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白銀のハイエルフ
第二章第9話 罪と罰
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2020/08/24 罰せられた人数が間違っていたため、修正しました
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騎士団の捜査はとんとん拍子で進んだ。結果的に、衛兵は関与していなかったし救出した女性たちも丁重に扱われていた。伯爵邸や関係先にも強制捜査が入り、伯爵はこの捜査に全面的に協力した。
また、あの拠点から大量の資料が押収されたが、お金は押収できなかった。なんでも、ルーちゃんの取引には金貨 10,000 枚、つまり 5 億円相当の大金が動いていたそうだ。そしてそのお金は奴隷売買組織が新たな悲劇を生み出す資金として活用されていくのだろう。ちなみに、人間の女性で金貨 100 枚から、エルフの女性は金貨 5,000 枚から、というのが相場らしい。エルフの奴隷が高額で取引されるというのはファンタジーの世界ではよくある設定だが、この世界もそうらしい。胸糞悪い話だ。
さて、押収した資料をもとに奴隷を買った者たちも何名か摘発された。買主のほとんどは商売で成功した成金達であったが、メイナード伯爵子飼いの下位貴族の当主まで含まれていたといのだから根が深い。当主がやっていたとあっては恐らくお家もとり潰しになるだろうとクリスさんが言っていた。
あと、イルミシティの成金の屋敷への踏み込みに同行したのだが、その救出劇の一つがなんとも後味の悪い結果を迎えてしまった。騎士と衛兵たちが強制捜査で突入したのだが、その成金の男は丁度その時奴隷の女性と情事の真っ最中だった。その奴隷の女性は必死の形相で主人の男を守ろうとしてきた。もちろん、非力な女性だったので衛兵たちに敵うはずもなく、簡単に取り押さえられた。それでもなお主人を守ろうとしたその女性は無理やり腕を動かし、そしてその負荷に耐えられず両手足の腱を断裂した。
私は彼女を解呪し、治療してあげた。しばらくは呆けた様子だったが、解放されたと理解すると私にありがとうとお礼を言ってくれた。
だが、残念なことに彼女はしばらくして自ら命を断ってしまった。
事情聴取には素直に応じてくれていたそうだが、自身が無理やり乱暴され汚されたことに対するショックと、呪印の力でまるで主人を愛し忠誠を誓ったかのような行為をずっと続けてきたこと、その矛盾を消化できずに心が壊れてしまったのだろう、とのことだった。
衛兵たちからは申し訳ありません、と謝られたが、果たしてそれは本当に彼らだけの責任だったのだろうか? 私は間違ったことをしてしまったのではないだろうか? できることは他になかったのか? そんな思いがぐるぐると頭を駆け巡る。
その答えは未だに出ない。
****
こうして捜査は予定よりも少し長い 10 日ほどで終了し、今回の騒動の中心にいる伯爵家長男アルフレッドの一味は中央広場でギロチンにかけられることになった。
奴隷の売買も原則として死刑ということにはなっているが、実際には鉱山などの過酷な場所に送られて強制労働をすることになるらしい。
だが、アルフレッドの場合は聖女に対する暴行という罪でも裁かれており、この罪は例外なく公開処刑となるそうだ。奴隷売買をして多くの人達の人生を踏みにじることよりも、聖女、しかもただの候補生にすぎない人物への暴行のほうが遥かに重罪らしい。
実際の被害は殴られて服を破かれただけなので、日本なら強姦は未遂罪なのではないだろうか?
私としてはどうにもこの歪な価値観に未だ納得がいかない。
そして、この公開処刑を私たちは見に来ている。と、いうのもルーちゃんが見に行くと言ったのだ。私としては蓋をしてさっさと忘れたほうが良いと思うのだが、ルーちゃんなりに思うところがあるのだろう。
「これより、大罪人、アルフレッド・メイナード他 9 名の公開処刑を行う!」
他 9 名とは、アルフレッドと共に私たちへの襲撃に加担した者たちだ。部屋に押し入ってきた男達のうち、クリスさんに切り殺されなかった生き残り 3 名と伯爵邸の庭に侵入していた 5 名、こいつらはいずれもハンターをしている食い詰め者だそうだ。そして残る 1 名はアルフレッド付きのメイドで私たちの食事に睡眠薬を盛ったとされる女だ。
次々と罪状が読み上げられ、処刑が行われていく。一人処刑されるたびに広場のボルテージは上がっていく。娯楽の少ないこの世界で、公開処刑というのは一種のお祭りのようなもので、庶民にとっての娯楽でもあるらしい。私には全く理解できない考え方だが、そういうものらしい。現実世界の歴史を振り返ってみると、娯楽としての公開処刑はローマ帝国の時代から 20 世紀に至るまで普通に存在していたのだ。違和感を覚えるが、そういうものなのかもしれない。
ちなみに、私たちは今、広場に面した建物の二階から公開処刑の様子を見物している。その理由は当然、パニックを避けるためだ。私が隷属の呪印を解呪したという噂はイルミシティ中に広がっており、町を歩けばガラス玉やらガラス像やらを持った人にひっきりなしに声をかけられては付与をねだられる。そんな状態で当事者で被害者でもある私が姿を表せばどうなるかは分かったものではない。
「この男、アルフレッド・メイナードは、伯爵家の嫡男という立場にありながら、伯爵家にご逗留なさった聖女様と聖騎士様に薬を盛り、乱暴しようとした挙句に殺害を試みた!」
「なんてやろうだ!」「 許せねぇ!」「 殺せ!」
群衆がヒートアップしていく。
「聖女様と聖騎士様はとっさの機転を効かせて窮地を脱されご無事であったが、この男の罪は明白! 世界聖女保護協定第一条を尊重し、ホワイトムーン王国聖女保護法第三条に則り、この大罪人を斬首刑に処する!」
「うおおおおぉぉぉ!」「殺せーー!」
更にヒートアップしていく。
「お前ら聞け! あの女は人間じゃねぇ。俺はあの女を押さえつけていたのに消えたんだ! あんなこと人間ができる芸当じゃねぇ! 騙されるな!」
アルフレッドが言い訳をしている。そりゃ、私は人間じゃないけどさ。それとお前のやったことは関係ないだろ!
