上 下
4 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第3話 吸血鬼襲来

しおりを挟む
2020/08/20 文章が抜けていて会話が接続がおかしくなっていた部分を修正しました
2020/08/26 誤字を修正しました
================

私は荷馬車に揺られている。

ドナドナドーナドーナ~♪

というわけではない。なんとか騎士団のみなさんが気を使って荷馬車に乗せて運んでくれているのだ。

いくら吸血鬼とはいえキャラメイクしたばかりの私のレベルは 1 だ。高レベルな騎士団のみなさんと同じペースで歩くのは無理なのだ。主に体力的な問題で。

さて、荷馬車に乗りながらくっころさんことクリスさんにメニューやらステータスの話を聞いてみた。

「クリスさん。アニュオンのメニューはどうやって開くんですか?」
「??? あにゅおん? めにゅー? それは、フィーネ様の故国の言葉でしょうか?」

もしかしてクリスさんは NPC なのだろうか、とも思ったが、 NPC にしてはあまりにも人間ぽい。

「じゃ、じゃあ、ステータスはどうやって確認するのでしょう?」
「ステータスでしたら、神殿で職業を授かることができれば確認できます。フィーネ様はまだ職業をお持ちではないのですか?」
「はい。実はまだなのです」
「そうでしたか。申し訳ありませんが、職業を授かることができる神殿は、わが国では王都にしかございません。手配は致しますが、当面は今のままでご辛抱ください」
「いえ、ありがとうございます」

私はお礼を言うと、気になっていることを質問してみる。

「ところで、町というのは……」
「今、我々が向かっているのはザラビアという港町です。それほど大きな町ではありませんが、我ら第四分隊の駐屯している町です」

ほら、聞いてないことまで矛盾なく答えてくれる。NPC ではこうはいかないはずだ。どうにも謎は深まるばかりだ。

半日ほどドナドナされていると、日が傾いてきた。

「フィーネ様、本日はこちらで野営致します」

どうやらまた野宿するらしい。それならモフモフも連れてくればよかった。とはいえ、後悔先に立たず。大人しく言われたとおりにしておこう。

しかし、アニュオンにログインしてからもう二日目だ。そろそろ強制ログアウトさせられても良いころだと思うんだけどなぁ……?

私はすっかりお客様扱いだ。これまでの会話から総合的に判断すると、私はどこか良いところのお嬢様だと思われているようだ。やっぱりこれも容姿端麗の効果かな。わざわざ 10 ポイントを消費してでも取っておいてよかった。

「フィーネ様。どうぞこちらをお召し上がりください」
「ありがとうございます」

干し肉と野菜のスープに固いパン。おいしくはないけれど、仕方ない。まあ、軍事行動食レーションならこんなもんだね。

そのまま騎士様達が張ってくれたテントに入り、おやすみなさい。私はクリスさんと同じテントだ。中身は別として体は女だからね。私は毛布に包まるとあっという間に眠りについた。

****

そして、私は突然の爆発音と怒号に目を覚ました。

「襲撃だ! 吸血鬼だ! 奴が出たぞー!」

うん? 吸血鬼ならここにもいるけど、私はいいのかな?

そんなどうでもいいことを考えながら周囲を確認してみると、隣で寝ていたはずのクリスさんがいない。どうやらもう迎撃に向かったらしい。

テントの外からは殴られたような音と騎士様達のうめき声、クリスさんの苦しそうな声も聞こえてくる。

──── これって、騎士様達が一方的にやられているんじゃ?

これはまずい。このまま騎士団が全滅してしまったらこの快適な旅が終わってしまう。

やむなく戦うため、私は毛布を羽織ったままテントの外へ出ることにした。

いや、だって、肌寒いんだもの。仕方ないじゃないか。

それに、私のスキル振りは対聖職者と対吸血鬼に特化しているのだ。そんじょそこらの吸血鬼ならレベルMAXの【聖属性魔法】を打ち込んでやれば一発だろう。

よい、しょっと。

私はテントから外へ出てみると、割と大惨事になっていた。10人ほどいた騎士の皆さんがボロボロの血だらけになって倒れている。そして、お尻をついたクリスさんとその前に立つやたらと美形の男という図が目の前にある。金髪に金色に輝くネコかヘビのような縦長の瞳と少し尖った耳。口元からは牙が覗いている。

なるほど、こいつが言っていた吸血鬼か。

吸血鬼は余裕そうな表情でクリスさんを見下ろしている。

それに対するクリスさんは鎧の胸の部分が破壊され、右手で胸が見えないように隠しながらお尻を地面についてその男を見上げている。剣もその手を離れてしまったのか、左手は地面につかれており何も握っていない。

こ、これは! まさしく伝説のくっころではないか!

うーん、眼福眼福、って、違った。助けなきゃいけないんだった。

よし、あいつはまだこっちに気付いていないし今のうちに――

「フィーネ様? なぜ出てきたのですか!」

うわー、台無しにしてくれたよ。このくっころめ。

「おや? どうして貴女のようなお方がこのような者たちと共にいるのですか?」
「いやぁ、行きがかり上と言いますか……」
「まあ、良いでしょう。私は食事の時間ですので貴女のお相手はまた後でさせていただきます」

「はぁ……」
「フィーネ様!お逃げください」

いやいや。一人で逃げてどうするんだよ。町の場所も分からないのに。

そうこうしている間に吸血鬼の男がクリスさんに近づいていく。

「くっ、私は吸血鬼の眷属になどならぬ。一思いに殺せ」

うーん、惜しい。あ、でもこれもくっころの一種かな?

って、違う違う。助けるんだった。

えーと、聖属性の浄化魔法であいつを浄化っと。

次の瞬間、吸血鬼の足元から真っ白な光が立ち上り、辺りをまるで昼間のように照らす。

「ぐああああぁぁぁぁ!」

吸血鬼の男が凄まじい叫び声を上げる。やはり、使いたい魔法を割と適当に念じるだけでも発動するらしい。それにしても明るいな。そして、叫び声がうるさい。早く静かになってくれ。

「ば、バカな。なぜ、貴女がそれを……」

しばらくすると、なんだかそれっぽいセリフを残して吸血鬼の男は消滅した。まあ、最初のボスがそんなに強いわけないし、楽勝で当然なんだろう。

「な、な、な、な」

クリスさんが「な」しか喋らなくなってしまった。周りの騎士様達も大惨事だし、治療してあげるとしよう。みんなの傷よ、治れ~っと。

すると、私の周りから暖かな光が広がり、騎士様達の傷がみるみる治っていく。いやぁ、さすがレベルMAXの【回復魔法】、死者が出なくてよかったね!

「な、な、な、な」

やっぱり「な」しか喋らない。もしかして、これクリスさんも騎士様達も死ぬイベントだったのかな?

ま、いっか。寝よう。

「じゃあ、私は寝ますね。おやすみなさい」

私はテントに潜り込んでそのまま眠りについたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...