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白銀のハイエルフ
第二章第13話 怪しい誘い
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2020/08/21 誤字を修正しました
================
私たちはブルースター共和国の首都、リルンに到着した。
それまでの道中では、ヒュッテンホルンの町と同様に恐ろしいまでの手厚い歓迎を受けた。立ち寄る先々で市長さん、町長さん、村長さんが出迎えてくれ、一切の見返りもなくホテルと移動手段を用意してくれた。ホテルもハスラン・グランドホテルか同クラスのホテルのスイートルームが提供され、滞在中は必ず観光ガイドが付いてガイドブックに載っているスポットをしっかりガイドしてくれた。その道中では住民の人達が大勢見物に来てホワイトムーン王国とブルースター共和国の旗を振って歓迎してくれる上、衛兵が出てきちんと交通整理をしてくれた。
そして、それはここ首都リルンでも同じだった。いや、それ以上かもしれない。
まず、私たちの馬車が到着するとこの国の大統領夫妻が出迎えてくれた。そして提供されたホテルは何と迎賓館だ。さらには大統領夫妻主催の宮中晩餐会に招待された。
一体いつの間に私たちは国賓になった?
ドレスではなく聖女様なりきりコスプレセットで良いのは助かったが、やはりこういうのは苦手だ。
「ブルースター共和国の繁栄と聖女フィーネ・アルジェンタータ様の旅の成功を祈りまして、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
大統領が乾杯の音頭を取ると半立食形式の晩餐会がスタートする。大統領夫妻と少し会話してからフリーになると、私の前にはあっという間に長い行列ができた。
「聖女様。お目にかかれて光栄でございます。私はデールブルグ選出の国民議会議員オットーと申します。聖女様におかれましては薬師もなさっておられるとのこと。デールブルグは薬草の産地としても知られておりまして是非一度ご行幸頂きたく――」
「わざわざありがとうございます。機会があれば是非、お伺いしますね」
ニッコリ営業スマイル。はい次の方。
こんな感じで大臣やら議員やら商会長やら、様々な肩書の人達が私のところにやってきては自己紹介をして、自分のところへの訪問の約束を取り付けようとしてくるのだ。そんなことをして一体何になるのやら。多分、100 人くらいと挨拶したのではなかろうか。もはや誰と話したのか覚えていない。
そしてようやく人の波も途切れひと心地着いたところでデザートを貰おうとスイーツコーナーへと歩いていく。フルーツに、菓子パンにタルトか。よし、このチェリータルトにしよう。
私はチェリータルトをお願いする。ビュッフェ形式だけどボーイさんやウェイトレスさんが立っていて盛り付けたお皿を渡してくれるのだ。私たち以外の女性陣は皆煌びやかなドレス姿なので汚さないようにという配慮なのかもしれない。
「ありがとうございます」
私がお礼を言って係のボーイさんからタルトのお皿を受け取ろうとすると、その彼が小声でそっと話しかけてきた。
「聖女様。後で内密にお時間を頂きたく。ご依頼のご家族の件です」
「!」
「後ほど、ヨハンナと名乗るメイドがお部屋にお伺いいたします」
そういってボーイさんは別のボーイさんと交代して厨房のほうへと下がっていった。
****
コンコン
私たちの部屋の扉が叩かれた。
「ヨハンナでございます。お申し付けいただいたものをお持ちいたしました」
「フィーネ様?」
「お通ししてください」
メイドの女性がガラガラと給仕台を転がしながら入室してくる。私たちの座るソファーの前に設えたテーブルの隣で私に向かって丁寧に一礼すると、豪華な装飾の施されたクロッシュを取る。その下から出てきたのは料理ではなく封筒であった。
「こちらが、お申し付け頂いたものとなります」
そう言って私の前に封蝋の施された封筒を置くと、再び丁寧に一礼して彼女は部屋を立ち去っていった。あまりにも完璧な一連の所作に私はしばし見とれてしまった。
「フィーネ様、そちらは?」
「先ほどの晩餐会で接触してきた男からの手紙です。ルーちゃんの家族の事で話がある、と」
ルーちゃんがガタッと音を立てて立ち上がる。
「お母さんと妹が? その手紙にはなんて?」
「ルーちゃん、落ち着いてください。まだ読んでないですから」
私は封筒を開いて中の手紙を読む。
「ええと、『明日、大聖堂の応接室にて、天使像の向かって右側に立つシスターに手紙の件とお伝えください。従者の方々もどうぞご同行下さい』だそうです」
なんだこりゃ?
「どういうことなんですか? お母さんと妹は無事なんですか?」
「私にも何のことだかさっぱり。怪しい気もしますけど、クリスさん、どう思います?」
「そうですね。何とも判断の難しいところではありますが、罠であれば正々堂々、正面から打ち破れば良いと思います」
ああ、こんなところで脳筋が出てしまった。やはり、何か対応策を聞くのがダメなんだろうか?
