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第82話 追放幼女、刺客と戦う
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外に出ると、感謝祭の余韻の残る広場の向こうからランプの明かりが近づいてきた。
「お嬢様!」
「あ、マリー!」
「避難誘導を終えました」
「マリー! 早くこっちに! 侵入されたみたい!」
「いたぞ!」
あたしがそう叫んだのと同時に男の声が聞こえてきた。それと同時にマリーの背後から人影が近づいてくる。
「マリー! 後ろ!」
「え? きゃっ!?」
マリーは背後から髪を引っ張られ、よろめいた。マリーは持っていたランプを落とし、ガラスの割れる音が聞こえてくる。
「この半貴族が! 手間を取らせやがって!」
「……お前は」
地面に落ちたランプの灯りに照らされ、はっきりと姿が確認できるようになったその影の正体はモンタギューだった。
「……出入り禁止となったお兄さまがなぜここに?」
「うるせぇ!」
モンタギューはいきなり激昂し、マリーを地面に引きずり倒した。
「マリー!」
「半貴族の分際で妹面してんじゃねぇよ!」
「う……」
「やめなさい!」
「おっと。いいんですかい? お嬢様の大切な乳母がどうなっても」
そう言ってモンタギューはうつ伏せに倒れているマリーの背中に馬乗りになり、マリーの首筋に短剣を差し当てた。
「ああ、あの妙な魔法を使っても無駄ですよ。こいつを殺す時間くらいはあるんでね」
残念だがこいつの言うとおり、一瞬で動きを止めるのは不可能だ。こいつは騎士爵と言っていたし、マリーの兄なんだから魔力持ちなのだろう。その証拠に、前回縛ったときの抵抗はものすごかった。
「う……この……卑怯者!」
「ふん。我が主の命令なんでね」
「う……」
どうしよう?
「お嬢様! どうか私などに構わず!」
「うるせぇ! 半貴族は黙ってろ!」
「うううっ」
「やめなさい!」
「さあて、やめるかどうかはお嬢様次第ですよ」
え? あたし次第? あたしの命が狙いなんじゃ?
「……何が目的なの?」
「それはもちろん、お嬢様の身柄ですよ。スカーレットフォード男爵ではなく、サウスベリー侯爵令嬢に戻っていただきます」
は?
「ほら、分かったらさっさと爵位譲渡証明書を持ってきてください」
「……」
「いいんですか? 早くしないとこの半貴族が……」
「わ、分かった! 分かったから……」
「なら早くしてください」
「お嬢様! いけません!」
「黙れっつってんだろうが!」
「ううっ!」
「やめて! お願いだからマリーに手を出さないで! 分かったから。持ってくるから」
「ええ。早くしてくださいよ」
あたしがモンタギューに背を向け、爵位譲渡証明書を取りに行こうとしたそのときだった。
「ぎゃっ!?」
「ぐあああ」
「なんだこりゃ!?」
そんな男の悲鳴があたしの左右から聞こえてきた。慌てて左右を確認すると、右に二人、左に一人剣を持った男が倒れており、それぞれ二~三体のホーンラビットのスケルトンが突き刺さっている。
まさかこいつら! あたしが背を向けた隙に!?
「水の精霊よ! 我が求めに応じ、水流となれ!」
「うおっ!?」
カランカラン。
マリーの魔法がモンタギューの短剣を弾き飛ばした。
「お嬢様! 今のうちに!」
マリーの叫び声に、あたしはすぐさま全力でモンタギューの魂を縛る。
「がっ!? こ、この……俺は!」
モンタギューは全力で抵抗しているのか、中々縛れない。
「水の精霊よ! 我が求めに応じ、水球となれ!」
組み伏せられているマリーが再び水の精霊魔法を使い、顔ほどの大きさの水の球を作り出した。その水の球はモンタギューの顔面の位置で、口と鼻を覆うように張り付く。
「ごぼっ!? ももももっ!」
突如呼吸を封じられ、抵抗が一気に弱まる。
チャンス!
