勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第4話 人類の敵

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私は今日も荷馬車に揺られている。

ドナドナドーナドーナ~♪

別に売られるわけではないが、二日連続荷馬車の旅である。

だが、今日は昨日とは明らかに待遇が違った。昨日までの騎士様達はあくまで保護したお嬢様に対して接している感じだったが、今日はテントから出るなり敬礼された。昨日治療してあげたからか、吸血鬼を倒したからか。まあ、きっとこういうイベントだったんだろう。町に着けば何かわかるはずだ。

「クリスさん、昨日は見事なくっこ、っじゃなかった、昨日の吸血鬼は何だったんですか?」
「フィーネ様、昨日は危ないところをありがとうございました。奴の名はシュヴァルツ。この森を根城とする邪悪な吸血鬼です。非常に強力な力を持っており、次代の魔王になるとまで言われていた恐ろしい吸血鬼です」
「へ、へぇ。そうなんですね。知りませんでした」

うん、魔王。シュヴァルツ、ね。思い出した。私が最初にやらされそうになったキャラじゃないか。あのクソ運営のハゲオヤジ、最初のイベントで殺されるキャラをやらせようとしようとしやがったのか。危ねぇ。職業を無職にしておいて良かった。

「元々、我々は奴の討伐のために派遣されていたのです。聖水を相当量準備し、聖騎士である私が聖剣の力で奴を倒す予定だったのですが、不覚をとってしまいました。ですが、フィーネ様のおかげで助かりました。まさか、奴を滅ぼしたうえ全員無事で帰れるとは思ってもみませんでした」
「そ、それは良かったですね」
「しかし、あのような強力な浄化魔法に治癒魔法を見たのははじめてです。あれだけのお力がおありなのにも関わらずまだ職業を得ていないなんて、やはりフィーネ様は聖女の資質がおありなのでは?」
「いえいえ、そんなことは」

や、そもそも私吸血鬼ですし。どちらかといえばその聖女様に倒される側なのでは?

「しかし、フィーネ様がいらっしゃれば邪悪な吸血鬼どもも恐るるに足らず、ですね!」
「え、ああ、うん。ソウデスネー」

ううん、それにしてもやっぱりクリスさんが NPC とは思えないんだよなぁ。さしずめ、自分のところの騎士団に加入させたいとか、そんな感じなんだろうか?

「ところで、吸血鬼は人間の敵なんですか?」
「はい。吸血鬼は人間だけでなくエルフなどの亜人も含めた人類全ての敵です。ですので、吸血鬼というのは見つけ次第問答無用で討伐する必要がございます。なぜなら、奴らは次々と吸血して眷属を作り、そして人々を魅了の魔法で操り、いつの間にか町を支配してしまいます。歴史上もっとも酷い例ですと、国を丸ごと乗っ取られたというものもございます。彼らは血を吸って生きていますので、彼らとしても生きるためにやっているのかもしれませんが、我々人類としては到底受け入れられるものではありません」

あれー、なんかすごいことになってる。もしかして、種族を吸血鬼のままにしたのって失敗だったかな?

「ですが、フィーネ様がいらっしゃれば安心です。あれほどの聖なる力ですからね。吸血鬼どもも裸足で逃げ出すことでしょう」
「ソ、ソウデスネー」

どうしよう。私も吸血鬼です、なんて、とても言い出せない。マジでどうしよう?
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