追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎

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第31話 追放幼女、さらなるトラブルに遭遇する

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 パトリックはプリプリと怒っていたが、その日は時間が遅いこともあってすぐに宿へ戻った。

 そして翌日、あたしたちは毛皮を買い取ってくれる工房を探しに朝から町へと繰り出した。町の人に教えてもらい、毛皮の加工を手がけている工房の集まっている通りにやってきたので、さっそく一つの工房の扉を叩く。

「ごめんください」

 ノックをしてから扉を開けると、中では何人かの職人が集中して作業をしている。

「あ? 誰だ?」
「すみません。毛皮の売却をしたいんですけど……」
「あ? うちでは買い取りはやってねぇよ。三軒隣なら買い取りもやってるぜ」
「そうでしたか。ありがとうございます。お邪魔しました」

 そう言われ、三軒隣の工房に向かった。そこは比較的大きな工房のようで、加工前の毛皮の売買もできるようだ。

「すみません。毛皮の買い取りをお願いしたいんですが」
「はいよ。なんの毛皮だい?」
「ワイルドボアとフォレストディアです」
「おっ! 魔物の毛皮か! それはいいな! 見せて貰……ん? 子供?」

 マリーが話しているのだが、その後ろに立っているあたしの姿に店員のおじさんが気付いたようだ。おじさんはなぜか警戒したような表情でおずおずと質問してくる。

「……もしかして、スカーレットフォード男爵様のご一行かい?」
「そうですが……」
「そうか。悪いな。うちは商工組合に加入してるんでね。スカーレットフォードとは取引できないんだ」
「どういうことですか!?」

 マリーは怒りを隠そうとせず、低い声で問いただした。だが店員のおじさんは手をひらひらと振り、あたしたちに出ていけと促す。

「どういうことかと聞いています!」
「だから、商工組合からそう言われてるんだよ。それとも、商工組合からの指示を無視してウチが損したら、スカーレットフォード男爵閣下が全額保証してくださるんで?」
「そんなこと!」
「でしょう? なら諦めてください。いくら男爵様とはいえ、ここはサウスベリー侯爵領ですんで」
「……では商工組合に加入していないお店はありますか?」
「さぁ。この辺じゃ聞いたことないですね」
「そうですか。わかりました」

 こうしてあたしたちは店を出るのだった。

◆◇◆

 それから何軒もの店を回ったものの、残念ながら毛皮を売ることはできなかった。だがその途中で、どうやらタークレイ商会が裏で手を回してあたしたちとの取引を妨害しているらしいということを教えてもらった。

 あいつ! 好き勝手やったくせに!

 本当に腹立たしいが、ここで騒ぎを起こすわけには行かない。生物学上の父親はあたしに情なんてないだろうから、それこそ処刑されかねない。

 と、いうわけで毛皮を売る目途が立たなくなったあたしたちは先に農具などを扱う鍛冶屋に行くことにした。

 もしかしたらここも手が回っているかもしれないが、それでも買うのであれば多少は見逃してもらえるかもしれない。

 そう考えて鍛冶屋の並ぶ通りへとやってきたのだが……。

「お前! 妻と娘をどこへやった! 二人を返せ!」
「ああん?」
「そんなことより、お前はやらなきゃいけないことがあるだろうが!」
「稼いで返すって言っただろうが!」
「はっ! 稼いで返せる金額じゃねぇだろうが!」

 借金のトラブルかな?

 チンピラ風の男が四人と若い職人風の男が一人で、職人風の男にチンピラたちが返済を迫っているらしい。

「だからって妻と娘を誘拐するのは!」

 えっ? 誘拐!? それは衛兵の出番でしょ!?

「ああ? 悪いのは金を返さねぇお前だろうが!」
「大体その借金だってボルタの――」

 ドカッ!

 ボルタの名前が出たところで、チンピラの一人が職人風の男のお腹を思い切り殴った。職人風の男は体がくの字に曲がる。

「うっ……か、返せ……」
「だからその前に金返せって言ってんだろうが!」

 チンピラたちは寄ってたかって職人風の男に蹴りを入れる。

「う……かえ……せ……」
「はぁ。面倒くせぇなぁ。やっちまいましょうぜ? どうせこいつ、返せないっすよ」
「そうだな。ま、どうせ女はそろそろ売れるころだしな」

 なんて奴ら!

 それからチンピラたちは剣を抜き――

「ダメッ!」

 あたしは即座にチンピラたちの魂を縛った。

「ぐっ!?」
「なんだこりゃ!?」
「動けねぇ!」

 指一本動かせない状況にチンピラたちは困惑している。

「ちょっと! 殺人も人身売買もこの国では処刑だよ!」
「ん?」
「ガキ?」
「なんだ? こいつ!」
「パトリック、あの人を助けて。そっちのチンピラたちは無視でいいから」
「はい!」

 パトリックはすぐさま男に駆け寄る。

「大丈夫っすか?」
「う……あなたは?」
「俺はスカーレットフォード男爵領の自警団のパトリックっす。姫様の命令であんたを助けるっす」
「ス……男……爵……」

 男はそうつぶやくと、そのままがっくりとうなだれた。どうやら失神したらしい。

「パトリック、その人を連れてきて。とりあえず介抱しよう」
「はい!」
「おい! 待て!」

 チンピラたちが呼び止めてくるが、あたしたちはそれを無視して職人風の男を連れて行くのだった。
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