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第81話 追放幼女、状況を確認する
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一方、水堀を渡り損ねた騎士たちにも容赦なく落石が襲い掛かる。
「なんなんだ! これは!」
「落ち着いて盾で身を守れ! この程度なら盾で防げるぞ!」
「はっ!」
「ようし、いいぞ。別の門を探すぞ! セオドリック卿であればそう簡単にやられはしない! 散開しつつ、水堀沿いに進め!」
「「「はっ!」」」
リチャードの命令で騎士たちはすぐさま統制を取り戻し、距離を保ちながら水堀沿いを走りだす。
そうしてしばらく走って行くと、突如先頭を走る騎士が吹き飛んだ。その騎士は見事な放物線を描いて水堀に落ち、そのままなすすべなく沈んでいく。
「えっ?」
「な、何がっ!?」
「ぐあっ!?」
騎士が次々と吹き飛んでいく。
「な、何か……いる?」
カランコロンと乾いた音は聞こえるが、月没を待って行動しているせいで月明かりすらない。このような状況で真っ黒なスケルトンを視認することは容易ではない。
困惑している間にも次々と騎士たちは吹き飛ばされていく。
もちろん水堀に落ちなかった者もいるが、そんな彼らの中に動く者は誰一人としていない。
「な、い、一体何が……灯りをつけろ!」
「はっ!」
リチャードの命令に、一人の騎士が松明に火をつけた。すると目の前にいる真っ黒なクレセントベアのスケルトンの姿がぼんやりと照らし出される。
見たこともない異様な姿と赤く血塗られたその前脚。
「ひっ!?」
「なん……だ? コレは……」
「まさか……こいつが……?」
「リ、リチャード卿!」
あまりのことに騎士たちは固まってしまった。
「え、ええい! 風の精霊よ! 我が求めに応じ、刃となれ!」
リチャードはそう叫ぶと、剣を横に一閃した。すると風は刃となり、クレセントベアのスケルトンに襲い掛かる。
「……あ、あれ?」
「む、無傷?」
「そ、そんな……」
正確には無傷ではなく、小さな切り傷ができていた。だがクレセントベアのスケルトンはまるで気にした様子もなく、次々に騎士たちをその手に掛けていく。クレセントベアのスケルトンが前脚を横に一振りするだけで騎士は吹き飛び、噛みつかれれば鎧ごと簡単に砕かれる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
「逃げろ!」
「化け物だ!」
騎士たちは統制を失い、散り散りになって逃げていく。
だが!
「がっ!?」
「いてっ!?」
騎士たちは突如激痛に襲われる。
なんと、彼らの足にホーンラビットのスケルトンが突き刺さったのだ。
「ぎゃああああ」
あまりの痛みに絶叫する騎士たち。そこにクレセントベアのスケルトンがやってきて……。
◆◇◆
一方、オリヴィアの確保を命じられたモンタギューは三名の部下と共に街壁沿いを疾走し、ついには街壁の上に陣取るゴブリンのスケルトンたちの死角に身をひそめることに成功した。
「モンタギュー卿、いかがなさいますか?」
するとモンタギューは小さく舌打ちをした。
「崩すのは……難しそうだな。越えるしかあるまい」
「ですがあの投石と矢の嵐の中では……」
「正面から行くわけがないだろう。いくら堅固な壁があるとはいえ、人が暮らしている以上は水が必要だ。前回、村内に水路があることは確認している。そこから行くぞ」
「……かしこまりました」
「水の精霊よ。我が求めに応じ、膜となれ」
するとモンタギューたちを水の膜が包み込んだ。
「いくぞ」
「「「はっ」」」
モンタギューたちは自ら水の中へと飛び込むのだった。
◆◇◆
「おや? オリヴィア様、もうよろしいのですか?」
「ええ。もう指示は出しましたわ」
「そうですか」
アルフレッド卿は意外そうな表情を浮かべた。
「あら? わたくしが正面に立つべきだと?」
「いえいえ、そのようなことはございませんよ」
アルフレッド卿は急に笑顔になってそう言ってきた。
「アルフレッド卿、わたくしだって貴族たるもの、先頭に立って民を守るべきだということくらいは理解していますわ」
「ではなぜ……」
「ええ。今回の襲撃は魔物ではなく、サウスベリー侯爵騎士団ですの。ですから、わたくしが前に出たら彼らの思う壺ですわ。そんなことをすれば、あの者たちにわたくしの命を奪いやすくさせるだけでしょう?」
「なんと! そのような外道なことが……」
「ええ。それがお父さまのやり方なのでしょうね」
あたしはそう答えると、アルフレッド卿から視線を逸らした。
「それでは、わたくしは引き続き対応しなければなりませんので、これにて失礼いたしますわ」
「ええ」
こうしてあたしはアルフレッド卿の前を辞すると、中庭にやってきた。
それからしばらく待っていると、早鐘が鳴りやんだ。撃退したか、もしくは避難が終わったのどちらかだろう。
と、Bi-61が戻ってきた。あたしの前で何度も頭を上げ下げしている。
あれ? 侵入されたの?
