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プロローグ
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「悪いが、お前にはここで死んでもらう」
「こぼれるから待って」
水汲みの帰りに3人の暗殺者に囲まれた少女は、ひと言そう告げて水桶を肩から下ろすと、慣れた様子で腰にぶら下げている剣を抜いた。
護身用の短剣ではない。
戦場の剣士が手にするような、立派な幅広の剣だ。
「女ッ! 貴様ッ、抵抗する気か!」
「場合によるわね。あなたたち、誰の差し金?」
「依頼人の名前を教えるアサシンがいるわけがないだろう!」
言いながら斬りかかってきた男を軽くいなす。
思いがけず避けられて体勢を崩した男は、隙だらけの背中を少女に向ける。
つい癖でその背中を撫で斬りしようとした少女だったが、「あ、いけない」ととっさに剣の柄の部分でそこを押し、同時に足払いをした。
ぐう、と情けない声をだして倒れる男。
少女は男を片足で踏んで、わざとらしく剣を突きつけた。
「命が惜しくて秘密を漏らすアサシンなら、たまにいそうじゃない? 言って、誰から頼まれたの?」
「……」
残りの2人が、倒れた男と少女を挟むようにして、じりじりと構えている。
そこまで強くはないが、腐ってもプロなのだろう。
このままでは教えてもらえそうにない。
一瞬だけ考えて、少女は言った。
「ヘルベルト様の倍払うわ。寝返らない?」
男たちが顔を見合わせた。
何も言わなかったが、「誰のことだ?」と不思議がる雰囲気が伝わってきた。
的外れなことを言ってしまったらしい。
「なんだ、ヘルベルト様が婚約破棄の代わりに私を殺そうとなさったわけではないのね。じゃあダメ、殺されてあげない」
そう微笑んで、少女は眼下の男に剣を刺した。
急所を一撃。
ためらいは全くない。
即死した男の手から細身の剣が落ちたのを合図に、残りの2人がほぼ同時に斬りかかってくる。
少女は男の背から抜いた剣を、そのままピッと軽く上に払った。
「くっ」
剣についた血が正面から迫ってくる男の目に飛び、剣筋がぶれる。
少女は落ち着いた動きでそれを横に避けると、上半身を半回転させて、背後から斬ろうとしていた男の首をはねた。
一瞬で死体が2つ。
残る1人は、血の目つぶしを必死にぬぐいながら、少女に向かって叫んだ。
「な、なんだお前は! 女の分際でそんなに腕が立つなんて……」
「あら、ずいぶん雑な依頼人だったのね。大方、どこかで負かしたつまらない男が、アサシンを3人雇えば簡単に殺せるとでも思ったんでしょう。可哀想だから教えてあげる――」
そう言って少女は、豊かな金髪を風になびかせ、右目をすこし細くして笑った。
左目のほうは、額から頬を通って顎まで到達するほどの大きな傷跡の下で閉じている。
「私はダージアのアリアネ。人は私のことを隻眼の女剣士と呼んだりするわ」
ダージアのアリアネ。
その名に聞き覚えがあったのか男は何事か言おうとしたが、肺が声帯に空気を送るより速く、少女の剣が上半身を袈裟斬りにした。
「こぼれるから待って」
水汲みの帰りに3人の暗殺者に囲まれた少女は、ひと言そう告げて水桶を肩から下ろすと、慣れた様子で腰にぶら下げている剣を抜いた。
護身用の短剣ではない。
戦場の剣士が手にするような、立派な幅広の剣だ。
「女ッ! 貴様ッ、抵抗する気か!」
「場合によるわね。あなたたち、誰の差し金?」
「依頼人の名前を教えるアサシンがいるわけがないだろう!」
言いながら斬りかかってきた男を軽くいなす。
思いがけず避けられて体勢を崩した男は、隙だらけの背中を少女に向ける。
つい癖でその背中を撫で斬りしようとした少女だったが、「あ、いけない」ととっさに剣の柄の部分でそこを押し、同時に足払いをした。
ぐう、と情けない声をだして倒れる男。
少女は男を片足で踏んで、わざとらしく剣を突きつけた。
「命が惜しくて秘密を漏らすアサシンなら、たまにいそうじゃない? 言って、誰から頼まれたの?」
「……」
残りの2人が、倒れた男と少女を挟むようにして、じりじりと構えている。
そこまで強くはないが、腐ってもプロなのだろう。
このままでは教えてもらえそうにない。
一瞬だけ考えて、少女は言った。
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的外れなことを言ってしまったらしい。
「なんだ、ヘルベルト様が婚約破棄の代わりに私を殺そうとなさったわけではないのね。じゃあダメ、殺されてあげない」
そう微笑んで、少女は眼下の男に剣を刺した。
急所を一撃。
ためらいは全くない。
即死した男の手から細身の剣が落ちたのを合図に、残りの2人がほぼ同時に斬りかかってくる。
少女は男の背から抜いた剣を、そのままピッと軽く上に払った。
「くっ」
剣についた血が正面から迫ってくる男の目に飛び、剣筋がぶれる。
少女は落ち着いた動きでそれを横に避けると、上半身を半回転させて、背後から斬ろうとしていた男の首をはねた。
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残る1人は、血の目つぶしを必死にぬぐいながら、少女に向かって叫んだ。
「な、なんだお前は! 女の分際でそんなに腕が立つなんて……」
「あら、ずいぶん雑な依頼人だったのね。大方、どこかで負かしたつまらない男が、アサシンを3人雇えば簡単に殺せるとでも思ったんでしょう。可哀想だから教えてあげる――」
そう言って少女は、豊かな金髪を風になびかせ、右目をすこし細くして笑った。
左目のほうは、額から頬を通って顎まで到達するほどの大きな傷跡の下で閉じている。
「私はダージアのアリアネ。人は私のことを隻眼の女剣士と呼んだりするわ」
ダージアのアリアネ。
その名に聞き覚えがあったのか男は何事か言おうとしたが、肺が声帯に空気を送るより速く、少女の剣が上半身を袈裟斬りにした。
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