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第5話 追放幼女、死者を送る
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……思ったよりも多い。この数はちょっと想定外だ。
ただ、村人たちはこんな状況なのによく村を捨てて逃げ出さなかったね。村長だった騎士がいなくなったのなら……いや、違うか。魔の森に囲まれていたせいで、逃げたくても逃げられなかったんだ。
「お、お嬢様……」
「大丈夫だから」
怯えるマリーを宥めつつ待っているとやがて完全に日が沈み、周囲は真っ暗になった。松明の炎が広場を照らす中、ゾンビたちがぞろぞろと広場にやってくる。
「あなた……」
「ジョン……」
「パパァ……」
現れたゾンビたちの姿に、村人たちから様々な声が上がる。
可哀そうに。今、送ってあげるよ。
あたしは広場全体を対象に、葬送魔法を発動した。
黒く禍々しい魔法陣が現れ、どす黒い光が立ち昇る。
「ひっ!?」
「きゃあ!」
「なんだこれ!?」
村人たちは口々に悲鳴を上げるが、あたしは発動を継続する。
「そろそろ昇天するよ。大事な人がいるなら見送ってあげて」
あたしが声を掛けたのと、ゾンビたちの体が崩れ落ちたのはほぼ同時だった。
ゾンビたちはさらさらとした砂のようになり、そこにはぼんやりとした人の姿だけが残っている。
あれが死者の魂だ。
うん、良かった。きちんと人の姿は保てているね。罪を重ねて悪霊となってしまった場合、その姿はもっとおどろおどろしいものとなる。
だからあの魂はまだ正常で、きっとすぐにでも輪廻の輪に戻れるはずだ。
「もう近づいても大丈夫だよ」
「ジョン!」
「あなた!」
「パパ!」
「お兄ちゃん!」
村人たちは口々に叫びながら、それぞれの家族の許へと駆け寄る。
もちろん死者の魂に触れるわけではないが……。
あちこちから様々な声が聞こえてくる。すすり泣く声、必死に呼び掛ける声、感謝を伝える声、過ちを涙ながらに謝罪する声。
どれもが本当に切実そうで……。
死者の魂は表情一つ変えないので、あの声がきちんと届いているのかは分からない。でもちゃんと伝わっていて、死者たちもどことなく満足げな表情な気がする……っていうのは、さすがにあたしの自己満足かな。
そうして最後の別れを見守っていると、死者の魂が少しずつ色褪せていき……。
「ジョン! 待って!」
「あなた! ありがとう!」
「パパ! パパぁー!」
やがて消えていった。
「もう大丈夫。ちゃんと送ったからね。これからはきっと、天国で安らかに眠れるはずだよ」
あたしの声が聞こえていないのか、村人たちは涙を流しながら死者たちの魂が消えた場所に向かって必死に呼び掛け続けるのだった。
◆◇◆
「姫様、ありがとうございました」
翌朝、村の周囲の状況を確認しようと村長の家から出てきたあたしを村人たちが待ち構えていた。
「姫様のおかげで、息子を見送ることができました」
「私も! 主人を……」
「私は娘を……」
「「「ありがとうございました」」」
村人たちは口々にお礼を言ってくる。
う……なんだかこういうのは照れ臭いね。前世でも今世でも、こんな風に感謝されたことなんて一度もなかったし。
「と、当然のことをしただけだから」
「姫様! どうかこれを受け取ってください!」
「私からはこれを!」
「俺はこれを!」
村人たちはそう言うと、思い思いに野菜やら布やらを差し出してくる。
「だから、そういうのはいいから。気持ちに区切りがついたようで何よりだよ」
「「「姫様……」」」
ううっ。なんだか背中がかゆいよ……。
「じゃ、じゃあ、この食材を使って今晩は村のみんなで食事でもしようか。ね?」
「ああ、姫様……」
「なんと慈悲深い……」
村人たちが涙ぐみながらあたしを見てくる。
あああああ、もう! 恥ずかしい! 穴があったら入りたいって、もしかしてこういうこと!?
「姫様はきっと聖女様だ! そうに違いない!」
「え?」
ちょっと待って! さすがにそれはまずいでしょ!?
聖女なんて呼ばれているのが光神教にバレたら大変なことになるでしょうが!
聖女を認定する権利は光神教にのみ与えられた特権だ。それを破って勝手に聖女を名乗った場合、光神教が追認しない限り火あぶりの刑と決まっている。
実際、まほイケには聖女を自称する偽物に騙されている村を救うイベントがあり、そのイベントの終わりで偽聖女は火あぶりの刑に処されていた。
せっかく逃げられたのに、こんなことでまた死亡フラグを立てるなんて冗談じゃない!
「聖女様!」
「ま、待って! それだけはやめて!」
「え? でもゾンビを浄化できるなんて聖女様とか司教様くらいなんじゃ……」
「そ、それでもあたしは聖女じゃないから!」
「……でもたしか、自分で神聖魔法って言ってたような?」
「あ! それ、俺も聞いた!」
「ってことはやっぱり聖女――」
「聖女じゃないから! あたし、絶対聖女じゃないから!」
「うーん……でもゾンビをあの世に送るってことは……」
「天使様だ!」
「「「なるほど!」」」
えっ!? それもちょっと……あれ? でもそれなら光神教に怒られない……のかな?
「「「天使様!」」」
村人たちは一斉にあたしに向かって祈りを捧げ始める。
ううん! やっぱりダメ! そっちのほうが聖女よりもっとヤバい気がする!