「どっちの方向?」
するとBi-61は南のほうを向いた。
「南? ……そっちには門なんてないと思うんだけど、もしかして壁が壊された?」
しかしBi-61は反応しない。
「違うんだ。じゃあ、乗り越えてきた?」
やはり反応しない。
「え? どういうこと? どうやって壁を越えたんだろう?」
しかしBi-61は答えない。細かく説明する能力がないのがなんとももどかしい。
うーん? でも南側で壁を越えないで侵入できる場所なんて……あ!
「もしかして、水路?」
するとBi-61は頭を一回下げた。
「ふうん。なるほどね。ちゃんとクマが見張っていたはずなのに、よく侵入できたね。まあいいや。人数は? 一人?」
こうしてBi-61に細かく聞いていった結果、侵入者は四人ということが分かった。
そう。ならすぐにこっちに来るかな? ということは、外に出ておいたほうがいいね。
あたしはそう考えて正面玄関から外に出るのだった。
「なんなんだ! これは!」
「落ち着いて盾で身を守れ! この程度なら盾で防げるぞ!」
「はっ!」
「ようし、いいぞ。別の門を探すぞ! セオドリック卿であればそう簡単にやられはしない! 散開しつつ、水堀沿いに進め!」
「「「はっ!」」」
リチャードの命令で騎士たちはすぐさま統制を取り戻し、距離を保ちながら水堀沿いを走りだす。
そうしてしばらく走って行くと、突如先頭を走る騎士が吹き飛んだ。その騎士は見事な放物線を描いて水堀に落ち、そのままなすすべなく沈んでいく。
「えっ?」
「な、何がっ!?」
「ぐあっ!?」
騎士が次々と吹き飛んでいく。
「な、何か……いる?」
カランコロンと乾いた音は聞こえるが、月没を待って行動しているせいで月明かりすらない。このような状況で真っ黒なスケルトンを視認することは容易ではない。
困惑している間にも次々と騎士たちは吹き飛ばされていく。
もちろん水堀に落ちなかった者もいるが、そんな彼らの中に動く者は誰一人としていない。
「な、い、一体何が……灯りをつけろ!」
「はっ!」
リチャードの命令に、一人の騎士が松明に火をつけた。すると目の前にいる真っ黒なクレセントベアのスケルトンの姿がぼんやりと照らし出される。
見たこともない異様な姿と赤く血塗られたその前脚。
「ひっ!?」
「なん……だ? コレは……」
「まさか……こいつが……?」
「リ、リチャード卿!」
あまりのことに騎士たちは固まってしまった。
「え、ええい! 風の精霊よ! 我が求めに応じ、刃となれ!」
リチャードはそう叫ぶと、剣を横に一閃した。すると風は刃となり、クレセントベアのスケルトンに襲い掛かる。
「……あ、あれ?」
「む、無傷?」
「そ、そんな……」
正確には無傷ではなく、小さな切り傷ができていた。だがクレセントベアのスケルトンはまるで気にした様子もなく、次々に騎士たちをその手に掛けていく。クレセントベアのスケルトンが前脚を横に一振りするだけで騎士は吹き飛び、噛みつかれれば鎧ごと簡単に砕かれる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
「逃げろ!」
「化け物だ!」
騎士たちは統制を失い、散り散りになって逃げていく。
だが!