「そうですか……」
よし、こういう時こそ冷静に考えてみよう。まず、こんな回りくどいやり方をするってことは、私たちのところに面会要請を出せる立場にない人間のはずだ。
この時点で、国のトップに働きかけるだけの力のある人物、つまり政権の中枢や神殿のトップ、合法的な商売をしている大商会は除外していいだろう。
そもそも、そういった人たちは組織を通じて今日の晩餐会に出席すれば良かったはずだ。その場で事情を説明して私に公式に面会要請をすれば、私たちが応じない理由はない。
そして第二に、晩餐会の会場と迎賓館、さらに大聖堂に人を送り込めているということだ。それはつまり、国と宗教両方の中枢の人員配置に介入できる権力を持っているということだ。
私はこれらの二つを同時に満たしそうなカテゴリは一つしか知らない。
さて、どうしたものか。
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私たちはブルースター共和国の首都、リルンに到着した。
それまでの道中では、ヒュッテンホルンの町と同様に恐ろしいまでの手厚い歓迎を受けた。立ち寄る先々で市長さん、町長さん、村長さんが出迎えてくれ、一切の見返りもなくホテルと移動手段を用意してくれた。ホテルもハスラン・グランドホテルか同クラスのホテルのスイートルームが提供され、滞在中は必ず観光ガイドが付いてガイドブックに載っているスポットをしっかりガイドしてくれた。その道中では住民の人達が大勢見物に来てホワイトムーン王国とブルースター共和国の旗を振って歓迎してくれる上、衛兵が出てきちんと交通整理をしてくれた。
そして、それはここ首都リルンでも同じだった。いや、それ以上かもしれない。
まず、私たちの馬車が到着するとこの国の大統領夫妻が出迎えてくれた。そして提供されたホテルは何と迎賓館だ。さらには大統領夫妻主催の宮中晩餐会に招待された。
一体いつの間に私たちは国賓になった?
ドレスではなく聖女様なりきりコスプレセットで良いのは助かったが、やはりこういうのは苦手だ。
「ブルースター共和国の繁栄と聖女フィーネ・アルジェンタータ様の旅の成功を祈りまして、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
大統領が乾杯の音頭を取ると半立食形式の晩餐会がスタートする。大統領夫妻と少し会話してからフリーになると、私の前にはあっという間に長い行列ができた。
「聖女様。お目にかかれて光栄でございます。私はデールブルグ選出の国民議会議員オットーと申します。聖女様におかれましては薬師もなさっておられるとのこと。デールブルグは薬草の産地としても知られておりまして是非一度ご行幸頂きたく――」
「わざわざありがとうございます。機会があれば是非、お伺いしますね」
ニッコリ営業スマイル。はい次の方。
こんな感じで大臣やら議員やら商会長やら、様々な肩書の人達が私のところにやってきては自己紹介をして、自分のところへの訪問の約束を取り付けようとしてくるのだ。そんなことをして一体何になるのやら。多分、100 人くらいと挨拶したのではなかろうか。もはや誰と話したのか覚えていない。
そしてようやく人の波も途切れひと心地着いたところでデザートを貰おうとスイーツコーナーへと歩いていく。フルーツに、菓子パンにタルトか。よし、このチェリータルトにしよう。
私はチェリータルトをお願いする。ビュッフェ形式だけどボーイさんやウェイトレスさんが立っていて盛り付けたお皿を渡してくれるのだ。私たち以外の女性陣は皆煌びやかなドレス姿なので汚さないようにという配慮なのかもしれない。
「ありがとうございます」
私がお礼を言って係のボーイさんからタルトのお皿を受け取ろうとすると、その彼が小声でそっと話しかけてきた。
「聖女様。後で内密にお時間を頂きたく。ご依頼のご家族の件です」
「!」
「後ほど、ヨハンナと名乗るメイドがお部屋にお伺いいたします」
そういってボーイさんは別のボーイさんと交代して厨房のほうへと下がっていった。
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コンコン
私たちの部屋の扉が叩かれた。
「ヨハンナでございます。お申し付けいただいたものをお持ちいたしました」
「フィーネ様?」
「お通ししてください」
メイドの女性がガラガラと給仕台を転がしながら入室してくる。私たちの座るソファーの前に設えたテーブルの隣で私に向かって丁寧に一礼すると、豪華な装飾の施されたクロッシュを取る。その下から出てきたのは料理ではなく封筒であった。
「こちらが、お申し付け頂いたものとなります」
そう言って私の前に封蝋の施された封筒を置くと、再び丁寧に一礼して彼女は部屋を立ち去っていった。あまりにも完璧な一連の所作に私はしばし見とれてしまった。
「フィーネ様、そちらは?」
「先ほどの晩餐会で接触してきた男からの手紙です。ルーちゃんの家族の事で話がある、と」
ルーちゃんがガタッと音を立てて立ち上がる。
「お母さんと妹が? その手紙にはなんて?」
「ルーちゃん、落ち着いてください。まだ読んでないですから」
私は封筒を開いて中の手紙を読む。
「ええと、『明日、大聖堂の応接室にて、天使像の向かって右側に立つシスターに手紙の件とお伝えください。従者の方々もどうぞご同行下さい』だそうです」
なんだこりゃ?
「どういうことなんですか? お母さんと妹は無事なんですか?」
「私にも何のことだかさっぱり。怪しい気もしますけど、クリスさん、どう思います?」
「そうですね。何とも判断の難しいところではありますが、罠であれば正々堂々、正面から打ち破れば良いと思います」
ああ、こんなところで脳筋が出てしまった。やはり、何か対応策を聞くのがダメなんだろうか?
「そうですか……」
よし、こういう時こそ冷静に考えてみよう。まず、こんな回りくどいやり方をするってことは、私たちのところに面会要請を出せる立場にない人間のはずだ。
この時点で、国のトップに働きかけるだけの力のある人物、つまり政権の中枢や神殿のトップ、合法的な商売をしている大商会は除外していいだろう。
そもそも、そういった人たちは組織を通じて今日の晩餐会に出席すれば良かったはずだ。その場で事情を説明して私に公式に面会要請をすれば、私たちが応じない理由はない。
そして第二に、晩餐会の会場と迎賓館、さらに大聖堂に人を送り込めているということだ。それはつまり、国と宗教両方の中枢の人員配置に介入できる権力を持っているということだ。
私はこれらの二つを同時に満たしそうなカテゴリは一つしか知らない。
さて、どうしたものか。
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