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第41話 追放幼女、商談をする

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「ところでエドワード卿、今後の連絡にこの鳥のスケルトンを使ってもよろしくて?」
「え? あ、はい」

 エドワード卿はあたしが声を掛けると、ようやく我に返ったようだ。

「よろしければいくつかお貸ししますけれど?」
「む……ではお言葉に甘えて……」
「どんなスケルトンがご入用ですの? 駄獣? それとも鳥?」
「そうですな。まずは駄獣、でしょうか」
「何体ですの?」
「ええと……ならば荷馬車をけるものを……」
「ワイルドボアのスケルトンならば馬数頭分くらいの力がありますわね。それで何体必要ですの?」
「で、では、まずは一体……」
「ええ。ではスカーレットフォードに戻り次第、手配しますわ。ひと月にいくら、お支払いいただけますの?」
「なっ!? 貴族同士で金を取るのですか!?」

 エドワード卿は驚いてそう聞いてきたが、これはこの国の貴族たちに共通の価値観から出てきた言葉だ。

 その価値観とは、貴族たるものは名誉のために働くべきで、金のために働くのは卑しい行為であるというものだ。

 もっとも、自分たちは民から税金を搾り取って豊かな生活を送っているわけで……。

「ええ。もちろんですわ。だって、スカーレットフォードは魔の森にある開拓村ですもの。それにわたくし、実家とは縁が切れておりますのよ? だから民を食べさせてやるためのお金を稼がなければならないのですわ」
「で、ですが……」
「あら、それじゃあエドワード卿は、わたくしの名誉のためにわたくしの民に飢えろと仰るおつもりですの?」
「む……」
「それに、わたくしが働いて報酬を得るわけではありませんわ。スケルトンたちはわたくしの領地の農奴のようなものですもの。農奴が他の領地に働きに出るなら、それに見合った税を受け取るのは貴族として当然のことではなくて?」
「……言われてみればそうですな」
「でしたらお試しということで、今回は最初の一か月間だけ、金貨一枚でお貸ししますわ」

 ちなみに金貨一枚は、五十シェラングにあたる。

「むむむ。それはいくらなんでも。その値段であれば半年と経たずに騎士が乗る馬が買えてしまいますな」

 エドワード卿は難しい表情となった。

「あら、そんなにおかしな値段ではないはずですわ。ねえ? サイモン?」
「はい、男爵様の仰るとおりです。スケルトンは食事も休憩も必要としません。それにワイルドボアのスケルトンは馬よりも力が強く、言葉で命令することができ、驚いて暴走するようなこともありません。これほど優秀な駄獣であれば金貨ではなく大金貨を払ってでも借りたいと考える商人は多いことでしょう」
「むむむ……」
「それが最初の一か月だけとはいえ、たったの金貨一枚で借りられるのです。商人から見れば、破格と言わざるを得ません」
「そ、そうなのか?」
「ええ。しかもこれから我らがスカーレットフォードはビッターレイとの道を作るのですから、交易は加速するでしょう。そうなれば、お支払いいただいた金貨はスカーレットフォードがビッターレイから商品を買い付ける代金として戻ってくることになり、最終的にビッターレイの町はさらに潤うことになるでしょう」
「そうですわね。それに、受け取った金貨はわたくしたちが魔の森の魔物を駆除するためにも使われますわ。そうなればビッターレイの安全にも寄与するのではなくて?」
「そ、そうですな。言われてみればそんな気がしてきましたぞ。では是非、ワイルドボアのスケルトンを一体、お貸しくだされ」
「ええ、喜んで」

 こうしてあたしはスケルトンレンタル業で最初の顧客を手に入れたのだった。

◆◇◆

 その日はエドワード卿のところでお世話になった。奥さんのグロリアさんと四男のデイヴィッドさんと次女のミュリエルさんという家族を紹介してもらい、楽しい晩さん会も開いてもらった。

 エドワード卿の家族はなんだか仲良し家族って感じで……うん。ちょっと羨ましいかな。

 ま、あたしにはマリーがいるからいいんだけどさ。

 ちなみにエドワード卿の長男と三男は騎士として本家に出仕していて、長女はもう結婚して家を出たそうだ。そして次男はというと、残念ながら夭逝ようせいしてしまったそうだ。

 そして翌朝、あたしはミュリエルさんに連れられ、町長の館を出発した。なんと町を案内してくれるのだという。

「さあ、男爵様。参りましょう。まずは中央広場ですわ」
「ええ」
「それじゃあ、出してちょうだい」

 すると馬車はゆっくりと動き出す。

 ちなみにミュリエルさんはあたしより五歳年上のお姉さんで、お母さんのグロリアさんに似て目鼻立ちのはっきりした美人さんだ。髪もグロリアさん譲りの燃えるような赤で、体型もスラッとしている。

「ところで男爵様」
「なんですか? 騎士爵令嬢」
「あの、もしよろしければ、名前でお呼びしても?」
「……いいのですか? わたくしは黒目黒髪ですよ?」
「ええ。そうですわね。ですが司祭様は、生まれながらにして罪を背負った者はおらず、悪しき行いによって罪を背負うのだと仰っていましたわ。ですから、男爵様も黒目黒髪だからという理由だけで神に見放されているなどということはないのではありませんか?」
「……そうですね。そうだといいですね」
「なら! わたくしとお友達になってくださいませんこと?」

 うーん、いきなりこんなことを言われるのは何か裏がありそうな気もする……っていうのはさすがにひねくれ過ぎかなぁ?

「わたくし、ビッターレイにはお友達がおりませんの。いるのはわたくしがハローズ家の娘だというだけで近づいてくる取り巻きの者ばかりですわ。ですから……」

 そう言ってミュリエルさんは寂しげな表情を浮かべた。

 うーん。エドワード卿に言われているとか、もしかしたら何かあるのかもしれないけど……ま、いっか。そのときはそのときだね。

「分かったよ。じゃあ、ミュリエル。これからは友達ってことで、あたしのこともオリヴィアって名前で呼んで。それと、もっと気楽に話していいよ」
「まあ! 本当ですの!? ありがとう存じますわ!」

 ミュリエルは嬉しそうに笑う。

 こうしてあたしにはじめての友達ができたのだった。
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