追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎

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第89話 追放幼女、遺体の謎に挑む

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 ビル卿を解放した後も騎士の遺体は続々と発見され続けており、遺体が運び込まれる度にセオドリックに顔と名前を確認させている。

 最初は他の捕虜に確認させていたのだけれど、やはり大所帯だということもあるのだろう。名前が分からないことが度々あり、捕虜にセオドリックなら分かると言われて確認すると本当に分かるということが続き、今では最初からセオドリックのところに運んで確認させているのだ。

 あたしたちから見れば侵略者のリーダーで、まほイケの敵キャラでもあるわけだけれど、何百人もいる部下の顔と名前をすべて覚えているのは素直にすごいと思う。

 さて、そんなこんなでここ数日は棺に納めた遺体をせっせとクラリントンに送り続けており、今日も新たな遺体が森の中で発見され、運ばれてきた。

 ただ、今回の遺体は様子が違うらしく、ウィルに呼ばれて確認にやってきた。

「姫さん、アレっす」

 遺体の一時保管場所となっている広場にやってくると、ウィルが地面に横たわる白骨死体を指さした。

「あ、うん」

 そうだね。たしかにおかしい。こんな数日で遺体が白骨化するわけないし、激しく損傷している衣類もその残骸を見る限り平民が着るようなものに見える。しかも騎士であれば剣などの遺留品が一緒に回収されるはずだが、それもない。

「なんなんすかねぇ?」
「そうだねぇ。騎士じゃあなさそうだけど……あれ?」

 あたしはこの遺体の左の薬指に結婚指輪が嵌められていることに気付いた。

「この人、既婚者だったんだね。もしかしたらあの結婚指輪で何か分かるかもよ」
「そうっすねぇ。結婚指輪を買えるっちゅうことは、貧民じゃねぇってことは分かりやすね」
「そうなんだ」
「へい」
「……あれ? でも盗賊が奪った指輪をしてたってことない?」
「ないっすね。そういったお宝はさっさと闇市で売り払うっすよ。持ってたら証拠になっちまうっす」
「あ、そっか。なるほどね。じゃあ、結婚指輪ってどのくらい高いの?」
「どうっすかね? 石無しとかならそれなりに安いとは思うすっけど……」
「あ、そっか。でもこれは宝石がついてるし……とりあえず分かりそうな人に来てもらおうか」
「サイモンっすか?」
「うん」
「わかりやした。呼んでくるっす」

 ウィルはそう言って全速力で走って行った。

「あ! そんなに急がなくても……」

 だがウィルにあたしの声は届かなかったようで、あっという間に視界から消えてしまう。それからしばらくすると、ウィルがサイモンを連れて戻ってきた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ。男爵様、どうなさいましたか?」
「うん、急に呼んでごめんね。そんなに急ぎじゃなかったんだけど……」
「え? あ、いえ、大丈夫です」

 ……ウィル、相当急かしたんだね。

「あのね。なんか白骨死体が見つかって、結婚指輪をしているみたいなの。それで身元が分からないかなって思ったんだけど、この指輪、どのくらいの収入の人が贈るものなのか知りたくって」
「……そうですか」

 サイモンはちらりとウィルのほうを見たが、ウィルは無邪気な表情で首を傾げている。

 ……ま、いっか。

「それで、どう?」
「はい……」

 サイモンは遺体から指輪を取り外し、じっくりと鑑定を始める。

「……そうですね。この指輪は銀製のようです。石は……あまり質は良くありませんがこれは琥珀です。この人がクラリントンやビッターレイの住民だったとすると……そうですね。結婚する年齢でこれを買って贈るとなると、大きな商会や商工組合などといった、ある程度金回りのいい組織の正規職員くらいでしょう」
「そうなの?」
「はい。金回りのいい商会の跡取りや自分で商会をやっているのであればもっといい石のものを買うでしょうし、平均的な庶民ではそもそも石の付いた指輪を買えません」
「騎士は?」
「騎士ですともっといいものを選ぶと思います。従騎士ですとあるかもしれせんが、従騎士が結婚というのはあまり聞いたことがありません」
「あ、そっか。それもそうだね。なるほどねぇ。ってことは、武器を持ってなかったし、見つかった場所を考えると商人……あれ?」

 あたしの脳裏にとある可能性が思い浮かんだ。

「ウィル! ちょっとデリアを呼んできて!」
「えっ? へ、へい!」

 ウィルは再び全速力で走って行く。それからしばらく待っていると、ウィルがデリアを連れてやってきた。

「姫さん、呼んで来やした」
「男爵様、ご機嫌麗しゅうございます。デリア・ポーターが参りました」
「うん。単刀直入に聞くよ。この指輪に見覚えはない? サイモン」
「はい」

 サイモンがデリアに遺体がしていた指輪を差し出した。

「……え? これは……」

 デリアはすぐに指輪の内側を確認した。するとみるみるうちに顔が青ざめていく。

「だ、男爵様、この、指輪は……」

 ああ、やっぱり。

「そこの遺体の人がしていたものだよ」
「っ!?」

 デリアは息を呑み、ふらふらと近づいていく。その表情は複雑で、色々な感情がないまぜになっているように見える。

 そして遺体が身に着けているボロボロの服を確認すると、そのまま力なく崩れ落ちた。デリアは白骨死体の胸に顔をうずめ、しくしくとすすり泣いている。

「ひ、姫さん? これは一体?」
「うん。泣かせてあげて。こんな形だけど、やっと会えたんだから」
「???」

 ウィルはなんのことだか分かっていないようで、しきりに首をひねっている。

「とにかく、邪魔しないであげてね」
「へ、へい」

 あーあ。まさかこんなことになるなんてね。間に合えばいいけれど……。
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