追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎

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第95話 追放幼女、身代金を受け取る

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 一週間もすると遺体が運ばれてくることはなくなった。多分、すべての遺体を回収し終わったのだと思う。

 それからさらにしばらくするとビル卿が要求した身代金を満額持参してきたため、捕虜として捕えておいた騎士たちを全員釈放した。

 ビル卿を除いた捕虜は全部で二十名おり、そのうち騎士爵、つまり貴族出身で魔力を使う者はセオドリックとモンタギューの二名だけだ。

 そんな彼らの身代金はセオドリックがちょっと偉い人っぽいので大金貨千枚、モンタギューは大金貨五百枚、残りの騎士は大金貨十枚で合計千六百八十枚、シェラングに直すと八十四万シェラングとなる。

 ちなみに身代金を要求したのはアルフレッド卿がそうするのが普通だと言っていたからで、金額もアルフレッド卿が言っていた目安の金額そのままだ。あたしとしてはもっと値切られるんじゃないかと思っていたけれど、こうしてポンと支払ってきたということはきっと妥当な金額だったのだと思う。

 ううん。それにしてもエインズレイ家はやっぱりお金持ちなんだねぇ。うちがこんな金額を要求されたらとてもじゃないけど払えないもの。

 あ、そうそう。もちろんモンタギューはちゃんと誓約をさせてから解放したよ。だからもうあたしたちに悪さはできないはずだ。

 と、そんな話はさておき、あたしは次の一手を打つことにした。

 それはスカーレットフォード街道をビッターレイとは反対側まで伸ばすことだ。そのためにも、まずは地図作りからスタートしようと思う。

 それからあいつらに壊された門の修繕と、アルフレッド卿に指摘された水堀の水位を下げる工事もしないと。それに金鉱山の開発も進めないといけないし……。

 あ! あと戦力増強用にスケルトンも調達しないと!

 ああ、もう。本当に忙しい!

◆◇◆

 解放されたセオドリックたちは満身創痍の状態ではあるものの、なんとかクラリントンの門の前にたどり着いた。先頭にいるビルに気付いた門番たちはすぐさま開門し、セオドリックたちはゆっくりと町中へと入っていく。

 そんな彼らを見た門番たちは顔をひきつらせた。

 なぜなら彼らの服装は見るからにボロボロなうえに、セオドリックを含む多くの者は怪我が治りきっていないのか足を引きずりながら歩いているからだ。

 だが門番たちは何度も注意されているからか、何も言わずにそれを見送った。そしてその日の午後、セオドリックたちは馬車に乗ってクラリントンを後にしたのだった。

◆◇◆

 その夜、クラリントンのいつもの場末の酒場にいつもの男たちが集まっていた。だが彼らの表情は一様に暗く、エールのジョッキをじっと見つめている。

 そんな中、一人の男が口を開く。

「なあ、知ってるんだよな?」
「……ああ」

 いつも目撃情報を話している男が深刻そうな表情でうなずいた。男たちの視線は彼に集中する。

「……そう、だな。なんつーか……」

 だがいつも目撃情報を話している男はなんとも煮え切らない様子だ。それにしびれを切らしたのか、一人の男が声を荒らげる。

「おい! どうなんだよ! 今日もまた大通りで仕事だったんだろ!?」
「……ああ」

 いつも目撃情報を話している男だったが、今回は言うのをためらっているようだ。その態度に別の男が率直な疑問をぶつける。

「なんでそんなにもったいつけんだよ」
「……いや、なんつーか、な。俺もちょっと混乱しててよ」
「混乱?」
「ああ。なんか、こう、な。騎士団が帰ってきたのは見たぜ。確かに見た」
「なら!」
「まあ、その、なんつーかよ。マジでボロボロだったんだよ」
「ボロボロ?」
「ああ。みんな足引きずってたし、服にも血の跡っぽい赤黒い染みがあちこちにあってよ」

 その言葉に男たちは言葉を失う。

「なんつーか、よく生きてたなって」
「……それって」
「ヤバい……よな?」
「ああ」

 男たちは一様に暗い表情を浮かべる。

「な、なあ。どうしたらいいと思う?」

 男の一人がいつも目撃情報を話している男に尋ねるが、男は首を横に振った。

「……分かんねぇ。逃げるくらいしか思いつかねぇな」
「やっぱそうか。そうだよな……」

 男はますます暗い表情になった。

「騎士爵様がボロボロにされる相手、か」
「黒い、動く骨、だったよな」
「ああ。やっぱ、死神……?」

 男たちは不安げな表情でお互いに顔を見合わせるが、一人の男が何かを思いついたようにハッとした表情を浮かべた。

「ん? なんだ?」
「あのよ! 思いついたんだけどな。もしかして教会に行けば何かわかるんじゃねぇか? 黒い骨が動くなんてあり得ねぇし、死神っつーんならよ。いつも葬式をやってる司祭様ならなんとかしてくれんじゃねぇか?」
「あ! そうか! それだ! よし! 明日の朝一で教会に行こう」

 一気に男たちの表情は明るくなり、すぐさまジョッキを傾けるのだった。

◆◇◆

 翌日の早朝、クラリントンの大聖堂には開門前だというのに長蛇の列ができていた。その列の中には場末の酒場で飲んでいた男たちの姿も含まれている。

「なんでこんなに並んでるんだ?」
「さあな。おおかた俺らと同じ理由かもしれねえぜ。なあ、ちょっといいか?」

 いつも目撃情報を話している男が同じ列に並んでいる中年の女性に声を掛けた。女性は不審そうな表情をしつつも返事をする。

「……なんですか?」
「ここはいつもこんなに並んでるのか? 俺ら、この時間に来るのは初めてでよ」
「……前はこんなに並びませんでした。ただ」
「ただ?」
「ちょっと前に、死体を運ぶ黒い骨が出たでしょう? それからはずっとこんな感じですよ」
「ああ、あれからか。司祭様はなんて? やっぱり死神だって?」
「え? ……そう。死神なんですね」
「違うのか?」
「いえ、そうかもしれません」

 女性はそう言うと、何やら納得したような表情を浮かべている。

「どういうことだ?」

 男たちは怪訝そうな表情で女性を見つめるが、突然行列が動き出したことでそれ以上は会話できずに終わったのだった。
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