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クロード編
09 テオの埋め合わせ
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次にクロードがチェルシーを見たのは、翌々日の朝のことだった。
彼女がユーナの勧めに従って、同居とまではいかないものの数日のあいだ逗留するということは、耳の早いエリクを通して聞き及んでいた。
そのチェルシーが、ゲストルームではなく、使用人たちが利用する食堂で朝食を摂っている。
いつのまに仲良くなったのか、噂好きの役人たちを周りに従えて、ちょっとしたパーティのようだ。
今朝は彼らになにか自慢したいことがあって、こうしてみなに見える場所に出てきたということらしい。
耳をすませるまでもなく、甲高いチェルシーの声がクロードにも聞こえてきた。
「テオが浮気だなんて、あなたたちも馬鹿な噂に振り回されたものね。
彼ったら、わたくしにぞっこんなのよ?」
おっほほほ、と高笑いする。
「え? 肌つやが良いですって?
愛されている証拠よ。
うふふふ。
ああ……思い出すわ……」
笑ったり陶酔したりと、とにかく忙しい。
幸せそうでなによりなことだ、とクロードは思った。
彼にとっては、チェルシーの興味がユーナから逸れてくれればそれで満足だった。
「あ、そうそう。
今日みんなにお話ししたかったのは、こんな惚気話じゃないの。
彼が言っていた『埋め合わせ』!
これがもうロマンチックなんだから。
聞きたい? 聞きたいわよね?」
結局それも惚気話じゃないか、とクロードは心のなかで苦笑した。
テオのことだから、彼女とユーナのあいだに遺恨が残らぬよう、気の利いた埋め合わせを考えたに違いない。
チェルシーは、食堂のすべての耳が彼女のほうを向いているのを確認してから、満面の笑みで発表した。
「なんと、彼との結婚が決まったの。
婚約者じゃなくて、彼の妻になるのよ!
しかも、結婚式には元聖女のユーナのつてで、教会からナンバーワンの聖女様を呼んで、祝福の儀式をしてもらうんですって。
ね、最高すぎない?」
チェルシーの周囲で歓声があがる。
個人的な式典に聖女を呼ぶというのは、強大なティンズリー家の者とはいえ、思いきったことをする。
ユーナの繋がりを使うことで、チェルシーとユーナのわだかまりも解くという名案だ。
この屋敷で暮らす役人たちもテオの関係者として参列を許されるはずなので、聖女に会える嬉しさのあまり、みんな心からチェルシーを祝福してあげていた。
(……でも、ユーナはそれでいいのかな。
帰俗した彼女のことを、教会はどう思っているのだろう)
彼女が失踪したとき、教会は全力を挙げて探していたと聞く。
それほど重要だったユーナのことを、おいそれと手放すはずがないように思う。
慰留を振り切って辞めてきたのではないだろうか。
だとすれば……。
「おいクロード、いまの聞いたか?
ナンバーワンってことは、結婚式に来る聖女ってのは、間違いなくルイザ様だぜ。
おれ、去年の豊穣祭のときから、彼女のことが気になって仕方がないんだ。
気の強そうなあの感じ、ユーナとはまた違って、すごく魅力的じゃないか?」
「エリク、きみはいつも楽しそうだね。
悩みとかないのかい?」
「おいおい、馬鹿にするな。
ついこのあいだまでユーナ派だったおれが、彼女が辞めた途端にルイザ様につくだなんて、そりゃ自分でも思うところはある。
朝食のウインナーもゆっくりしか喉を通らないくらいだ。
ん? おまえ残してるな?
食べないならもらうぞ」
大事にとっておいたウインナーを取られた。
ゆっくりよく噛んで食べているエリクを見ていると、クロードはまだ起こってもいないことで心をざわつかせている自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
(まあ……なにか起こったらそのときだ。
ぼくがユーナを守ればいい。
その覚悟さえしておけば、なにが起こっても大したことにはならないだろう)
彼女がユーナの勧めに従って、同居とまではいかないものの数日のあいだ逗留するということは、耳の早いエリクを通して聞き及んでいた。
そのチェルシーが、ゲストルームではなく、使用人たちが利用する食堂で朝食を摂っている。
いつのまに仲良くなったのか、噂好きの役人たちを周りに従えて、ちょっとしたパーティのようだ。
今朝は彼らになにか自慢したいことがあって、こうしてみなに見える場所に出てきたということらしい。
耳をすませるまでもなく、甲高いチェルシーの声がクロードにも聞こえてきた。
「テオが浮気だなんて、あなたたちも馬鹿な噂に振り回されたものね。
彼ったら、わたくしにぞっこんなのよ?」
おっほほほ、と高笑いする。
「え? 肌つやが良いですって?
愛されている証拠よ。
うふふふ。
ああ……思い出すわ……」
笑ったり陶酔したりと、とにかく忙しい。
幸せそうでなによりなことだ、とクロードは思った。
彼にとっては、チェルシーの興味がユーナから逸れてくれればそれで満足だった。
「あ、そうそう。
今日みんなにお話ししたかったのは、こんな惚気話じゃないの。
彼が言っていた『埋め合わせ』!
これがもうロマンチックなんだから。
聞きたい? 聞きたいわよね?」
結局それも惚気話じゃないか、とクロードは心のなかで苦笑した。
テオのことだから、彼女とユーナのあいだに遺恨が残らぬよう、気の利いた埋め合わせを考えたに違いない。
チェルシーは、食堂のすべての耳が彼女のほうを向いているのを確認してから、満面の笑みで発表した。
「なんと、彼との結婚が決まったの。
婚約者じゃなくて、彼の妻になるのよ!
しかも、結婚式には元聖女のユーナのつてで、教会からナンバーワンの聖女様を呼んで、祝福の儀式をしてもらうんですって。
ね、最高すぎない?」
チェルシーの周囲で歓声があがる。
個人的な式典に聖女を呼ぶというのは、強大なティンズリー家の者とはいえ、思いきったことをする。
ユーナの繋がりを使うことで、チェルシーとユーナのわだかまりも解くという名案だ。
この屋敷で暮らす役人たちもテオの関係者として参列を許されるはずなので、聖女に会える嬉しさのあまり、みんな心からチェルシーを祝福してあげていた。
(……でも、ユーナはそれでいいのかな。
帰俗した彼女のことを、教会はどう思っているのだろう)
彼女が失踪したとき、教会は全力を挙げて探していたと聞く。
それほど重要だったユーナのことを、おいそれと手放すはずがないように思う。
慰留を振り切って辞めてきたのではないだろうか。
だとすれば……。
「おいクロード、いまの聞いたか?
ナンバーワンってことは、結婚式に来る聖女ってのは、間違いなくルイザ様だぜ。
おれ、去年の豊穣祭のときから、彼女のことが気になって仕方がないんだ。
気の強そうなあの感じ、ユーナとはまた違って、すごく魅力的じゃないか?」
「エリク、きみはいつも楽しそうだね。
悩みとかないのかい?」
「おいおい、馬鹿にするな。
ついこのあいだまでユーナ派だったおれが、彼女が辞めた途端にルイザ様につくだなんて、そりゃ自分でも思うところはある。
朝食のウインナーもゆっくりしか喉を通らないくらいだ。
ん? おまえ残してるな?
食べないならもらうぞ」
大事にとっておいたウインナーを取られた。
ゆっくりよく噛んで食べているエリクを見ていると、クロードはまだ起こってもいないことで心をざわつかせている自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
(まあ……なにか起こったらそのときだ。
ぼくがユーナを守ればいい。
その覚悟さえしておけば、なにが起こっても大したことにはならないだろう)
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