上 下
38 / 41
第二部 エリザと記憶

13

しおりを挟む
「――以上が、この屋敷で起こったすべての顛末だ。これまで黙っていてすまない」

 長々と語っていたジョサイアが、話の最後に頭を下げた。

 彼の父とディオンヌの父は、ふたりともヴァンパイアだった。
 人間社会との関わり方についての方針の違いで争い、10ヶ月まえ、相討ちとなったということだ。

 ジョサイアとディオンヌは半分だけヴァンパイアだが、血を吸わないかぎりは覚醒しない。
 ほとんど普通の人間と同じ生活を送ることができるらしい。

(そして、エレノアは――)

 あたしの妹は、ヴァンパイアの戦いに『巻き込まれた』ということだった。
 血を吸われ眷属となり、日光を浴びて炭化しかけた。

 どういう巻き込まれ方なのか、いまいち判然としない。
 ジョサイアは「すべての顛末」を語ったと言ったが、おそらくまだ何かあるはずだ。
 ただ、この期に及んで語らないということは、きっとあたしかエレノアに気を遣っているのだろう。
 彼自身の名誉を損なうようなことではなく、エレノアが「お痛」をしたのだとあたしは思った。

 だって彼は、すべてを失う覚悟で語ったのだから。
 今さら保身のために伏せても仕方がない。

「ぼくはこれから国王に伺いを立てる。ヴァンパイアの血が混じっていることを告白し、そのうえで、身分をどうするか判断を仰ぎたい」

 しんと静まり返る中、ディオンヌが凛とした声でみなに言う。

「爵位はきっと剥奪されるわ。この屋敷も領地もどうなるかわからない。人間以外の貴族なんて聞いたことがないもの。でも、みんなが生きるのに困らないだけのお金は、退職金としてきちんと渡すから心配しないで。こんなことになってごめんなさい」
「おふたりとも、頭を下げすぎです」
「メアリ……」

 メアリと呼ばれた使用人が、ゆったりした口調で続ける。

「私なんぞはここに勤めて長いから、そりゃあ薄々感じるところはありました。でも、先代もその奥様もとてもよくしてくださって、人間とか他の種族とか、そういうのはちっとも関係ない。坊っちゃんたちが悪人じゃないことは私が保証しますとも。もしお屋敷がなくなっても、身の回りのことはお手伝いさせてくださいな」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで何より嬉しい」

 抱き合うふたりを見て、広間になんとなく緩んだ空気が満ちた。

 が、そこで――


「あんたたちはそれでよくても、ヴァンパイアの眷属となった者はどうなるんだ?」


 ダンが大きな声で、責めるような口調で言い放った。
 いつも物静かな彼には似つかわしくない、全身から怒りを発しているかのようなとげとげしい雰囲気だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

【完結】巻き戻りましたので、もれなく復讐致します!

白雨 音
恋愛
学院パーティの最中、一人の女子生徒が毒殺された。 「ルーシーが毒を持っていたのを見たわ!」証言により、ルーシー・ウエストン伯爵令嬢は捕らえられた。 事実、ルーシーは小瓶を隠し持っていた。だが、使ってはいない。 飲み物に入れるよう、公爵令嬢オリヴィアから指示されていたが、恐ろしくて出来なかったのだ。 公爵家からの脅しで、家族を守る為に濡れ衣を着る事を承諾したが、 愛する母の自害を知り、「呪い殺してやる!」と自害を果たした___ だが、目を覚ますと、亡霊にはなっておらず、それ処か時が半年前に戻っていた。 何も無かった事に…なんて、出来ない! 自分を陥れた者たちを、痛い目に遭わせなければ腹の虫が収まらない! 密かに復讐を決めたルーシーだったが、思いの他、復讐は進まない。 標的の一人である第三王子ウイリアムは、何かと近付いて来るし…??  異世界恋愛:長めの短編 (序章2話、本章18話)  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...