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第6話 追放幼女、狩りに出る
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天使と崇めてくる村人たちから逃げ出したあたしは今、ウィルに村の周囲を案内させている。
「姫さん、こっち側は魔物が多いんでこれ以上はちょっと……」
「ふーん。じゃああたしが通ってきた道のほうは少ないってこと?」
「そうっす」
「じゃあ、やっぱり魔物が多いのは北西のほうなんだね」
「やっぱり? どういうことっすか?」
「うん。この国はね。北から西に掛けて魔の森と接しているんだ」
「はぇ~、そうなんすか」
「そうだよ。スカーレットフォードは、その魔の森の一部を人の領域にするために作られたんだ」
「そうなんすね……。はぁ~、さすが姫様だ。やっぱ貴族のお方は賢いんすね」
ウィルはまるでそのことを初めて知ったとでも言わんばかりのだ。
あれ? もしかして?
「ねぇ、ウィル。聞きたいんだけどさ」
「へい。なんすか?」
「ウィルって、文字の読み書きはできる?」
するとウィルは虚を突かれたかのような表情となった。
「へ? 文字っすか? いやぁ、そういう難しいのはちょっと……」
「……そう」
うん。やっぱりか。ま、仕方ないね。
「じゃあさ。村長をやってたときに報告とかってどうしてたの?」
「ん? 報告? なんのっすか? 困ったことがあったらその都度、誰かが来てやしたね」
「……分かったよ。ありがとう」
「へい」
うん。仕方ないか。元盗賊だもんね。
「それで話を戻すけどさ。どういう魔物が来るの?」
「そうっすね。圧倒的に厄介なのはやっぱゴブリンのクソどもっすね。あいつら、結構頭いいっすから」
「そっか」
ゴブリンというのは、二足歩行をする緑色の肌をした気持ち悪い魔物だ。小柄で力こそあまり強くないとされているが、簡単な道具を作る知能がある。
しかも様々な魔法を使うゴブリンメイジや体が大きく強力な身体強化を使うホブゴブリンといった上位種がボスとなって群れを率いている場合があり、さらにその上位種であるゴブリンキングがボスだった場合、ゴブリンの群れがまるで軍隊のように統率される。
そうなると厄介で、領地の存亡を懸けての戦いとなる。
まほイケでも、ゴブリンキングによって率いられた群れから町を守るイベントがあったっけね。
「そのゴブリンって、今どうなってるの? 大きな襲撃があったんでしょ?」
「なんか、前の村長が壊滅させたらしいっすよ」
「ふうん。刺し違えたってこと?」
「らしいっす。今でもたまに襲撃はありやすけど、多いときでも二十匹もいないくらいっす。なんで、なんとかなってるって感じっすね」
「そっか。じゃあ、他に危ない魔物は?」
「危ないやつだと、やっぱフォレストウルフとかワイルドボアあたりっすかね。あ、あとフォレストディアもか」
狼とイノシシと鹿の魔物だ。そいつらはお肉を食べられるし、毛皮や角なんかも売れるはずだね。まほイケ情報だけど。
「あとは?」
「そうっすねぇ……あとはホーンラビットくらいっすかねぇ? でもあいつらは気を付けてればそんな危なくは……あ! かなり昔はクレセントベアも出たって聞いたことあるっすね」
ホーンラビットのお肉は美味しいよね。あたしもサウスベリー侯爵邸にいたとき、たまに食事で出てきていた。クレセントベアは知らないけど、名前からして熊の魔物かな?
「じゃあ、そのクレセントベアってのは最近見かけないの?」
「そうっすね。俺らが来てからは一度も見てないっすね」
「ふーん、そっか。ゴブリンはさておき、他の魔物はいい獲物になりそうだね」
「そりゃあそうっすけど、あんまり戦いたくないっすよ? 普通の狼や猪ならいいっすけど……」
「勝てない?」
「準備してやれば一匹くらいならどうにかなると思いやすけど……」
「群れだと厳しいの?」
「へい」
「そっか。じゃあまずは村の防備をもうちょっとちゃんとしないとね」
「石垣でも作るんすか?」
「できる?」
「やり方は分かるっすけど、何年かかるかわかんねぇっすよ?」
「うーん、じゃあ、とりあえずスケルトンでも作ってみようか。どのくらい役に立つかはわかんないけど」
「ん? すけ……?」
「スケルトン」
「すけ……るとん? ってなんすか?」
「んー、動く骨?」
「???」
ウィルは何を言っているのかさっぱり分かっていない様子だけど、どう説明したら分かってもらえるかな?
