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吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第39話 感染拡大
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昨日、夜遅くまで頑張りすぎたせいだろうか?私はいつもよりも少し遅く目を覚ました。
「おはようございます」
私は手早く着替えと質素な朝食を済ませると、ミイラ病対策室の看板を掲げた部屋に入る。
「おはようございます。フィーネ様」
クリスさんは既に部屋でスタンバイしている。
「おはようございます。フィーネ様。昨晩は遅くまでお疲れ様でした」
神殿の治療部隊も衛兵長も既に揃っている。
「すみません。遅くなりました」
「いえ、構いません。それでは、各自状況を報告してください」
人出が足りていないのか、ローラン司祭が対策室長のようのな仕事をしてくれている。本当はローラン司祭も現場に出たいそうなのだが、他の仕事が忙しくてなかなかそういうわけにもいかないらしい。
「それではまずは衛兵部隊より報告いたします。北の貧民街は夜のうちに完全に封鎖が完了しております。通してよいのは治療にあたる関係者のみと通達済みであります。また、配給物資は午前 10 時の鐘のなる頃に北の貧民街への入り口である広場に到着予定です。また酒精のみを分離した酒については薬師協会に発注をかけました。本日の夕方より徐々に納品される手筈となっております」
「ご苦労様です。フィーネ様を含めて我々には 6人の治癒師がおりますので、6 部隊に別れ、治癒師と一緒に閉鎖区域に入ってください。配給業務終了後は護衛を残して速やかに撤退し、必ず洗浄魔法による洗浄を受けてください。それでは次は、フィーネ様、ご報告をお願いいたします」
「はい。昨晩回った建物は 4、訪問した部屋数は 83、うち処置ができたのは 45 です。その際、既に感染していたのは 20 名です。これには第一感染者とその家族も含みます。全ての部屋を処置できた建物はありません。また、洗浄した井戸の数は 5 です」
「おお、すごい数ですな。では、神殿の治癒部隊ですが、回った建物は 6 、訪問した部屋数は 163、うち治療のみができたのは 71、治療と洗浄ができたのが 19 です。感染していたのは 2 名です」
感染者の割合が明らかに低い。どうやら、デールくん達の家のあたりが発生源と考えてよさそうだ。
「こちらも夜でしたので全ての部屋を処置できた建物はありません。また、洗浄した井戸の数は 2 です。また、事態が事態ですので現在王宮へと掛け合い、処置の強制執行権限を申請しております。こちらについては数日中で成果が出るように交渉を続けております」
そう。素直に治療を受けてくれる人達ならば良いのだが、問題は治療を受けてくれない人が一定数いるのだ。この人たちが病原菌をばら撒く事態にならないようにするためには、感染者を強制隔離する必要があるのだ。
あとは、感染が他の地域に飛び火しないことを願うしかない。
****
冬晴れの空の下、私たちは懸命に治療と洗浄を行った。昨日の今日で疲れが取れていないのか、昨晩のように絶好調というわけにはいかず、たまに MP 回復薬のお世話になることになった。だが、どうにかデールくん達の家の一角の住民は全員処置することができた。これには、最初に治療したデール君とダン君が部屋から出てこない人を説得してくれたことが非常に大きかった。
私たちが尋ねても扉を開けてくれなかったが、デール君とダン君が私のことを、無償で自分の姉を治療してくれた聖女様だから大丈夫だ、と言って回ってくれたおかげだ。聖女様になる気はないが、いつの間にかこの町に愛着が湧いてきているのも事実だ。そんなこの町が疫病で壊滅する様は見たくない。
いくらゲームの中の世界とはいえ、ね。
というか、最近は本当にここがゲームの中なのだろうか、と疑問に思うこともある。あまりにもリアルな風景、臭いも、味覚もあるし、食事もしたくなるしトイレにも行きたくなる。他人に触れば暖かいし、今まで体験してきた VRMMO と比べて何もかもがあまりにもリアルだ。
「フィーネ様?」
おっと、クリスさんが心配そうな表情で私を見ている。
「大丈夫です」
私はグイっとまずい MP 回復薬を飲み干して苦笑いを浮かべる。
「この薬の味、ちょっと苦手なんですよ。さあ、次に行きましょう」
そうして私たちは次の区画の処置へと向かうのだった。
そして、夕方。MP 回復薬を 7 本使って何とか一日の仕事を終え、へとへとになって神殿へと戻った私たちは、最も聞きたくない言葉を耳にすることとなってしまった。