あたしはここぞとばかりに抵抗を押し切り、魂を縛ることに成功した。
「マリー!」
「お嬢様、大丈夫です」
マリーは動けなくなったモンタギューの下からのそのそと抜け出してきた。怪我をしている様子はないが、そのあまりに卑劣な手口に怒りが収まらない。
あたしはそれを直接ぶつけてやろうとモンタギューに近づく。
「お前、よくも」
さらにモンタギューの魂を強く縛りつけてやる。
「ぐっ!? がっ、はっ……」
ふん。いい気味だ。でもこんなもんじゃ済まさない。
ふとモンタギューの持っていた短剣が目につく。
そうだ。あの短剣で……!
「お前、楽に死ねると――」
「お嬢様、言葉遣いが乱れていますよ」
「え?」
マリーにピシャリと言われ、頭に上っていた血がすっと引いていく。
そうだった。こんなところで怒りに任せてちゃだめだ。
「……ええ、そうでしたわね。G-77、この無法者を動けないように縛りなさい」
カランコロン。
家の中からG-77が数体のゴブリンのスケルトンと共に出てきて、モンタギューを麻縄で縛っていく。
「この男が終わったらそこで倒れている侵入者どもを縛りなさい」
あたしはちらりとホーンラビットのスケルトンたちに刺されて倒れている男たちのほうを見やる。
……うわぁ。ものすごい執拗に何度も何度も刺してる。ちゃんと止めないとあそこまでやるんだね。
でも、動ける状態で攻撃を止めたら大変だしね。可哀想だけど、モンタギューのほうが終わるまではそのままにするしかない。
手遅れにならなければいいけれど。
================
【更新スケジュールに関するお知らせ】
ストックが無くなって参りましたので、今後の更新スケジュールは以下のとおりとなります。
2024年9月:毎日 18:00
2024年10月:毎週水曜日と日曜日の 18:00
2024年11月以降:毎週日曜日 18:00
ご不便をおかけしますが、書籍の執筆時間を確保しなければなりませんので、ご理解いただけますと幸いです。
「お嬢様!」
「あ、マリー!」
「避難誘導を終えました」
「マリー! 早くこっちに! 侵入されたみたい!」
「いたぞ!」
あたしがそう叫んだのと同時に男の声が聞こえてきた。それと同時にマリーの背後から人影が近づいてくる。
「マリー! 後ろ!」
「え? きゃっ!?」
マリーは背後から髪を引っ張られ、よろめいた。マリーは持っていたランプを落とし、ガラスの割れる音が聞こえてくる。
「この半貴族が! 手間を取らせやがって!」
「……お前は」
地面に落ちたランプの灯りに照らされ、はっきりと姿が確認できるようになったその影の正体はモンタギューだった。
「……出入り禁止となったお兄さまがなぜここに?」
「うるせぇ!」
モンタギューはいきなり激昂し、マリーを地面に引きずり倒した。
「マリー!」
「半貴族の分際で妹面してんじゃねぇよ!」
「う……」
「やめなさい!」
「おっと。いいんですかい? お嬢様の大切な乳母がどうなっても」
そう言ってモンタギューはうつ伏せに倒れているマリーの背中に馬乗りになり、マリーの首筋に短剣を差し当てた。
「ああ、あの妙な魔法を使っても無駄ですよ。こいつを殺す時間くらいはあるんでね」
残念だがこいつの言うとおり、一瞬で動きを止めるのは不可能だ。こいつは騎士爵と言っていたし、マリーの兄なんだから魔力持ちなのだろう。その証拠に、前回縛ったときの抵抗はものすごかった。
「う……この……卑怯者!」
「ふん。我が主の命令なんでね」
「う……」
どうしよう?