「がっ!?」
「いてっ!?」
騎士たちは突如激痛に襲われる。
なんと、彼らの足にホーンラビットのスケルトンが突き刺さったのだ。
「ぎゃああああ」
あまりの痛みに絶叫する騎士たち。そこにクレセントベアのスケルトンがやってきて……。
◆◇◆
一方、オリヴィアの確保を命じられたモンタギューは三名の部下と共に街壁沿いを疾走し、ついには街壁の上に陣取るゴブリンのスケルトンたちの死角に身をひそめることに成功した。
「モンタギュー卿、いかがなさいますか?」
するとモンタギューは小さく舌打ちをした。
「崩すのは……難しそうだな。越えるしかあるまい」
「ですがあの投石と矢の嵐の中では……」
「正面から行くわけがないだろう。いくら堅固な壁があるとはいえ、人が暮らしている以上は水が必要だ。前回、村内に水路があることは確認している。そこから行くぞ」
「……かしこまりました」
「水の精霊よ。我が求めに応じ、膜となれ」
するとモンタギューたちを水の膜が包み込んだ。
「いくぞ」
「「「はっ」」」
モンタギューたちは自ら水の中へと飛び込むのだった。
◆◇◆
「おや? オリヴィア様、もうよろしいのですか?」
「ええ。もう指示は出しましたわ」
「そうですか」
アルフレッド卿は意外そうな表情を浮かべた。
「あら? わたくしが正面に立つべきだと?」
「いえいえ、そのようなことはございませんよ」
アルフレッド卿は急に笑顔になってそう言ってきた。
「アルフレッド卿、わたくしだって貴族たるもの、先頭に立って民を守るべきだということくらいは理解していますわ」
「ではなぜ……」
「ええ。今回の襲撃は魔物ではなく、サウスベリー侯爵騎士団ですの。ですから、わたくしが前に出たら彼らの思う壺ですわ。そんなことをすれば、あの者たちにわたくしの命を奪いやすくさせるだけでしょう?」
「なんと! そのような外道なことが……」
「ええ。それがお父さまのやり方なのでしょうね」
あたしはそう答えると、アルフレッド卿から視線を逸らした。
「それでは、わたくしは引き続き対応しなければなりませんので、これにて失礼いたしますわ」
「ええ」
こうしてあたしはアルフレッド卿の前を辞すると、中庭にやってきた。
それからしばらく待っていると、早鐘が鳴りやんだ。撃退したか、もしくは避難が終わったのどちらかだろう。
と、Bi-61が戻ってきた。あたしの前で何度も頭を上げ下げしている。
あれ? 侵入されたの?
「どっちの方向?」
するとBi-61は南のほうを向いた。
「南? ……そっちには門なんてないと思うんだけど、もしかして壁が壊された?」
しかしBi-61は反応しない。
「違うんだ。じゃあ、乗り越えてきた?」
やはり反応しない。
「え? どういうこと? どうやって壁を越えたんだろう?」
しかしBi-61は答えない。細かく説明する能力がないのがなんとももどかしい。
うーん? でも南側で壁を越えないで侵入できる場所なんて……あ!
「もしかして、水路?」
するとBi-61は頭を一回下げた。
「ふうん。なるほどね。ちゃんとクマが見張っていたはずなのに、よく侵入できたね。まあいいや。人数は? 一人?」
こうしてBi-61に細かく聞いていった結果、侵入者は四人ということが分かった。
そう。ならすぐにこっちに来るかな? ということは、外に出ておいたほうがいいね。
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