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第30話:覚悟を決めるのはわたしのほう
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一度はビューティのまえに跪いていたプリンスが、再び立ち上がってわたしのまえにやってきた。
「モブリン、ああモブリン」
「いや、その……」
予定では、《エロス》の適用外となったわたしは、彼にすぐ飽きられてしまうはずなのだが。
ステージ脇のエスティークのほうを助けを乞うような気持ちで見ると、彼女はハテナのハンドサインというか、手で「?」の形を作って首をひねっている。
なんか余裕ですねえ、お姉ちゃん。
プリンスのスキルを回避したいプリハピ会の方針に話を合わせてくれていただけで、実際のところは、わたしが婚約相手に選ばれようが構わないと思っているのかもしれない。
わたしは構うんだけど……。
「ねえ、プリンス。
わたしの顔なんてもう見飽きましたよね?
ビューティ先輩みたいな感動はありませんよ」
「見飽きた……?
いや、そうは思わないが。
むしろ逆だ。
そもそも私は、きみの顔にとくになにも感じていなかったのだが、すこしずつ味があると思い始めている」
「あっ……」
で、出た~!
美人は三日で飽きる理論の逆のやつ!
そうか、わたしの顔は普通だから、飽きる飽きないの対象外なのだ。
モブ道の大誤算。
モブ顔は、噛めば噛むほど味がでる。
これは墓碑銘に刻んで後世に伝えていきたい。
って、いや、そんな場合じゃなくて。
ここでどうにかして説得しないと、今すぐにでもわたしを婚約者として指名しかねない雰囲気がある。
「あ、あの! プリンス!」
「なんだい、モブリン。
そんなに顔を背けてどうしたんだ」
「いえ、顔はもういいんです。
それよりもスキル!
わたし、能力判定器をかいくぐったスキル隠しみたいに言われてますけど、本当の『スキルなし』なんです。
ガチのマジで無能力。
これ、婚約者としてどうなんですか?」
自己否定アピールに必死なわたし。
これが就活だったら、御社にとって自分がいかに不要な人材かを語る、狂気の沙汰の逆プレゼンだ。
届いて、この思い……!
が、プリンスはさわやかに笑って言う。
「スキルがないのは最初から知っているよ。
そこは問題ないというか、私の安全面を考えるうえで、プラスになりこそすれマイナスにはなりえない。
その点では、影響範囲が顔しかない、ビューティのスキルも同じだ。
婚約するうえでなにも心配する必要はない」
「わ、わあい……」
あ、あれ~?
よくわからなくなってきた。
顔でもスキルでもなければ、プリンスはいったい、わたしのなにに惹かれて婚約者候補としたのだろうか。
美女のなかのモブ顔が珍しかったか、スキル隠しに期待されたか、そのどちらかだと勝手に思っていたのだけれど。
わたしは恐る恐る、彼に訊ねる。
「あの、プリンス。
わたしのどこに魅力があるのですか?」
「まったく、女性は言わせるのが好きだね。
私が好きなのはきみの雰囲気だ。
今でこそ王家だが、前世は日本の団地で暮らしていたからね。
きみと話していると、なんだか実家に帰った気分になって、癒される」
意外なことにプリンスが庶民派!
団地暮らしの雰囲気って……いや、うーん、わかるけど。
異世界で白米の匂いを嗅いだような安心感だよね。
わかる、わかるだけに困った。
これは説得でどうにかできる問題ではない。
「やっぱり、モブリンが落ち着くな。
ビューティには悪いが、美容庁でも作って長官に任命すれば、きっと喜んでくれるだろう。
よし、じゃあ――」
「待って!
