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第31話:ノープランの代償
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「あっ、冗談でもそういうのはいけない。
危ないから離れてくれ!」
ノープランでプリンスに襲いかかったわたしは、あっさりと躱されて床に転がった。
それはもう見事にごろんと。
「ぐはっ」
悪役の絶命シーンのような声が出たけど、したたかに腰を打っただけで、べつに死んではいない。
痛いより恥ずかしい。
全校生徒が見ているステージ上で、どうしてモブのわたしがこんな痴態を演じているのだろう。
プリンスはそんなわたしに、「大丈夫か?」と手を差し伸べてくれている。
乱心したモブにも優しいなんて、さすがは王子様。
けど、今はそれに甘えてはいられない。
とにかく婚約回避がなによりも大事なのだ。
プリンスへの敵意。
プリンスへの敵意。
プリンスへの敵意!
三度念じてから、引き倒すために足首を掴んだ。
と、そのとき。
「危ない! 上だ!」
観客席から誰かの叫び声があがり、わたしは《ラッキー・スター》が発動したことを悟った。
ステージの上にあるのは、無数に並んだ舞台照明。
そのひとつが、おそらくはわたしを目掛けて落下してきたのだ。
プリンスが巻き添えで怪我をすることはないだろうが、そばにいるとわたしがちゃんと排除されない可能性がある。
すぐに足首から手を離すと、わたしはできるだけひとりで落下を受けるために、彼を押して遠ざけた。
身を固くして衝撃に備える。
――が、
「なにをしているのですか! お嬢様!」
「マッスリーヌ?」
気がつくとマッスリーヌがステージの上にあがり、覆いかぶさるようにしてわたしをかばっている。
「ぐっ」
「えっ、マッスリーヌ! 当たった?」
「大丈夫……です。
それよりもはやく、ここを離れて」
照明はかなりの高さから落下している。
それを背中で受けて大丈夫なわけがない。
わたしが受けたら最悪死んでいたかもしれないわけだが、それはもう、モブ道の殉死者として語り継いでもらおうと思っていた。
いや嘘、ごめん、よく考えてなかった。
プリンスの敵と判定されたら、ぶわーっと神風でも吹いて退場となるつもりでいた。
でもそうだね、普通に考えたら、王家に害をなす者は本気で命を狙われてもしかたがない。
馬鹿だ、わたし。
「ごめん、わたしのせいで……!」
「お嬢様には考えがあったのでしょうが、これはよくない考えです。
さあ、今すぐにここを……ぐあっ」
もうひとつ落下してきた。
わたしを仕留めるまで容赦なく落ちてくるのかもしれない。
「マッスリーヌ? 返事をして!」
「……」
いけない、気絶している。
筋肉で防御していたとすれば、力を入れていなければ防御力はかなり弱まる。
次がくると彼女であっても命が危ない。
わたしは覆い被さっているマッスリーヌをどけようと、彼女の下から外を見た。
「出てくるな!
おれたちが防いでいるから動かなくていい!」
ガコン、と目の前に照明が落ちてきた。
声の主は客席にいるレッドだ。
そちらに目をやると、ゼファーとふたりでスキルを使い、次々に落下してくる照明をわたしたちに当たらない位置に落としてくれているようだった。
ガコンガコン、とわたしのまわりに衝撃が走る。
あれがひとつでも当たったら、もうひとたまりもなかっただろう。
ありがとうレッドとゼファー。
でも、王家の敵と見なされたわたしを守ると、今度は彼らのほうまで敵として《ラッキー・スター》に狙われてしまう。
とにかく、この状況を打開しなくては。
すがる気持ちでステージ脇を見る。
すると、エスティークが走ってステージにやってくるのが目に入った。
「プリンスちゃん、一旦解除!
あなたの《ラッキー・スター》を解除してあげて!」
「ね、姉さん……。
でもそうすると無敵の防御が……」
「すこしのあいだくらい、姉さんが守ってあげるから。
このままだとモブリンちゃんが死んでしまうわ。
いいから解除なさいっ!」
「は、はい!」
プリンスはそう答えて、おそらくはスキルを解除した。
もともと、目で見えるスキルではなかったので、状況から判断するしか知る方法がない。
……照明の落下音が止まった。
たしかに《ラッキー・スター》が解除されたのだ。
「マッスリーヌ、無事でいて……!
