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白銀のハイエルフ
第二章第15話 手紙の主
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「承知いたしました。ご案内いたします」
修道服を着た女性が私たちを連れて部屋を出る。そして広い大聖堂の裏庭の脇を抜けて小さな小屋へと案内された。するとそこには、地下へと続く階段があった。
「ここは?」
「こちらは、大聖堂にある秘密の脱出経路です。作られた当時は王族が礼拝中に狙われた際の脱出経路だったそうです。今は聖女様のようなお方を秘密裏にご案内する際に利用しております。いかがなさいますか?」
怪しい。どうしてここまでする必要があるのか?
「フィーネ様。何があろうとも私がお守り致します。ご安心ください」
クリスさんが私の戸惑いを感じ取ったのか、背中を押してくれる。
そうだ。怪しいからといって逃げていては何も見つからないだろう。
ええい、男は度胸、あ、いや女は度胸だ。とにかく、飛び込んでみよう。
「行きます」
「承知いたしました」
案内の女性はそのまま階段降りて闇への中へと消えていく。私たちもそれに続いて階段を降りていった。
階段を降りた先では彼女が蝋燭に火を灯して待っていた。
「それでは、参りましょう。足元が悪いのでお気を付けください」
「はい」
完全な暗闇の中、蝋燭の灯りひとつというのは、普通に考えるとかなり暗い気がするが、他の人たちはちゃんと見えているんだろうか?
「ひゃんっ」
そう思ってい矢先にルーちゃんが段差に躓いて転びそうになる。どうやらクリスさんが気配だけでとっさに支えてあげたようだ。この辺りはさすがだ。
「ルーちゃん、大丈夫ですか? この先にもそういう段差が沢山あるので注意してください」
「あ、ありがとうございます」
照れているのかちょっと顔が赤らんでいる気がする。とりあえず、段差がある時は教えてあげよう。
「あ、ルーちゃん、また段差ですよ」
「えっ? ひゃぁ」
──── だから言ったのに
「聖女様は、この暗い中でも足元がはっきりと見えてらっしゃるのですか?」
「はい。私、目は良いほうなんです」
「そうでしたか。聖女様の血筋に関するお噂は伺っておりましたが、白銀のハイエルフの血筋というのはそれほどなのですね」
案内の女性が感心したように私を見ていう。あれ? もしかしてこの人も見えている?
「いえ、私は、その、吸血鬼ですから……一応……」
その一言を発した瞬間、彼女の顔が変わった。今まで何度も見てきた「はあ? 何言ってんのこの人?」という顔だ。そうはっきり顔に書いてある。
「まあ、皆さんそういう反応をされますけどね」
「も、申し訳ございません。あまりにも突拍子もないことを仰るのでびっくりしてしまいました。聖女様は人を驚かすのもお得意でらっしゃるんですね」
「……いえ、それより先を急ぎましょう」
もう一年近くこの世界にいるはずだけど、誰一人として吸血鬼と信用してくれない。
それどころか明後日の方向に話が膨らんでいき、気が付いてみれば精神的な病気と厨二病を併発したハイエルフの末裔って、どう考えてもおかしいだろ。
そもそも、そんな病気の人が聖女とか絶対にダメなパターンでしょうに、まったく。
そんなことを考えていると、通路の出口に到着した。
「こちらから登り階段となっております。お足元にお気を付けください」
促されて私たちは階段を登ると倉庫のような部屋に出てきた。さらにその部屋を出て廊下を歩き、続いて長い螺旋階段を登っていく。
もう 7 階くらいの高さまで登ったのではないだろうか?
長い長い階段を登り切ると、そこには豪華な装飾の施された扉があった。
「こちらで旦那様がお待ちでございます」
ようやく私たちは目的の場所に到着したらしい。音を立てて扉が開かれる。
するとその中では正装をした三十代くらいのいかにも切れ者といった風体の男性が立って私たちを待ち構えていた。
「ようこそいらっしゃいました。聖女様。そして従者の皆さま」
彼は一礼して挨拶の口上を述べる。
室内にはソファー、テーブルなどが置かれており、応接室として整えられているようだ。私たちは促されて室内へと入る。
「私はアスラン・ハスランと申します。お目にかかれて光栄でございます」
「フィーネ・アルジェンタータです。こちらがクリスティーナとルミアです。よろしくお願いします」
私は警戒を解かずに挨拶をすると、ソファーに腰かける。先ほどの女性がお茶を用意してくれる。
「アスラン様、お手紙の件ですが」
「はい。その前に、このような回りくどいやり方になってしまったこと、このような場所までご足労頂き申し訳ございませんでした。今回の案件は非合法の奴隷売買に関することでございますので、どうしてもこのような形を取らざるを得なかったこと、どうぞご理解いただけますと幸いでございます」
あれ? どういうこと? もっと裏社会のボス的な人が出てくると思っていたのだけれど?
「私はハスラングループといういわば商会連合の会長をしております。手前みそではございますが、このブルースター共和国ではかなりの大手の商会連合でございまして、今回の情報はその伝手を使って入手したものとなります。ですので、そんな私が聖女様と会談をした、という事実が出回った場合、最悪の場合証拠隠滅が図られる可能性がございます」
「つまり、情報を活かすためには私たちが会ったということを隠ぺいする必要がある。そしてこれからも、私たち面識がない。そういうことですね?」
「恐れ入ります」
なるほどね。昨日の推理全然違うじゃん!
