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どうにかしなければ
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「ストーカーとして警察に通報したけど、逮捕はできないそうだ……」
彼は、深刻な表情でわたしに相談してきました。
わたしたちは結婚を誓いあった仲です。
つまり、婚約しています。
婚約者である彼がストーカー女に悩まされているのは、わたしもよく知っていました。
彼が外を歩いていると近くをちょろちょろ歩いているし、アパートのドアのまえで見かけたこともあるくらいです。
彼が身の危険を感じるのも無理はありません。
本気で心配なので、わたしは親身になって考えます。
「警察は何て言ってるの?」
「……危害を加えられたり、実害がないと難しいらしい」
実害。
振りむいてくれない彼に腹を立てて怪我を負わせるーー
そんなことがあってからでは遅いとしか言いようがありません。
「そんな、あなたが怪我するのはいやよ」
「……おれはいいんだ。だけど、婚約者は勘弁してほしい」
彼はわたしが傷つけられることを恐れているようです。
なんて優しい……。
惚れなおすというのはまさにこのことでしょう。
でも、わたしだって同じ気持ち。
自分が傷ついたとしても、彼に傷ついてほしくはありません。
「あなたに危害を加えるほうがダメ。わたしはあの女と差し違えてでもーー」
「そうはいかない!」
「わかってほしいの。だってわたしたち、婚約してるのよ? 邪魔はさせられない」
彼はわたしの腕を固く掴み、そのまま離してくれません。
苦悩に歪んだ顔で、絞りだすように言います。
「婚約……したときのことを覚えているか?」
「もちろんよ。満員電車でわたしが痴漢されてたとき、あなたが助けてくれたの」
「ああ、それは間違いない」
掴まれた腕にさらに力がこもりました。
彼も、あの出会いの感動が蘇っているのでしょう。
「駅員室で、わたしがお礼したいと言ったら、あなたは住所と名前を教えてくれた」
「ああ」
「……これでいい?」
語り終えたわたしに対して、彼は「えっ」という表情を見せました。
何か違った?
いえ、あのときのことは何ひとつ記憶からなくなってはいません。
彼の表情、心の中の愛情、そのすべてを覚えています。
でも、彼はーー
「お礼が婚約ということ?」
なんて、とぼけたことを言いだすではありませんか。
わたしは腹が立ってきました。
「白馬の王子様が姫を助けて、城に招待したのよ? 結ばれるのが当然じゃない。あなた今さら、自分が何をしたかわからないなんてこと言わないわよね?」
「いや、何もしてない……」
「ふざけないでッ!」
頭にきたわたしが、彼の手をふりほどいて腕を上げるとーー
「そこまでだ」
突然、後ろから羽交い締めにされました。
何が起こったのかわからないまま、わたしは彼から引き離されてゆきます。
わたしの手から道路に落ちたものが、太陽の光をきらりと反射しました。
「何これ! 婚約破棄ってこと⁉︎」
「……よろしくお願いします」
彼はわたしの質問には答えず、わたしを連れ去ろうとしている連中に深々と頭を下げました。
彼は、深刻な表情でわたしに相談してきました。
わたしたちは結婚を誓いあった仲です。
つまり、婚約しています。
婚約者である彼がストーカー女に悩まされているのは、わたしもよく知っていました。
彼が外を歩いていると近くをちょろちょろ歩いているし、アパートのドアのまえで見かけたこともあるくらいです。
彼が身の危険を感じるのも無理はありません。
本気で心配なので、わたしは親身になって考えます。
「警察は何て言ってるの?」
「……危害を加えられたり、実害がないと難しいらしい」
実害。
振りむいてくれない彼に腹を立てて怪我を負わせるーー
そんなことがあってからでは遅いとしか言いようがありません。
「そんな、あなたが怪我するのはいやよ」
「……おれはいいんだ。だけど、婚約者は勘弁してほしい」
彼はわたしが傷つけられることを恐れているようです。
なんて優しい……。
惚れなおすというのはまさにこのことでしょう。
でも、わたしだって同じ気持ち。
自分が傷ついたとしても、彼に傷ついてほしくはありません。
「あなたに危害を加えるほうがダメ。わたしはあの女と差し違えてでもーー」
「そうはいかない!」
「わかってほしいの。だってわたしたち、婚約してるのよ? 邪魔はさせられない」
彼はわたしの腕を固く掴み、そのまま離してくれません。
苦悩に歪んだ顔で、絞りだすように言います。
「婚約……したときのことを覚えているか?」
「もちろんよ。満員電車でわたしが痴漢されてたとき、あなたが助けてくれたの」
「ああ、それは間違いない」
掴まれた腕にさらに力がこもりました。
彼も、あの出会いの感動が蘇っているのでしょう。
「駅員室で、わたしがお礼したいと言ったら、あなたは住所と名前を教えてくれた」
「ああ」
「……これでいい?」
語り終えたわたしに対して、彼は「えっ」という表情を見せました。
何か違った?
いえ、あのときのことは何ひとつ記憶からなくなってはいません。
彼の表情、心の中の愛情、そのすべてを覚えています。
でも、彼はーー
「お礼が婚約ということ?」
なんて、とぼけたことを言いだすではありませんか。
わたしは腹が立ってきました。
「白馬の王子様が姫を助けて、城に招待したのよ? 結ばれるのが当然じゃない。あなた今さら、自分が何をしたかわからないなんてこと言わないわよね?」
「いや、何もしてない……」
「ふざけないでッ!」
頭にきたわたしが、彼の手をふりほどいて腕を上げるとーー
「そこまでだ」
突然、後ろから羽交い締めにされました。
何が起こったのかわからないまま、わたしは彼から引き離されてゆきます。
わたしの手から道路に落ちたものが、太陽の光をきらりと反射しました。
「何これ! 婚約破棄ってこと⁉︎」
「……よろしくお願いします」
彼はわたしの質問には答えず、わたしを連れ去ろうとしている連中に深々と頭を下げました。
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