勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
61 / 625
白銀のハイエルフ

第二章第13話 怪しい誘い

しおりを挟む
2020/08/21 誤字を修正しました
================

私たちはブルースター共和国の首都、リルンに到着した。

それまでの道中では、ヒュッテンホルンの町と同様に恐ろしいまでの手厚い歓迎を受けた。立ち寄る先々で市長さん、町長さん、村長さんが出迎えてくれ、一切の見返りもなくホテルと移動手段を用意してくれた。ホテルもハスラン・グランドホテルか同クラスのホテルのスイートルームが提供され、滞在中は必ず観光ガイドが付いてガイドブックに載っているスポットをしっかりガイドしてくれた。その道中では住民の人達が大勢見物に来てホワイトムーン王国とブルースター共和国の旗を振って歓迎してくれる上、衛兵が出てきちんと交通整理をしてくれた。

そして、それはここ首都リルンでも同じだった。いや、それ以上かもしれない。

まず、私たちの馬車が到着するとこの国の大統領夫妻が出迎えてくれた。そして提供されたホテルは何と迎賓館だ。さらには大統領夫妻主催の宮中晩餐会に招待された。

一体いつの間に私たちは国賓になった?

ドレスではなく聖女様なりきりコスプレセットで良いのは助かったが、やはりこういうのは苦手だ。

「ブルースター共和国の繁栄と聖女フィーネ・アルジェンタータ様の旅の成功を祈りまして、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」

大統領が乾杯の音頭を取ると半立食形式の晩餐会がスタートする。大統領夫妻と少し会話してからフリーになると、私の前にはあっという間に長い行列ができた。

「聖女様。お目にかかれて光栄でございます。私はデールブルグ選出の国民議会議員オットーと申します。聖女様におかれましては薬師もなさっておられるとのこと。デールブルグは薬草の産地としても知られておりまして是非一度ご行幸頂きたく――」
「わざわざありがとうございます。機会があれば是非、お伺いしますね」

ニッコリ営業スマイル。はい次の方。

こんな感じで大臣やら議員やら商会長やら、様々な肩書の人達が私のところにやってきては自己紹介をして、自分のところへの訪問の約束を取り付けようとしてくるのだ。そんなことをして一体何になるのやら。多分、100 人くらいと挨拶したのではなかろうか。もはや誰と話したのか覚えていない。

そしてようやく人の波も途切れひと心地着いたところでデザートを貰おうとスイーツコーナーへと歩いていく。フルーツに、菓子パンにタルトか。よし、このチェリータルトにしよう。

私はチェリータルトをお願いする。ビュッフェ形式だけどボーイさんやウェイトレスさんが立っていて盛り付けたお皿を渡してくれるのだ。私たち以外の女性陣は皆煌びやかなドレス姿なので汚さないようにという配慮なのかもしれない。

「ありがとうございます」

私がお礼を言って係のボーイさんからタルトのお皿を受け取ろうとすると、その彼が小声でそっと話しかけてきた。

「聖女様。後で内密にお時間を頂きたく。ご依頼のご家族の件です」
「!」
「後ほど、ヨハンナと名乗るメイドがお部屋にお伺いいたします」

そういってボーイさんは別のボーイさんと交代して厨房のほうへと下がっていった。

****

コンコン

私たちの部屋の扉が叩かれた。

「ヨハンナでございます。お申し付けいただいたものをお持ちいたしました」
「フィーネ様?」
「お通ししてください」

メイドの女性がガラガラと給仕台を転がしながら入室してくる。私たちの座るソファーの前に設えたテーブルの隣で私に向かって丁寧に一礼すると、豪華な装飾の施されたクロッシュを取る。その下から出てきたのは料理ではなく封筒であった。

「こちらが、お申し付け頂いたものとなります」

そう言って私の前に封蝋の施された封筒を置くと、再び丁寧に一礼して彼女は部屋を立ち去っていった。あまりにも完璧な一連の所作に私はしばし見とれてしまった。

「フィーネ様、そちらは?」
「先ほどの晩餐会で接触してきた男からの手紙です。ルーちゃんの家族の事で話がある、と」

ルーちゃんがガタッと音を立てて立ち上がる。

「お母さんと妹が? その手紙にはなんて?」
「ルーちゃん、落ち着いてください。まだ読んでないですから」

私は封筒を開いて中の手紙を読む。

「ええと、『明日、大聖堂の応接室にて、天使像の向かって右側に立つシスターに手紙の件とお伝えください。従者の方々もどうぞご同行下さい』だそうです」

なんだこりゃ?

「どういうことなんですか? お母さんと妹は無事なんですか?」
「私にも何のことだかさっぱり。怪しい気もしますけど、クリスさん、どう思います?」
「そうですね。何とも判断の難しいところではありますが、罠であれば正々堂々、正面から打ち破れば良いと思います」

ああ、こんなところで脳筋が出てしまった。やはり、何か対応策を聞くのがダメなんだろうか?

「そうですか……」

よし、こういう時こそ冷静に考えてみよう。まず、こんな回りくどいやり方をするってことは、私たちのところに面会要請を出せる立場にない人間のはずだ。

この時点で、国のトップに働きかけるだけの力のある人物、つまり政権の中枢や神殿のトップ、合法的な商売をしている大商会は除外していいだろう。

そもそも、そういった人たちは組織を通じて今日の晩餐会に出席すれば良かったはずだ。その場で事情を説明して私に公式に面会要請をすれば、私たちが応じない理由はない。

そして第二に、晩餐会の会場と迎賓館、さらに大聖堂に人を送り込めているということだ。それはつまり、国と宗教両方の中枢の人員配置に介入できる権力を持っているということだ。

私はこれらの二つを同時に満たしそうなカテゴリは一つしか知らない。

さて、どうしたものか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...