うーん……?
上手い説明が思いつかない。
「じゃあ、実物を見せるよ。ちょっと森の奥に入ろうか」
「えっ?」
「で、とりあえずなんかの魔物を狩ろっか」
「は、はぁ。じゃあ、応援を呼ばねぇとっす」
こうしてあたしたちはウィルと自警団の数名を連れ、森の奥に分け入るのだった。
◆◇◆
「姫さん、いやしたぜ。ワイルドボアっす」
ウィルが指さした先には、ウィルと同じぐらいの背丈の巨大なイノシシの姿がある。
「うん。じゃあ、サクッとやっちゃおうか」
「え? サクッ? どいうことっすか!?」
「こういうことだよ」
あたしは茂みから出て、無防備にワイルドボアの前に体を晒した。
「姫さん!?」「姫様!」「危ない!」
ウィルたちが悲鳴を上げ、それを聞いたワイルドボアはあたしたちに向かって突進してくる。
ふふ、所詮は魔物だね。闇の神聖魔法の使い手に真っすぐ突っ込んでくるなん――
「危ないっす!」
「ひゃっ!?」
突然あたしの体が宙に浮き、そのままごつごつとした硬くて暖かい何かに包まれた。
グシャァァァァ。
気付けばあたしは硬い何かを下敷きにし、仰向けになって森の木々を見上げていた。
えっ? 何? どうなってるの!?
「姫様を守れ!」
「近づけるな!」
「おい! イノシシ野郎! こっちだ!」
なんだか勇ましい声が聞こえてくる。
「姫さん、なんて無茶なことをするんすか! 肝が冷えたっすよ!」
頭の上から声が聞こえてきた。
……あ、そう。そういうこと。
「ウィル」
「へい」
「この手を放して! 邪魔よ!」
「へ、へい」
あたしは立ち上がり、状況を確認する。
自警団の男たちは一生懸命ワイルドボアと戦っているが、すでに一人はぐったりとなっている。
……ああ、もう! 何やってんのよ!
「姫さん、こっち側は魔物が多いんでこれ以上はちょっと……」
「ふーん。じゃああたしが通ってきた道のほうは少ないってこと?」
「そうっす」
「じゃあ、やっぱり魔物が多いのは北西のほうなんだね」
「やっぱり? どういうことっすか?」
「うん。この国はね。北から西に掛けて魔の森と接しているんだ」
「はぇ~、そうなんすか」
「そうだよ。スカーレットフォードは、その魔の森の一部を人の領域にするために作られたんだ」
「そうなんすね……。はぁ~、さすが姫様だ。やっぱ貴族のお方は賢いんすね」
ウィルはまるでそのことを初めて知ったとでも言わんばかりのだ。
あれ? もしかして?
「ねぇ、ウィル。聞きたいんだけどさ」
「へい。なんすか?」
「ウィルって、文字の読み書きはできる?」
するとウィルは虚を突かれたかのような表情となった。
「へ? 文字っすか? いやぁ、そういう難しいのはちょっと……」
「……そう」
うん。やっぱりか。ま、仕方ないね。
「じゃあさ。村長をやってたときに報告とかってどうしてたの?」
「ん? 報告? なんのっすか? 困ったことがあったらその都度、誰かが来てやしたね」
「……分かったよ。ありがとう」
「へい」
うん。仕方ないか。元盗賊だもんね。
「それで話を戻すけどさ。どういう魔物が来るの?」
「そうっすね。圧倒的に厄介なのはやっぱゴブリンのクソどもっすね。あいつら、結構頭いいっすから」
「そっか」
ゴブリンというのは、二足歩行をする緑色の肌をした気持ち悪い魔物だ。小柄で力こそあまり強くないとされているが、簡単な道具を作る知能がある。
しかも様々な魔法を使うゴブリンメイジや体が大きく強力な身体強化を使うホブゴブリンといった上位種がボスとなって群れを率いている場合があり、さらにその上位種であるゴブリンキングがボスだった場合、ゴブリンの群れがまるで軍隊のように統率される。
そうなると厄介で、領地の存亡を懸けての戦いとなる。
まほイケでも、ゴブリンキングによって率いられた群れから町を守るイベントがあったっけね。
「そのゴブリンって、今どうなってるの? 大きな襲撃があったんでしょ?」
「なんか、前の村長が壊滅させたらしいっすよ」
「ふうん。刺し違えたってこと?」
「らしいっす。今でもたまに襲撃はありやすけど、多いときでも二十匹もいないくらいっす。なんで、なんとかなってるって感じっすね」
「そっか。じゃあ、他に危ない魔物は?」
「危ないやつだと、やっぱフォレストウルフとかワイルドボアあたりっすかね。あ、あとフォレストディアもか」
狼とイノシシと鹿の魔物だ。そいつらはお肉を食べられるし、毛皮や角なんかも売れるはずだね。まほイケ情報だけど。
「あとは?」
「そうっすねぇ……あとはホーンラビットくらいっすかねぇ? でもあいつらは気を付けてればそんな危なくは……あ! かなり昔はクレセントベアも出たって聞いたことあるっすね」
ホーンラビットのお肉は美味しいよね。あたしもサウスベリー侯爵邸にいたとき、たまに食事で出てきていた。クレセントベアは知らないけど、名前からして熊の魔物かな?