「うるせぇー!」「 この外道がー!」「 あんな素晴らしいお方が人間じゃないわけないだろぉー!」
群衆から怒号が飛ぶ。そりゃそうだろう。
その声に応えるかのようにアルフレッドが衛兵に散々に打ちつけられ、うめき声を上げる。
「この男の余罪はまだある! この男は奴隷商人と取引を行い、罪のないエルフの少女を隷属の呪印を使い奴隷としようとした。それを解放なさったのも聖女様である。そして、聖女様を害そうとした動機は、そのエルフを聖女様が解放なさったことに対する逆恨みである。このような行いは言語道断であると言わざるを得ないッ!」
「このクズ野郎!」「その通りだー!」「 早く処刑しろー!」
興奮は最高潮に達する。
無理やり引きずられたアルフレッドがギロチンに固定された。
「やれっ!」
命令が下され、刃が勢いよく落ちていく。一瞬で処刑が完了し、広場は異様な熱気に包まれた。
私は最後の瞬間、あの男と目が合ったような気がした。その暗く濁ったその瞳は、まるで私が吸血鬼であることを咎めているかのように思えた。
気が付くと、そんな私の震える手をクリスさんがそっと包み込んでくれていたのだった。
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騎士団の捜査はとんとん拍子で進んだ。結果的に、衛兵は関与していなかったし救出した女性たちも丁重に扱われていた。伯爵邸や関係先にも強制捜査が入り、伯爵はこの捜査に全面的に協力した。
また、あの拠点から大量の資料が押収されたが、お金は押収できなかった。なんでも、ルーちゃんの取引には金貨 10,000 枚、つまり 5 億円相当の大金が動いていたそうだ。そしてそのお金は奴隷売買組織が新たな悲劇を生み出す資金として活用されていくのだろう。ちなみに、人間の女性で金貨 100 枚から、エルフの女性は金貨 5,000 枚から、というのが相場らしい。エルフの奴隷が高額で取引されるというのはファンタジーの世界ではよくある設定だが、この世界もそうらしい。胸糞悪い話だ。
さて、押収した資料をもとに奴隷を買った者たちも何名か摘発された。買主のほとんどは商売で成功した成金達であったが、メイナード伯爵子飼いの下位貴族の当主まで含まれていたといのだから根が深い。当主がやっていたとあっては恐らくお家もとり潰しになるだろうとクリスさんが言っていた。
あと、イルミシティの成金の屋敷への踏み込みに同行したのだが、その救出劇の一つがなんとも後味の悪い結果を迎えてしまった。騎士と衛兵たちが強制捜査で突入したのだが、その成金の男は丁度その時奴隷の女性と情事の真っ最中だった。その奴隷の女性は必死の形相で主人の男を守ろうとしてきた。もちろん、非力な女性だったので衛兵たちに敵うはずもなく、簡単に取り押さえられた。それでもなお主人を守ろうとしたその女性は無理やり腕を動かし、そしてその負荷に耐えられず両手足の腱を断裂した。
私は彼女を解呪し、治療してあげた。しばらくは呆けた様子だったが、解放されたと理解すると私にありがとうとお礼を言ってくれた。
だが、残念なことに彼女はしばらくして自ら命を断ってしまった。
事情聴取には素直に応じてくれていたそうだが、自身が無理やり乱暴され汚されたことに対するショックと、呪印の力でまるで主人を愛し忠誠を誓ったかのような行為をずっと続けてきたこと、その矛盾を消化できずに心が壊れてしまったのだろう、とのことだった。
衛兵たちからは申し訳ありません、と謝られたが、果たしてそれは本当に彼らだけの責任だったのだろうか? 私は間違ったことをしてしまったのではないだろうか? できることは他になかったのか? そんな思いがぐるぐると頭を駆け巡る。
その答えは未だに出ない。
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こうして捜査は予定よりも少し長い 10 日ほどで終了し、今回の騒動の中心にいる伯爵家長男アルフレッドの一味は中央広場でギロチンにかけられることになった。
奴隷の売買も原則として死刑ということにはなっているが、実際には鉱山などの過酷な場所に送られて強制労働をすることになるらしい。
だが、アルフレッドの場合は聖女に対する暴行という罪でも裁かれており、この罪は例外なく公開処刑となるそうだ。奴隷売買をして多くの人達の人生を踏みにじることよりも、聖女、しかもただの候補生にすぎない人物への暴行のほうが遥かに重罪らしい。
実際の被害は殴られて服を破かれただけなので、日本なら強姦は未遂罪なのではないだろうか?