「お嬢様! どうか私などに構わず!」
「うるせぇ! 半貴族は黙ってろ!」
「うううっ」
「やめなさい!」
「さあて、やめるかどうかはお嬢様次第ですよ」
え? あたし次第? あたしの命が狙いなんじゃ?
「……何が目的なの?」
「それはもちろん、お嬢様の身柄ですよ。スカーレットフォード男爵ではなく、サウスベリー侯爵令嬢に戻っていただきます」
は?
「ほら、分かったらさっさと爵位譲渡証明書を持ってきてください」
「……」
「いいんですか? 早くしないとこの半貴族が……」
「わ、分かった! 分かったから……」
「なら早くしてください」
「お嬢様! いけません!」
「黙れっつってんだろうが!」
「ううっ!」
「やめて! お願いだからマリーに手を出さないで! 分かったから。持ってくるから」
「ええ。早くしてくださいよ」
あたしがモンタギューに背を向け、爵位譲渡証明書を取りに行こうとしたそのときだった。
「ぎゃっ!?」
「ぐあああ」
「なんだこりゃ!?」
そんな男の悲鳴があたしの左右から聞こえてきた。慌てて左右を確認すると、右に二人、左に一人剣を持った男が倒れており、それぞれ二~三体のホーンラビットのスケルトンが突き刺さっている。
まさかこいつら! あたしが背を向けた隙に!?
「水の精霊よ! 我が求めに応じ、水流となれ!」
「うおっ!?」
カランカラン。
マリーの魔法がモンタギューの短剣を弾き飛ばした。
「お嬢様! 今のうちに!」
マリーの叫び声に、あたしはすぐさま全力でモンタギューの魂を縛る。
「がっ!? こ、この……俺は!」
モンタギューは全力で抵抗しているのか、中々縛れない。
「水の精霊よ! 我が求めに応じ、水球となれ!」
組み伏せられているマリーが再び水の精霊魔法を使い、顔ほどの大きさの水の球を作り出した。その水の球はモンタギューの顔面の位置で、口と鼻を覆うように張り付く。
「ごぼっ!? ももももっ!」
突如呼吸を封じられ、抵抗が一気に弱まる。
チャンス!
あたしはここぞとばかりに抵抗を押し切り、魂を縛ることに成功した。
「マリー!」
「お嬢様、大丈夫です」
マリーは動けなくなったモンタギューの下からのそのそと抜け出してきた。怪我をしている様子はないが、そのあまりに卑劣な手口に怒りが収まらない。
あたしはそれを直接ぶつけてやろうとモンタギューに近づく。
「お前、よくも」
さらにモンタギューの魂を強く縛りつけてやる。
「ぐっ!? がっ、はっ……」
ふん。いい気味だ。でもこんなもんじゃ済まさない。
ふとモンタギューの持っていた短剣が目につく。
そうだ。あの短剣で……!
「お前、楽に死ねると――」
「お嬢様、言葉遣いが乱れていますよ」
「え?」
マリーにピシャリと言われ、頭に上っていた血がすっと引いていく。
そうだった。こんなところで怒りに任せてちゃだめだ。
「……ええ、そうでしたわね。G-77、この無法者を動けないように縛りなさい」
カランコロン。
家の中からG-77が数体のゴブリンのスケルトンと共に出てきて、モンタギューを麻縄で縛っていく。
「この男が終わったらそこで倒れている侵入者どもを縛りなさい」
あたしはちらりとホーンラビットのスケルトンたちに刺されて倒れている男たちのほうを見やる。
……うわぁ。ものすごい執拗に何度も何度も刺してる。ちゃんと止めないとあそこまでやるんだね。
でも、動ける状態で攻撃を止めたら大変だしね。可哀想だけど、モンタギューのほうが終わるまではそのままにするしかない。
手遅れにならなければいいけれど。
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2024年10月:毎週水曜日と日曜日の 18:00
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ご不便をおかけしますが、書籍の執筆時間を確保しなければなりませんので、ご理解いただけますと幸いです。
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