1 / 1
身からでたサビ
しおりを挟む
「わたくしは悪い女でした。本当にごめんなさい……」
わたくしは今日も、冷水で身を清めます。
肌が裂けるように冷たくてたまりません。
でも、わたくしは罰を受けなければいけない身。
「聖女などと呼ばれ、心のどこかにおごりがありました」
かつて聖女と呼ばれていたわたくしは、とある貴族に見初められました。
よせばいいのに突然の婚約を受けいれ、教会を出て貴族の世界へと飛び込みーー
半年後、ぼろ布のように捨てられました。
婚約破棄です。
彼が言うには、「飽きた」ということでした。
これまで周囲にいなかったわたくしのような女が、とても美しく見えたと。
目が慣れてみれば、ただ世間擦れしていないイモ女にすぎないと言われました。
「でも、それは嘘」
わたくしは理解していました。
彼という存在が邪悪なのではなく、すべてはわたくし自身から生じたことなのです。
わたくしの心にあった、おごり。
その醜い部分が神の怒りを招きました。
そして、彼の姿を使ってわたくしを罰したのです。
彼に罪はありません。
悪いのはわたくし自身。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
わたしは教会へは戻りませんでした。
もう聖女と呼ばれる資格は残っていません。
ひとりで村はずれの小屋に住み、ひたすらに罰を受けています。
冷水を浴びて身を清め。
清めた身体で村や森を掃除してまわり。
わずかな食事を祈りながら口へと運び。
祈りつづけたまま倒れるように眠る。
とてもつらく、厳しい毎日。
でもこれが罰。
わたくしに与えられた罰であり、試練なのです。
「神はわたくしを見てくださっています」
そうでなければ、わたくしはただ、聖女として一生を終えていたでしょう。
何も気づくことなく、心の底でおごりながら。
気高いということは、見下すということだったのかもしれません。
いえ、きっとそうだったのだと思います。
だからわたくしは、ありえないような出会いをし、ありえないような婚約破棄をされました。
わたくしを捨てた彼もまた、神に見守られています。
毎日祈るのは、そのことばかり。
彼も正しく過ごせませすように。
試練が必要なときは、ちゃんと試練が与えられますように。
何年も、何年も祈りました。
そしてあるときーー
『その祈りを聞き入れよう。真の聖女よ』
そう、聞こえたような気がしました。
もしかしたら、神の声だったのかもしれません。
でも、特別なことが自分に起こると思うのは、それもまた傲慢なことです。
わたくしはいつもどおりに生活します。
冷水を浴びて身を清め。
清めた身体で村や森を掃除してーー
「あら? 何かしら?」
森の一ヶ所がひどく汚れていました。
野犬たちが動物か何かを食い散らかしたようです。
ひどくお腹を空かせていたらしく、わずかな骨しか残っていません。
わたくしは、骨を集めて、土に埋めました。
一緒に落ちていた指輪に、見覚えがあるような気がしました。
たしか彼がつけていたーー
「ううん、彼に何かあったとしたら、それは試練。きっと彼のためのことよ」
わたしは指輪も一緒に埋め、祈りの日々へと戻りました。
わたくしは今日も、冷水で身を清めます。
肌が裂けるように冷たくてたまりません。
でも、わたくしは罰を受けなければいけない身。
「聖女などと呼ばれ、心のどこかにおごりがありました」
かつて聖女と呼ばれていたわたくしは、とある貴族に見初められました。
よせばいいのに突然の婚約を受けいれ、教会を出て貴族の世界へと飛び込みーー
半年後、ぼろ布のように捨てられました。
婚約破棄です。
彼が言うには、「飽きた」ということでした。
これまで周囲にいなかったわたくしのような女が、とても美しく見えたと。
目が慣れてみれば、ただ世間擦れしていないイモ女にすぎないと言われました。
「でも、それは嘘」
わたくしは理解していました。
彼という存在が邪悪なのではなく、すべてはわたくし自身から生じたことなのです。
わたくしの心にあった、おごり。
その醜い部分が神の怒りを招きました。
そして、彼の姿を使ってわたくしを罰したのです。
彼に罪はありません。
悪いのはわたくし自身。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
わたしは教会へは戻りませんでした。
もう聖女と呼ばれる資格は残っていません。
ひとりで村はずれの小屋に住み、ひたすらに罰を受けています。
冷水を浴びて身を清め。
清めた身体で村や森を掃除してまわり。
わずかな食事を祈りながら口へと運び。
祈りつづけたまま倒れるように眠る。
とてもつらく、厳しい毎日。
でもこれが罰。
わたくしに与えられた罰であり、試練なのです。
「神はわたくしを見てくださっています」
そうでなければ、わたくしはただ、聖女として一生を終えていたでしょう。
何も気づくことなく、心の底でおごりながら。
気高いということは、見下すということだったのかもしれません。
いえ、きっとそうだったのだと思います。
だからわたくしは、ありえないような出会いをし、ありえないような婚約破棄をされました。
わたくしを捨てた彼もまた、神に見守られています。
毎日祈るのは、そのことばかり。
彼も正しく過ごせませすように。
試練が必要なときは、ちゃんと試練が与えられますように。
何年も、何年も祈りました。
そしてあるときーー
『その祈りを聞き入れよう。真の聖女よ』
そう、聞こえたような気がしました。
もしかしたら、神の声だったのかもしれません。
でも、特別なことが自分に起こると思うのは、それもまた傲慢なことです。
わたくしはいつもどおりに生活します。
冷水を浴びて身を清め。
清めた身体で村や森を掃除してーー
「あら? 何かしら?」
森の一ヶ所がひどく汚れていました。
野犬たちが動物か何かを食い散らかしたようです。
ひどくお腹を空かせていたらしく、わずかな骨しか残っていません。
わたくしは、骨を集めて、土に埋めました。
一緒に落ちていた指輪に、見覚えがあるような気がしました。
たしか彼がつけていたーー
「ううん、彼に何かあったとしたら、それは試練。きっと彼のためのことよ」
わたしは指輪も一緒に埋め、祈りの日々へと戻りました。
0
お気に入りに追加
13
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動
しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。
国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。
「あなた、婚約者がいたの?」
「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」
「最っ低!」
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
婚約者を寝取った妹にざまあしてみた
秋津冴
恋愛
一週間後に挙式を迎えるというある日。
聖女アナベルは夫になる予定の貴族令息レビルの不貞現場を目撃してしまう。
妹のエマとレビルが、一つのベットにいたところを見てしまったのだ。
アナベルはその拳を握りしめた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる