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吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第17話 吸血鬼はお金を稼ぎたい
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「お仕事ですか?」
「はい。魔導書を読んで勉強もしたいのですが、このままだと破産してしまいそうなのでお金を稼ぎたいのです」
「え? でもフィーネ様であればお金ぐらいすぐに――」
「そんなことないですから」
あれから更に話を聞いてみたのだが、どうもクリスさんはお金というものは勝手に湧いてくるものだと思っている節があるようだ。クリスさんは平民の生まれだったため、あまり教育をうけていないらしい。だが、剣の才能はあったため幼いうちから仕官し、実力で騎士となり、そしてあっという間に聖騎士にまで登りつめた。そうして、お金を使うことを覚えたころにはお金に困ることが無くなっていた。そして、それから見てきた相手は王侯貴族の大金持ちばかりであったため、こんなにも歪んだ金銭感覚の持ち主になったらしい。
「なるほど。ということは、早速お勉強の成果をお見せになられるのですね? さすがです」
「いえ、そうではないんです」
「え? あれほど熱心に学ばれていたのに? まさか! 中途半端なカリキュラムのせいで使えないものを勉強させられたのですか? なんということでしょう。今すぐ叩き斬っ――」
「わわわ、待ってください。そういうことではないんです。ちゃんと、使えるものを学べましたし、薬草も医学も魔法薬もちゃんと理解できました。有意義な勉強ができてとても感謝しています」
そう、内容自体はすごく有用なものだったし、勉強にはなったのだ。
「では、何故?」
「勉強をしたからと言って、ポーションを作れるようになったわけではないんです」
「そうなのですか?」
「はい。ポーションを作るには勉強した知識のほかに、【調合】【薬効付与】という二つのスキルが少なくとも必要なんです。そして、治癒のポーションを作るなら【回復魔法】も必要です」
クリスさんが初耳だ、という顔をしている。これは勉強したから得られた知識で、ちゃんと身についてはいるのだ。
「【調合】は薬師の職業に就くことで得られ、【薬効付与】は上級職である魔法薬師の職業が必要です。なので、私は薬を使う知識はあっても作ることができません。これでは、商売としては不十分です」
ついでに言っておくと、魔法薬師になるには付与師の【付与】というスキルレベルもあげる必要があるのだそうで、ポーション作りは当分先の話になるだろう。
「なるほど。フィーネ様。それでは、一体何をなさるおつもりでしょうか?」
「やはり、商売というのは在庫がなく元手のいらないものからスタートしたほうが良いと思いますので、まずは流れの治癒師でもやろうと思います」
そう、手っ取り早く稼ぐには結局これが一番のように思える。
「やはり、フィーネ様はそういうお方ですよね。お任せください! 許可など、必要なものはすぐに手配いたしますので、本日はこの部屋でお待ちください」
そう言うとクリスさんは部屋を飛び出していった。
なんだかやたらと既視感のある光景に漠然とした不安を覚えつつ、私はクリスさん見送ったのだった。
****
か、ら、の、これである。はぁ。
さて、何が起きたのかを説明しよう。
クリスさんは確かにあっという間に独立した治癒師としての営業許可証を王宮からとってきた。そして治癒師として回る場所まで段取りをつけてきた。それも二週間分。一体どうやったらこれほどの短時間でここまでの仕事ができるのだろうか?
そう、クリスさんは、有能なのだ。
ちょっと思い込みが激しくて、計算ができなくて、金銭感覚が壊滅的におかしくて、肝心なことを見落とすのを除けば、ではあるのだが。
で、今回は確かに治癒師を必要としている場所に連れていってもらえた。許可証も普通に申請すれば一週間はかかるところを即日発行させた。
ここまでは申し分ない。
でもね。クリスさん。
なんで、一日に三か所も走り回るルートを設定したんだ!
私、まだレベル 1 なんだよ。MP 22 しかないんだよ!
どんなに消費 MP の少ない治癒魔法を使っても 22 人で打ち止めだ。
それなのに、だ。なんで私の MP が切れたら MP 回復薬をニコニコの笑顔で渡してくるんだよ! どうしてこんなところだけ有能なんだよ!
何ドヤ顔してるんだよ! やめてくれ!
これ、めっちゃ苦くてまずいんだよ!
しかも、一本買うのに銀貨 2 枚だよ?
それを一か所で大体 3 ~ 4 本使うって分かってる?
一日回るだけで金貨 2 枚くらいなくなってるんだよ?
それに、報酬は気持ちでいいって事前に言っちゃうとか、バカなの死ぬの?
おかげでほとんどお金もらえないじゃないか。
回れば回るだけ大赤字じゃないか!
うん? 今日のラストは孤児院? え? それ絶対お金取れないやつじゃん!
うわぁ、みんなボロボロだ。膝擦り剥いてる子から明らかに顔色悪い子まで!
そんなの見たら治してあげるしかないじゃん。
はあ、ここだけで MP 回復薬が 4 本も飛んで行ったよ。
え? 報酬は銅貨 3 枚? ああ、もう! それしか余裕ないのにお金なんて貰えるわけないじゃないか!
「いえ、報酬は結構です。ここの子供たちが元気になってくれただけで胸がいっぱいですから」
ああ、もう。次からは孤児院はなしね!
「フィーネ様!」「ああっ! 聖女様っ!」
クリスさんと孤児院のシスターさんが感激したような表情を浮かべている。すると、最後に治してあげた女の子がトコトコと走り寄ってきた。
「おねぇちゃん、どうもありがとう!」
「はい。どういたしまして」
ああ、なんだか、すごく報われた気がした。
本日の獲得経験値: 1
……あれ?
