上 下
47 / 108

第47話 追放幼女、晩さん会に出席する

しおりを挟む
 その日の夕方から、町長の屋敷で晩さん会が開催された。晩さん会の参加者は十数人で、うちからはあたしとマリー、そしてサイモンとアンナの四人が参加し、ラズロー伯爵側からはエドワード卿の家族と五人ほどのゲストが参加する。

 晩餐会の形式はちょっと変わっていて、あたしとエドワード卿の家族が並んでお誕生席のような場所に座り、他の人たちは立食形式だ。

 このような形式になったのは、あたしの年齢が理由だ。

 というのも、まず、今回の目的は社交だ。その場合、全員が着席しての晩さん会を行い、その後に舞踏会をするという流れが一般的なのだという。

 だがあたしはまだ九歳なので、舞踏会に参加するなどということはいくらなんでも考えられない。また、着席しての晩さん会で勝手に席を移動することは著しいマナー違反にあたるため、自由に交流するという目的を叶えつつも舞踏会でもないということで、この形となったのだそうだ。

 さて、テーブルには食べきれないほどの料理が並べられており、あたしは乾杯用に渡されたワイングラスを手に取る。

 あ、ちなみにこの世界では未成年どころか子供の飲酒も平然と行われている。あたしは飲まないけどね。

「男爵閣下、お願いします」
「ええ」

 あたしは会場をぐるりと見まわす。

「それではスカーレットフォードとラズローの発展を祈念して、乾杯」
「「「乾杯」」」

 あたしの音頭と共に皆がグラスを掲げ、あたしはそのまま着席した。するとすぐにメイドたちが給仕にやってきて、大皿に盛られた料理を次々と取り分けてくれる。

「男爵閣下」
「はい、エドワード卿」
「この度は、スケルトンをお貸しいただきありがとうございました」
「あら、もうそれは先ほどお聞きしましたわ。どうかお気になさらないで。わたくしたちとしても道がこうして早く開通できましたし、助かっていますわ」
「ですがあのスケルトン、とんでもなく優秀だと現場の者たちからの評判も良く……」
「ええ、そうでしょう。わたくしの領地でも大活躍していますわ」
「男爵閣下の領地の道もあのスケルトンたちが?」
「ええ、そうですわね」
「やはり……」
「それに畑仕事に糸つむぎに、色々やらせておりますわ」
「なんと! 畑仕事に糸つむぎですと!?」
「ええ。あまり器用さを必要とする仕事はできないけれど、それ以外であれば大抵のことはできますわ。ああ、あとあまり力は強くありませんわね」
「なんと……」

 エドワード卿は驚いているが、一方で何かを言いたげな様子だ。

「エドワード卿、どうなさいました?」
「あ、いえ……その、実は……」
「はい」
「……あのスケルトン、引き続きお貸しいただけないかと……」
「ええ、構いませんわ」
「そうですよね。やはりダメ……え?」
「ですから、構いません、と申し上げましたわ」
「ほ、本当ですか!? で、では何体ほど……」
「何体必要ですの?」
「そ、それは……出来れば十体ほどあると……」
「ええ、承りましたわ。税はこれまでのものと同じでよろしいですわね?」
「はい! もちろんです! ありがとうございます!」

 エドワード卿はそう言って喜んでいるが、ありがたいのはこちらも同じだ。お金がもらえる上に、技術まで覚えてきてくれるのだからね。

 それからしばらくエドワード卿と話していると一人の男が目の前にやってきて、何やらちらりちらりと視線を送ってきている。

 ええと、たしかこの男は記念式典にいたケインズ商会の会頭だ。スラッと背が高く、緑のロン毛を後ろで縛っており、モノクルを掛けている。その外見からは、いかにも切れ者といった印象を受ける。

「エドワード卿?」
「む? ああ、これは失礼。男爵閣下、この者はスティーブン・ケインズ準男爵、ケインズ商会の会頭です」
「まあ、商会の方ですのね。オリヴィア・エインズレイですわ」
「スティーブン・ケインズと申します。お美しい男爵閣下にお会いできて光栄でございます」
「あら、お上手ですわ。わたくしのような小娘に」
「何をおっしゃいますか。魔の森の中にある領地を立派に治めていらっしゃる男爵閣下がそのような。それに、本日の祝辞も感動いたしました。あのエインズレイ家のご出身であらせられる男爵閣下が、民のためにラズロー伯爵との関係強化をお望みになられるとは、まさに貴族の鑑と言えるでしょう」
「あら? そうかしら?」

 あたしは平静を装ってそう答えた。

 あれ? この口ぶり、もしかしてあたしの生物学上の父親はラズロー伯爵と仲が悪いのかな? それとも単に評判が悪いだけ?

「ええ。このスティーブン、感激いたしました。男爵閣下のようなお方とであれば、きっとラズローも共に歩めることでしょう」
「そう。でも、争いがないことは良いことでしょう?」
「仰るとおりです。そこで、我がケインズ商会もスカーレットフォードに商売に行きたいと考えておるのですが、いかがでしょう?」
「ええ、いつでもお越しください。ただ、まだあまり稼ぎにはならないかもしれませんわ」
「おや? それは一体どういうことでしょう?」
「スカーレットフォードはようやく動き出したばかりの領地ですもの。馬車が通れる道ができたというだけでまだまだ魔物の脅威はありますし、ケインズ商会が大きな利益を上げることは難しいかもしれませんわね」
「なるほど。ですが、我々は男爵閣下がハワード家に貸し出していらっしゃるスケルトンに興味がありまして」
「あら、そうでしたの? でも、まだそんなに手広くやるつもりはありませんわ」
「そうでしたか。承知いたしました。では必ずや、男爵閣下にご満足いただける提案をご用意して参りますよ」
「そう。楽しみにしていますわ」
「はい、どうぞご期待ください」

 スティーブンはそう言うと、一礼をして立ち去って行った。そしてそのままサイモンに話しかける。

 うーん。さすが、ラズロー伯爵領で一番の商会の会頭だね。抜け目のない感じで、油断したらこちらが足をすくわれそうだ。

「男爵閣下」
「あら、ジャック卿」

 あたしは警備責任者だったジャック卿に話しかけられ、すぐに頭を切り替えるのだった。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

処理中です...