占いによる婚約破棄

monaca

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さだめられた道

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「はあ? 占い? そんなことで婚約破棄されてたまるかよ」
「だから、ごめんなさいって」

 わたしは、激怒する彼に必死に謝りました。
 謝ることしかできません。

 だって、婚約破棄は避けられない道なのですから。

 わたしはもう荷物をまとめて、同棲解消の手はずを整えてあります。
 それでも彼は、なかなか納得してくれません。

「その……なんとかの母とかいう、うさんくせーばあさんに人生を左右されてお前はいいのか?」
「あのかたは、伝えてくれてるだけ。わたしがどう生きればいちばん幸せになれるかは、生まれたときから決まってるの」
「はっ、そうかよ」

 まったく信じてくれる様子はなく、彼はただ悪態をつくばかり。
 べつに構いませんけど。

 わたしはただ、自分の幸せを求めているだけ。

 誰だってそうでしょう?
 人は生まれてから死ぬまで、ずっと幸せを追い求めているものです。

 幸せと逆方向にわざわざ進む人はいません。
 そんな人がいるとすれば、それは、幸せに続く道筋が見えていないだけです。

 わたしには見せてくれるかたがいます。

 最初にお会いしたのは、母に連れられて行った、中学三年生のときでした。
 あのときのわたしは何もわかっておらず、ただ流されるままに、そのときの友だち関係だけで進学先を決めようとしていたのです。

 そんなわたしに、あのかたはおっしゃいました。
 そっちではありませんよ――と。

 まるで、目の見えない子どもが、崖のほうに向かって歩いているのを諫めるように。

 愚かだったわたしは反発しました。
 占いを信じるなんて、母のことを愚かだと罵りました。
 聞けば、わたしの名付けもそのかたの占いによるものだと言うではありませんか。
 わたしは生まれた瞬間からオカルトに毒されていたのかと、激しく不快に思ったことをよく覚えています。

 そんなわたしに、そのかたはおっしゃいました。
 お友だちは手遅れかもしれない――と。

 手遅れ?
 手遅れとはどういう意味だろう。

 数日後、その意味がわかりました。
 同じ高校に行くはずだった友だちが命を絶ったのです。
 突然、マンションの屋上から飛び降りて。

 わたしは激しく動揺しました。
 仲のよかった友だちの死もそうですが、何より、わたしも「手遅れ」になるのではないかと恐怖したのです。
 おびえるわたしを、母は優しく、「ほら、もうわかったわよね?」と後押ししてくれました。

 見えている崖から落ちるのは愚かなことです。
 わたしは、あのかたの占いによって、崖に落ちない道を、幸せに通ずる道を教えていただくことを決心しました。

「婚約破棄しなければわたしは幸せになれないの。裁判してでも破棄しますから」
「馬鹿げてる……。おれのことを好きになって、婚約したときの自分の気持ちを裏切るのかよ」
「裏切る? ほんとに何も見えていないのね。可哀想な人」

 あなたと婚約し、そして一年後に破棄するというのが、わたしに示された道だというのに。
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