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ルイザ編

14 メイドたち

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 クレアと呼ばれたメイドは、クロードとの再会を済ませると、ルイザたちに向かって深々とおじぎをした。

「クロード坊っちゃんと仲良くしていただき、ありがとうございます。
 おふたりにもお部屋をご用意いたしますので、応接室のほうでしばらくお待ちください」
「あ、ちょっと……」

 ルイザは声をかけようとしたが、急な来客が三人もあったことに慌てたのだろう。
 クレアはそそくさと下がってしまった。

「もうっ。
 ユーナのことを訊きたかったのに」
「まあまあ、ここにいるのは間違いないはずですから。
 焦ることはないでしょう。
 あ、応接室はこっちです」

 クロードに連れられて応接室へと腰を落ち着けた。
 しばらくすると、クレアではない若いメイドが、紅茶とケーキを運んできた。

「こちら、どうぞお召し上がりください」
「ありがとう。
 きみは、最近入ったメイドなのかな?」
「はい、去年配属されました。
 クレアさんたちから、クロード様のことはよく伺っております。
 お会いできて光栄です」

 またクロードが歓迎されている。
 ルイザはべつにちやほやされたいわけではないが、教会と交流がないらしいこの村で、自分がまるで彼のおまけのように扱われているのが不服だった。

 さっさとユーナと再会して、彼女の口から自分を紹介してもらおう。
 そう考えて、クロードと談笑しているメイドに横から質問した。

「ユーナはどこにいるの?
 呼んできてほしいのだけど」
「……ユーナ様、ですか?」
「ええ、元聖女のユーナ。
 クロードのことを聞いているのなら、ユーナのことも聞いているんじゃないかしら?」
「はい、存じ上げてはおります。
 ただ……呼んでくる、とは?」

 おや?
 なんだか反応がおかしい。
 ルイザがムーニーのほうを見ると、彼もメイドの反応を不思議に思ったのか重ねて質問をした。

「あっしたちは、ここにユーナさんがいると思って訪ねてきたんだ。
 いないわけはないと思うんだが。
 きみは知らされていないのかい?」
「ええ……はい。
 ユーナ様がこのお屋敷にいらっしゃっているとは、聞かされておりませんでした。
 確認してまいりますので、少々お待ちください」

 彼女が下がって、応接室は再び三人だけとなった。
 ルイザは空きっ腹にケーキをあっという間に入れると、紅茶を片手にムーニーに言う。

「最初に出てきた年上のメイドが、男嫌いのクレアってひとよね。
 あんたって昔からここに出入りしているのに、まるで初対面みたいによそよそしかったわ」
「いや、じつはまともに顔を合わせたのは初めてかもしれない。
 あっしがここを訪れるたび、上の階に隠れていたんだよ」
「そこまでだったの?
 仕事にならないじゃない」

 驚くルイザに、クロードが釈明する。

「そこまで避けられていたのは、ムーニーだけです。
 普段は優秀な使用人なんですよ」
「あー、こいつが人さらいをやってるって話を信じてたくちね?
 じゃあ、噂を楽しんでいたムーニーが悪いわ。
 アタシもさらわれたひとりですって、泣いてみせようかしら」
「ははは、やめてあげてください。
 ああして出迎えてくれただけでも、彼女がかなり努力したことがわかります。
 雇い主がぼくじゃなくなったことで、ずいぶんと心細い思いをしたでしょうから」

 と、そこで扉がノックされた。
 クロードが応じると、話題のクレアが入ってくる。

「お待たせしてすみません。
 お部屋はいま、ご用意させております」
「ええ、ありがとう。
 ここでくつろいでいるから、ゆっくりでいいわ。
 この男の部屋は、なんなら物置きで構わないし」

 ムーニーが「勘弁してくれ」と悲鳴をあげ、クレアもぎこちないながらも微笑んだ。
 クロードの言うとおり、彼女なりに頑張っているようだ。
 ルイザが感心していると、クレアは「それで……」と言いにくそうに話題を変えた。

「お茶を運んだ者から聞いたのですが、ユーナを……ユーナ様をお探しだとか」
「ええ。
 あなたはさすがに知っているわよね」

 最初に呼び捨てにしようとしたのは、ユーナがかつてここで働いていたときの名残りだろう。
 同僚という感覚が抜けないに違いない。
 ルイザに気を遣って様をつけたなら、そこはべつに気にする必要はないと伝えようと思った。

 が、

「ここにはいません」
「え?」

 予想外の返答が返ってきた。
 ユーナがいない?
 さっきのメイドが知らなかったのは、たまたま到着時に居合わせなかっただけだと思ったのだが。
 より立場が上のクレアまでが否定するのであれば、本当にユーナはいないということになる。

「いやいや、それはありえないわ。
 ユーナは、『おっかさんのところ』に帰るって言って消えたのよ?」
「そう言われましても……。
 本当の母親のところに帰ったのでは?」

 ユーナの母親を知る者はいない。
 ルイザはそれがわかっているから、その線がないと見てこうしてここにやってきたのだ。
 これでは話がふりだしに戻ってしまう。

「ゴールディのところに行こう。
 おっかさん本人ならなにか知っているはずだ」

 立ち上がって応接室を出るクロードのあとを、なにか釈然としない気持ちを抱えたままルイザも追いかけた。
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