私としてはどうにもこの歪な価値観に未だ納得がいかない。
そして、この公開処刑を私たちは見に来ている。と、いうのもルーちゃんが見に行くと言ったのだ。私としては蓋をしてさっさと忘れたほうが良いと思うのだが、ルーちゃんなりに思うところがあるのだろう。
「これより、大罪人、アルフレッド・メイナード他 9 名の公開処刑を行う!」
他 9 名とは、アルフレッドと共に私たちへの襲撃に加担した者たちだ。部屋に押し入ってきた男達のうち、クリスさんに切り殺されなかった生き残り 3 名と伯爵邸の庭に侵入していた 5 名、こいつらはいずれもハンターをしている食い詰め者だそうだ。そして残る 1 名はアルフレッド付きのメイドで私たちの食事に睡眠薬を盛ったとされる女だ。
次々と罪状が読み上げられ、処刑が行われていく。一人処刑されるたびに広場のボルテージは上がっていく。娯楽の少ないこの世界で、公開処刑というのは一種のお祭りのようなもので、庶民にとっての娯楽でもあるらしい。私には全く理解できない考え方だが、そういうものらしい。現実世界の歴史を振り返ってみると、娯楽としての公開処刑はローマ帝国の時代から 20 世紀に至るまで普通に存在していたのだ。違和感を覚えるが、そういうものなのかもしれない。
ちなみに、私たちは今、広場に面した建物の二階から公開処刑の様子を見物している。その理由は当然、パニックを避けるためだ。私が隷属の呪印を解呪したという噂はイルミシティ中に広がっており、町を歩けばガラス玉やらガラス像やらを持った人にひっきりなしに声をかけられては付与をねだられる。そんな状態で当事者で被害者でもある私が姿を表せばどうなるかは分かったものではない。
「この男、アルフレッド・メイナードは、伯爵家の嫡男という立場にありながら、伯爵家にご逗留なさった聖女様と聖騎士様に薬を盛り、乱暴しようとした挙句に殺害を試みた!」
「なんてやろうだ!」「 許せねぇ!」「 殺せ!」
群衆がヒートアップしていく。
「聖女様と聖騎士様はとっさの機転を効かせて窮地を脱されご無事であったが、この男の罪は明白! 世界聖女保護協定第一条を尊重し、ホワイトムーン王国聖女保護法第三条に則り、この大罪人を斬首刑に処する!」
「うおおおおぉぉぉ!」「殺せーー!」
更にヒートアップしていく。
「お前ら聞け! あの女は人間じゃねぇ。俺はあの女を押さえつけていたのに消えたんだ! あんなこと人間ができる芸当じゃねぇ! 騙されるな!」
アルフレッドが言い訳をしている。そりゃ、私は人間じゃないけどさ。それとお前のやったことは関係ないだろ!
「うるせぇー!」「 この外道がー!」「 あんな素晴らしいお方が人間じゃないわけないだろぉー!」
群衆から怒号が飛ぶ。そりゃそうだろう。
その声に応えるかのようにアルフレッドが衛兵に散々に打ちつけられ、うめき声を上げる。
「この男の余罪はまだある! この男は奴隷商人と取引を行い、罪のないエルフの少女を隷属の呪印を使い奴隷としようとした。それを解放なさったのも聖女様である。そして、聖女様を害そうとした動機は、そのエルフを聖女様が解放なさったことに対する逆恨みである。このような行いは言語道断であると言わざるを得ないッ!」
「このクズ野郎!」「その通りだー!」「 早く処刑しろー!」
興奮は最高潮に達する。
無理やり引きずられたアルフレッドがギロチンに固定された。
「やれっ!」
命令が下され、刃が勢いよく落ちていく。一瞬で処刑が完了し、広場は異様な熱気に包まれた。
私は最後の瞬間、あの男と目が合ったような気がした。その暗く濁ったその瞳は、まるで私が吸血鬼であることを咎めているかのように思えた。
気が付くと、そんな私の震える手をクリスさんがそっと包み込んでくれていたのだった。
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