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吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第40話 愚か者の所業

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「今すぐに私が行きます!」

神殿所属の治癒師部隊 5 名は魔法の使い過ぎで既にグロッキー状態になっていた。動けるのは私しかいない。MP 回復薬を追加で収納にいれると私たちは急いで中央商業区へと向かう。

感染が発覚したのは中央商業区で食料品を卸している業者で働く従業員の男性だ。どうやら、貧民街のデール君の家にほど近いお店と取引があり、3 日前に納品に行ったという。どうやらそこで感染し、今発症したようだ。

ということは、この病気の潜伏期間は 2 ~ 3 日のようだ。

急いで患者を治療し、建物や配達用の馬車、商品に至るまで全てのものに洗浄魔法をかける。

「店主さん、はじめまして。神殿より派遣されました治癒師のフィーネ・アルジェンタータと申します。こちらは衛兵長のスコットさんと護衛で聖騎士のクリスティーナさんです」
「フィーネ様、衛兵長様、聖騎士様、店主のヘンリーでございます。うちの従業員を助けていただき感謝いたします」

店主の人はヘンリーさんというらしい。心底ほっとした表情を私たちに向けてくる。だが、それで終わりというわけにはいかないのだ。

「早速ですが、一昨日以降、この店に出入りした人を全て教えてください。それから、従業員の人達が立ち寄った先も全て教えてください。感染拡大を食い止めるためには、全ての場所を浄化する必要があります」
「そ、そんな……食料を扱ううちの店でミイラ病の患者が出たなんて知られたら……」

ヘンリーさんが青ざめているが、事態はそれどころではない。そこに衛兵長が横から口を挟んできた。

「フィーネ様、お話の最中ですが少し失礼いたします。ヘンリー殿、事態は、王都が滅ぶかもしれない一大事なのです。どちらにせよ、この一角は封鎖しますし、ここでミイラ病の患者が出てしまった以上、王宮より通達も出るでしょう。そして最悪の場合、この一角をまとめて焼き払うということもあり得るのです。どうか、ご協力下さい」
「そん……な……」
「ご協力いただけないのでしたら、我々としても不本意ながら別の手段を考えざるを得なくなってしまうかもしれません。どうか、聖女様のお慈悲を賜れるうちに、ご決断いただきたい」
「わか……りました……」

こうして衛兵長さんの巧みで平和的な交渉術によって、全ての取引先と立ち寄り先、そして従業員とその関係者の住所のリストを入手した私たちは、その全ての場所を今晩中に処置すべく行動を開始した。

いくつかの取引先や立ち寄り先は、うちには関係ない、うちでミイラ病は出ていない、と突っぱねてきたが、またもや衛兵長さんの巧みで平和的な交渉術によって処置を行うことに成功する。寝静まっている店舗や無人の倉庫には容赦なく衛兵を配置して封鎖していく。

こうしてその日できる全てのことをやりきり、そしてまた明日に備える。この一日で私たちは連帯感と使命感を共有し、この恐ろしい疫病に立ち向かう仲間となれた、そんな気がしたのだった。

****

そして三日後の朝、私たちの努力をあざ笑うかのような報せが入ってきた。

「フィーネ様、今度は西の貴族街、アルホニー子爵邸にてミイラ病が発生しました。神殿に内密で治療依頼が入っております。どうやら、このミイラ病騒ぎを聞きつけた子爵の次男クライヴ様が、三日前に貧民街へと独断で支援物資を届けたそうです。目的は、恐らく跡目争いで自分の慈悲深さと病を恐れぬ勇猛さをアピールするためだったとのことです」

なんだ、それは? バカなのか? こっちは必死に病気を抑え込もうとしているのに、なんでそんな余計なことをしてくれているの?

「その際、多数の使用人を連れていったそうで、その者たちもミイラ病に感染しているそうです。さらに、一部のものは休み取っているらしく、全員の居場所が把握できていないようです」
「ええぇ」

私は力が抜けてがっくりと机に突っ伏した。

「せっかく中央商業区も北の貧民街も新しい患者が出なくなったのに……」

そう、感染の可能性があるだけの人にも病気治療の魔法をかけて治療し、病原菌のいそうな場所を徹底して洗浄が功を奏したのだろう。今回のミイラ病の流行は、過去の感染発生と比べてかなりコントロールできていたのだ。それに酒精のみを分離した酒、つまりアルコール消毒もどうやら有効だったようで、アルコール消毒だけでも今のところミイラ病の感染拡大を防げている。これはこの世界のミイラ病対策において新たなる扉を開いたことになる。

このまま封じ込められれば歴史的な偉業だ、という話をローラン司祭が教皇様としていたのだが、一人の愚か者によって台無しにされてしまった。

「みんなで……あんなに頑張ってきたのに……」
「フィーネ様……お気持ちはお察しいたしますが、ここが踏ん張りどころです」
「……はい」

私は折れそうになる心を何とか奮い立たせ、治療へと向かうのだった。
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