラさんが水を出し、それを使って三人は口を濯《すす》いでいる。
これは水の精霊さんに出してもらっているらしいのだが、まさか水の精霊さんも船酔いの介抱にこき使われるとは思ってもみなかったのではないだろうか。
「聖女様がた、ご機嫌はいかがですかな」
「船長さん、こんにちは。私は大丈夫ですが、仲間の三人がこの通りです」
「ははは、船旅に慣れていない者は大抵こうなりますからな。風向きも良いですし、この調子なら三~四日ほどでシルバーフィールドの港に着けるでしょうから、それまでの我慢ですな」
そう言ってと船長さんは豪快に笑うが、三人は「三日も……」と仲良く顔を青くしている。
気の毒ではあるけれど、こればかりは慣れてもらうしかないね。
****
そして、四日目の朝を迎えた。
朝食は塩漬け肉に固いパンと豆のスープ。船の上だから仕方ないのだろうが、食事メニューは毎食ほぼ同じだ。
塩漬け肉が塩漬け魚になるくらいの差しかない。どうにも血が飲みたくなってしまうが、船酔いしているクリスさんに血を下さい、とは言えないのでしばらくは我慢だ。
「はいはい。朝ごはんですよ。しっかり食べてくださいね」
私は青い顔をしている三人に船酔い治療魔法をかけてあげる。正確には何の魔法だか私もよくわからないのだが、とにかく船酔いが治る【回復魔法】なのだ。
というのも、王都の図書館で読んだ本には船酔いを治せる【回復魔法】があるとは書いていなかったのだが【回復魔法】で船酔い治れ、と念じたら治ってしまったのだ。
なので、とりあえず船酔い治療魔法と私は呼んでいるのだが、この魔法、実は意外と高度な魔法なようで結構疲れる。
あと、そこまで万能というわけではないようで、効果の持続時間は三十分ほどだ。
なので、かけてあげるのは食前食後のみだ。そうでないと私がひっくり返ってしまうし、飲まず食わずでは三人が栄養失調で倒れてしまうだろう。
魔法の効果時間は短いので結局マーライオンして魚の餌となってしまうわけだが、それでも食べないよりはマシなはずだ。
朝食を食べ終えた三人と共に甲板に上がると、船員さんたちの大きな声が聞こえてきた。
「丘が見えたぞー!」
「極北の地だー!」
私は急いで舳先《へさき》へと向かった。すると、水平線の彼方にうっすらと陸地が見えるではないか!
「あれが、極北の地」
「フィーネ様、いよいよですね」
船酔い治療魔法が効いているのでクリスさんも今は元気だ。
「やっとですー!」
船酔いの辛かったルーちゃんも嬉しそうだ。
「あぁ、これでようやく陸にあがれるんですねぇ? 港に着いたらお腹いっぱい食べなくちゃぁ」
リエラさん、やめてください。財布が溶けます。
「聖女様がた、あと一時間ほどで到着となります。お荷物の準備をお願いいたします」
こうして私たちの最初の航海は無事に終了したのだった。
2020/08/21 誤字を修正しました
2020/09/11 誤字を修正しました
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「聖女様、どうぞ良き航海を」
「ありがとうございます」
エルムデン町長のダンケさんや衛兵の皆さん、助けた少女たち、そして見送りに来てくれた多くの町民の皆さんに見送られ、私たちを乗せた船は極北の地へと出航した。
残念ながらエルムデンではルーちゃんの妹さんの情報は得られなかった。リエラさんも捕まってすぐに離れ離れにさせられてしまったそうで、どこに行ったのかは知らなかった。
また、エルムデンに移送されたという情報はあったが、エルムデンのアミスタッド商会からそれらしい情報は見つからず、妹さんの捜索は暗礁に乗り上げてしまった。
二人を連れて行くあてのない旅をするわけにもいかないだろう、ということで私たちはまず二人を連れて白銀のハイエルフの里へと向かうことにした。
まあ、あの女王様を連れて旅をしたら私の財布が一瞬で溶けること間違いなし、というのも理由の一つではあるのだけれど。
さて、私たちは貿易船であるメル・ヴィエルジュ号に旅客として乗せてもらっている。メル・ヴィエルジュは全長は 50 メートルくらいはありそうな大きな木造の帆船で、三本の大きなマストを備えている。
そんな巨大帆船の一室を 4 人で借りているわけだが、私たちは部屋にはおらず全員甲板に出ている。私は馬車での旅と同様に浄化魔法を付与しては小石を海に投げ捨てている。
だが、残りの三人は揃って柵に捕まっており、時折マーライオンしては魚に餌を与えている。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「「「ダメです」」」
船酔いとは恐ろしいものだ。あれだけ元気な三人がこんな風になるとは。
まあ、結構揺れているけどさ、白波も立っていないのにこれじゃあ先が思いやられる。
「クリスさん、幽霊以外にも苦手なものがあったんですね」
頭脳労働もだけどね、などとは流石に言えない。
「申し訳ありません。まさかこれほどとは」
「川下りの時は大丈夫だったじゃないですか」
「あの時はほとんど揺れませんでしたから」
「そうですよ、何で姉さまは大丈夫なんですか? ずるいです」
いや、ずるい、といわれても返答に困るのだが。
気持ち悪くならないものはならないのだ。
「確か、遠くの景色を見たり、楽しくおしゃべりをしていると少し良くなる、と聞いたことがありますよ」
「うう、そんなこと言ったってぇ」
あ、やばそう。
「「「うぇぇぇ」」」
気持ち悪いのはわかるけど、さっきから何で三人とも完全に同じタイミングでマーライオンしているのか。
仲良しか!
