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上からなんて見てない
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アタシは自分の屋敷で、お見合い相手の到着を待っていました。
もう何度めのお見合いでしょうか……。
途中から数えるのをやめています。
前回の男性は、最初の手ごたえこそ悪くなかったのですが、何度かお会いするうちに、
「珍しいだけで、一緒にいて気分がいいものではないな」
などと、しだいに疎まれるようになってしまいました。
すべて、アタシがいけないのです。
「おれのことを馬鹿にしてないか?」
「え、べつに?」
「その言葉も見くだされてる感じがするよ。おれのような小さい男はきみにふさわしくないだろう」
彼とはそれっきりでした。
この場合の「小さい」は、度量のことではなく、身長のことです。
いえ、彼が特別小さかったのではありません。
アタシが大きすぎるだけ。
アタシは「女性にしては」という前置きも要らないほどの、長身です。
一般的な男性より頭ひとつ以上は大きいと思います。
お父様もお母様も普通のサイズなのに、アタシだけひょろひょろと伸びてしまって。
きっと性格のせいだとアタシは思っています。
アタシは何と言うか――そう、キリンみたいな感じ。
すこし前、遠くの大陸から動物商のかたが来られて、あちこちの貴族に珍しいペットを見せてまわっていました。
そのときに見た、キリンという首の長い動物が、まるでアタシ。
ぬぼーっと遠くを眺めていて、まるで世事には関心がないみたいな顔をしているところが、アタシにそっくりだと思いました。
世の中のことに関心がないわけではないのですけど。
興味津々かと問われると「べつにそこまででは」という感じです。
どこそこの伯爵が格好いいとか、誰が誰と付き合っているとか、同年代の女性たちが熱心に話すことに、アタシは自分から首を突っ込む気にはなれません。
楽しそうでいいな、とは思います。
そうやってへんに達観しているところが、よくないのでしょう。
身長はもうどうしようもないけど、もっと他人に興味を持って、みんなと同じものを見て楽しまなければ、アタシは人間として扱ってもらえません。
「今度こそ、ちゃんとしなくちゃ」
自分の頬をパンパンと叩きました。
何度もお見合いに失敗するうち、アタシもそろそろ後がない年齢になっていました。
なるべく成功率を上げるために、身長差を小さくしようと高身長なお相手を選んできましたが、それももう無理。
選べるほど候補がいなくなりました。
今回のお相手は、高身長ではありません。
むしろ――
「やあ、はじめまして」
そう言って到着した彼は、まるで……
「あ、今、ぼくのこと子豚って思ったね?」
「え、いや、その……」
「いいよいいよ、ぼく気にしてないから」
そう笑って、今回のお見合い相手の彼は、ちょこんと椅子に座りました。
本当に『ちょこん』という表現がしっくりきます。
床に足はついていません。
つい、子どもを見守るようなつもりで眺めていたアタシに、彼は、
「読書は好き?」
「え……?」
身長以外のことを質問しました。
これまでの男性は、全員間違いなくアタシの長身のことを話題にしてきたのに。
読書――
どの男性にも言っていませんでしたが、アタシはこの図体で恋愛小説が好きなのです。
ほとんどの小説には身長のことなんか書いていないので、読書をしているときのアタシは、ヒロインになって男性に抱き上げられたり、頭を撫でられたり、まるで小さくなったかのように楽しむことができます。
つい嬉しくなり、彼と読書の話でおおいに盛り上がりました。
彼は冒険小説が好きだそうです。
アタシは、理由がすぐにわかりました。
読書をしているときの彼は、ヒーローになって大立ち回りを演じたり、ヒロインを抱き上げたりすることができるのでしょう。
「ぼくたち、似てるね」
椅子に座って向かい合うアタシと彼は、座高もかなり違います。
視線で言うなら、アタシが見おろし、彼が見上げるかたちです。
でも、アタシと彼は対等に向き合っていると思いました。
お互い、周りからいろいろ言われながら暮らしてきたのは間違いありません。
だからこそ、似ていると言われて納得できました。
「はい。きっと同じ景色が見えてるのね」
アタシに見えた景色には、彼の横で笑うアタシがいました。
