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第62話 追放幼女、村の大改造を考える

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 砂金の流出防止用のため池を作ったのを期に、あたしは村を大改造することにした。

 だって、金鉱脈を見つければ絶対にスカーレットフォードは発展するでしょ?

 そうなると町を広げないといけないから住むところがもっと必要になるし、その人々を養うには畑も牧場も広げないといけない。

 それとね。なんか金の精製って鉛を使うらしいんだよね。それってつまり公害が出るってことだから、町中や水源の近くでやるわけにはいかないでしょ?

 それに、鉱山が川の上流にあるって言うことは、鉱毒とかの問題が起きるかもしれないよね?

 だから今のうちにきちんと都市計画を作って、ちゃんと町づくりを進めてしまおうってわけ。

 あと、クラリントン方面の門はもう廃止にして、いつ生物学上の父親が攻めてきてもいいようにきっちり準備しておこうと思う。

 だって、あたしが黒目黒髪だってだけで追い出すような頭のおかしいおじさんだよ?

 マリーは難癖をつけてくるかもって心配してるけど、あたしは兵隊を送ってきてもおかしくないと思うんだ。

 なにせ、誘拐からの人身売買を平気でやってるくらいだしね。他にも絶対ろくでもないことをしてると思う。

 もちろん本当に攻めてくるかは分からないけど、生物学上の父親の人となりってあたし、よく知らないんだよね。

 だってほら、会って話したのは追放されたあの晩が最初で最後なんだしさ。

 あ、ちなみにあたしの生物学上の父親についてのまほイケ情報は何もないよ。

 というのもね。実はサウスベリー侯爵って、まほイケでは一度も登場していないんだ。義母と義弟は出てきてたけど。

 それに不自然なのは、悪役令嬢オリヴィアが『サウスベリー侯爵令嬢』として、お金を湯水のように使っていたことだ。

 あの生物学上の父親がそんなことを許すなんて、ねぇ?

 あ、あと、出てきてないっていうと、マリーもだね。その代わり、悪役令嬢オリヴィアは学園で大勢の取り巻きたちをぞろぞろと引き連れていた。

 ただ、これは舞台が魔法学園だったからかもね。十五歳にもなってまだ乳母と一緒だなんて、間違いなく子供っぽいって思われるでしょ?

 とはいえ、もうすでにストーリーなんてどっかに行っちゃってる気もするし、そのへんは気にしても仕方ないかな。

 ともかく、そんなわけでサウスベリー侯爵領方面にはきっちり防衛施設を作るつもり。

 といっても、もうすでにクラリントンに向かう街道は藪になってるし、領境の小川を渡る橋も落としてはおいたけど、念には念をってね。

 あ、あとついでにため池を掘ったときに出た残土を向こう側に勝手に捨てて、道を塞ぐってのはやっておいたよ。

 ま、問題ないよね。多分。

 その話はさておき、どうせだから水道も整備してしまおうと思ってるよ。飲み水がないのも嫌だし、汚物まみれで臭いのも嫌だからね。

 うーん、でもどうやったら水道って作れるのかな? あたしも詳しくないし、やっぱりどこかから専門家を呼んだほうがいいのかな?

 よし。困ったときはマリーに相談だ。

 そう考えたあたしはマリーのいる執務室へとやってきた。

「マリー」
「はい、お嬢様。どうなさいましたか?」
「うん。実はね……」

 あたしは村の大改造を考えていることを伝えた。

「そうですか。ですが下水道なるものは聞いたことがありません」
「そうなの?」
「はい。水道はサウスベリーの一部に引かれておりました。サウスポートにもあると聞いていますが、他では聞いたことがありません」
「そうなんだ。じゃあ、うんちとかどうしていたの?」
「回収に出されるものもありますが、そのあたりに捨てる場合も多いですね」
「えっ!? そのあたりに? でもそんなに臭くなかったような? あたしのところはちゃんと回収に出されていたってこと?」
「はい」
「なるほどねぇ。そういえば、馬車で町中を通ったときは変な臭いしたもんね」
「はい。それとこの村では、し尿は捨てないほうがよろしいかと」
「どういうこと?」
「肥料として使っているそうです」
「えっ!? そうなの?」
「はい。し尿は集めて、特殊な処理をすることで肥料として使っているそうです」
「はぁ。そうなんだ。うーん、難しい問題だね。ボブ?」
「はい。ボブに聞けば間違いないかと」
「分かった。じゃあ、上水道はやるとして、下水道は考えるよ」
「はい」

 それからあたしは他のことも相談し、まずは上水道用のダムの建設と村の南東の防衛施設を先に進めることにしたのだった。

◆◇◆

 一方その頃、サウスベリーにある侯爵邸を裕福そうな一人の中年男性が訪れていた。それを応接室でブライアンが出迎える。

「突然どうしましたか? 奥様の夜会用ドレスの完成予定はまだですよね?」
「王都で気になる噂が流れていますので緊急で」
「気になる噂?」
「ええ。サウスベリー侯爵閣下が悪魔に取りかれ、実の娘を乱暴したうえで惨殺し、さらにその証拠隠滅のために魔の森に捨てた、とね」

 ブライアンは呆れたような表情を浮かべた。

「なんですか? その根も葉もない下らない噂を報告するためにわざわざ来たのですか?」
「そうは言いますがね。王都はもうその噂で持ちきりですよ。王宮の女官たちから教会関係者にまで広まっており、しかも次々と尾ひれがつけられていて面白おかしく広がってるんですよ」
「尾ひれ、ですか……」
「後妻、つまり奥様が自分の子供に後を継がせるために殺した、だとか、侯爵閣下が娘の才能に嫉妬してやった、などというものもありましたね」

 ブライアンは大きなため息をついた。

「それをなんとかするのがお前たちの役目でしょう」
「……おかしいとは思いませんか? サウスベリーでは一切そのような噂を聞かないというのに、なぜ王都ではそのような噂が流れるのか?」

 ブライアンは目をスッと細めた。

「さらに、ラズロー伯爵領では別の噂が流れています。サウスベリー侯爵は前妻との間に生まれた黒目黒髪の娘を疎んじ、殺そうと思って魔の森に捨てた。だがその娘は実は天才だったため自らの力で生き残り、ついにはラズロー伯爵と手を結んだ。大人になった暁には万の軍勢を率い、復讐するつもりであろう、と」
「……」
「おかしいですよねぇ。サウスベリー侯爵閣下と今は亡きエルフリーデ奥様の間には娘はおろか、子供すらいないというのに」

 ブライアンは厳しい表情で男を見つめている。

「ラズロー伯爵領と王都を行き来しようと思えば普通、サウスベリー侯爵領を通りますよね?」
「そうですね。わざわざ海路を選ぶ者などいないでしょう」
「にもかかわらずなぜ、存在しない架空の娘に関するまったく異なる噂が離れた地で同時に広まっているのか」
「……つまり、何者かが我らが侯爵を貶めるためにわざと噂を流している、と?」
「かもしれません」
「それは! それは一体どこのどいつですか!」

 すると男は意味深な表情を浮かべた。

「っ! 知っているのですか? ならば教えなさい! それがお前たちの!」
「いえいえ、存じ上げませんよ。残念ながら我々はあちらと違って人的にも資金的にも潤沢ではないんですよ。ご存じでしょう? ですからね。このままでは難しいかと……」

 男はそう言ってニヤリと笑った。

「……わかりました。予算を増やしましょう。そのかわり、背後関係をしっかり洗いなさい」
「ええ、お任せを。では……」

 それからブライアンと男は具体的な資金の話を始めるのだった。
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