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第32話 追放幼女、首を突っ込む

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 それから職人風の男を宿に運び、ベッドに寝かせてやった。そうしてしばらくすると、男が目を覚ます。

「う……ここは?」
「宿屋だよ」
「君は……いてて!」

 あたしのほうに顔を向けようとした男は痛みに顔をゆがめる。

「あたしはオリヴィア・エインズレイ。こう見えてもスカーレットフォード男爵だよ」
「えっ!? 男爵様!? それは失れうっ!? いたた……」
「あっと! 無理しないで。そのままでいいから。で、あなたのお名前は?」
「ウォルター・スミスと言います」
「うん。じゃあさっそくだけどウォルター、何があったのか教えてくれる? 人身売買とか聞こえたからとりあえず助けたんだけど」
「はい。俺……わ、私は、この町で鍛冶屋をしているのですが、父が、ボルタのクソ野郎にだまされまして……」
「騙された?」
「はい。大量の注文を受けて、借金までして納品をしたんですが言いがかりをつけられまして、それで代金が支払われず……」
「……それって詐欺なんじゃないの?」
「そうなんですが……」

 ウォルターは言葉を濁す。

「どういうこと? 詐欺なんだったら衛兵の出番なんじゃないの? それとも自警団かな?」

 するとウォルターは力なく首を横に振った。

「それが……ボルタの野郎はサウスベリー侯爵のお抱えのタークレイ商会の奴ですんで……」
「もしかして、町長も衛兵も自警団もタークレイ商会には手出しができない?」
「はい……」
「そうなんだ……」

 なんか、思ったよりも大物だったみたいだね。スカーレットフォードなんて辺境に来るぐらいだから大したことないやつだと思ってたけど……。

「あれ? でも借金はお父さんがしたんだし、関係ないってことにはできないの? そもそもお父さんは?」
「それが……父は過労で倒れ、神の身許に……」
「あっ……ごめんね」
「いえ」
「でも、借金はなかったことにできないの?」
「はい。工房が抵当に入っていたんで……」
「そうなんだ。でも、なんで奥さんと娘さんが誘拐されるなんてことになってるの? そもそも、あいつらは何者なの?」
「ブラック・モーリスっていう金貸しをやってるチンピラ連中なんですが、どうもタークレイ商会と裏で繋がってるみたいでして……」
「あー、つまりはめられたってこと?」
「……かもしれません」
「でも、さすがに誘拐からの人身売買なら町長も動くんじゃないの?」
「いえ、それが……」
「もしかして、あいつらもグルなわけ?」
「かもしれません。借金で首が回らなくなって自殺して、家族が行方不明になるっていう話はよく聞きますんで……」
「うわぁ」

 もちろんあいつらの犯行っていう証拠はないけど、普通に考えて絶対余罪はあるよねぇ?

 こんなの、絶対に見過ごしていい問題じゃないと思う。

 それにこの人が鍛冶師だって言うんなら、この人をスカウトしちゃえば別に買出しに来なくてもよくなるんじゃない?

 うん! 名案!

「あのさ、ウォルター」
「はい」
「ウォルターって平民?」
「えっ? はい。平民ですが……」
「じゃあさ。あたしたちが奥さんと娘さんを取り戻したら、うちに移民しない? うちに来れば領主裁判権があるから、借金はタークレイ商会に請求するようにって判決出してあげられるよ」
「本当ですか!? ……あ! でも、妻と娘がどこにいるのか……」
「それは大丈夫。さっきの連中は知ってるってことでしょ?」
「ですが、アジトの場所は……」
「だから大丈夫だって。さっきちょっと道端に落ちてたネズミの死骸でスケルトンを作って、後をつけさせておいたから」
「えっ? スケ……? えっ?」

 ウォルターはポカンとした表情をしている。まあ、自然発生するゾンビとは違って知られてないから仕方ないね。

「お嬢様、後をつけさせたとして、どうなさるおつもりですか?」
「え? ああ。あのね。実はあたし、なんとなくなんだけど、作ったスケルトンが今どのあたりにいるか分かるんだよね」

 これは予想だけど、作ったスケルトンたちはあたしと繋がっているからなんじゃないかなぁ。

 さて、ネズミのスケルトンは今どこに……あれ? 動いてない? なんで!?

「……あ!」
「?」
「お嬢様?」
「あはは、マリー。あいつら、解放するの忘れてたや」

 ウォルターは相変わらずポカンとした表情をしているが、マリーは納得したように自分の手のひらを拳でポンと打った。

「とりあえず、今から解放しておくね。そうしたらアジトに帰るでしょ」

 あたしは縛った魂を解放した。

 そういえばなんだかずっと魔力が使われてるなぁ、とは思ってたんだよね。

 うん。ちょっと楽になったかも。

◆◇◆

 その夜、あたしたちはネズミのスケルトンの気配のする場所にやってきた。立ち並ぶ家々の窓は暗く、人の気配はまったくない。

 といっても、それだけでこの地域の治安を判断することはできない。なぜならこの世界で夜の灯りといえばランプやロウソク、松明といったものだけで、これらはものすごく高い。だからそれらを街灯代わりに使うなど考えられないのだ。

 と、灯りの件はさておき、今回の同行者はパトリックとウォルターの二人だけだ。マリーたちは戦えないので、宿で待ってもらっている。本当はウォルターも安静にしていたほうがいいのだが、奥さんと娘さんの顔を知っているのは彼しかいないのだから仕方がない。

「んー、あの建物みたいだね」

 あたしたちはレンガ造りの三階建ての建物の前にやってきた。形状からして、集合住宅のように見える。

「鍵は開いてるかな?」
「入口の扉は開いているはずです。この建物はアパートなんで」
「開けてみますね」

 パトリックが扉を押すと、あっさり開いた。

「ホントだ。スケルトンは……あっちっぽいね」

 あたしは自分のネズミのスケルトンの気配のするほうへと向かって歩いて行く。すると地下に降りる階段が出てきた。

「んー、地下かぁ。じゃあみんな、静かにね」
「「はい」」

 あたしたちはゆっくりと暗い階段を降りていくのだった。
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