追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎

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第78話 追放幼女、奉納舞を踊る

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 それからあたしはあちら側の連れてきた商会とサイモンを交えて会談を行い、三領地間の通商協定に署名した。

 その内容はまず、バイスター公爵とラズロー伯爵が指定する二つの商会に対してスカーレットフォードでの金と銀の地金市場への参加を保証し、金銀の地金の持ち込み税と持ち出し税を免除する。

 その代わりにスカーレットフォード男爵が指定する一つの商会に対してバイスター公爵領とラズロー伯爵領での同等の権利を保証し、さらに鉛、ミョウバン、硝石など、様々な品物のスカーレットフォード男爵領への持ち出し税を免除するというものだ。

 この持ち込み税と持ち出し税というものは、門を通過する際の積荷にかかる税金だ。それに加えて門では通行料金を徴収するのが一般的とされている。

 なんで持ち込みと持ち出しの両方に税金がかかるのかというと、それは行商人に対応するためなのだという。

 というのも行商人はすぐに移動してしまうため、儲けたお金に対して税金を取ることが難しい。そのため、何をもっているかで税金を徴収するのだという。

 しかもこれは町の単位でそれぞれ行われる。つまり、荷物を持って町を通過するだけで何度も税金を取られてしまうということになるのだ。

 同じ領地内では一回だけとかにすればいいのに、とは思うのだけれど……。

 それはさておき、こうして無事に交渉がまとまり、その夜はアルフレッド卿とエドワード卿を歓迎する晩さん会を開いた。

 そして気付けばあっという間に収穫祭を迎えることとなった。

 今年も去年と一緒で、大量のワイルドボアのステーキとワイルドボアのシチューを用意してある。

 もちろんみんなが大好きなエールもね!

 午後になったばかりだというのにみんなは楽しそうに踊っている。ただ、今年は訪問団がいるので去年と比べるとちょっと遠慮している気もするかな。

 そうこうしているうちに、午後二つ目の鐘が鳴った。

 さあ、時間だ! 今年も頑張ろう!

 あたしは儀式用の衣装に身を包み、舞台へと上がるのだった。

◆◇◆

 今年も去年と同じように奉納舞を披露し、ウィルが豚を生贄に捧げて終了となった。

 舞台から降り、着替えるために家に戻ってくる途中でミュリエルが声を掛けてきた。

「オリヴィア様!」
「やあ、ミュリエル」
「素敵でしたわ! あれが『すけ』を操るオリヴィア様の魔力なのですね!」
「うん」
「黒だなんて初めて見ましたわ。なんだか、とっても神秘的でしたわね」
「そう? ありがとう」

 ミュリエルって黒目黒髪に偏見ってないのかな? それとも、あたしの生物学上の父親がおかしいだけ?

 少なくともミュリエルの瞳に嘘の色はなさそうだけど……。

 ふと変な方向に思考が飛んでいきそうになったので、頭を切り替えて少し気になっていたことを聞いてみることにした。

「ところでさ。ちょっと聞いていい?」
「はい、なんですの?」
「その、『すけ』って、もしかして……?」
「あら? オリヴィア様の骨人形のことじゃないんですの? ゴブリンの骨人形は『ゴブすけ』、鳥の骨人形は『鳥すけ』、ワイルドボアの骨人形は『ボアすけ』ですのよね?」
「あー、うん。まあ、そうっていえばそう、かな?」

 そう言えばアルフレッド卿も使ってたような? もしかして外ではスケルトンって『すけ』って呼ばれてたりするの? でもなんで?

 ……あ! もしかしてウィルたちがそう呼んでたのがサイモンに伝染して、そこから広まった?

「ふふっ、変なオリヴィア様」
「あ、あははは。じゃ、じゃあ、着替えてくるね」

 あたしはなんだか少し恥ずかしくなり、ミュリエルの前から逃げ出したのだった。

◆◇◆

 着替え終わり、いよいよお楽しみの時間がやってきた。

「皆さん、今年もパンとお肉、シチュー、それからエールも用意しましたわ。また、バイスター公爵とラズロー伯爵より、ワインと紅茶をご提供いただいていますわ」

 あたしがそう宣言すると、みんなはどよめいた。

 このあたりではぶどうの木があまり上手く育たないため、ワインは高級品なのだそうだ。紅茶に至っては国内で栽培されていないため、すべて輸入品となる。

「それでは皆さん、これより無礼講となりますわ。神様のお恵みに感謝し、いただきましょう。はい! 無礼講!」

 そうは言ったものの、あたしがよそ行きモードだったせいか、去年と比べてずいぶんと大人しい。

「ほら! 無礼講だよ! 気にせず食べて!」

 だがやはりみんなもいまいちはっちゃけられないらしい。

「オリヴィア嬢、貴族がいては楽しめないでしょう。我々は中へ」
「ええ、そうですわね」

 こうしてあたしはアルフレッド卿たちと共に家の中へと入るのだった。

 ううん、残念。またみんなと一緒に踊りたかったのにな。

◆◇◆

 日が沈み、スカーレットフォードに夜の帳が下りた。最初こそぎこちなかったものの、みんなもあたしたちがいなくなってからは大分楽しめたようだ。

 あたしはというと貴族だけで食事会をして、今は部屋に帰ってきている。食事会にはミュリエルも参加していて、色々と話をしたけれど、はっきり言って全然楽しくなかった。

 特にアルフレッド卿! 彼はどうにかしてあたしに恩を売ろうとしてくるので本当に神経を使う。

「はぁ」

 小さくため息をつき、窓から外の様子を眺める。

 広場からは未だに楽し気な声が聞こえてきており、手拍子も聞こえるので踊りを踊っているのだろう。

 今年は用意したエールも多いし、ワインもあるからきっとすごいべろべろになってるんだろうなぁ。

 あたしもちょっと混ざりに行こうかな?

 そんな考えが頭をよぎったちょうどそのときだった。

 カンカンカン!

 突如、襲撃を知らせる早鐘が鳴る!
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