三人でマーライオンを終えるとリエラさんが水を出し、それを使って三人は口を濯《すす》いでいる。
これは水の精霊さんに出してもらっているらしいのだが、まさか水の精霊さんも船酔いの介抱にこき使われるとは思ってもみなかったのではないだろうか。
「聖女様がた、ご機嫌はいかがですかな」
「船長さん、こんにちは。私は大丈夫ですが、仲間の三人がこの通りです」
「ははは、船旅に慣れていない者は大抵こうなりますからな。風向きも良いですし、この調子なら三~四日ほどでシルバーフィールドの港に着けるでしょうから、それまでの我慢ですな」
そう言ってと船長さんは豪快に笑うが、三人は「三日も……」と仲良く顔を青くしている。
気の毒ではあるけれど、こればかりは慣れてもらうしかないね。
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そして、四日目の朝を迎えた。
朝食は塩漬け肉に固いパンと豆のスープ。船の上だから仕方ないのだろうが、食事メニューは毎食ほぼ同じだ。
塩漬け肉が塩漬け魚になるくらいの差しかない。どうにも血が飲みたくなってしまうが、船酔いしているクリスさんに血を下さい、とは言えないのでしばらくは我慢だ。
「はいはい。朝ごはんですよ。しっかり食べてくださいね」
私は青い顔をしている三人に船酔い治療魔法をかけてあげる。正確には何の魔法だか私もよくわからないのだが、とにかく船酔いが治る【回復魔法】なのだ。
というのも、王都の図書館で読んだ本には船酔いを治せる【回復魔法】があるとは書いていなかったのだが【回復魔法】で船酔い治れ、と念じたら治ってしまったのだ。
なので、とりあえず船酔い治療魔法と私は呼んでいるのだが、この魔法、実は意外と高度な魔法なようで結構疲れる。
あと、そこまで万能というわけではないようで、効果の持続時間は三十分ほどだ。
なので、かけてあげるのは食前食後のみだ。そうでないと私がひっくり返ってしまうし、飲まず食わずでは三人が栄養失調で倒れてしまうだろう。
魔法の効果時間は短いので結局マーライオンして魚の餌となってしまうわけだが、それでも食べないよりはマシなはずだ。
朝食を食べ終えた三人と共に甲板に上がると、船員さんたちの大きな声が聞こえてきた。
「丘が見えたぞー!」
「極北の地だー!」
私は急いで舳先《へさき》へと向かった。すると、水平線の彼方にうっすらと陸地が見えるではないか!
「あれが、極北の地」
「フィーネ様、いよいよですね」
船酔い治療魔法が効いているのでクリスさんも今は元気だ。
「やっとですー!」
船酔いの辛かったルーちゃんも嬉しそうだ。
「あぁ、これでようやく陸にあがれるんですねぇ? 港に着いたらお腹いっぱい食べなくちゃぁ」
リエラさん、やめてください。財布が溶けます。
「聖女様がた、あと一時間ほどで到着となります。お荷物の準備をお願いいたします」
こうして私たちの最初の航海は無事に終了したのだった。
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