「じゃあ、そのクレセントベアってのは最近見かけないの?」
「そうっすね。俺らが来てからは一度も見てないっすね」
「ふーん、そっか。ゴブリンはさておき、他の魔物はいい獲物になりそうだね」
「そりゃあそうっすけど、あんまり戦いたくないっすよ? 普通の狼や猪ならいいっすけど……」
「勝てない?」
「準備してやれば一匹くらいならどうにかなると思いやすけど……」
「群れだと厳しいの?」
「へい」
「そっか。じゃあまずは村の防備をもうちょっとちゃんとしないとね」
「石垣でも作るんすか?」
「できる?」
「やり方は分かるっすけど、何年かかるかわかんねぇっすよ?」
「うーん、じゃあ、とりあえずスケルトンでも作ってみようか。どのくらい役に立つかはわかんないけど」
「ん? すけ……?」
「スケルトン」
「すけ……るとん? ってなんすか?」
「んー、動く骨?」
「???」
ウィルは何を言っているのかさっぱり分かっていない様子だけど、どう説明したら分かってもらえるかな?
うーん……?
上手い説明が思いつかない。
「じゃあ、実物を見せるよ。ちょっと森の奥に入ろうか」
「えっ?」
「で、とりあえずなんかの魔物を狩ろっか」
「は、はぁ。じゃあ、応援を呼ばねぇとっす」
こうしてあたしたちはウィルと自警団の数名を連れ、森の奥に分け入るのだった。
◆◇◆
「姫さん、いやしたぜ。ワイルドボアっす」
ウィルが指さした先には、ウィルと同じぐらいの背丈の巨大なイノシシの姿がある。
「うん。じゃあ、サクッとやっちゃおうか」
「え? サクッ? どいうことっすか!?」
「こういうことだよ」
あたしは茂みから出て、無防備にワイルドボアの前に体を晒した。
「姫さん!?」「姫様!」「危ない!」
ウィルたちが悲鳴を上げ、それを聞いたワイルドボアはあたしたちに向かって突進してくる。
ふふ、所詮は魔物だね。闇の神聖魔法の使い手に真っすぐ突っ込んでくるなん――
「危ないっす!」
「ひゃっ!?」
突然あたしの体が宙に浮き、そのままごつごつとした硬くて暖かい何かに包まれた。
グシャァァァァ。
気付けばあたしは硬い何かを下敷きにし、仰向けになって森の木々を見上げていた。
えっ? 何? どうなってるの!?
「姫様を守れ!」
「近づけるな!」
「おい! イノシシ野郎! こっちだ!」
なんだか勇ましい声が聞こえてくる。
「姫さん、なんて無茶なことをするんすか! 肝が冷えたっすよ!」
頭の上から声が聞こえてきた。
……あ、そう。そういうこと。
「ウィル」
「へい」
「この手を放して! 邪魔よ!」
「へ、へい」
あたしは立ち上がり、状況を確認する。
自警団の男たちは一生懸命ワイルドボアと戦っているが、すでに一人はぐったりとなっている。
……ああ、もう! 何やってんのよ!
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