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第84話 決死の突撃

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 モンタギューが地下牢に入れられたころ、裏門の前では戦況に変化が生じていた。

 水堀を渡ることに成功した騎士の半数以上はすでに死亡、または戦闘不能状態となっているのだが、残った騎士たちは攻撃をかいくぐり、門に取り付くことに成功していた。

「ええい! どけ! 火の精霊よ。我が求めに応じ、我が剣に宿れ! うおおおおおお!」

 セオドリックの雄叫びとともに、剣に巨大な炎が宿った。セオドリックはそれを一閃する。

 ガキイイイン!

 激しい金属音と共に炎が放たれた。鉄格子は赤熱し、内側の門扉も炎に包まれる。

「今だ! 今のうちに鉄格子を壊せ!」
「「「はっ!」」」

 騎士たちが鉄格子に丸太を次々と差し込み、門の壁に引っかけててこの原理で鉄格子を無理やり外そうとする。

 ズシン! グシャッ!

 再び岩が投下され、騎士たちがその下敷きとなる。

「怯むな! 我らの活路は前のみだ! 破壊しろ!」
「はっ!」

 落石の合間を縫って騎士が丸太に取り付き、再び丸太に力を加える。すると赤熱し、もろくなっていた鉄格子がぐにゃりと変形した。

「いいぞ! あと一息だ!」

 ドゴォン! ズシン! グシャッ!

 鉄格子が大きな音を立てて外れたのと、次の岩が投下されたのは同時だった。

「今だ! 門の下に入りこめ!」
「「「はっ!」」」

 騎士たちは一斉に門の中に雪崩れ込むと、火のついている木製の門扉に先のとがった丸太を勢いよくぶつけた。

 ドシン! バキン!

 激しい音と共に門扉がきしむ。

「もう一度!」
「「「はっ!」」」

 騎士たちが再度丸太をぶつけると、今度は丸太が門扉を貫通した。

「いいぞ! 叩き壊せ!」
「「「はっ!」」」

 それからも騎士たちは何度となく丸太をぶつけ、ついに門扉は破壊されてしまう。

「よし! 進め! 目標はスカーレットフォード男爵閣下の身柄の確保だ! 他の者は農奴か平民だ!」
「「「はっ!」」」

 騎士たちは村内に雪崩れ込む。その先にはすでに収穫を終えた小麦畑が広がっており、彼らの往く手を阻む者はいない。

 と、思われたのだが……。

「ぎゃっ!?」

 突如、道の端を走っていた一人の騎士が悲鳴を上げ、そのまま小麦畑へと転落した。

「おい! 何コケてんぎゃっ!?」

 小馬鹿にするようにそう言った男も同じように悲鳴を上げ、小麦畑へと転落していく。

「脱落した者に構うな! 進め! 目標は中央広場にある村長の家だ!」
「「「はっ!」」」

 セオドリックたちは転落した者たちを置いて先を急ぐが、数分に一度ほどの割合で騎士が小麦畑へと転落する。

 こうして犠牲を顧みずに麦畑を駆け抜けたことで多くの騎士を失い、気付けばその人数は十名ほどにまで減っていた。

 そんなセオドリックたちは再開発に向けて空き地となっているエリア、つまりアルフレッドとエドワードの連れてきた騎士や従騎士たちが下女たちと共に野宿している場所に到着した。

 多くのテントが張られており、何か所かにはかがり火まで焚かれている。

「これは一体……?」

 カランコロン。

 状況が理解できないセオドリックたちの前に、短剣と木製の盾を持ったゴブリンのスケルトンたちが行く手を遮るように立ちはだかった。

「なんだ? こいつら!?」
「化け物?」
「何が化け物だ!」

 突然男の声がしたかと思うと、なんとゴブリンのスケルトンたちの背後から次々と武装した男たちが現れた。アルフレッドとエドワードが連れてきた騎士たちである。

「お前らが襲撃者だな?」
「よくも!」
「許さん!」

 彼らは一様に殺気立っており、セオドリックたちを憎悪のこもった目でにらみ付けている。

 だがそれも当然のことだろう。なぜなら、彼らは連れてきた下女たちとよろしくやっていたところを中断されているのだから。

「え?」
「な……なぜこんな戦力が?」
「なんだ? 襲撃というのは盗賊ではないのか?」
「あのそろった装備、騎士っぽくないか?」
「信じられん。神聖なる感謝祭の夜に他領を襲撃するとは」
「言語道断!」
「許すまじ!」
「騎士の誇りに懸けて!」

 騎士たちは次々とゴブリンのスケルトンたちの前に出る。

「む? あの紋章、サウスベリー侯爵のものではないか!」
「サウスベリー侯爵といえば、スカーレットフォード男爵閣下の!」
「なんという外道!」
「我らは誇り高きバイスター公爵騎士団である! 外道どもをひっ捕らえよ!」
「ラズロー伯爵騎士団の皆! バイスターに負けてはおれんぞ!」

 騎士たちは野宿のエリアを飛び出し、セオドリックたちに襲い掛かる。

「くっ! 陣形を組め! 道は狭い! 受け止めろ! 俺が魔法でがっ!?」

 突如、セオドリックの右膝から激痛が走った。セオドリックが慌てて下を見ると、ホーンラビットのスケルトンが鎧の隙間に突き刺さっている。

「なっ!? なんだ! こいつ!」

 セオドリックは慌てて引き抜き、思い切り地面に叩きつけた。

 ガシャーン!

 ホーンラビットのスケルトンはバラバラになったが、すぐに元どおりになってむくりと起き上がる。

「ひっ!? な、ど、どうなって……」
「うわっ! セオドリック卿! ご指示を!」
「セオドリック卿!」
「大人しくしろ!」
「ぐあっ!?」
「やめろ!」
「うわぁぁぁぁ」

 セオドリックたちはなすすべもなく、アルフレッドとエドワードの連れてきた騎士たちによって取り押さえられたのだった。
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