「フィーネ様、大変残念なお知らせです。中央商業区で新たにミイラ病の患者が確認されました」
「おはようございます」
私は手早く着替えと質素な朝食を済ませると、ミイラ病対策室の看板を掲げた部屋に入る。
「おはようございます。フィーネ様」
クリスさんは既に部屋でスタンバイしている。
「おはようございます。フィーネ様。昨晩は遅くまでお疲れ様でした」
神殿の治療部隊も衛兵長も既に揃っている。
「すみません。遅くなりました」
「いえ、構いません。それでは、各自状況を報告してください」
人出が足りていないのか、ローラン司祭が対策室長のようのな仕事をしてくれている。本当はローラン司祭も現場に出たいそうなのだが、他の仕事が忙しくてなかなかそういうわけにもいかないらしい。
「それではまずは衛兵部隊より報告いたします。北の貧民街は夜のうちに完全に封鎖が完了しております。通してよいのは治療にあたる関係者のみと通達済みであります。また、配給物資は午前 10 時の鐘のなる頃に北の貧民街への入り口である広場に到着予定です。また酒精のみを分離した酒については薬師協会に発注をかけました。本日の夕方より徐々に納品される手筈となっております」
「ご苦労様です。フィーネ様を含めて我々には 6人の治癒師がおりますので、6 部隊に別れ、治癒師と一緒に閉鎖区域に入ってください。配給業務終了後は護衛を残して速やかに撤退し、必ず洗浄魔法による洗浄を受けてください。それでは次は、フィーネ様、ご報告をお願いいたします」
「はい。昨晩回った建物は 4、訪問した部屋数は 83、うち処置ができたのは 45 です。その際、既に感染していたのは 20 名です。これには第一感染者とその家族も含みます。全ての部屋を処置できた建物はありません。また、洗浄した井戸の数は 5 です」
「おお、すごい数ですな。では、神殿の治癒部隊ですが、回った建物は 6 、訪問した部屋数は 163、うち治療のみができたのは 71、治療と洗浄ができたのが 19 です。感染していたのは 2 名です」
感染者の割合が明らかに低い。どうやら、デールくん達の家のあたりが発生源と考えてよさそうだ。
「こちらも夜でしたので全ての部屋を処置できた建物はありません。また、洗浄した井戸の数は 2 です。また、事態が事態ですので現在王宮へと掛け合い、処置の強制執行権限を申請しております。こちらについては数日中で成果が出るように交渉を続けております」
そう。素直に治療を受けてくれる人達ならば良いのだが、問題は治療を受けてくれない人が一定数いるのだ。この人たちが病原菌をばら撒く事態にならないようにするためには、感染者を強制隔離する必要があるのだ。
あとは、感染が他の地域に飛び火しないことを願うしかない。
****
冬晴れの空の下、私たちは懸命に治療と洗浄を行った。昨日の今日で疲れが取れていないのか、昨晩のように絶好調というわけにはいかず、たまに MP 回復薬のお世話になることになった。だが、どうにかデールくん達の家の一角の住民は全員処置することができた。これには、最初に治療したデール君とダン君が部屋から出てこない人を説得してくれたことが非常に大きかった。
私たちが尋ねても扉を開けてくれなかったが、デール君とダン君が私のことを、無償で自分の姉を治療してくれた聖女様だから大丈夫だ、と言って回ってくれたおかげだ。聖女様になる気はないが、いつの間にかこの町に愛着が湧いてきているのも事実だ。そんなこの町が疫病で壊滅する様は見たくない。
いくらゲームの中の世界とはいえ、ね。
というか、最近は本当にここがゲームの中なのだろうか、と疑問に思うこともある。あまりにもリアルな風景、臭いも、味覚もあるし、食事もしたくなるしトイレにも行きたくなる。他人に触れば暖かいし、今まで体験してきた VRMMO と比べて何もかもがあまりにもリアルだ。
「フィーネ様?」
おっと、クリスさんが心配そうな表情で私を見ている。
「大丈夫です」
私はグイっとまずい MP 回復薬を飲み干して苦笑いを浮かべる。
「この薬の味、ちょっと苦手なんですよ。さあ、次に行きましょう」
そうして私たちは次の区画の処置へと向かうのだった。
そして、夕方。MP 回復薬を 7 本使って何とか一日の仕事を終え、へとへとになって神殿へと戻った私たちは、最も聞きたくない言葉を耳にすることとなってしまった。
「フィーネ様、大変残念なお知らせです。中央商業区で新たにミイラ病の患者が確認されました」
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