身長は凸凹だけど、見ているものは同じ。
このお見合いは、きっと成功するとアタシは確信しました。
もう何度めのお見合いでしょうか……。
途中から数えるのをやめています。
前回の男性は、最初の手ごたえこそ悪くなかったのですが、何度かお会いするうちに、
「珍しいだけで、一緒にいて気分がいいものではないな」
などと、しだいに疎まれるようになってしまいました。
すべて、アタシがいけないのです。
「おれのことを馬鹿にしてないか?」
「え、べつに?」
「その言葉も見くだされてる感じがするよ。おれのような小さい男はきみにふさわしくないだろう」
彼とはそれっきりでした。
この場合の「小さい」は、度量のことではなく、身長のことです。
いえ、彼が特別小さかったのではありません。
アタシが大きすぎるだけ。
アタシは「女性にしては」という前置きも要らないほどの、長身です。
一般的な男性より頭ひとつ以上は大きいと思います。
お父様もお母様も普通のサイズなのに、アタシだけひょろひょろと伸びてしまって。
きっと性格のせいだとアタシは思っています。
アタシは何と言うか――そう、キリンみたいな感じ。
すこし前、遠くの大陸から動物商のかたが来られて、あちこちの貴族に珍しいペットを見せてまわっていました。
そのときに見た、キリンという首の長い動物が、まるでアタシ。
ぬぼーっと遠くを眺めていて、まるで世事には関心がないみたいな顔をしているところが、アタシにそっくりだと思いました。
世の中のことに関心がないわけではないのですけど。
興味津々かと問われると「べつにそこまででは」という感じです。
どこそこの伯爵が格好いいとか、誰が誰と付き合っているとか、同年代の女性たちが熱心に話すことに、アタシは自分から首を突っ込む気にはなれません。
楽しそうでいいな、とは思います。
そうやってへんに達観しているところが、よくないのでしょう。
身長はもうどうしようもないけど、もっと他人に興味を持って、みんなと同じものを見て楽しまなければ、アタシは人間として扱ってもらえません。
「今度こそ、ちゃんとしなくちゃ」
自分の頬をパンパンと叩きました。
何度もお見合いに失敗するうち、アタシもそろそろ後がない年齢になっていました。
なるべく成功率を上げるために、身長差を小さくしようと高身長なお相手を選んできましたが、それももう無理。
選べるほど候補がいなくなりました。
今回のお相手は、高身長ではありません。
むしろ――
「やあ、はじめまして」
そう言って到着した彼は、まるで……
「あ、今、ぼくのこと子豚って思ったね?」
「え、いや、その……」
「いいよいいよ、ぼく気にしてないから」
そう笑って、今回のお見合い相手の彼は、ちょこんと椅子に座りました。
本当に『ちょこん』という表現がしっくりきます。
床に足はついていません。
つい、子どもを見守るようなつもりで眺めていたアタシに、彼は、
「読書は好き?」
「え……?」
身長以外のことを質問しました。
これまでの男性は、全員間違いなくアタシの長身のことを話題にしてきたのに。
読書――
どの男性にも言っていませんでしたが、アタシはこの図体で恋愛小説が好きなのです。
ほとんどの小説には身長のことなんか書いていないので、読書をしているときのアタシは、ヒロインになって男性に抱き上げられたり、頭を撫でられたり、まるで小さくなったかのように楽しむことができます。
つい嬉しくなり、彼と読書の話でおおいに盛り上がりました。
彼は冒険小説が好きだそうです。
アタシは、理由がすぐにわかりました。
読書をしているときの彼は、ヒーローになって大立ち回りを演じたり、ヒロインを抱き上げたりすることができるのでしょう。
「ぼくたち、似てるね」
椅子に座って向かい合うアタシと彼は、座高もかなり違います。
視線で言うなら、アタシが見おろし、彼が見上げるかたちです。
でも、アタシと彼は対等に向き合っていると思いました。
お互い、周りからいろいろ言われながら暮らしてきたのは間違いありません。
だからこそ、似ていると言われて納得できました。
「はい。きっと同じ景色が見えてるのね」
アタシに見えた景色には、彼の横で笑うアタシがいました。
身長は凸凹だけど、見ているものは同じ。
このお見合いは、きっと成功するとアタシは確信しました。
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