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第3話 追放幼女、暴漢村長の正体を知る

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「姫さん、俺ら、実は元からこの村に住んでたわけじゃないんです」

 村長の家で事情聴取を始めると、ウィルは突然そんなことを言いだした。

「そうなんだ。じゃあいつここに来たの?」
「去年の夏頃っす」
「ふーん。てことは、ここに住んで八か月くらい?」
「そうっすね」
「なんでまた?」
「その……」

 ウィルは言いづらそうに口ごもるが、すぐに意を決した表情でとんでもない告白をしてくる。

「実は俺ら、赤熊しゃくゆう団っちゅう盗賊団をやってまして……」
「えっ? ウィル、盗賊だったの!?」
「へい……」
「じゃあ、前の村長はどうしたの? もしかして殺し――」
「そうじゃねぇっす!」
「なら、どうして盗賊なんかが村長やってるの?」
「それがっすね。俺らがここに流れ着く前にゴブリンの襲撃を受けたらしいんすよ。そんでそんとき、村長やってた騎士がやられちまったらしくて……」
「ふーん、そうなんだ」
「お嬢様、この者の言うことを信じるのですか!?」

 マリーが慌てて話に割って入ってきた。

「うん、もちろん。だってウィルは神聖魔法で誓約したからね。あたしに嘘はつけないんだ」
「もちろんです! 嘘なんてついてません!」
「そうですか……」

 マリーは渋々といった様子だが、矛を収めてくれた。

「それでウィル、それっていつ頃の話?」
「襲撃っすか?」
「うん」
「たしか、俺らが来る二か月? あいや、三か月前って言ってたかもっす」
「ふうん。つまり、何か月かは経ってたってことだね」
「へい」
「じゃあ、ウィルたちはどうして盗賊のくせに村に居座ってるの? 盗賊なら略奪していなくなるのが普通じゃない?」
「それが……俺ら、やらかしちまいまして……そろそろ足を洗いたいと……」
「ふーん。何したの?」
「そりゃあもちろん盗みです。街道を移動してる商人なんかを襲って……」
「お嬢様! それだけではないはずです! 盗み程度で逃げようとはならないはずです!」

 盗み程度、というのは、きっと殺人や人身売買なんかにも手を染めているはずだと言いたいのだろう。

 うん。あたしだってそうだろうな、とは思う。

 ただ、この世界においてそういったことは日常茶飯事なのだという。だから多少であればいちいち捜査もされないため、結果として盗賊が蔓延ることになる。

 もちろん、無視できないほど被害が大きくなれば騎士団やら冒険者やらが出てきて駆除されることになってるみたいだけど。

「ああ言ってるけど、どうなの?」
「いえ! 盗みだけっす!」
「ふうん?」
「ただ、ちょっとまずいのを襲っちまいまして……」
「まずい相手? 誰を襲ったの?」
「それが……光神教の司祭が乗った馬車を……」
「ああ……」

 それはたしかにまずそうだ。

 光神教というのはあたしたちが暮らすゴドウィン王国の国教で、政治と癒着してものすごい権力を持っている。そしてその名のとおり光の神を信仰しており、光の神聖魔法しか認めていない。

 ただ、その弊害であちこちでゾンビが発生している。なぜなら、未練を残すなどしてあの世に行きそびれた魂を送るのは闇の神聖魔法の領分だからだ。

 光の神聖魔法が昼と太陽、生命と誕生、そして浄化を司るのに対し、闇の神聖魔法は夜と月、死と再生、そして魂を司っている。

 もちろん、光の神聖魔法で発生したゾンビを浄化することはできる。だがそうすると残念ながら魂が消滅してしまうため、輪廻の輪に戻ることができなくなってしまう。

 ただ、そうして目に見える脅威であるゾンビを光神教の聖職者が退治しているということもあって光神教の株が上がっているという側面もある。

 と、いうのがまほイケの設定だ。

 ちなみになんで闇に再生が入っているのかは知らない。ネット上だと、悪役令嬢が自分の部下の手足を再生させて無理やり戦わせるという鬼畜なシーンを見せるためねじ込んだ、なんて説もあったよ。

 それともちろん、光の神聖魔法はイメージどおり、怪我や病気の治療ができる。ただ再生だけはできないことになっていて、逆に闇では怪我や病気の治療ができない。

 前世の常識からすると、再生ができるなら怪我も治るのでは? とは思うけれど。

 ま、乙女ゲームだしね。きっと設定を作った人も、そこまで深く考えていないんじゃないかな?

 と、そんな余談はさておき、ウィルたちの処遇だけれど……。

「うん、分かった。とりあえず、バレるまでは黙っておこうか」
「お嬢様!?」
「いいんすか!?」
「うん」
「お嬢様! 罪人を野放しにするなど!」
「マリー、今の話からすると、要するにこの村は男手が足りてないんでしょ? ゴブリンにやられて」
「それは……そうかもしれませんが……」
「だったら処刑するわけにはいかないでしょ」
「ですが……」
「もちろん、無罪放免なんかにはしないよ。盗賊だった人には全員、誓約をしてもらう」
「えっ!? あれをっすか!?」
「うん。だって、そもそも盗賊って普通は問答無用で処刑でしょ? 特に光神教の司祭を襲っちゃったんならなおさら」

 ウィルのほうをちらりと見ると、気まずそうに視線をらした。

「でも領主には裁判権がある。だからあたしが領主として、処刑じゃなくて終身刑にしたってことにするの。その証拠として誓約をさせて、この村で服役してるってことにして働いてもらうの。ダメかな?」

 あたしの言葉にマリーはかなり困惑している様子だ。

「大体、絶対服従の誓約をしたら最後、あたしが死ねって命令したら死ななきゃいけないんだよ? それなら十分に罰になると思うし、あとはスカーレットフォードの人たちにとっても男手は多いほうがいいんじゃないかな?」
「お嬢様……」
「もちろん、スカーレットフォードに来てからも何かやってたんならそれは別」

 あたしはウィルのほうに顔を向ける。

「それくらいは分かってるよね?」

 するとウィルは強張った表情で小さくうなずいた。

「じゃあ、そういうことで。ウィル、元盗賊の人たちを全員、事情を説明して連れてきて」
「わかりました……」

 ウィルは強張った表情のまま、そそくさと家から出ていった。

「お嬢様」
「ん? 何? マリー」
「お嬢様とお話していてよく思うのですが、本当に八歳なのですか? まるで大人と話をしているように錯覚してしまいます」
「マリーがそれを言うの? あたしを赤ちゃんのときから育ててくれたのはマリーでしょ?」
「それはそうなのですが……」
「まったく、マリーったらホントに……」

 あたしはふうっと小さく息をついた。

「じゃ、この話はこれで終わり。それより村の状態を確認しようよ。この分だとちゃんとした記録はないんだろうしね。それに、もしかするとまだ迷っている魂がいるかもしれない」
「かしこまりました」
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