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第二部 エリザと記憶
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「――以上が、この屋敷で起こったすべての顛末だ。これまで黙っていてすまない」
長々と語っていたジョサイアが、話の最後に頭を下げた。
彼の父とディオンヌの父は、ふたりともヴァンパイアだった。
人間社会との関わり方についての方針の違いで争い、10ヶ月まえ、相討ちとなったということだ。
ジョサイアとディオンヌは半分だけヴァンパイアだが、血を吸わないかぎりは覚醒しない。
ほとんど普通の人間と同じ生活を送ることができるらしい。
(そして、エレノアは――)
あたしの妹は、ヴァンパイアの戦いに『巻き込まれた』ということだった。
血を吸われ眷属となり、日光を浴びて炭化しかけた。
どういう巻き込まれ方なのか、いまいち判然としない。
ジョサイアは「すべての顛末」を語ったと言ったが、おそらくまだ何かあるはずだ。
ただ、この期に及んで語らないということは、きっとあたしかエレノアに気を遣っているのだろう。
彼自身の名誉を損なうようなことではなく、エレノアが「お痛」をしたのだとあたしは思った。
だって彼は、すべてを失う覚悟で語ったのだから。
今さら保身のために伏せても仕方がない。
「ぼくはこれから国王に伺いを立てる。ヴァンパイアの血が混じっていることを告白し、そのうえで、身分をどうするか判断を仰ぎたい」
しんと静まり返る中、ディオンヌが凛とした声でみなに言う。
「爵位はきっと剥奪されるわ。この屋敷も領地もどうなるかわからない。人間以外の貴族なんて聞いたことがないもの。でも、みんなが生きるのに困らないだけのお金は、退職金としてきちんと渡すから心配しないで。こんなことになってごめんなさい」
「おふたりとも、頭を下げすぎです」
「メアリ……」
メアリと呼ばれた使用人が、ゆったりした口調で続ける。
「私なんぞはここに勤めて長いから、そりゃあ薄々感じるところはありました。でも、先代もその奥様もとてもよくしてくださって、人間とか他の種族とか、そういうのはちっとも関係ない。坊っちゃんたちが悪人じゃないことは私が保証しますとも。もしお屋敷がなくなっても、身の回りのことはお手伝いさせてくださいな」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで何より嬉しい」
抱き合うふたりを見て、広間になんとなく緩んだ空気が満ちた。
が、そこで――
「あんたたちはそれでよくても、ヴァンパイアの眷属となった者はどうなるんだ?」
ダンが大きな声で、責めるような口調で言い放った。
いつも物静かな彼には似つかわしくない、全身から怒りを発しているかのようなとげとげしい雰囲気だった。
長々と語っていたジョサイアが、話の最後に頭を下げた。
彼の父とディオンヌの父は、ふたりともヴァンパイアだった。
人間社会との関わり方についての方針の違いで争い、10ヶ月まえ、相討ちとなったということだ。
ジョサイアとディオンヌは半分だけヴァンパイアだが、血を吸わないかぎりは覚醒しない。
ほとんど普通の人間と同じ生活を送ることができるらしい。
(そして、エレノアは――)
あたしの妹は、ヴァンパイアの戦いに『巻き込まれた』ということだった。
血を吸われ眷属となり、日光を浴びて炭化しかけた。
どういう巻き込まれ方なのか、いまいち判然としない。
ジョサイアは「すべての顛末」を語ったと言ったが、おそらくまだ何かあるはずだ。
ただ、この期に及んで語らないということは、きっとあたしかエレノアに気を遣っているのだろう。
彼自身の名誉を損なうようなことではなく、エレノアが「お痛」をしたのだとあたしは思った。
だって彼は、すべてを失う覚悟で語ったのだから。
今さら保身のために伏せても仕方がない。
「ぼくはこれから国王に伺いを立てる。ヴァンパイアの血が混じっていることを告白し、そのうえで、身分をどうするか判断を仰ぎたい」
しんと静まり返る中、ディオンヌが凛とした声でみなに言う。
「爵位はきっと剥奪されるわ。この屋敷も領地もどうなるかわからない。人間以外の貴族なんて聞いたことがないもの。でも、みんなが生きるのに困らないだけのお金は、退職金としてきちんと渡すから心配しないで。こんなことになってごめんなさい」
「おふたりとも、頭を下げすぎです」
「メアリ……」
メアリと呼ばれた使用人が、ゆったりした口調で続ける。
「私なんぞはここに勤めて長いから、そりゃあ薄々感じるところはありました。でも、先代もその奥様もとてもよくしてくださって、人間とか他の種族とか、そういうのはちっとも関係ない。坊っちゃんたちが悪人じゃないことは私が保証しますとも。もしお屋敷がなくなっても、身の回りのことはお手伝いさせてくださいな」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで何より嬉しい」
抱き合うふたりを見て、広間になんとなく緩んだ空気が満ちた。
が、そこで――
「あんたたちはそれでよくても、ヴァンパイアの眷属となった者はどうなるんだ?」
ダンが大きな声で、責めるような口調で言い放った。
いつも物静かな彼には似つかわしくない、全身から怒りを発しているかのようなとげとげしい雰囲気だった。
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