待って……ください」
こうなったらしかたない。
最終手段だ。
いや、こんな手段を考えてはいなかったが、将来の王妃になるよりはマシというだけの最悪の手段。
「プリンス……わたしはテロリストです。
国家叛逆を企てる大悪人で、こうしてあなたに近づく機会をひそかに狙っていました。
お覚悟ぉ!」
適当な台詞を言って、《ラッキー・スター》に排除されるべく、プリンスに襲いかかった。
「モブリン、ああモブリン」
「いや、その……」
予定では、《エロス》の適用外となったわたしは、彼にすぐ飽きられてしまうはずなのだが。
ステージ脇のエスティークのほうを助けを乞うような気持ちで見ると、彼女はハテナのハンドサインというか、手で「?」の形を作って首をひねっている。
なんか余裕ですねえ、お姉ちゃん。
プリンスのスキルを回避したいプリハピ会の方針に話を合わせてくれていただけで、実際のところは、わたしが婚約相手に選ばれようが構わないと思っているのかもしれない。
わたしは構うんだけど……。
「ねえ、プリンス。
わたしの顔なんてもう見飽きましたよね?
ビューティ先輩みたいな感動はありませんよ」
「見飽きた……?
いや、そうは思わないが。
むしろ逆だ。
そもそも私は、きみの顔にとくになにも感じていなかったのだが、すこしずつ味があると思い始めている」
「あっ……」
で、出た~!
美人は三日で飽きる理論の逆のやつ!
そうか、わたしの顔は普通だから、飽きる飽きないの対象外なのだ。
モブ道の大誤算。
モブ顔は、噛めば噛むほど味がでる。
これは墓碑銘に刻んで後世に伝えていきたい。
って、いや、そんな場合じゃなくて。
ここでどうにかして説得しないと、今すぐにでもわたしを婚約者として指名しかねない雰囲気がある。
「あ、あの! プリンス!」
「なんだい、モブリン。
そんなに顔を背けてどうしたんだ」
「いえ、顔はもういいんです。
それよりもスキル!
わたし、能力判定器をかいくぐったスキル隠しみたいに言われてますけど、本当の『スキルなし』なんです。
ガチのマジで無能力。
これ、婚約者としてどうなんですか?」
自己否定アピールに必死なわたし。
これが就活だったら、御社にとって自分がいかに不要な人材かを語る、狂気の沙汰の逆プレゼンだ。
届いて、この思い……!
が、プリンスはさわやかに笑って言う。
「スキルがないのは最初から知っているよ。
そこは問題ないというか、私の安全面を考えるうえで、プラスになりこそすれマイナスにはなりえない。
その点では、影響範囲が顔しかない、ビューティのスキルも同じだ。
婚約するうえでなにも心配する必要はない」
「わ、わあい……」
あ、あれ~?
よくわからなくなってきた。
顔でもスキルでもなければ、プリンスはいったい、わたしのなにに惹かれて婚約者候補としたのだろうか。
美女のなかのモブ顔が珍しかったか、スキル隠しに期待されたか、そのどちらかだと勝手に思っていたのだけれど。
わたしは恐る恐る、彼に訊ねる。
「あの、プリンス。
わたしのどこに魅力があるのですか?」
「まったく、女性は言わせるのが好きだね。
私が好きなのはきみの雰囲気だ。
今でこそ王家だが、前世は日本の団地で暮らしていたからね。
きみと話していると、なんだか実家に帰った気分になって、癒される」
意外なことにプリンスが庶民派!
団地暮らしの雰囲気って……いや、うーん、わかるけど。
異世界で白米の匂いを嗅いだような安心感だよね。
わかる、わかるだけに困った。
これは説得でどうにかできる問題ではない。
「やっぱり、モブリンが落ち着くな。
ビューティには悪いが、美容庁でも作って長官に任命すれば、きっと喜んでくれるだろう。
よし、じゃあ――」
「待って!
待って……ください」
こうなったらしかたない。
最終手段だ。
いや、こんな手段を考えてはいなかったが、将来の王妃になるよりはマシというだけの最悪の手段。
「プリンス……わたしはテロリストです。
国家叛逆を企てる大悪人で、こうしてあなたに近づく機会をひそかに狙っていました。
お覚悟ぉ!」
適当な台詞を言って、《ラッキー・スター》に排除されるべく、プリンスに襲いかかった。
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