17 / 110
第17話 追放幼女、仕事に復帰する
しおりを挟む
三人もの死者が出てしまったほか、多くの村人たちが負傷してしまった。特に前面に立ってゴブリンたちと戦ってくれたウィルたち自警団のメンバーはかなりの重傷を負っており、絶対安静が必要な者たちもかなり多い。
中でもウィルは一番重傷だったそうで、少なくとも一か月は絶対安静というのが医術の心得もあるマリーの見立てだ。
それでも命に別条はないので、しばらくしたらきっと元気な姿を見せてくれるはずだ。
あ、そうそう。なんであれほどの魔法をくらったはずのウィルが生きていたのかだけどね。なんか、あのゴブリンメイジってものすごいノーコンだったみたい。
あいつの魔法、ウィルに向けて放ったはずなのに、二メートルほど離れた地面に着弾したんだって。
それにほら、ウィルってうつ伏せになっていたでしょ? そのおかげで急所が守られたんだってさ。
それでも火傷はしたし、爆風で飛んできた小石で怪我はしたけど、それ以外のゴブリンと戦っていたときの傷のほうが重傷だったくらいなんだってさ。
ホント、直撃しないで済んで良かったよ。
ウィルの話はさておき、自警団の男たちの大半が大怪我をしてしまっている状況ではさすがに働き手が足りない。
となると、せっかく整備した畑も無駄になってしまう。
はぁ。やっぱりトップの判断ミスは本当に大きいなぁ。ちゃんと立て直さないと!
「マリー」
「はい、お嬢様」
「ゴブリンのスケルトン、増やさなきゃ」
「お嬢様、まだお怪我が……」
「でもさ。あたしが判断をミスしたせいで働き手が動けなくなっちゃったんだよ? だったらあたしがなんとかしなきゃ」
「ですが……」
「あたし以外になんとかできる人はいないもん。だからあたしがやらなきゃ!」
するとマリーは小さくため息をついた。
「分かりました。ですが、無茶はいけません。移動は私がお運びします。あと、スケルトンを作るのは普段の半分で止めてください。そして、それ以外の時間はすべてベッドで療養していただきます。よろしいですね?」
「……うん」
こうしてあたしはマリーに協力してもらい、一日に三体だけゴブリンのスケルトンを作ることにしたのだった。
◆◇◆
それから二週間が経過した。全身の打撲も治り、すっかり万全な状態に回復した。
これまでに作ったゴブリンのスケルトンはゆうに五十体を超えており、さすがにもう個体の識別はできない。というわけで、今は首に木製の小さな識別票を取り付けて何番のスケルトンなのかが分かるようにしている。
そんなゴブリンのスケルトンたちには、村の周辺の安全確保のための仕事を色々とやらせている。
「マリー」
「はい、お嬢様」
「もう治ったし、ちょっとスケルトンたちの様子を見てくるね」
「かしこまりました。お供いたします」
「え? 大丈夫だよ。自警団の誰かに来てもらうから、マリーはマリーの仕事をしてて。読み書きと計算ができるの、あたしとマリーしかいないんだから」
「……かしこまりました。お気をつけて」
「うん。じゃあ、行ってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
こうしてあたしは家を出た。するとあたしを目ざとく見つけた村人の女性が駆け寄ってきた。
彼女の名前はベラ。今は十八歳で、あたしが来るひと月前に元盗賊で自警団のマイクと結婚したそうだ。
たしか、毛織物だっけかな? あれ? 真麻のほうの機織りだったかな? とにかく、そういった感じのことが得意だと聞いた気がする。
「あっ! 姫様!」
「やあ、ベラ。どうしたの?」
「お体は? もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう」
「ああ! 良かった」
「それより、自警団で動ける人はいる? あ! マイクは?」
「え? はい。マイクも大分治ってきましたから動けると思いますけど……村ちょ……ウィル団長は?」
「会ってないけど、たぶんまだ安静が必要だと思う」
「そうですか……じゃあ、マイクを呼んできますね」
「うん」
そうしてベラがマイクを呼んできてくれ、あたしはマイクと裏門から村を出た。
「うおっ!? すげぇ!」
マイクが思わずといった様子でそんな声を上げた。
うん。あたしもすごいと思う。だって、前は鬱蒼とした森が広がっていたのに、今では切り株がずらっと並んでいるんだからね。
「かなり伐採が進んだね」
「そうですね、姫様。俺もあの日以来村から出るのは初めてですけど……」
「そっか。そういえば、怪我は大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です。まだゴブリンに棒で叩かれたところは押すと痛いですけど、動くのは問題ないです」
「なら良かった。あまり無理はしないでね」
「はい!」
マイクは背筋を伸ばし、大きな声でそう返事をした。
と、向こうのほうで一本の木が大きな音と共に倒れた。
するとすぐにその木が浮き上がり、ゆっくりとこちらに向かって移動してくる。
どうやらスケルトンたちは伐採した木を裏門の脇に積み上げているようで、門の右側には大量の木材の山がいくつもできていた。
……あれ? これじゃ、この木材の山を伝って村の中に入れるじゃん!