すぐに病院に……」
わたしが動きだそうとした、そのとき。
ガガガっと、四方にあるスピーカーから音が鳴った。
一瞬だけ耳障りな雑音が聞こえたが、すぐ静かになり、マイクを通した人の声が聞こえてくる――
「あー、あー、こちらコトダマだ。
おまえら全員、『黙って聞け』」
誰も口を利かなかった。
……そう、スキルを解いたプリンスまでも。
危ないから離れてくれ!」
ノープランでプリンスに襲いかかったわたしは、あっさりと躱されて床に転がった。
それはもう見事にごろんと。
「ぐはっ」
悪役の絶命シーンのような声が出たけど、したたかに腰を打っただけで、べつに死んではいない。
痛いより恥ずかしい。
全校生徒が見ているステージ上で、どうしてモブのわたしがこんな痴態を演じているのだろう。
プリンスはそんなわたしに、「大丈夫か?」と手を差し伸べてくれている。
乱心したモブにも優しいなんて、さすがは王子様。
けど、今はそれに甘えてはいられない。
とにかく婚約回避がなによりも大事なのだ。
プリンスへの敵意。
プリンスへの敵意。
プリンスへの敵意!
三度念じてから、引き倒すために足首を掴んだ。
と、そのとき。
「危ない! 上だ!」
観客席から誰かの叫び声があがり、わたしは《ラッキー・スター》が発動したことを悟った。
ステージの上にあるのは、無数に並んだ舞台照明。
そのひとつが、おそらくはわたしを目掛けて落下してきたのだ。
プリンスが巻き添えで怪我をすることはないだろうが、そばにいるとわたしがちゃんと排除されない可能性がある。
すぐに足首から手を離すと、わたしはできるだけひとりで落下を受けるために、彼を押して遠ざけた。
身を固くして衝撃に備える。
――が、
「なにをしているのですか! お嬢様!」
「マッスリーヌ?」
気がつくとマッスリーヌがステージの上にあがり、覆いかぶさるようにしてわたしをかばっている。
「ぐっ」
「えっ、マッスリーヌ! 当たった?」
「大丈夫……です。
それよりもはやく、ここを離れて」
照明はかなりの高さから落下している。
それを背中で受けて大丈夫なわけがない。
わたしが受けたら最悪死んでいたかもしれないわけだが、それはもう、モブ道の殉死者として語り継いでもらおうと思っていた。
いや嘘、ごめん、よく考えてなかった。
プリンスの敵と判定されたら、ぶわーっと神風でも吹いて退場となるつもりでいた。
でもそうだね、普通に考えたら、王家に害をなす者は本気で命を狙われてもしかたがない。
馬鹿だ、わたし。
「ごめん、わたしのせいで……!」
「お嬢様には考えがあったのでしょうが、これはよくない考えです。
さあ、今すぐにここを……ぐあっ」
もうひとつ落下してきた。
わたしを仕留めるまで容赦なく落ちてくるのかもしれない。
「マッスリーヌ? 返事をして!」
「……」
いけない、気絶している。
筋肉で防御していたとすれば、力を入れていなければ防御力はかなり弱まる。
次がくると彼女であっても命が危ない。
わたしは覆い被さっているマッスリーヌをどけようと、彼女の下から外を見た。
「出てくるな!
おれたちが防いでいるから動かなくていい!」
ガコン、と目の前に照明が落ちてきた。
声の主は客席にいるレッドだ。
そちらに目をやると、ゼファーとふたりでスキルを使い、次々に落下してくる照明をわたしたちに当たらない位置に落としてくれているようだった。
ガコンガコン、とわたしのまわりに衝撃が走る。
あれがひとつでも当たったら、もうひとたまりもなかっただろう。
ありがとうレッドとゼファー。
でも、王家の敵と見なされたわたしを守ると、今度は彼らのほうまで敵として《ラッキー・スター》に狙われてしまう。
とにかく、この状況を打開しなくては。
すがる気持ちでステージ脇を見る。
すると、エスティークが走ってステージにやってくるのが目に入った。
「プリンスちゃん、一旦解除!
あなたの《ラッキー・スター》を解除してあげて!」
「ね、姉さん……。
でもそうすると無敵の防御が……」
「すこしのあいだくらい、姉さんが守ってあげるから。
このままだとモブリンちゃんが死んでしまうわ。
いいから解除なさいっ!」
「は、はい!」
プリンスはそう答えて、おそらくはスキルを解除した。
もともと、目で見えるスキルではなかったので、状況から判断するしか知る方法がない。
……照明の落下音が止まった。
たしかに《ラッキー・スター》が解除されたのだ。
「マッスリーヌ、無事でいて……!
すぐに病院に……」
わたしが動きだそうとした、そのとき。
ガガガっと、四方にあるスピーカーから音が鳴った。
一瞬だけ耳障りな雑音が聞こえたが、すぐ静かになり、マイクを通した人の声が聞こえてくる――
「あー、あー、こちらコトダマだ。
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