「天使でもない! 天使でもないから!」
ただ、村人たちはこんな状況なのによく村を捨てて逃げ出さなかったね。村長だった騎士がいなくなったのなら……いや、違うか。魔の森に囲まれていたせいで、逃げたくても逃げられなかったんだ。
「お、お嬢様……」
「大丈夫だから」
怯えるマリーを宥めつつ待っているとやがて完全に日が沈み、周囲は真っ暗になった。松明の炎が広場を照らす中、ゾンビたちがぞろぞろと広場にやってくる。
「あなた……」
「ジョン……」
「パパァ……」
現れたゾンビたちの姿に、村人たちから様々な声が上がる。
可哀そうに。今、送ってあげるよ。
あたしは広場全体を対象に、葬送魔法を発動した。
黒く禍々しい魔法陣が現れ、どす黒い光が立ち昇る。
「ひっ!?」
「きゃあ!」
「なんだこれ!?」
村人たちは口々に悲鳴を上げるが、あたしは発動を継続する。
「そろそろ昇天するよ。大事な人がいるなら見送ってあげて」
あたしが声を掛けたのと、ゾンビたちの体が崩れ落ちたのはほぼ同時だった。
ゾンビたちはさらさらとした砂のようになり、そこにはぼんやりとした人の姿だけが残っている。
あれが死者の魂だ。
うん、良かった。きちんと人の姿は保てているね。罪を重ねて悪霊となってしまった場合、その姿はもっとおどろおどろしいものとなる。
だからあの魂はまだ正常で、きっとすぐにでも輪廻の輪に戻れるはずだ。
「もう近づいても大丈夫だよ」
「ジョン!」
「あなた!」
「パパ!」
「お兄ちゃん!」
村人たちは口々に叫びながら、それぞれの家族の許へと駆け寄る。
もちろん死者の魂に触れるわけではないが……。
あちこちから様々な声が聞こえてくる。すすり泣く声、必死に呼び掛ける声、感謝を伝える声、過ちを涙ながらに謝罪する声。
どれもが本当に切実そうで……。
死者の魂は表情一つ変えないので、あの声がきちんと届いているのかは分からない。でもちゃんと伝わっていて、死者たちもどことなく満足げな表情な気がする……っていうのは、さすがにあたしの自己満足かな。
そうして最後の別れを見守っていると、死者の魂が少しずつ色褪せていき……。
「ジョン! 待って!」
「あなた! ありがとう!」
「パパ! パパぁー!」
やがて消えていった。
「もう大丈夫。ちゃんと送ったからね。これからはきっと、天国で安らかに眠れるはずだよ」
あたしの声が聞こえていないのか、村人たちは涙を流しながら死者たちの魂が消えた場所に向かって必死に呼び掛け続けるのだった。
◆◇◆
「姫様、ありがとうございました」
翌朝、村の周囲の状況を確認しようと村長の家から出てきたあたしを村人たちが待ち構えていた。
「姫様のおかげで、息子を見送ることができました」
「私も! 主人を……」
「私は娘を……」
「「「ありがとうございました」」」
村人たちは口々にお礼を言ってくる。
う……なんだかこういうのは照れ臭いね。前世でも今世でも、こんな風に感謝されたことなんて一度もなかったし。
「と、当然のことをしただけだから」
「姫様! どうかこれを受け取ってください!」
「私からはこれを!」
「俺はこれを!」
村人たちはそう言うと、思い思いに野菜やら布やらを差し出してくる。
「だから、そういうのはいいから。気持ちに区切りがついたようで何よりだよ」
「「「姫様……」」」
ううっ。なんだか背中がかゆいよ……。
「じゃ、じゃあ、この食材を使って今晩は村のみんなで食事でもしようか。ね?」
「ああ、姫様……」
「なんと慈悲深い……」
村人たちが涙ぐみながらあたしを見てくる。
あああああ、もう! 恥ずかしい! 穴があったら入りたいって、もしかしてこういうこと!?
「姫様はきっと聖女様だ! そうに違いない!」
「え?」
ちょっと待って! さすがにそれはまずいでしょ!?
聖女なんて呼ばれているのが光神教にバレたら大変なことになるでしょうが!
聖女を認定する権利は光神教にのみ与えられた特権だ。それを破って勝手に聖女を名乗った場合、光神教が追認しない限り火あぶりの刑と決まっている。
実際、まほイケには聖女を自称する偽物に騙されている村を救うイベントがあり、そのイベントの終わりで偽聖女は火あぶりの刑に処されていた。
せっかく逃げられたのに、こんなことでまた死亡フラグを立てるなんて冗談じゃない!
「聖女様!」
「ま、待って! それだけはやめて!」
「え? でもゾンビを浄化できるなんて聖女様とか司教様くらいなんじゃ……」
「そ、それでもあたしは聖女じゃないから!」
「……でもたしか、自分で神聖魔法って言ってたような?」
「あ! それ、俺も聞いた!」
「ってことはやっぱり聖女――」
「聖女じゃないから! あたし、絶対聖女じゃないから!」
「うーん……でもゾンビをあの世に送るってことは……」
「天使様だ!」
「「「なるほど!」」」
えっ!? それもちょっと……あれ? でもそれなら光神教に怒られない……のかな?
「「「天使様!」」」
村人たちは一斉にあたしに向かって祈りを捧げ始める。
ううん! やっぱりダメ! そっちのほうが聖女よりもっとヤバい気がする!
「天使でもない! 天使でもないから!」
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