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第4話 追放幼女、村の現状を知る

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 それから元盗賊の人たち全員に誓約をさせ、服役を兼ねて自警団兼なんでも屋として働いてもらうこととなった。

 その際に聞き取り調査をしてわかったのだが、どうやら彼らは村に来てからは本当に悪いことをしていないらしい。しかもゴブリンの襲撃で夫を失った未亡人や親を失った年頃の娘と結婚し、家庭まで築いていた。

 うん。やっぱりいきなり処刑しないで良かったね。そんなことをしていたら働き手を失うだけじゃなく、家族になった人たちに反発されて村を統治するどころじゃなくなっていたと思う。

 さて、そんなスカーレットフォードの現状について村長の家で色々と確認してみたのだが、予想どおりと言えば予想どおりだったが、目も当てられない状況だった。

 住民の名簿もなければ収穫量の記録もない。納税記録なんてあるわけがないし、もちろん予算の管理もなされていない。

 ただ、予想外だったのはウィルが村長になる以前の記録すらなかったことだ。

 ウィルは盗賊団の頭だったので、そういったことができないのは仕方がない部分もあると思う。

 ただ、死んだっていう騎士の村長はさすがにそういった教育を受けてきたんじゃないの?

 あたしだって、そんな行政の話なんて全然詳しくない。ただ、それでも住民の名簿を作って、それぞれがもうけたお金に応じて税金を払わせるということぐらいは知っている。

 はぁ。手探りでやることになるけど、一つ一つ地道にやっていくしかないね。

 とまあ、ここまでが村長の家を調べて分かったことだ。

 要するに、このままこの家にいても何もわからないってことが分かったってこと。

 となれば、村人一人一人に会って、きちんと話を聞いてみるしかないね。顔合わせにもなるし。

 というわけで、最初にやってきたのは村の中にある広い農場だ。

「あー、姫さん。この爺さんはボブ、麦とかを作ってる」

 おじいさんと言うほどではないけど、おじさんというにはかなり年をとっている、という感じの人だ。

「はじめまして、ボブ。オリヴィア・エインズレイよ」
「は、はい。姫様。ボブと申します」

 ボブは少し混乱しているみたい。やっぱり体の年齢は八歳だし、外見もそれなりだから仕方ないかな。

「それじゃあボブ、さっそくだけど村のことを教えてくれるかしら」
「は、はい。どのようなことを?」
「どんな作物を育てるのか、とか、どのくらい収穫できるのか。あと何か困っていることはないか、とか。とにかくいろいろと教えて。あたしは民がどんな暮らしをしているのか、ちゃんと知りたいの」
「わかりました。ではまず作物についてですが、小麦が主です。ただ、他にも色々作っていまして、主だったところですとジャガイモ、ニンジン、大豆、ほうれん草、ビーツ、玉ねぎといったあたりでしょうか。あとは亜麻なども少々栽培しております。ただ収穫は天気や害虫の被害、魔物の襲撃がどうなるかによりますので……」
「そうなんだ」

 意外と色々な作物を作ってるね。これなら生産を拡大できればどうにかなりそう。

「あと困っていることは……そうですな。やはり魔物です。それと、その……」
「ん? なあに?」
「実は……」
「実は?」
「その……」

 何かしら? 歯切れが悪いわね。

「ボブ爺さん、言っちまえよ。どうせすぐにバレるんだしよ」
「バレる?」
「村長……そうですな。実はゾンビも……」
「そう。ゾンビが出るっていうのはいつごろから?」
「実は去年の夏前からです」
「夏前? ってことは、ウィル」
「へい。ゴブリンどもの襲撃のあとかららしいっす」

 ああ、やっぱりね。家族を残してゴブリンなんかに殺されたんだもの。未練が残らないはずがない。

「ひ、姫様! そのゾンビたちは……!」
「分かってるよ。この村の人たちだったんでしょ?」
「う……」
「でもね、ボブ。ゾンビになった人たちはもっと苦しんでいるんだよ。一日でも早く、あの世に送ってあげないと」
「ですが……」
「この村にはゾンビになった人の家族だってたくさんいるんでしょ? なら、なおさらだよ。ゾンビとして彷徨っている間は正気を失っているの。そんな彼らに、家族や友人を手に掛けさせちゃダメだよ」
「それは分かっておるのですが……」
「聖職者は呼ばなかったの?」
「呼ぼうとは思ったのですが……聖職者のお方にお越しいただくだけの金は……」

 ああ、そっか。そういえばそうだった。光神教って銭ゲバなんだった。まほイケにもヒロインたちが行き過ぎた銭ゲバ司祭の悪事を暴くなんてイベントもあったぐらいだし、こんな貧しい村に聖職者を呼べるだけのお金があるわけがない。

「うん、安心して。ゾンビの件はあたしがちゃんと送ってあげるから」
「えっ? 姫様が!?」
「そうだよ。ゾンビは毎晩出るの?」
「はい」
「なら今晩やるよ。お別れをしたい人がいるなら、夕方に村の広場に来て。あと、他の人にもそう伝えてね」
「はぁ」
「で、他には――」

 こうしてあたしはスカーレットフォードに出現するゾンビの情報を手に入れたのだった。

◆◇◆

 その日の夕方、あたしは村の広場にやってきた。広場には大勢の人が集まっているが、あたしはもうその全員と顔見知りだ。

「本当にお嬢様がゾンビ退治をなさるのですか?」
「うん。退治っていうか、そもそも、死者の魂をあの世に送ってあげるだけだよ」
「ですが、光神教はそのようなことは……」
「だから、それがそもそもの間違いなの。あたしがサウスベリー侯爵邸の離れで何度も死者の魂を送ってあげてるのを見てたでしょ? 光も闇も、神様の力の一面に過ぎないんだから」
「ですが……ゾンビは……」

 マリーは心配性だね。でも闇の神聖魔法使いであるあたしがゾンビにやられるなんてことはありえないので安心してほしい。

「大丈夫だよ。あたしに任せて。それより、そろそろ来るよ」

 あたしの言葉に、広場に集まった人たちに緊張が走る。

「あ゛ー」
「あ゛ー」
「う゛ー」

 と、突然村のあちこちからそんなうめき声のようなものが聞こえてくるようになったのだった。
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