「この木材もちゃんと使わないとね」
「そうですね」
「こういうのの加工は……やっぱりハロルド?」
ハロルドというのはこの村唯一の木工職人のおじさんだ。
「はい。ただ、各家庭でもそれぞれ使うと思います。簡単な家の修理なんかは自分でやりますから」
「そっか。ま、とりあえずあいつらが来たら中に運ばせようかな」
「はい」
そんな会話をしつつ、あたしたちは運ばれてくる木を眺めるのだった。
中でもウィルは一番重傷だったそうで、少なくとも一か月は絶対安静というのが医術の心得もあるマリーの見立てだ。
それでも命に別条はないので、しばらくしたらきっと元気な姿を見せてくれるはずだ。
あ、そうそう。なんであれほどの魔法をくらったはずのウィルが生きていたのかだけどね。なんか、あのゴブリンメイジってものすごいノーコンだったみたい。
あいつの魔法、ウィルに向けて放ったはずなのに、二メートルほど離れた地面に着弾したんだって。
それにほら、ウィルってうつ伏せになっていたでしょ? そのおかげで急所が守られたんだってさ。
それでも火傷はしたし、爆風で飛んできた小石で怪我はしたけど、それ以外のゴブリンと戦っていたときの傷のほうが重傷だったくらいなんだってさ。
ホント、直撃しないで済んで良かったよ。
ウィルの話はさておき、自警団の男たちの大半が大怪我をしてしまっている状況ではさすがに働き手が足りない。
となると、せっかく整備した畑も無駄になってしまう。
はぁ。やっぱりトップの判断ミスは本当に大きいなぁ。ちゃんと立て直さないと!
「マリー」
「はい、お嬢様」
「ゴブリンのスケルトン、増やさなきゃ」
「お嬢様、まだお怪我が……」
「でもさ。あたしが判断をミスしたせいで働き手が動けなくなっちゃったんだよ? だったらあたしがなんとかしなきゃ」
「ですが……」
「あたし以外になんとかできる人はいないもん。だからあたしがやらなきゃ!」
するとマリーは小さくため息をついた。
「分かりました。ですが、無茶はいけません。移動は私がお運びします。あと、スケルトンを作るのは普段の半分で止めてください。そして、それ以外の時間はすべてベッドで療養していただきます。よろしいですね?」
「……うん」
こうしてあたしはマリーに協力してもらい、一日に三体だけゴブリンのスケルトンを作ることにしたのだった。
◆◇◆
それから二週間が経過した。全身の打撲も治り、すっかり万全な状態に回復した。
これまでに作ったゴブリンのスケルトンはゆうに五十体を超えており、さすがにもう個体の識別はできない。というわけで、今は首に木製の小さな識別票を取り付けて何番のスケルトンなのかが分かるようにしている。
そんなゴブリンのスケルトンたちには、村の周辺の安全確保のための仕事を色々とやらせている。
「マリー」
「はい、お嬢様」
「もう治ったし、ちょっとスケルトンたちの様子を見てくるね」
「かしこまりました。お供いたします」
「え? 大丈夫だよ。自警団の誰かに来てもらうから、マリーはマリーの仕事をしてて。読み書きと計算ができるの、あたしとマリーしかいないんだから」
「……かしこまりました。お気をつけて」
「うん。じゃあ、行ってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
こうしてあたしは家を出た。するとあたしを目ざとく見つけた村人の女性が駆け寄ってきた。
彼女の名前はベラ。今は十八歳で、あたしが来るひと月前に元盗賊で自警団のマイクと結婚したそうだ。
たしか、毛織物だっけかな? あれ? 真麻のほうの機織りだったかな? とにかく、そういった感じのことが得意だと聞いた気がする。
「あっ! 姫様!」
「やあ、ベラ。どうしたの?」
「お体は? もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう」
「ああ! 良かった」
「それより、自警団で動ける人はいる? あ! マイクは?」
「え? はい。マイクも大分治ってきましたから動けると思いますけど……村ちょ……ウィル団長は?」
「会ってないけど、たぶんまだ安静が必要だと思う」
「そうですか……じゃあ、マイクを呼んできますね」
「うん」
そうしてベラがマイクを呼んできてくれ、あたしはマイクと裏門から村を出た。
「うおっ!? すげぇ!」
マイクが思わずといった様子でそんな声を上げた。
うん。あたしもすごいと思う。だって、前は鬱蒼とした森が広がっていたのに、今では切り株がずらっと並んでいるんだからね。
「かなり伐採が進んだね」
「そうですね、姫様。俺もあの日以来村から出るのは初めてですけど……」
「そっか。そういえば、怪我は大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です。まだゴブリンに棒で叩かれたところは押すと痛いですけど、動くのは問題ないです」
「なら良かった。あまり無理はしないでね」
「はい!」
マイクは背筋を伸ばし、大きな声でそう返事をした。
と、向こうのほうで一本の木が大きな音と共に倒れた。
するとすぐにその木が浮き上がり、ゆっくりとこちらに向かって移動してくる。
どうやらスケルトンたちは伐採した木を裏門の脇に積み上げているようで、門の右側には大量の木材の山がいくつもできていた。
……あれ? これじゃ、この木材の山を伝って村の中に入れるじゃん!
「この木材もちゃんと使わないとね」
「そうですね」
「こういうのの加工は……やっぱりハロルド?」
ハロルドというのはこの村唯一の木工職人のおじさんだ。
「はい。ただ、各家庭でもそれぞれ使うと思います。簡単な家の修理なんかは自分でやりますから」
「そっか。ま、とりあえずあいつらが来たら中に運ばせようかな」
「はい」
そんな会話をしつつ、あたしたちは運ばれてくる木を眺めるのだった。
1,035
お気に入りに追加
2,286
あなたにおすすめの小説
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月
りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。
1話だいたい1500字くらいを想定してます。
1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。
更新は不定期。
完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。
恋愛とファンタジーの中間のような話です。
主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる