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吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第18話 次のお仕事を考えよう

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必死に王都中を治療のため奔走して二週間、稼いだ総額はなんと、金貨 1 枚と銀貨 3 枚。だいたい 6 万 5 千円くらい。休みなく働いてこれって、ブラックにも程がある。

ちなみに対して使った MP 回復薬は 145 本、金貨 29 枚の支出だった。

ああ、もう! なんで一切黒字になる見込みのない仕事をしているんだー!

ちなみに、稼げた経験値はたったの 10 。一日で 1 すら稼げない日もあったのだ。

「う~、二週間休みなく頑張ってたったの 10 かぁ。あんなにまずい MP 回復薬をあんなにたくさん飲んで頑張ったのにぃ」
「フィーネ様。はしたないですよ」

ソファーにゴロりと横になり情けない声を上げる私はクリスさんに小言を言われてしまった。
あまりの徒労感に私のクールキャラ設定は崩壊気味だ。

「クリスさん、いつになれば私はレベルアップするんですか?」
「人間だと経験値を 40 獲得すればレベル 2 となります。ですが、フィーネ様の場合はハイエルフの先祖返りだそうですからなんとも言えません。ハイエルフは非常に長い時を生きる種族ですので成長が遅いという噂を聞いたことがあります」
「私、ハイエルフじゃありませんけどね」
「ああ、吸血鬼でしたね。そういえば最近は血をお飲みになってらっしゃいませんね?」
「あれ? そういえば」

クリスさんが、フィーネ様の症状も少し良くなってきているんですね、なんて呟きながら小さくガッツポーズしている。でもそれ、聞こえてますからね?

全く、吸血鬼は耳が良いのだ。

それにしても、今まで忘れていたが王都に来てからは一度も吸血衝動に襲われていない。これは一体どういうことだろうか?

なんとなく渇いているかな、という感覚はあるが、気になるほどでもない。

まあ、別に衝動がないなら今は飲まなくても良いということなのだろう。私は疑問を頭の隅に追いやると、目下の問題について考える。

「どうにか、もう少し経験値を早く大量に稼げる方法はないんですか?」
「そんな方法があればみんなやっていますよ」
「ですよね~」
「やはり地道に治癒活動をなさるのが一番ではありませんか?」
「あれはもうダメ! 一体どれだけの赤字になったと思っているんですか。最低限、MP ポーションを使わずに済むレベルまでにならないと破産してしまいます」

二週間休みなく働いた報酬が 140 万円の支払いって、いくら何でもあり得ないでしょ。どっかでバイトしたほうが遥かにマシだ。

「うん、やっぱり魔物退治にしましょう。ハンターギルドというものがあると確かあのキノ、じゃなかった、子爵様が言っていました。そこに私のレベルアップをお手伝いするという依頼を出すのはどうですか?」
「守られているだけでは経験値が入りませんよ? それに、ハンターギルドはやめておいたほうが良いでしょう。基本的に食詰め者の集まりですので素行があまりよろしくありません」
「えー、じゃあどうすればいいんですか?」
「ですから、修業の道に楽はありません。辛いことを乗り越えてこそ成長があるのです。苦しい時こそ、成長のチャンス、努力は裏切らない、急がば回れ、なのです!」

そうだった。クリスさんは騎士団という体育会系に所属していた脳筋なんだった。

最近はスポーツも科学全盛時代に突入して、休むことも練習の一環と言われるようになっているというのに、ここではまだ脳筋が幅を利かせているらしい。

「わかりました。じゃあ、どこかの幽霊屋敷の除霊とかはどうですか?」
「え?」

クリスさんの表情が固まった。

「ほら、私【聖属性魔法】が使えますし、シュヴァルツを浄化した実績もありますし、向いているんじゃないかと思うんですよ。ゴーストバスター」
「だ、だ、だ、だ、だ、だ、ダメです。ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、幽霊なんて……」

おや? クリスさんが顔を青くしている?

「何でですか? 吸血鬼を倒すのも幽霊を除霊するのも大して変わらないのでは?」
「だ、だ、だ、だ、ダメですよ。み、み、見えないんですよ?」
「ええ? そこ?」
「と、と、と、と、とにかく、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆゆうれいは、だだ、だ、ダメです」

あ、この反応はもしや。

「もしかして、クリスさん、幽霊が怖いんですか?」

ビクン、と震えて固まる。

「そ、そ、そ、そ、そんなわけ、なななな、ないじゃないですか。わわわた、わた、私は聖騎士ですなんですよ! ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、幽霊ごとき、このせせ聖剣で一刀両断でしゅよ」

分かりやすい。クリスさんの良いところは素直なところ。

「じゃあ、問題ありませんね。この王都で困っている幽霊屋敷の除霊に行きましょう。まずは神殿に行って手が回っていない幽霊屋敷があるか、聞きに行きましょう」
「あ、な、な、な」

よし、はじめて主導権を取れたぞ!

素晴らしい。この調子でレベリングも頑張らねば。

私は意気揚々と神殿へと向かったのであった。
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