「はい。魔導書を読んで勉強もしたいのですが、このままだと破産してしまいそうなのでお金を稼ぎたいのです」
「え? でもフィーネ様であればお金ぐらいすぐに――」
「そんなことないですから」
あれから更に話を聞いてみたのだが、どうもクリスさんはお金というものは勝手に湧いてくるものだと思っている節があるようだ。クリスさんは平民の生まれだったため、あまり教育をうけていないらしい。だが、剣の才能はあったため幼いうちから仕官し、実力で騎士となり、そしてあっという間に聖騎士にまで登りつめた。そうして、お金を使うことを覚えたころにはお金に困ることが無くなっていた。そして、それから見てきた相手は王侯貴族の大金持ちばかりであったため、こんなにも歪んだ金銭感覚の持ち主になったらしい。
「なるほど。ということは、早速お勉強の成果をお見せになられるのですね? さすがです」
「いえ、そうではないんです」
「え? あれほど熱心に学ばれていたのに? まさか! 中途半端なカリキュラムのせいで使えないものを勉強させられたのですか? なんということでしょう。今すぐ叩き斬っ――」
「わわわ、待ってください。そういうことではないんです。ちゃんと、使えるものを学べましたし、薬草も医学も魔法薬もちゃんと理解できました。有意義な勉強ができてとても感謝しています」
そう、内容自体はすごく有用なものだったし、勉強にはなったのだ。
「では、何故?」
「勉強をしたからと言って、ポーションを作れるようになったわけではないんです」
「そうなのですか?」
「はい。ポーションを作るには勉強した知識のほかに、【調合】【薬効付与】という二つのスキルが少なくとも必要なんです。そして、治癒のポーションを作るなら【回復魔法】も必要です」
クリスさんが初耳だ、という顔をしている。これは勉強したから得られた知識で、ちゃんと身についてはいるのだ。
「【調合】は薬師の職業に就くことで得られ、【薬効付与】は上級職である魔法薬師の職業が必要です。なので、私は薬を使う知識はあっても作ることができません。これでは、商売としては不十分です」
ついでに言っておくと、魔法薬師になるには付与師の【付与】というスキルレベルもあげる必要があるのだそうで、ポーション作りは当分先の話になるだろう。
「なるほど。フィーネ様。それでは、一体何をなさるおつもりでしょうか?」
「やはり、商売というのは在庫がなく元手のいらないものからスタートしたほうが良いと思いますので、まずは流れの治癒師でもやろうと思います」
そう、手っ取り早く稼ぐには結局これが一番のように思える。
「やはり、フィーネ様はそういうお方ですよね。お任せください! 許可など、必要なものはすぐに手配いたしますので、本日はこの部屋でお待ちください」
そう言うとクリスさんは部屋を飛び出していった。
なんだかやたらと既視感のある光景に漠然とした不安を覚えつつ、私はクリスさん見送ったのだった。
****
か、ら、の、これである。はぁ。
さて、何が起きたのかを説明しよう。
クリスさんは確かにあっという間に独立した治癒師としての営業許可証を王宮からとってきた。そして治癒師として回る場所まで段取りをつけてきた。それも二週間分。一体どうやったらこれほどの短時間でここまでの仕事ができるのだろうか?
そう、クリスさんは、有能なのだ。
ちょっと思い込みが激しくて、計算ができなくて、金銭感覚が壊滅的におかしくて、肝心なことを見落とすのを除けば、ではあるのだが。
で、今回は確かに治癒師を必要としている場所に連れていってもらえた。許可証も普通に申請すれば一週間はかかるところを即日発行させた。
ここまでは申し分ない。
でもね。クリスさん。
なんで、一日に三か所も走り回るルートを設定したんだ!
私、まだレベル 1 なんだよ。MP 22 しかないんだよ!
どんなに消費 MP の少ない治癒魔法を使っても 22 人で打ち止めだ。
それなのに、だ。なんで私の MP が切れたら MP 回復薬をニコニコの笑顔で渡してくるんだよ! どうしてこんなところだけ有能なんだよ!
何ドヤ顔してるんだよ! やめてくれ!
これ、めっちゃ苦くてまずいんだよ!
しかも、一本買うのに銀貨 2 枚だよ?
それを一か所で大体 3 ~ 4 本使うって分かってる?
一日回るだけで金貨 2 枚くらいなくなってるんだよ?
それに、報酬は気持ちでいいって事前に言っちゃうとか、バカなの死ぬの?
おかげでほとんどお金もらえないじゃないか。
回れば回るだけ大赤字じゃないか!
うん? 今日のラストは孤児院? え? それ絶対お金取れないやつじゃん!
うわぁ、みんなボロボロだ。膝擦り剥いてる子から明らかに顔色悪い子まで!
そんなの見たら治してあげるしかないじゃん。
はあ、ここだけで MP 回復薬が 4 本も飛んで行ったよ。
え? 報酬は銅貨 3 枚? ああ、もう! それしか余裕ないのにお金なんて貰えるわけないじゃないか!
「いえ、報酬は結構です。ここの子供たちが元気になってくれただけで胸がいっぱいですから」
ああ、もう。次からは孤児院はなしね!
「フィーネ様!」「ああっ! 聖女様っ!」
クリスさんと孤児院のシスターさんが感激したような表情を浮かべている。すると、最後に治してあげた女の子がトコトコと走り寄ってきた。
「おねぇちゃん、どうもありがとう!」
「はい。どういたしまして」
ああ、なんだか、すごく報われた気がした。
本日の獲得経験値: 1
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