「さて、早速本題に入りたいと思います」
彼の話を聞いた私たちは、手紙を無視しないとした判断した昨日の自分達を心から褒めてあげたいと思った。
修道服を着た女性が私たちを連れて部屋を出る。そして広い大聖堂の裏庭の脇を抜けて小さな小屋へと案内された。するとそこには、地下へと続く階段があった。
「ここは?」
「こちらは、大聖堂にある秘密の脱出経路です。作られた当時は王族が礼拝中に狙われた際の脱出経路だったそうです。今は聖女様のようなお方を秘密裏にご案内する際に利用しております。いかがなさいますか?」
怪しい。どうしてここまでする必要があるのか?
「フィーネ様。何があろうとも私がお守り致します。ご安心ください」
クリスさんが私の戸惑いを感じ取ったのか、背中を押してくれる。
そうだ。怪しいからといって逃げていては何も見つからないだろう。
ええい、男は度胸、あ、いや女は度胸だ。とにかく、飛び込んでみよう。
「行きます」
「承知いたしました」
案内の女性はそのまま階段降りて闇への中へと消えていく。私たちもそれに続いて階段を降りていった。
階段を降りた先では彼女が蝋燭に火を灯して待っていた。
「それでは、参りましょう。足元が悪いのでお気を付けください」
「はい」
完全な暗闇の中、蝋燭の灯りひとつというのは、普通に考えるとかなり暗い気がするが、他の人たちはちゃんと見えているんだろうか?
「ひゃんっ」
そう思ってい矢先にルーちゃんが段差に躓いて転びそうになる。どうやらクリスさんが気配だけでとっさに支えてあげたようだ。この辺りはさすがだ。
「ルーちゃん、大丈夫ですか? この先にもそういう段差が沢山あるので注意してください」
「あ、ありがとうございます」
照れているのかちょっと顔が赤らんでいる気がする。とりあえず、段差がある時は教えてあげよう。
「あ、ルーちゃん、また段差ですよ」
「えっ? ひゃぁ」
──── だから言ったのに
「聖女様は、この暗い中でも足元がはっきりと見えてらっしゃるのですか?」
「はい。私、目は良いほうなんです」
「そうでしたか。聖女様の血筋に関するお噂は伺っておりましたが、白銀のハイエルフの血筋というのはそれほどなのですね」
案内の女性が感心したように私を見ていう。あれ? もしかしてこの人も見えている?
「いえ、私は、その、吸血鬼ですから……一応……」
その一言を発した瞬間、彼女の顔が変わった。今まで何度も見てきた「はあ? 何言ってんのこの人?」という顔だ。そうはっきり顔に書いてある。
「まあ、皆さんそういう反応をされますけどね」
「も、申し訳ございません。あまりにも突拍子もないことを仰るのでびっくりしてしまいました。聖女様は人を驚かすのもお得意でらっしゃるんですね」
「……いえ、それより先を急ぎましょう」
もう一年近くこの世界にいるはずだけど、誰一人として吸血鬼と信用してくれない。
それどころか明後日の方向に話が膨らんでいき、気が付いてみれば精神的な病気と厨二病を併発したハイエルフの末裔って、どう考えてもおかしいだろ。
そもそも、そんな病気の人が聖女とか絶対にダメなパターンでしょうに、まったく。
そんなことを考えていると、通路の出口に到着した。
「こちらから登り階段となっております。お足元にお気を付けください」
促されて私たちは階段を登ると倉庫のような部屋に出てきた。さらにその部屋を出て廊下を歩き、続いて長い螺旋階段を登っていく。
もう 7 階くらいの高さまで登ったのではないだろうか?
長い長い階段を登り切ると、そこには豪華な装飾の施された扉があった。
「こちらで旦那様がお待ちでございます」
ようやく私たちは目的の場所に到着したらしい。音を立てて扉が開かれる。
するとその中では正装をした三十代くらいのいかにも切れ者といった風体の男性が立って私たちを待ち構えていた。
「ようこそいらっしゃいました。聖女様。そして従者の皆さま」
彼は一礼して挨拶の口上を述べる。
室内にはソファー、テーブルなどが置かれており、応接室として整えられているようだ。私たちは促されて室内へと入る。
「私はアスラン・ハスランと申します。お目にかかれて光栄でございます」
「フィーネ・アルジェンタータです。こちらがクリスティーナとルミアです。よろしくお願いします」
私は警戒を解かずに挨拶をすると、ソファーに腰かける。先ほどの女性がお茶を用意してくれる。
「アスラン様、お手紙の件ですが」
「はい。その前に、このような回りくどいやり方になってしまったこと、このような場所までご足労頂き申し訳ございませんでした。今回の案件は非合法の奴隷売買に関することでございますので、どうしてもこのような形を取らざるを得なかったこと、どうぞご理解いただけますと幸いでございます」
あれ? どういうこと? もっと裏社会のボス的な人が出てくると思っていたのだけれど?
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「つまり、情報を活かすためには私たちが会ったということを隠ぺいする必要がある。そしてこれからも、私たち面識がない。そういうことですね?」
「恐れ入ります」
なるほどね。昨日の推理全然違うじゃん!
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